君の恋人

risashy

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 部活が終わっても、まだ日は高い。俺は水筒に残る最後のお茶を飲み干した。ジャリ、と真横でグラウンドを踏む足音が鳴って、目線を向ける。茅野が立っていた。
 茅野はすでに荷物を整え、帰れる状態のようだ。俺を待っていたらしい。

「帰ろう」
「あぁ」

 俺も立ち上がり、二人で歩き始めると、後ろから声がかかる。朝賀ぁ待ってくれよ、俺も。と。家の方向が同じなので一緒に帰る日もある奴だ。

「悪い、今日はちょっとこいつと約束がある」

 本当はそんなのはないけど。そう答える俺を見ながら、肝心の茅野は目を見張っている。じゃあな、また明日、と他の奴らと言い合って、俺たちは二人で学校を出た。


「何か約束してたっけ。ごめん、覚えてなくて」
「いや、してないけど。……お前と二人きりで、帰りたかったから」

 少し勇気を出して、恋人らしいことを口にしてみる。
 茅野は何も言わずに歩き続ける。嬉しいとか、俺もとか、そんな言葉が貰えるとまでは思ってなかったけど、無視かよ。俺の勇気は宙に浮いて消えていったような気がした。

 無言のまま、並んで道を歩いていく。朝、待ち合わせた信号が見えてきた。ここが俺と茅野の家の中間地点だ。ここで今日はサヨナラだな、と思って、茅野に目をやると、俺をじっと見つめていた。

「朝賀。俺の家にこいよ」

 茅野の家は昨日も行ったところだ。部活帰りで汗だらけなんだけど、とか、腹減ってるんだよな、とか、色々と不都合なことが思い浮かぶ。でもそれを口にすることはなく、俺と茅野は同じ方向に足を進めた。


 茅野の家は共働きで、親が帰ってくるのは夜だ。俺の家は母親がいるが、高校生の息子が多少遅くなったところで特に心配もされない。
 茅野の部屋に入り、荷物を置く。すぐに茅野がトレイに麦茶を乗せて入ってきて、机に置いた。ありがとな、と言って俺はそれに手をのばした。

「朝賀、これから昼は二人で食べないか」
「なんで」
「恋人だから」

 昼は大体同じようなメンバーで適当に食べている。他の奴らがいなくて二人の日もなくはないが、殆ど4,5人でしょうもない話をして過ごすのが常だ。

「……まぁ、いいけど。毎日だと怪しまれるだろ。曜日決めるか」
「分かった。朝賀がそう言うなら」

 週に数回、教室を抜け出して二人で過ごすことになった。非常階段とか、どっかの空き教室でも探せばいいだろう。
 そこまで決めると、どこか茅野はホッとしたような表情になる。

「それで、次の休み、どこかに行こう」
「休みっていっても、土日も部活だろ……あぁ、でも今度日曜オフの日があるな」
「うん。だからその日にどこかへ行こう。二人で」

 こいつ、やけに前のめりだな、と思う。

 茅野と行くなら、俺はどこでも楽しいだろう。近くの遊べるようなスポットを思い浮かべる。ボーリングとか、カラオケとかかな。普通にショッピングモールをうろうろするだけでもいいけど。茅野に聞くと、じゃあショッピングモールに行って何か揃いで買おうと言う。
 まぁそれぐらいはいいか、と俺は「そだな」と返すと、茅野が嬉しそうに微笑んだ。
 じっと、グレーの瞳が俺を見ている。

「キスしよう、朝賀」
「おまえ……」
「だめか?」

 そんなもん一々聞くな、と言いたい。でも急にされても、それはそれで心臓に悪い。
 俺は何とか、駄目なわけがないだろ、と答えた。

 また茅野の顔が近付いてきて、そっと唇同士が触れ合う。ふに、ふにと、何度もくっつけられる。長くて濃いまつ毛がすぐそこにあって、動くたびにふわりと茅野のにおいがする。俺は今すぐ茅野の頬に触って、その形のいい唇の隙間から舌をいれてやりたいと思った。でもそんなことをすれば、きっと茅野は驚いて、引いてしまうに違いない。

 だってこいつはキスしたら安心すると言っていたから。茅野と俺は同じじゃない。こいつにとってのキスは、人肌に触れて、心が安らぐものなのだ。

 俺はぐっと拳を握って、自分の衝動を抑えた。そんな俺の気も知らずに茅野は唇を俺に押し付けてくる。そのたびに、さらさらと茅野の髪があたる。しびれるような甘い感情に酔いそうになる。これは俺にとって天国であり、地獄だ。こいつは俺を殺しにかかっているのだ。
 ある程度満足したのか、茅野はやっとキスをやめた。

「なんか、すごいな。キスって」

 嬉しそうに微笑む茅野を見れなかった。今の俺の顔を見られてはいけないと思った。

「……そうだな」
「めちゃくちゃ気持ちよくて、ホッとする」
「……」

 それには同意できず、俺は熱を散らすように茅野が持ってきた麦茶をのんだ。

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