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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
30 双子のシスコン疑惑からの夜語りからの母校訪問。
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「はい、これ俺と勝哉から」
言いながら達哉が差し出した包みをお礼と共に受け取る。開けてみると、レモンイエローのサマーニットと、膝丈の大人っぽいキュロットだった。
「えー、オシャレ。どしたのこれ」
私が言うと、達哉と勝哉は互いに目を合わせてから苦笑した。
「女性の意見聞かなきゃ分からないから、四人で選びに行って」
私は一瞬固まってから、二人の顔を見る。ギギギギ、と音がしそうな動きになったのは仕方ない。
「彼女いるの?」
「あー、まあ」
「でもまだ結婚とか考えてないからさ、気にしないで」
「気にするよ。私待ちってこと?相手いくつなの」
私が渋面で言うと、二人は顔を見合わせた。よく似た顔がよく似た困惑顔になる。
「……30」
「勝哉は?」
「同じ」
大変気まずそうに顔を反らす二人に、私は机を叩いて立ち上がった。
「お主らそこに直れー!」
びしり、と指差すと、二人ははい、と居住まいを正した。
「女の30歳がどういう意味を持つか、今夜はたっぷり語ってしんぜよう。心しろ!」
鼻息荒く声を張る姉の姿に、二人はまた顔を見合わせた。
しかし揃いも揃って姉と同い年とか、お前らシスコンか?私のことが好きなのかそうなのか?まったくサリーちゃん人気者で困っちゃう!
翌日が休みなのをいいことに、私は二人が寝落ちするまで得々と自説を説いたのだった。
「おそよー。昨日はずいぶん夜遅くまで起きてたみたいね」
「うん、3時くらいまで話してた」
モスコミュールにブルドック、途中からは家にあるものをウォッカで割り、品評しながら弟たちと夜半まで過ごした私が起きたのはほとんど昼近くだった。
「二人は?」
「まだ寝てる。里沙は今日帰るの?」
「んー、どうしようかなぁ。ここから出勤しようかなぁ」
何もしなくてもご飯が出て来るし、楽しい会話もできる。上げ膳据え膳とはまさにこのこと。
私はそうだ、と目を輝かせた。
「朝ごはん食べたら、ちょっと散歩してくる」
「うん、行ってらっしゃい」
簡単な食事を済ませ、日傘を持って外へ出た。
八月の日差しはまさに夏本番、ギラギラと降り注いでいる。その日差しを日傘で遮断しつつ、私は母校の前まで歩いてきた。
「懐かしー」
警備員がいる訳でもない。夏休みだが門がわずかに開いているのは生徒たちが出入りするためだ。今も早めの昼食の買い出しに出入りする姿が見られた。私はドキドキしながら中に入る。ちょっと悪いことをしているような気になるが、これって不法侵入?
大学には各門に警備員さんがいて、学生証を見せて入る決まりだった。恐らく女子大だったからなのだが、おかげで学校に入るときノーチェックなのは何となく落ち着かない。
校門を入ると緩い坂道が校舎まで続いている。左手にはグラウンド。部活の練習をしているのかと思いきや、体育祭の出し物である仮装ダンスの練習らしい。相変わらずだなぁと思いつつ緩い坂を昇っていくと、隣を陸上部が流して走り過ぎた。
その背を見ながら思い出す。そういえば、幸弘は陸上部だった。私も何度か誘われたが、走るのは苦手だからと断った。空手部があれば入っただろうが、なかったのでとりあえず英語研究部に入った。……あんまり意味はなかったけど。
あまり懐かしいと思っていなかったつもりが、いざ敷地に入ってみると不思議な感慨を覚えた。昔、私たちのフィールドだったその場所は、もうすっかり他人の場所になっていた。当時感じたマンネリな空気も、つまらない授業も、閉鎖的な人間関係も、もうとっくに過ぎ去った事だと私に知らしめる。それが何となく心地好かった。
少しは、大人になれただろうか。
当時の自分から見たら、今の自分はどう見えるだろう。
五年、十年、二十年……未来は遠くに感じても、過去は驚くほど最近の記憶だ。
「こんにちは」
私は女子生徒の声に振り返った。
「どこか、お探しですか?」
女子生徒のボブエアが揺れる。まるで昔の自分と出会ったような錯覚に、私は笑った。
「大丈夫、ありがとう。ここの卒業生なの。懐かしくてふらっと入って来ちゃった」
そうですかと笑うその子の手はペンキ塗れだ。
「大道具?バックボード?」
「大道具です」
「珍しいね、大道具」
「はい、女子は私だけです」
母校の常識は十数年経ってもさして変わっていないらしい。私は笑った。
「懐かしいなぁ。ありがとう、声かけてくれて」
「いえ、この学校、建物複雑だからよく人迷ってて」
「分かる分かる。私も何度か道案内した」
二人で笑って、手を挙げて別れる。
校舎の前には一本の立派な桜の木が立っている。これも昔と変わらない。
校舎と桜が一緒に写るように写真を撮って、香子と幸弘にメッセージを送った。
【ただいま母校散策中】。
言いながら達哉が差し出した包みをお礼と共に受け取る。開けてみると、レモンイエローのサマーニットと、膝丈の大人っぽいキュロットだった。
「えー、オシャレ。どしたのこれ」
私が言うと、達哉と勝哉は互いに目を合わせてから苦笑した。
「女性の意見聞かなきゃ分からないから、四人で選びに行って」
私は一瞬固まってから、二人の顔を見る。ギギギギ、と音がしそうな動きになったのは仕方ない。
「彼女いるの?」
「あー、まあ」
「でもまだ結婚とか考えてないからさ、気にしないで」
「気にするよ。私待ちってこと?相手いくつなの」
私が渋面で言うと、二人は顔を見合わせた。よく似た顔がよく似た困惑顔になる。
「……30」
「勝哉は?」
「同じ」
大変気まずそうに顔を反らす二人に、私は机を叩いて立ち上がった。
「お主らそこに直れー!」
びしり、と指差すと、二人ははい、と居住まいを正した。
「女の30歳がどういう意味を持つか、今夜はたっぷり語ってしんぜよう。心しろ!」
鼻息荒く声を張る姉の姿に、二人はまた顔を見合わせた。
しかし揃いも揃って姉と同い年とか、お前らシスコンか?私のことが好きなのかそうなのか?まったくサリーちゃん人気者で困っちゃう!
