期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子

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第三章 アラサー女子よ、大志を抱け!

60 準備完了、箪笥の中で待機します。

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 そんな訳で、吉田里沙三十歳、ここで決めますっ。
 ーーと一人、決意の拳を固めて、私が向かった先は下着売り場である。
 食べても太らない体質の変わりに、私は女らしい身体つきというものに無縁で来ている。
 つまり、服を着ればどうにか紛れるけれども、脱げばつるぺた、何の面白みもない女なのだ!
 ……と自虐的になってみたところで、せめてちょっとでもマシに見えるようにと、こうして下着売り場に足を運んだのだ。
 何のためにーーって、そりゃ、ナニのために、ですよ。
 だってだってだって。
 基本的には、ほっとんど色気味気のない私たちだけれど、時々、ほんっとに時々、1パーセント未満の時間、前田に色気を感じる時がある。甘い優しさを帯びた目、しなやかな指先、お酒に酔ったときの首元ーーそういうとき、ドキドキする、を通り越して、ゾクゾクする。触れたい、を通り越して、口づけたい、と思う。
 ーーだから。
 ここでモノにする!
 って、これ女側がする決意ちゃうよね?普通男の台詞じゃない?私こんなに肉食系だったっけ。いや草食系のつもりはないけど。
 相変わらずの自問自答を繰り返しながら下着を見る。超セクシー系のものから、フリフリふわふわの可愛い系まで。セクシー系の下着はちょっとオンナっぷりが上がるような気がするけど、ツルペタな私には不格好な気もする。でもこんなフリフリふわふわはちょっと。さすがに少女趣味過ぎだよね。
 っていうか、ここまでつき合っていても前田の好みが分からない。私がどんな服を着て言っても何もコメントしたことはないし、そもそも前田自身、いつでもTシャツジーパンでこだわりがあるように見えない。そういえばあいつ服自分で買ってるのかな。お母さんが買ってます、とか有り得るけど、それさすがに引くぞ。いや、いいのかな。むしろ私がコーディネートするってことで、私好みにできると思えばーー
 そんなことを考えて、手が止まっていることに気づく。我に返って首を振り、結局普段使いできるほど無難な数枚を並べてみた。
 いや、だって、それ用っていうのもね、どうかなと思うよね。普段使いできる方がお得だよね。ーーお得とかで考えていいのかよくわかんないけど。
 自分に言い訳しながら、店員さんをつかまえて3枚試着してみた。白地にピンクの刺繍のもの、コーラルピンクのもの、ちょっと背伸びして黒地に紫の刺繍ものもの。
 迷いに迷ってコーラルピンクを選んだのは、香子たちの結婚式で着たワンピースの色で、マサトさんに褒められたからだ。
 え?他の男の意見参考にすんのかよって?だって他に頼れるものがないんだもん。ぐすん。
 一緒にセットのショーツも買って、備えは完了である。あとはひたすらーーハイエナのように、前田の残業の有無を伺う私だった。
 どうかどうか、この子の出番がありますよーにっ。
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