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泣く背中
爆発 遼side
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保奈美と別れたあと、俺はそのまま立ち飲み屋で少し飲んだ。時間を見て戻らなければならない事は分かっていた。それでも俺は今夜は酔ってしまいたい──そう思った。
自分の唇に手をやり、触れるたびに紗英の笑顔が脳裏をかすめてそのまま酒を呑んだ。保奈美のキスを思い出すたびに申し訳ない気持ちと、紗英への恋しい気持ちでいっぱいになる。
「ありがとうございましたー」
店の女将の優しい声に送り出され、夜風に当たりながらふらふらと歩き出し、見つけたタクシーに乗り込んだ……。後部座席から見た街のネオンが美しいと感じた。
俺は気がつくと夢を見ていた。紗英が目の前にいて優しく微笑む。それが嬉しくて手を伸ばして抱きしめた。すると幻のように目の前で紗英は蒸気のように忽然と消えた。
まただ。
また、いなくなった。
「紗英が、いない……」
突然足元にベッドが現れた。手が届くところに紗英の後ろ姿が見えた。嬉しくて抱きしめて閉じ込める。胸に感じる柔らかい体と紗英の香水の香りが鼻腔をくすぐった。
あ、掴めた──あぁ、紗英だ。寂しかった……。会いたかった。
紗英、ごめん。もっと物分かりが良くならなきゃダメなのに。頑張る紗英を応援したいのに。寂しくて、こうして閉じ込めたくなるんだ。
紗英が好きなのに、ほかの女とキスした。だけど、違う。俺は、寂しいから誰かにそばにいて欲しいんじゃない……紗英が、紗英がいい。
「いいか、寂しいって言っても、いいか?」
紗英の背中に問いかける。俺は夢の中でとうとう紗英に告白した。泣きながら紗英の背中に抱きついた。
「紗英……ごめん……」
夢の中の紗英はいつも冷たい。きっと今日もラムネのように消えるんだ。諦めていると紗英が突然振り返り俺を抱きしめた。紗英が震えながらしっかりと俺を抱きしめる。
あぁ温かい……なんて温かいんだ……。ずっとこのままでいたい──。
目覚めると目の前に自分の部屋にはない難しそうな本の山が見えた。隣の本棚に入りきらないほどの難しい漢字が並んだ本に思考が停止する。
え? ここ……。え──嘘だろ。
遼は飛び起きた。なぜここで寝ているんだ。部屋を見渡すと確かに紗英の寝室だ。ベッドには紗英の姿はなかった。最後の記憶はタクシーの中だ……自分部屋に戻ったはずなのに……。
「おはよう」
「お、おはよう……」
台所から朝食の準備をした紗英が顔を覗かせた。遼が寝癖で跳ねた髪を撫でると申し訳なさそうな顔をした。
「さ、起きて、一回帰らないと仕事着が……」
「あ、あぁ、そうだな」
枕元の目覚まし時計を見てほっと胸を撫で下ろす。声を掛けられ反射的に返事をするが、なぜここにいるのか全く覚えていない。
「紗英、俺、何で──」
「あ、遼急いで、時間ない。さ、早く食べて!」
紗英が俺の腕を引っ張り上げて椅子に座らせる。確かに時間がない。慌ててパンにかぶりつくとコーヒーで胃袋に流し込んだ。朝の四時前は夜と変わらないぐらい真っ暗だった。いつのまにかタクシーがアパートの前に迎えに来ていた。テールランプが点滅している。紗英が呼んでくれていたのだろう。感謝しかない。
俺は紗英の体を抱きしめる。こうして仕事に送り出してくれるのは初めてだ。ポンっと紗英の頭を撫でると紗英は優しい笑みを浮かべた。
「仕事頑張ってな、ごめん、忙しいのに平日に押しかけて」
「いいの、こちらこそごめん」
紗英の笑顔が寂しげなことに気がついた。紗英がなぜ謝っているのか分からず紗英の顔を覗く。その表情は暗かった。
「紗英?」
「ささ、タクシー待ってるよ! いってらっしゃい」
紗英が何もなかったように微笑むと遼の頰にキスをして送り出した。
「いってらっしゃい」
まるで新婚みたいで遼は顔を赤らめる。ニカッと遼は笑うと嬉しそうに手を振るとタクシーに乗り込んだ。その姿を紗英はじっと見つめていた。
「覚えて、ないのかもね……」
タクシーが走り出すと紗英は涙を流した。必死で涙を堪えていたが遼に気付かれなかっただろうか……。紗英は袖で涙を拭うと両手で頬を叩いて気合を入れた。
