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第三章 アラサー女子よ、大志を抱け!
66 意図せぬかばんの襲撃はご愛嬌。
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私と前田の手は恋人つなぎで繋がったまま、リズミカルに前後に揺られていく。
最寄り駅から自宅までは徒歩七分。最後は少しだけ細い道に入るが、明るい道を通れるよう、弟たちが一緒に選んでくれた。
前田は黙って私について来ていたが、駅が見えなくなってきた辺りから、少し私の横顔を伺い始めた。
繋いだ手越しになんとなく歩くペースを落としたがっていることが伝わるが、私はペースを落とさない。勢いがないとこの先には行けない気がした。
「あの、……吉田さん」
とうとう家が見えたという頃、前田が耐えかねたように声を出した。私は目だけで何、と言う。
「家まで送り届けたらーー」
私は咄嗟に、空いている方の手で前田の口を覆った。その弾みに、私が肩にかけていたかばんが前田の肩にぶつかる。
「痛てっ」
「わ、ごめん」
慌てて手を離し、かばんがぶつかった肩をさする。前田みたいにパソコン持ち歩いてる訳じゃないんだけど、女子って何かと荷物多くなって重くなるよね。何なんだろうねこれって。
「骨に当たった」
「ご、ごめんって」
恋人繋ぎしていた手も解き、両手で前田の肩を覆った。鎖骨から肩に伸びるラインに手を当てていると、Tシャツ越しに感じる骨と筋肉の硬さに、段々ドキドキしてくる。
「……もういいよ」
直接肌に触らないようにしているのか、前田は袖を引き、私の手をそろりと剥がす。それがまた私には物足りなく感じた。
「よくない」
ここまで来て。ここまで来てーー帰すかっ。
私は剥がされた手を前田の首に回し、抱き着いた。
またかばんがゴツッと前田の脇腹に当たる。
「ぐっ」
「あ、ごめん」
前田のくぐもった声に、一応謝ったけど、回した腕を離す訳には行かない。ーーていうか、こっから先どうすればいいんだろう。もうほとんど、抱き着くっていうより、捕獲した、っていう感じなんだけど。
とりあえず首に抱き着いたまま、私はしばらく考えていた。ドキドキと心臓が高鳴る音がする。ふと、前田の心臓の鼓動も感じられる気がして、首に回した腕に少し力を込めた。ーーもっと近くなりたくて。
前田はゆるゆると息を吐き出した。やっぱりためらいがちに、私の背に手を回す。抱きしめるというよりは、添える、という程度の力で。
もっと強く抱きしめて欲しい。そう思う半面、優しく触れた手の内側で擦れる服と肌の感触が、くすぐったさと同時にぞくぞくと甘い期待を呼び起こす。
前田はイチイチ、無自覚に、私のツボを刺激する。
「一緒にいて」
吐き出した言葉は、自分でも驚くほどか細くなった。
「……朝まで」
しばらくの沈黙の後、前田は私の背中に回した手に、ゆっくりと力を込めた。
少しずつ、その手をずらし、私を抱き寄せる。
ーーうわ。
ドキドキとゾクゾクと、その他様々な感情が、一気に身体を駆け巡った。
それに振り落とされないようにーーでも、前田にもそれを感じてほしくて、前田の首に回した腕に力を込める。
「ーーいいの?」
耳元で響いたハスキーボイスに、膝裏の力が抜けそうになった。
私は咄嗟に声を出せず、こくりと頷く。
頷いてから、気恥ずかしさに、前田の肩先に顔を埋めた。
前田も、私の肩先に口元を寄せる。
「……いいよ」
一緒にいよう。朝まで。
前田は言って、私の顔を見た。
眼鏡の奥の目は、今まで見たことがないくらい、男性的な光を宿していた。
最寄り駅から自宅までは徒歩七分。最後は少しだけ細い道に入るが、明るい道を通れるよう、弟たちが一緒に選んでくれた。
前田は黙って私について来ていたが、駅が見えなくなってきた辺りから、少し私の横顔を伺い始めた。
繋いだ手越しになんとなく歩くペースを落としたがっていることが伝わるが、私はペースを落とさない。勢いがないとこの先には行けない気がした。
「あの、……吉田さん」
とうとう家が見えたという頃、前田が耐えかねたように声を出した。私は目だけで何、と言う。
「家まで送り届けたらーー」
私は咄嗟に、空いている方の手で前田の口を覆った。その弾みに、私が肩にかけていたかばんが前田の肩にぶつかる。
「痛てっ」
「わ、ごめん」
慌てて手を離し、かばんがぶつかった肩をさする。前田みたいにパソコン持ち歩いてる訳じゃないんだけど、女子って何かと荷物多くなって重くなるよね。何なんだろうねこれって。
「骨に当たった」
「ご、ごめんって」
恋人繋ぎしていた手も解き、両手で前田の肩を覆った。鎖骨から肩に伸びるラインに手を当てていると、Tシャツ越しに感じる骨と筋肉の硬さに、段々ドキドキしてくる。
「……もういいよ」
直接肌に触らないようにしているのか、前田は袖を引き、私の手をそろりと剥がす。それがまた私には物足りなく感じた。
「よくない」
ここまで来て。ここまで来てーー帰すかっ。
私は剥がされた手を前田の首に回し、抱き着いた。
またかばんがゴツッと前田の脇腹に当たる。
「ぐっ」
「あ、ごめん」
前田のくぐもった声に、一応謝ったけど、回した腕を離す訳には行かない。ーーていうか、こっから先どうすればいいんだろう。もうほとんど、抱き着くっていうより、捕獲した、っていう感じなんだけど。
とりあえず首に抱き着いたまま、私はしばらく考えていた。ドキドキと心臓が高鳴る音がする。ふと、前田の心臓の鼓動も感じられる気がして、首に回した腕に少し力を込めた。ーーもっと近くなりたくて。
前田はゆるゆると息を吐き出した。やっぱりためらいがちに、私の背に手を回す。抱きしめるというよりは、添える、という程度の力で。
もっと強く抱きしめて欲しい。そう思う半面、優しく触れた手の内側で擦れる服と肌の感触が、くすぐったさと同時にぞくぞくと甘い期待を呼び起こす。
前田はイチイチ、無自覚に、私のツボを刺激する。
「一緒にいて」
吐き出した言葉は、自分でも驚くほどか細くなった。
「……朝まで」
しばらくの沈黙の後、前田は私の背中に回した手に、ゆっくりと力を込めた。
少しずつ、その手をずらし、私を抱き寄せる。
ーーうわ。
ドキドキとゾクゾクと、その他様々な感情が、一気に身体を駆け巡った。
それに振り落とされないようにーーでも、前田にもそれを感じてほしくて、前田の首に回した腕に力を込める。
「ーーいいの?」
耳元で響いたハスキーボイスに、膝裏の力が抜けそうになった。
私は咄嗟に声を出せず、こくりと頷く。
頷いてから、気恥ずかしさに、前田の肩先に顔を埋めた。
前田も、私の肩先に口元を寄せる。
「……いいよ」
一緒にいよう。朝まで。
前田は言って、私の顔を見た。
眼鏡の奥の目は、今まで見たことがないくらい、男性的な光を宿していた。
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