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第三章 アラサー女子よ、大志を抱け!
61 誠実過ぎるカレシと弟からの催促(だったらもっと早く言え!)
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【金曜、九時くらいになっちゃいそうだけど、どうする?】
前田からのメッセージが来たのは週ナカの水曜、昼休みだった。
九時だと、前田の終電までは二時間そこそこしかない。
一瞬ためらってから、いや、でも、と思い直す。
終電を使わせるつもりはないのだから、気にしなくていい、はず。ーーってこれ、女子としてどうなの。もっと慎ましやかな方がいいんじゃないの、自分。
【私はいいよ】
返すと、了解、終わったら連絡する、と返事があった。
それだったら、一度帰ってシャワーを浴びてから合流しよう。新しい下着はそのとき身につけてーー
ついつい浮き立つ気持ちにニヤニヤしていたら、
「前田くんから?」
一緒にランチをしていたなっちゃんが茶化すような目で問うて来た。私はうんと頷きながらスマホをしまう。
「サリーちゃん、すっかり可愛くなっちゃって。元々可愛いけど」
「いやー、三十路女に可愛いっていうのもちょっと」
私が苦笑すると、なっちゃんはそれもそうかと笑う。
「じゃあ、綺麗になった」
私は照れ臭さに手を振った。
「何も変わってないよ」
「そうかなぁ。優しい顔するようになったよ」
なっちゃんは言って、声をひそめた。
「きっと残念がってるだろうなぁ。サリーちゃんファンだった男性陣」
「本当にいたのかねぇ、そんな人たち」
私は苦笑したまま肩をすくめた。
「ま、でも、前田くん、無愛想ではあるけど人柄は確かみたいだから、みんな応援してるみたいよ」
「はぁ」
人柄は確か。ーーまあ、確かにね。
三十近くもなって、手も繋いで来ない人だ。誠実さにがんじがらめになってるんじゃなかろうか、という気もする。奴は自分なりの順序とか、色々そういうものがあって、結構融通が効かないーーということは、最近段々分かって来ている。
「サリーちゃんが、いい顔してるのが何より」
なっちゃんは言いながら、アイスレモンティーを口にした。赤茶色の上に涼しげな顔をして乗ったレモンの切れ端に目が行く。レモンサワーが好きな前田を思い出す。何でそんな酸っぱいのが好きなんだろう。
また前田のことを思い出していることに気づいて我に返った。取り繕うような笑顔で当たり障りのない会話をして、店を後にする。
今までも、彼氏がいたことはあった。けどーー
こんなに、何かにつけて、思い出したことがあっただろうか。
【いつ前田さんに会わせてくれんの?】
弟の勝哉からのメッセージは、金曜の朝に届いた。ご丁寧に達哉へも同時送信している。
あれ本気だったんだ、と思いつつ、返事を送る。
【何、急に】
【彼女の誕生日、来月なんだけど】
うわっほう。それならもっと早く言えよー。
【ちなみに俺の彼女は再来月】
達哉が便乗してメッセージを送って来る。
私はちょっとドキドキしながら返事を書いた。
【もしかして、プロポーズするの?】
【いきなりそんなつもりはないけど、今後どうしたいかって話くらいしてもいいかなと思って】
いい加減に見えてなかなかしっかりしている。
【三十、って、女性にとっては難しい年齢なんでしょ】
私の話が、少しは胸に響いたらしい。
【そうだねぇ】
応じながら、私は考えていた。
ただの同期だった先月なら、前田を会わせることは難しいことではなかった。
でも、今はちょっと、事情が異なる。
【ちょっと聞いてみるよ】
今夜話してみようと思いつつ、そう返した。
前田からのメッセージが来たのは週ナカの水曜、昼休みだった。
九時だと、前田の終電までは二時間そこそこしかない。
一瞬ためらってから、いや、でも、と思い直す。
終電を使わせるつもりはないのだから、気にしなくていい、はず。ーーってこれ、女子としてどうなの。もっと慎ましやかな方がいいんじゃないの、自分。
【私はいいよ】
返すと、了解、終わったら連絡する、と返事があった。
それだったら、一度帰ってシャワーを浴びてから合流しよう。新しい下着はそのとき身につけてーー
ついつい浮き立つ気持ちにニヤニヤしていたら、
「前田くんから?」
一緒にランチをしていたなっちゃんが茶化すような目で問うて来た。私はうんと頷きながらスマホをしまう。
「サリーちゃん、すっかり可愛くなっちゃって。元々可愛いけど」
「いやー、三十路女に可愛いっていうのもちょっと」
私が苦笑すると、なっちゃんはそれもそうかと笑う。
「じゃあ、綺麗になった」
私は照れ臭さに手を振った。
「何も変わってないよ」
「そうかなぁ。優しい顔するようになったよ」
なっちゃんは言って、声をひそめた。
「きっと残念がってるだろうなぁ。サリーちゃんファンだった男性陣」
「本当にいたのかねぇ、そんな人たち」
私は苦笑したまま肩をすくめた。
「ま、でも、前田くん、無愛想ではあるけど人柄は確かみたいだから、みんな応援してるみたいよ」
「はぁ」
人柄は確か。ーーまあ、確かにね。
三十近くもなって、手も繋いで来ない人だ。誠実さにがんじがらめになってるんじゃなかろうか、という気もする。奴は自分なりの順序とか、色々そういうものがあって、結構融通が効かないーーということは、最近段々分かって来ている。
「サリーちゃんが、いい顔してるのが何より」
なっちゃんは言いながら、アイスレモンティーを口にした。赤茶色の上に涼しげな顔をして乗ったレモンの切れ端に目が行く。レモンサワーが好きな前田を思い出す。何でそんな酸っぱいのが好きなんだろう。
また前田のことを思い出していることに気づいて我に返った。取り繕うような笑顔で当たり障りのない会話をして、店を後にする。
今までも、彼氏がいたことはあった。けどーー
こんなに、何かにつけて、思い出したことがあっただろうか。
【いつ前田さんに会わせてくれんの?】
弟の勝哉からのメッセージは、金曜の朝に届いた。ご丁寧に達哉へも同時送信している。
あれ本気だったんだ、と思いつつ、返事を送る。
【何、急に】
【彼女の誕生日、来月なんだけど】
うわっほう。それならもっと早く言えよー。
【ちなみに俺の彼女は再来月】
達哉が便乗してメッセージを送って来る。
私はちょっとドキドキしながら返事を書いた。
【もしかして、プロポーズするの?】
【いきなりそんなつもりはないけど、今後どうしたいかって話くらいしてもいいかなと思って】
いい加減に見えてなかなかしっかりしている。
【三十、って、女性にとっては難しい年齢なんでしょ】
私の話が、少しは胸に響いたらしい。
【そうだねぇ】
応じながら、私は考えていた。
ただの同期だった先月なら、前田を会わせることは難しいことではなかった。
でも、今はちょっと、事情が異なる。
【ちょっと聞いてみるよ】
今夜話してみようと思いつつ、そう返した。
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