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第三章 アラサー女子よ、大志を抱け!
77 前なら嘘くさいと思う言葉が、自然と心に留まる不思議。
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誘惑って。誘惑ってーー何よ。
前田に言われた言葉を反趨しながら、私はシャワーを浴びている。
っていうか、どうしたらいいんだろう。こっからどうしたらいいんだろう。あああ、もう。聞いとけばよかった。って誰に?香子?いやでも学生時代言ってたな、婚前性交はしない主義だって。多分香子のことだし、相手はあのざっきーだし、きっと貫いたことだろう。そもそもあの夫婦は結婚だって早かった。
誘惑って。一体私が何をしたというの。別にいつもと違うことは何もしてなかったーーと思う。でももしかしたらそういうのって無自覚なのかな。前田もきっと、私がきゅんとくるタイミングなんて分かってないんだろう、と思う。
はっ、そうか。聞くとしたらマサトさんとアヤノさんだ。あの二人ならきっと大人に答えてくれただろう。でもマサトさん経験豊富そうだもんなぁ。二人して経験値の少ない私たちとは違うだろう。
まあでもそんなもんよね。と自己完結してみた。色んな人がいるんだもん。十人十色。夫婦だってカップルだって、きっと十組十色で、だったらきっとーーセックスだって、十組十色、なんだろう。
よし、と気合いを入れて、タオルで身体を拭きはじめた。一人暮らしを想定した我が家は脱衣所に戸がない。前田にはくれぐれもここから出てくるなと言って、奥の寝室へ閉じ込めてある。もちろんダイニングに繋がる扉はそのとき全部閉めた。
その部屋に通したとき、前田はベッドにちょこんと腰掛け、よっこらせとノートPCを立ち上げた。いやいや何してんの。こんなとこで予習とかやめてよ。そう思ったらちらりと目を上げ、私を見やった。
「シャワー、俺もあとで借りるね」
「……うん」
言いながら叩きはじめたキーボードの様子からして、いつも通りプログラミングなのだろう。タカタカタカと高速で動く指先がリズミカルで、じっとその場で聞き耳を立てていたい気持ちになるけど、私はルームウェアと下着とタオルを持ってシャワーを浴びに向かったのだった。
前田がいる寝室のドアの前に佇み、ゆっくり深呼吸をした。こんこんとノックをして、ドアを開ける。手には髪を乾かすためにドライヤーを持ってきた。
「上がったよ。前田もどうぞ」
言いながらタオルを出した。
「……服、どうする?」
「下着は入ってる」
前田は当然のように自分のリュックを目で示した。
「え」
やる気満々だったの?と思ったけど、前田はちょっと不満げに眉を寄せた。
「吉田さんの行動って予測不能だから、何があってもいいようにしてる」
飲みつぶれたりしたら、俺が介抱しないといけないし。
言いながらシャットダウンしたPCをリュックににしまい、代わりに味気ないビニール袋を取り出した。
「そんなことしてたら、どんどん荷物が重くなるじゃん」
私が呆れると、
「パソコンと比べれば大した重さじゃないよ」
まあ、そりゃそうだろうけど。
比べるものが悪すぎる。と思いながら、私は前田にタオルを渡した。
「石鹸類、適当に使って」
「うん。ありがとう」
言って前田は部屋を出て行った。
前田が座っていたベッドの窪みに、私もちょこんと座ってみる。
前田がここで過ごしていることが、なんだか不思議に感じた。
一緒にいる時間は、少しずつ、少しずつ増えている。もっともっと、どんどんたくさん、増えていけばいいなと思う。それがぶつかり合うものであっても、笑い合うものであっても、私にとっては愛しくて、大切な時間になるんじゃないかーーそんな気がする。
ーー僕はあなたをおもふたびに
一ばんぢかに永遠を感じるーー
永遠。
「……か」
もし、永遠、というものがあるとしたら。
感じてみたい。前田と。
前田に言われた言葉を反趨しながら、私はシャワーを浴びている。
っていうか、どうしたらいいんだろう。こっからどうしたらいいんだろう。あああ、もう。聞いとけばよかった。って誰に?香子?いやでも学生時代言ってたな、婚前性交はしない主義だって。多分香子のことだし、相手はあのざっきーだし、きっと貫いたことだろう。そもそもあの夫婦は結婚だって早かった。
誘惑って。一体私が何をしたというの。別にいつもと違うことは何もしてなかったーーと思う。でももしかしたらそういうのって無自覚なのかな。前田もきっと、私がきゅんとくるタイミングなんて分かってないんだろう、と思う。
はっ、そうか。聞くとしたらマサトさんとアヤノさんだ。あの二人ならきっと大人に答えてくれただろう。でもマサトさん経験豊富そうだもんなぁ。二人して経験値の少ない私たちとは違うだろう。
まあでもそんなもんよね。と自己完結してみた。色んな人がいるんだもん。十人十色。夫婦だってカップルだって、きっと十組十色で、だったらきっとーーセックスだって、十組十色、なんだろう。
よし、と気合いを入れて、タオルで身体を拭きはじめた。一人暮らしを想定した我が家は脱衣所に戸がない。前田にはくれぐれもここから出てくるなと言って、奥の寝室へ閉じ込めてある。もちろんダイニングに繋がる扉はそのとき全部閉めた。
その部屋に通したとき、前田はベッドにちょこんと腰掛け、よっこらせとノートPCを立ち上げた。いやいや何してんの。こんなとこで予習とかやめてよ。そう思ったらちらりと目を上げ、私を見やった。
「シャワー、俺もあとで借りるね」
「……うん」
言いながら叩きはじめたキーボードの様子からして、いつも通りプログラミングなのだろう。タカタカタカと高速で動く指先がリズミカルで、じっとその場で聞き耳を立てていたい気持ちになるけど、私はルームウェアと下着とタオルを持ってシャワーを浴びに向かったのだった。
前田がいる寝室のドアの前に佇み、ゆっくり深呼吸をした。こんこんとノックをして、ドアを開ける。手には髪を乾かすためにドライヤーを持ってきた。
「上がったよ。前田もどうぞ」
言いながらタオルを出した。
「……服、どうする?」
「下着は入ってる」
前田は当然のように自分のリュックを目で示した。
「え」
やる気満々だったの?と思ったけど、前田はちょっと不満げに眉を寄せた。
「吉田さんの行動って予測不能だから、何があってもいいようにしてる」
飲みつぶれたりしたら、俺が介抱しないといけないし。
言いながらシャットダウンしたPCをリュックににしまい、代わりに味気ないビニール袋を取り出した。
「そんなことしてたら、どんどん荷物が重くなるじゃん」
私が呆れると、
「パソコンと比べれば大した重さじゃないよ」
まあ、そりゃそうだろうけど。
比べるものが悪すぎる。と思いながら、私は前田にタオルを渡した。
「石鹸類、適当に使って」
「うん。ありがとう」
言って前田は部屋を出て行った。
前田が座っていたベッドの窪みに、私もちょこんと座ってみる。
前田がここで過ごしていることが、なんだか不思議に感じた。
一緒にいる時間は、少しずつ、少しずつ増えている。もっともっと、どんどんたくさん、増えていけばいいなと思う。それがぶつかり合うものであっても、笑い合うものであっても、私にとっては愛しくて、大切な時間になるんじゃないかーーそんな気がする。
ーー僕はあなたをおもふたびに
一ばんぢかに永遠を感じるーー
永遠。
「……か」
もし、永遠、というものがあるとしたら。
感じてみたい。前田と。
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