泣いている場合じゃない。私がすべきことはひとつしかない。
涙を拭くと紗英は冷蔵庫を開けて晩御飯を仕込み始めた。
自分の唇に手をやり、触れるたびに紗英の笑顔が脳裏をかすめてそのまま酒を呑んだ。保奈美のキスを思い出すたびに申し訳ない気持ちと、紗英への恋しい気持ちでいっぱいになる。
「ありがとうございましたー」
店の女将の優しい声に送り出され、夜風に当たりながらふらふらと歩き出し、見つけたタクシーに乗り込んだ……。後部座席から見た街のネオンが美しいと感じた。
俺は気がつくと夢を見ていた。紗英が目の前にいて優しく微笑む。それが嬉しくて手を伸ばして抱きしめた。すると幻のように目の前で紗英は蒸気のように忽然と消えた。
まただ。
また、いなくなった。
「紗英が、いない……」
突然足元にベッドが現れた。手が届くところに紗英の後ろ姿が見えた。嬉しくて抱きしめて閉じ込める。胸に感じる柔らかい体と紗英の香水の香りが鼻腔をくすぐった。
あ、掴めた──あぁ、紗英だ。寂しかった……。会いたかった。
紗英、ごめん。もっと物分かりが良くならなきゃダメなのに。頑張る紗英を応援したいのに。寂しくて、こうして閉じ込めたくなるんだ。
紗英が好きなのに、ほかの女とキスした。だけど、違う。俺は、寂しいから誰かにそばにいて欲しいんじゃない……紗英が、紗英がいい。
「いいか、寂しいって言っても、いいか?」
紗英の背中に問いかける。俺は夢の中でとうとう紗英に告白した。泣きながら紗英の背中に抱きついた。
「紗英……ごめん……」
夢の中の紗英はいつも冷たい。きっと今日もラムネのように消えるんだ。諦めていると紗英が突然振り返り俺を抱きしめた。紗英が震えながらしっかりと俺を抱きしめる。
あぁ温かい……なんて温かいんだ……。ずっとこのままでいたい──。
目覚めると目の前に自分の部屋にはない難しそうな本の山が見えた。隣の本棚に入りきらないほどの難しい漢字が並んだ本に思考が停止する。
え? ここ……。え──嘘だろ。
遼は飛び起きた。なぜここで寝ているんだ。部屋を見渡すと確かに紗英の寝室だ。ベッドには紗英の姿はなかった。最後の記憶はタクシーの中だ……自分部屋に戻ったはずなのに……。
「おはよう」
「お、おはよう……」
台所から朝食の準備をした紗英が顔を覗かせた。遼が寝癖で跳ねた髪を撫でると申し訳なさそうな顔をした。
「さ、起きて、一回帰らないと仕事着が……」
「あ、あぁ、そうだな」
枕元の目覚まし時計を見てほっと胸を撫で下ろす。声を掛けられ反射的に返事をするが、なぜここにいるのか全く覚えていない。
「紗英、俺、何で──」
「あ、遼急いで、時間ない。さ、早く食べて!」
紗英が俺の腕を引っ張り上げて椅子に座らせる。確かに時間がない。慌ててパンにかぶりつくとコーヒーで胃袋に流し込んだ。朝の四時前は夜と変わらないぐらい真っ暗だった。いつのまにかタクシーがアパートの前に迎えに来ていた。テールランプが点滅している。紗英が呼んでくれていたのだろう。感謝しかない。
俺は紗英の体を抱きしめる。こうして仕事に送り出してくれるのは初めてだ。ポンっと紗英の頭を撫でると紗英は優しい笑みを浮かべた。
「仕事頑張ってな、ごめん、忙しいのに平日に押しかけて」
「いいの、こちらこそごめん」
紗英の笑顔が寂しげなことに気がついた。紗英がなぜ謝っているのか分からず紗英の顔を覗く。その表情は暗かった。
「紗英?」
「ささ、タクシー待ってるよ! いってらっしゃい」
紗英が何もなかったように微笑むと遼の頰にキスをして送り出した。
「いってらっしゃい」
まるで新婚みたいで遼は顔を赤らめる。ニカッと遼は笑うと嬉しそうに手を振るとタクシーに乗り込んだ。その姿を紗英はじっと見つめていた。
「覚えて、ないのかもね……」
タクシーが走り出すと紗英は涙を流した。必死で涙を堪えていたが遼に気付かれなかっただろうか……。紗英は袖で涙を拭うと両手で頬を叩いて気合を入れた。
泣いている場合じゃない。私がすべきことはひとつしかない。
涙を拭くと紗英は冷蔵庫を開けて晩御飯を仕込み始めた。
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