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しおりを挟む真夏に近付いた季節の教室は、うんざりするほど暑い。
もう少し暑くなればエアコンが入るらしい。まだその時が来ていない教室では、窓を開け、下敷きをうちわ代わりにしながら何とか暑さをやり過ごすしかない。
例にもれず俺も下敷きをぱたぱたと扇ぎながら、隣の席に座る男に目線をやる。俺はこんなに汗だくなのに、こいつはなぜこんなに涼やかなのだろう。実は見えない壁で仕切られて、この男の周りにだけ涼しい風が吹いているのだろうか。
俺の視線に気付いた男——茅野は、ふわりと微笑んだ。
色素の薄い茅野の目は、グレーにほんのりと青みがかった不思議な色をしている。俺はこの瞳が大好きだ。整った顔に映える茅野の色。何の変哲もない俺のこげ茶の目と、茅野が見ている景色は果たして同じなのだろうか。
茅野は一年のときから、高校の中で目立つ存在だった。
端正な容姿で、スポーツ万能。しかし無口で、何を考えているか分からない男。強烈に周囲の目を引き、気になる存在。誰も彼に近付けない。男どもは皆僻み半分で、あいつは俺たちを見下してるんだ、なんて言い合っていた。
でも茅野はそんな奴じゃなかった。俺が最初に気付いたんだ。誰よりも早く。
今日も茅野は女子から呼び出しを受けている。あれは隣のクラスの坂本だ。クラスメイトの友人たちは「さすがに坂本なら付き合うんじゃねぇ?」「めっちゃ可愛いもんなぁ」と好き放題言い放題である。
茅野に近付こうと試みる女子は多い。あいつが機会を伺っては話しかけられている場面をよく見る。でも当の本人はそういうことに疎い様子で、彼女たちは誰も茅野の特別にはなれない。
茅野の隣にいるのはいつも俺だ。俺だけが茅野の特別だ。お前らはニコイチだな、と言われることは一度や二度ではない。学校でも、部活や休日も俺たちはいつも一緒だ。
渡り廊下で昼飯を食べていると、泣きながら走る坂本が見えた。茅野に振られたんだろう。それを見た友人は「あんな可愛い子でも駄目なのかよ、あいつ。信じらんねぇ」と呟いた。
次に来たのは茅野だ。俺はじっとあいつを見る。
上からクラスメイトが自分を見ていることに気付いた茅野が顔を上げた。周囲の友人たちが「上がって来いよ!」と囃し立てている。
茅野は俺を見ている。俺を見て、口元をほころばせている。
俺はたまらず腕を覆い自分の顔を隠した。周囲にいる友人たちに緩んだ顔を見られないように。周囲にたくさん友人がいる中で、茅野が俺だけを見ている優越感に浸っていることを、誰にも気付かれないように。
「朝賀、俺の家こないか。テスト勉強しよう」
「そうだな、行く」
中間テストがあるから、今週は部活が休みだ。学校の帰り道、茅野が俺を誘う。
今日は家にアイスがあるんだ、一緒に食べよう、と弾んだように言うと、俺を見てまた笑った。
なんでお前は俺にだけ笑うんだろう。これは勘違いじゃない。お前、他の奴らにはこんな風に笑わないだろ。無口なはずのお前が、俺にだけは口数が多くなる。俺はその事実に、親友だからという理由以外の原因を見出したくなるんだ。
友人は茅野に、朝賀とばっかり遊んでないでもっと女の子と話してみろよ、とからかう。
ふざけるな、と言ってしまいたい。茅野の特別は俺だけでいい。他にそんな存在、作らせてたまるか。
でも普通の親友はそんなこと言わない。
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