翌日が休みなのをいいことに、私は二人が寝落ちするまで得々と自説を説いたのだった。
「おそよー。昨日はずいぶん夜遅くまで起きてたみたいね」
「うん、3時くらいまで話してた」
モスコミュールにブルドック、途中からは家にあるものをウォッカで割り、品評しながら弟たちと夜半まで過ごした私が起きたのはほとんど昼近くだった。
「二人は?」
「まだ寝てる。里沙は今日帰るの?」
「んー、どうしようかなぁ。ここから出勤しようかなぁ」
何もしなくてもご飯が出て来るし、楽しい会話もできる。上げ膳据え膳とはまさにこのこと。
私はそうだ、と目を輝かせた。
「朝ごはん食べたら、ちょっと散歩してくる」
「うん、行ってらっしゃい」
簡単な食事を済ませ、日傘を持って外へ出た。
八月の日差しはまさに夏本番、ギラギラと降り注いでいる。その日差しを日傘で遮断しつつ、私は母校の前まで歩いてきた。
「懐かしー」
警備員がいる訳でもない。夏休みだが門がわずかに開いているのは生徒たちが出入りするためだ。今も早めの昼食の買い出しに出入りする姿が見られた。私はドキドキしながら中に入る。ちょっと悪いことをしているような気になるが、これって不法侵入?
大学には各門に警備員さんがいて、学生証を見せて入る決まりだった。恐らく女子大だったからなのだが、おかげで学校に入るときノーチェックなのは何となく落ち着かない。
校門を入ると緩い坂道が校舎まで続いている。左手にはグラウンド。部活の練習をしているのかと思いきや、体育祭の出し物である仮装ダンスの練習らしい。相変わらずだなぁと思いつつ緩い坂を昇っていくと、隣を陸上部が流して走り過ぎた。
その背を見ながら思い出す。そういえば、幸弘は陸上部だった。私も何度か誘われたが、走るのは苦手だからと断った。空手部があれば入っただろうが、なかったのでとりあえず英語研究部に入った。……あんまり意味はなかったけど。
あまり懐かしいと思っていなかったつもりが、いざ敷地に入ってみると不思議な感慨を覚えた。昔、私たちのフィールドだったその場所は、もうすっかり他人の場所になっていた。当時感じたマンネリな空気も、つまらない授業も、閉鎖的な人間関係も、もうとっくに過ぎ去った事だと私に知らしめる。それが何となく心地好かった。
少しは、大人になれただろうか。
当時の自分から見たら、今の自分はどう見えるだろう。
五年、十年、二十年……未来は遠くに感じても、過去は驚くほど最近の記憶だ。
「こんにちは」
私は女子生徒の声に振り返った。
「どこか、お探しですか?」
女子生徒のボブエアが揺れる。まるで昔の自分と出会ったような錯覚に、私は笑った。
「大丈夫、ありがとう。ここの卒業生なの。懐かしくてふらっと入って来ちゃった」
そうですかと笑うその子の手はペンキ塗れだ。
「大道具?バックボード?」
「大道具です」
「珍しいね、大道具」
「はい、女子は私だけです」
母校の常識は十数年経ってもさして変わっていないらしい。私は笑った。
「懐かしいなぁ。ありがとう、声かけてくれて」
「いえ、この学校、建物複雑だからよく人迷ってて」
「分かる分かる。私も何度か道案内した」
二人で笑って、手を挙げて別れる。
校舎の前には一本の立派な桜の木が立っている。これも昔と変わらない。
校舎と桜が一緒に写るように写真を撮って、香子と幸弘にメッセージを送った。
【ただいま母校散策中】。
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