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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
28 フライングは吉田家の得意技。
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しばらくすると祖父母宅から父も帰ってきて、久々に家族全員揃っての夕飯になった。
「うわぁ。私の好物ばっかり」
テーブルに並んだ料理を見て、私が歓喜の声を上げると、家族が互いに目配せする。
「温かい内が美味しいから、はやく食べましょう。飲み物どうする?」
「俺、スパークリングワイン買ってきたよ」
勝哉が席を立って冷蔵庫から瓶を取り出した。
達哉がグラスを五つ食器棚から出す。
その横で、勝哉が詮を抜きながら大声を出した。
「姉ちゃん、誕生日おめでとー!」
ぽーん。
「えー!勝哉ってば言っちゃうの!?」
「え!?駄目だった!?」
「お母さんが言う予定だったのにー!」
「え、ごめんごめん、じゃ今の無し、やり直し」
「もう無理でしょ。記憶消す訳に行かないし」
「もー!勝哉はエビフライ無し!」
「マジー!?厳しくない!?」
「安心しろ、その分俺が食べてやるから」
母と双子が賑やかに話している横で、父がニコニコしながら私に小さな包みを差し出した。
「里沙、誕生日おめでとう。これ、お父さんと、じいちゃんたちから」
私は笑いながらありがとうと受け取った。祖父母からはお祝いとしてポチ袋に現金が入っているようだ。父の方は、
「商品券?」
「まあ、そんなとこ。見てご覧」
父に促されて開けてみると、私の大好きなご褒美アイスの引換券だった。
「父上分かってるぅー!」
「でしょでしょー」
父とハイタッチをしていると、しゅわしゅわ泡を立てるワイングラスが差し出された。それぞれグラスを掲げ持つ。母がこほんと咳をした。
「えー。ずいぶんいろいろフライングされていますが、今日は里沙の三十歳の誕生日会ということで、お集まりいただきありがとうございます」
改まった母の言いぶりに、横から達哉が、巻きでお願いします!とはやす。
「もうバレたので白状しますが、今回の緊急参集は里沙の誕生日を祝うためです。いつも明るい里沙のことです、きっと毎日、辛いときも笑って過ごしているのでしょう。ーー本当は、いろんな不安を感じていても」
母の目が、優しく穏やかなものになったとき、弟たちの冗談めかした表情が神妙なものに変わった。
「でもね、里沙。こうして一緒にご飯を食べて、お酒を飲めるだけでも、お父さんとお母さんはとっても幸せです。すぐに周りの人たちを笑顔にしてあげられる里沙の力は、私たちにとって自慢だし、自分の力で生きている里沙を、私は同じ女として尊敬しています」
母はグラスを掲げた。
「これから先も、里沙が心から笑っていてくれますように。ーー大事な大事な里沙の誕生日に、乾杯」
乾杯、と家族が声を合わせ、グラスが優しく音を立てる。
暖かさに、目が潤んだ。
何も言わなくても、分かってくれている母。
盛り立ててくれる弟たち。
ニコニコ見守ってくれる父。
これ以上何を望むと言うのだろう。何を不安に思う必要があるだろう。
例え、高砂という舞台に立てなくても、結婚式の花嫁という主役になれなくても、私は私の人生の主役で、決して不幸な女じゃない。
「ありがとう」
家族のおめでとう、という言葉に答えた。
「ーーありがとう」
私の家族でいてくれて。たくさんの愛情を注いでくれて。心配して、支えてくれてーーありがとう。
それは今までで一番、喜びを感じた誕生日会だった。
「うわぁ。私の好物ばっかり」
テーブルに並んだ料理を見て、私が歓喜の声を上げると、家族が互いに目配せする。
「温かい内が美味しいから、はやく食べましょう。飲み物どうする?」
「俺、スパークリングワイン買ってきたよ」
勝哉が席を立って冷蔵庫から瓶を取り出した。
達哉がグラスを五つ食器棚から出す。
その横で、勝哉が詮を抜きながら大声を出した。
「姉ちゃん、誕生日おめでとー!」
ぽーん。
「えー!勝哉ってば言っちゃうの!?」
「え!?駄目だった!?」
「お母さんが言う予定だったのにー!」
「え、ごめんごめん、じゃ今の無し、やり直し」
「もう無理でしょ。記憶消す訳に行かないし」
「もー!勝哉はエビフライ無し!」
「マジー!?厳しくない!?」
「安心しろ、その分俺が食べてやるから」
母と双子が賑やかに話している横で、父がニコニコしながら私に小さな包みを差し出した。
「里沙、誕生日おめでとう。これ、お父さんと、じいちゃんたちから」
私は笑いながらありがとうと受け取った。祖父母からはお祝いとしてポチ袋に現金が入っているようだ。父の方は、
「商品券?」
「まあ、そんなとこ。見てご覧」
父に促されて開けてみると、私の大好きなご褒美アイスの引換券だった。
「父上分かってるぅー!」
「でしょでしょー」
父とハイタッチをしていると、しゅわしゅわ泡を立てるワイングラスが差し出された。それぞれグラスを掲げ持つ。母がこほんと咳をした。
「えー。ずいぶんいろいろフライングされていますが、今日は里沙の三十歳の誕生日会ということで、お集まりいただきありがとうございます」
改まった母の言いぶりに、横から達哉が、巻きでお願いします!とはやす。
「もうバレたので白状しますが、今回の緊急参集は里沙の誕生日を祝うためです。いつも明るい里沙のことです、きっと毎日、辛いときも笑って過ごしているのでしょう。ーー本当は、いろんな不安を感じていても」
母の目が、優しく穏やかなものになったとき、弟たちの冗談めかした表情が神妙なものに変わった。
「でもね、里沙。こうして一緒にご飯を食べて、お酒を飲めるだけでも、お父さんとお母さんはとっても幸せです。すぐに周りの人たちを笑顔にしてあげられる里沙の力は、私たちにとって自慢だし、自分の力で生きている里沙を、私は同じ女として尊敬しています」
母はグラスを掲げた。
「これから先も、里沙が心から笑っていてくれますように。ーー大事な大事な里沙の誕生日に、乾杯」
乾杯、と家族が声を合わせ、グラスが優しく音を立てる。
暖かさに、目が潤んだ。
何も言わなくても、分かってくれている母。
盛り立ててくれる弟たち。
ニコニコ見守ってくれる父。
これ以上何を望むと言うのだろう。何を不安に思う必要があるだろう。
例え、高砂という舞台に立てなくても、結婚式の花嫁という主役になれなくても、私は私の人生の主役で、決して不幸な女じゃない。
「ありがとう」
家族のおめでとう、という言葉に答えた。
「ーーありがとう」
私の家族でいてくれて。たくさんの愛情を注いでくれて。心配して、支えてくれてーーありがとう。
それは今までで一番、喜びを感じた誕生日会だった。
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