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第二章 本日は前田ワールドにご来場くださり、誠にありがとうございます。
40 冷静な人の真似をすれば冷静になれるんじゃないかと期待してみた。
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ーーさて。ここでちょっと状況を整理してみよう。いいかい、ワトソン君。まずは、前田という男についてだ。前田。前田ヨイチ。話によると、弟が好きなゲームの制作に携わったらしい。そう、奴は私の同期だが、元々おもちゃ部門に入社した私とは本来は関係の無い人間だったーーはず。多分、昨年の意味不明な部署異動がなければーーそして、今回のゲームの件がなければ、私たちは再会することなどなかったであろう。
しかし、関係無いはずの人間なのに、奴は、私の酒の好みを知っていた。そしてだね、ここが重要なのだが、そんな奴は本来他人には無関心らしい。まあ確かに見るからに無関心そうなのだが、同じゲーム部門の同期すら、顔と名前を覚えられているか心配するほどの無関心さであって、そのマイペースさから自由人ーーフリーダム、とあだ名されるほどであるわけだ。
それでだね、ワトソン君。ーー
ああ、シャーロックホームズごっこすれば冷静になれるかと思ったけど、無理無理。逆にまどろっこしくてイライラしてきた。駄目だやめた。サリーちゃんはサリーちゃんだもん。とっちらかった思考回路に我が道を見つけるのよ。そうよそれが私の生き方。文句あるならかかってこいやー!
帰宅するなりベッドに飛び込んだ私は、枕にぐりぐりと顔を押し付けながら、あああああと声を出してみた。あああああ。枕に押し付けた口からは、濁点がついたような音が出る。あああああ。あああああ。
もう何も言えない。だって言えないでしょ?訳わかんなくない?残業してる同期に差し入れに行って、キスして帰ってくるってどういうこと?ねぇどういうこと?それが彼氏とかならいいよ、みんなが見てないところでドキドキ☆オフィスラブみたいな。まあ彼氏じゃなくてもいいか、ただしイケメンに限る。壁ドンとか。それはそれでさ、萌えだよ。いやでもさ、それも普通、男からするもんでしょ?女からしないよね。妄想してみよう。ちょっとここで妄想してみよう。ほら、マサトさんとアヤノさんって同期だから、もしかしたらそんなこともあったかもしれないよね。二人がまだ結婚前で、つき合ってて、バッタリ誰もいない廊下とかで会ってーーうん、ほら絶対キスするのってマサトさんからだよね。で、きっとアヤノさんが顔を真っ赤にしたりして、いやん萌え!ああちょっと元気出た。妄想って元気の源だね。現実逃避とは言わないでいただきたい。
私は息苦しくなって枕を顔から外した。ぷはー。新鮮な空気、うまっ。
ーーで。
不意に、前田の唖然とした顔を思い出す。
「ぐ、は」
ーーどうして。
どうしてどうしてどうして、私はあんなことをしてしまったというのか。
ーーいや、前田が悪い。
サンドイッチを持つ手。手についたポテトサラダを舐める赤い舌先。その白い喉元。長い睫毛とけだるげな目、不意な笑顔。触れるか否かにこちらに伸びた指先と、わずかにかすれた声。ーー
その指に、舌に、目に、声にーー
我を忘れるほどの色気を感じたのは、
「前田が悪い!」
と、口にはしてみるが、
「んなわけあるかー!」
どう考えても私が悪いわ!分が悪すぎるわ!立派なセクハラだわ訴えられたら負けるくらい立派だわ!
ああもうほんと穴掘って入りたいもう二度と会いたくない会いたくない会いたくないー!!
元カレにフラれた夜以上に、翌日の出社が憂鬱な私なのだった。
しかし、関係無いはずの人間なのに、奴は、私の酒の好みを知っていた。そしてだね、ここが重要なのだが、そんな奴は本来他人には無関心らしい。まあ確かに見るからに無関心そうなのだが、同じゲーム部門の同期すら、顔と名前を覚えられているか心配するほどの無関心さであって、そのマイペースさから自由人ーーフリーダム、とあだ名されるほどであるわけだ。
それでだね、ワトソン君。ーー
ああ、シャーロックホームズごっこすれば冷静になれるかと思ったけど、無理無理。逆にまどろっこしくてイライラしてきた。駄目だやめた。サリーちゃんはサリーちゃんだもん。とっちらかった思考回路に我が道を見つけるのよ。そうよそれが私の生き方。文句あるならかかってこいやー!
帰宅するなりベッドに飛び込んだ私は、枕にぐりぐりと顔を押し付けながら、あああああと声を出してみた。あああああ。枕に押し付けた口からは、濁点がついたような音が出る。あああああ。あああああ。
もう何も言えない。だって言えないでしょ?訳わかんなくない?残業してる同期に差し入れに行って、キスして帰ってくるってどういうこと?ねぇどういうこと?それが彼氏とかならいいよ、みんなが見てないところでドキドキ☆オフィスラブみたいな。まあ彼氏じゃなくてもいいか、ただしイケメンに限る。壁ドンとか。それはそれでさ、萌えだよ。いやでもさ、それも普通、男からするもんでしょ?女からしないよね。妄想してみよう。ちょっとここで妄想してみよう。ほら、マサトさんとアヤノさんって同期だから、もしかしたらそんなこともあったかもしれないよね。二人がまだ結婚前で、つき合ってて、バッタリ誰もいない廊下とかで会ってーーうん、ほら絶対キスするのってマサトさんからだよね。で、きっとアヤノさんが顔を真っ赤にしたりして、いやん萌え!ああちょっと元気出た。妄想って元気の源だね。現実逃避とは言わないでいただきたい。
私は息苦しくなって枕を顔から外した。ぷはー。新鮮な空気、うまっ。
ーーで。
不意に、前田の唖然とした顔を思い出す。
「ぐ、は」
ーーどうして。
どうしてどうしてどうして、私はあんなことをしてしまったというのか。
ーーいや、前田が悪い。
サンドイッチを持つ手。手についたポテトサラダを舐める赤い舌先。その白い喉元。長い睫毛とけだるげな目、不意な笑顔。触れるか否かにこちらに伸びた指先と、わずかにかすれた声。ーー
その指に、舌に、目に、声にーー
我を忘れるほどの色気を感じたのは、
「前田が悪い!」
と、口にはしてみるが、
「んなわけあるかー!」
どう考えても私が悪いわ!分が悪すぎるわ!立派なセクハラだわ訴えられたら負けるくらい立派だわ!
ああもうほんと穴掘って入りたいもう二度と会いたくない会いたくない会いたくないー!!
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