期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子

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第二章 本日は前田ワールドにご来場くださり、誠にありがとうございます。

54 今までの恋の障害物がたった一言で片付けられるとは思わなかった。

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「前田は、思わなかったの。この女、見た目とえらいギャップがあるなー、みたいな」
 前田は首を傾げた。
「それね。なんかみんなそう言うけど、何がギャップなの?吉田さんは吉田さんでしょ。ギャップってことは、見た目から勝手に人間性を想像して、外れたら意外がるんだろうけど、それってお互いにとって非効率的だよね」
 非効率的。またも前田らしい言葉に口元が緩む。
「……というと?」
 ちらりと視線を投げかけると、前田は面倒くさそうな顔をした。
「吉田さんとっては、本来の自分を出すのに気を使えと言われてるようだし、周りにとっては、いちいち落胆したり驚いたりすることになるでしょ。だったら先入観なしでつき合う方がいいじゃない」
 ガチンコ勝負、ってことですか。
 なかなかに割り切った答えは、嫌いじゃない。私は浮かぶ笑顔をそのままに、相づちを打つ。
「それに」
 前田は補足するように呟いた。
「大学がほとんど男子校みたいなもんだったから、女子の違いがよく分からなかった」
 私は噴き出した。何だその、ガイジンみたいな扱いは。
「……って、どこ?」
「D大」
 都内にある電気工学系の大学だ。
「ああ、国立の」
「知ってるの?」
「都内の国立大学、一通り案内見たから。私立だと思われがち?」
 前田が頷く。私は笑った。
「結構、あるあるなんだね。私もそうだった。都内の国立大はT大だけだと思われてるのかな」
「吉田さんてO女でしょ。それでも知られてないの」
「ないない。国立で女子大なんてないでしょ、みたいな感じ」
「へぇ」
 まあ別に私立だと思われててもいいんだけどさ。知名度が低いっていうのが自虐ネタなのよね。
 店員さんが焼鳥盛り合わせを持ってきた。私が食べやすいように串を外していく様子を、前田はぼんやり見ている。
「でも、吉田さんは男子と普通に話せるよね」
「まあ、インカレサークル入ってたし、弟いるし。そもそも元々の経験値が違うんじゃない?」
 言いながらつみれを口に運ぶ。前田もそれを見て箸を伸ばした。ちょっと口元が尖っているのは、すねているのか。
 元々、男友達とも普通に話していた私である。香子と志望校が一緒だと分かったとき、互いに「女子校だけど分かってる?」と確認したくらいだ。
「ね、もしかして、女子ってだけでキレイに見えたりしてたの?」
 前田は鶏肉を口に入れると目をそらした。黙ってるのは無言の肯定だろう。アルコールが入って少し気分が軽くなってきた私は笑う。
 笑われたことが悔しいのか、前田はすねたような口調になった。
「でも、吉田さんは、社内でも評判いいでしょ」
 でも、って何だ?
 と首を傾げて、思いつく。
「それ、遠回しに私のことキレイだと思ってるってこと?」
 前田が途端にギクリとした。
「違う。今の無し」
「違うの?ほんとに?」
 身を乗り出して顔を覗き込むと、
「ち、近いよ」
 前田がうろたえて目をそらす。その頬が紅い。日頃見られない前田のうろたえっぷりに、私はますます調子に乗る。
「ねぇねぇ」
「やめてよ。ーー女の人に抗体ないの、見てわかるでしょ」
 私が顔を近づけると、前田は身体を引く。
 そのウブな反応が可愛い。
「ーー今、馬鹿にしたでしょ」
「してないよ。可愛いなって思っただけだよ」
「それ、馬鹿にしてるってことじゃない」
「してないって」
 私は言いながら前田の頭に手を伸ばす。ぽんぽん叩くと唇を尖らせた。
 前田は慌ててその手を振り払った。
「弟扱いしないでよ。俺だって、やろうと思えば、き……キスくらいできるんだから」
 だんだん小さくなる語尾に、私はくすくす笑う。
「まあ、一度しちゃったしねぇ」
 前田は真っ赤になった。
「よ、しださん」
 形だけ、睨みつけて来る目には、迫力のかけらもない。
「まあ、食いねぇ食いねぇ。他、何か頼む?」
 助け舟のつもりで、メニューを差し出した。
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