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第三章 アラサー女子よ、大志を抱け!
84 呆れるくらいに変わらないふたり。
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それから、約一年後。
「あー、やっぱりドレス、イエローの方が良かったかなぁ。ピンクじゃありきたり過ぎかなぁ」
結婚式を翌日に控え、私は落ち着かない気分でいた。
「似合ってるからいいんじゃないの」
婚約後、同棲を始めた前田は相変わらずのテンションだ。
「引き出物、食器だとみんな持ち帰り大変だったかなぁ」
「里沙が可愛くて使い易そう、って言ったんじゃない。友達にも聞いたんでしょ」
「明日ちゃんと起きられるかなぁ。うぅ、緊張するー」
「寝不足で隈だらけの花嫁なんてメイクさん泣かせだよ。早めに寝たら」
私のボヤキに間髪入れず返してくるが、手元はキーボードを打ち続けている器用さだ。
「……って、何であんたはそんな落ち着いてんのよ!」
耐えかねた私がツッコミを入れると、平常運転の前田は何て言うことのない顔で答えて来る。
「だって、みんなが見に来るのは花嫁でしょう。花婿なんて添え物だよ」
確かにそう、かもしれないけど……。
「だからってその落ち着き、なんかムカつくんだけど!」
まるで一人だけ当事者みたいでとりつく島がない。
「じゃあ一緒にワタワタしてた方がいい?」
「それもそれで困るけど……」
私は唇を尖らせて口ごもった。
前田は笑う。
「大丈夫だよ」
私の頬を長い指が撫でた。
「俺の可愛い花嫁さん」
眼鏡の奥の瞳は、相変わらず優しくて、その瞳に見つめられる度、私は相変わらずドキドキする。
ちょっとだけ潤んだ瞳で前田を見つめ、口を開きかけたとき、前田があっ、と声を上げた。かと思えば、またパソコンに向き直り、何やら操作を始める。
「明日のアニメ予約しとかなきゃ」
私にはよくわからないのだけど、前田はパソコンの液晶でテレビが見られるようにしているらしい。
甘い展開を期待した私は、完全に肩すかしを食らった気分である。
悔しさと気恥ずかしさに、私は拳をわななかせた。
「あんたって奴はぁあっ!」
私は怒りに任せてダブルベッドから前田の枕と布団を床に落とし、ベッドのど真ん中を占拠して早々に眠りについたのだった。
翌日、花嫁の機嫌をなだめようと周りがアレコレ気を使ったとか、そんな中で花婿はマイペースに身支度を整えていたとかーーそれはまた、後の話。
ーーお後がよろしいようで。
fin.
「あー、やっぱりドレス、イエローの方が良かったかなぁ。ピンクじゃありきたり過ぎかなぁ」
結婚式を翌日に控え、私は落ち着かない気分でいた。
「似合ってるからいいんじゃないの」
婚約後、同棲を始めた前田は相変わらずのテンションだ。
「引き出物、食器だとみんな持ち帰り大変だったかなぁ」
「里沙が可愛くて使い易そう、って言ったんじゃない。友達にも聞いたんでしょ」
「明日ちゃんと起きられるかなぁ。うぅ、緊張するー」
「寝不足で隈だらけの花嫁なんてメイクさん泣かせだよ。早めに寝たら」
私のボヤキに間髪入れず返してくるが、手元はキーボードを打ち続けている器用さだ。
「……って、何であんたはそんな落ち着いてんのよ!」
耐えかねた私がツッコミを入れると、平常運転の前田は何て言うことのない顔で答えて来る。
「だって、みんなが見に来るのは花嫁でしょう。花婿なんて添え物だよ」
確かにそう、かもしれないけど……。
「だからってその落ち着き、なんかムカつくんだけど!」
まるで一人だけ当事者みたいでとりつく島がない。
「じゃあ一緒にワタワタしてた方がいい?」
「それもそれで困るけど……」
私は唇を尖らせて口ごもった。
前田は笑う。
「大丈夫だよ」
私の頬を長い指が撫でた。
「俺の可愛い花嫁さん」
眼鏡の奥の瞳は、相変わらず優しくて、その瞳に見つめられる度、私は相変わらずドキドキする。
ちょっとだけ潤んだ瞳で前田を見つめ、口を開きかけたとき、前田があっ、と声を上げた。かと思えば、またパソコンに向き直り、何やら操作を始める。
「明日のアニメ予約しとかなきゃ」
私にはよくわからないのだけど、前田はパソコンの液晶でテレビが見られるようにしているらしい。
甘い展開を期待した私は、完全に肩すかしを食らった気分である。
悔しさと気恥ずかしさに、私は拳をわななかせた。
「あんたって奴はぁあっ!」
私は怒りに任せてダブルベッドから前田の枕と布団を床に落とし、ベッドのど真ん中を占拠して早々に眠りについたのだった。
翌日、花嫁の機嫌をなだめようと周りがアレコレ気を使ったとか、そんな中で花婿はマイペースに身支度を整えていたとかーーそれはまた、後の話。
ーーお後がよろしいようで。
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