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しおりを挟む夏休みに入って、俺の生活は部活一色だ。
夏の大会に向け、練習と調整。茅野の家にも行かなくなった。誘われることはあったけど、練習に集中したいと言えば納得した。それでも練習の合間、帰る時間、茅野は俺のところへやってくる。だから表面上は何も変わらない。
俺はあまり、茅野のことを考えたくなかった。あいつが「良い恋人」になるために頑張る姿を確認したくなかった。
これは、かみ合わない歯車を無理に動かした結果、だんだんとその歪さを露呈してきただけだ。できるだけ見ないようにしていたその歪みを、いつか目の前に突き付けられることは分かっていた。押し込めたバネがあるとき勢いを乗せて元に戻るように、否応なしに。
部活に打ち込んでいる間は余計なことは考えずにすむ。
全力で挑んだ大会で、俺は何とか自己ベストを出した。でも地区予選を突破することはできず、高2の夏は終わった。
◇
「朝賀、麦茶でいいか」
「あぁ」
俺の気持ちの揺れに、茅野が気付いているのかどうかは分からない。
大会が終わって、もう茅野の誘いを断る理由もなく、今日は久しぶりにあいつの部屋にいる。夏休みの宿題を一緒にやろうという健全なお誘いだ。ローテーブルに宿題を広げ、黙々と取り掛かる。しばらくして戻ってきた茅野も黙って加わった。
隣に座った茅野の腕が、動くたびに触れて、そこが熱い。
勉強に全く集中できなくて、すぐに茅野のことを見てしまう。真剣に問題を解く横顔が、きれいだ。日焼けが赤くなって痛くなる体質だからと、念入りに日焼け対策を怠らない茅野の肌は、同じ陸上部とは思えないほど白い。
教科書をめくる、骨ばっている指や、細長い爪の先まで好きだと思う。
ほっそりとしたその首すじに、無性に噛みついてやりたいと思った。跡をつけて、吸い付いてやりたい。そうしたら、どんな気持ちになるんだろう。
ジワジワと、窓の外から蝉の声がする。
ノートに向いていた視線が上がって、ずっと茅野を見ている俺のそれと交差した。合図もないのに、俺は茅野にキスをした。
俺からしたのは初めてだ。茅野はグレーの瞳を瞬かせた。
「お前さ、キスから先があるの、知ってる?」
「え?」
俺は茅野の耳を指でなぞる。慌てたように茅野がじりじりと俺から離れようとするので、俺は逃げないように腕を掴んだ。
「知ってる、けど……」
「茅野。お前はさ。俺がヤリたいって言ったらヤれるの?」
可哀想な茅野は目を見開いて、絶句している。そんなことは欠片も考えていなかった、という顔だ。その表情が、より俺を自暴自棄にする。
「だってお前は俺の恋人なんだろ」
おかしい事、言ってるか。そう言葉をつづけ、俺は茅野を床に押し倒した。
勢いのまま茅野にもう一度キスをして、舌を茅野の小さな口へねじ込んだ。そのまま茅野の口の中を蹂躙する。んー、と塞いだ口から抗議の音が漏れる。拒絶の手が俺の肩を押し、一旦唇を離した。
茅野は硬直し、信じがたいものを見るように俺を見ている。茅野の赤い唇が俺の唾液で光っている。ほの暗い悦びが、俺を突き動かした。
そのまま何も言わず右手を茅野のシャツの下へ入れた。首筋に唇をつけ、舌を這わせると、茅野は「わ」と小さく声を出した。舌先にじわりと汗の味が広がった。茅野の味だと思うと信じられないぐらい興奮する。恐怖からか、茅野の全身の筋肉が硬直しているのが伝わってくる。それに気づいていても構わずに、俺はこれまでずっと見るだけだった茅野の肌を触った。
ダン、と強い衝撃がきた。気が付けば俺は尻もちをついていた。茅野が俺を蹴ったのだ。
蹴り自体、茅野も無意識だったのかもしれない。吹っ飛んだ俺を、茅野は困惑気味にみていた。息が浅く、俺が好き勝手にした首筋を手で覆っている。
お前が俺を受け入れられないことは分かっていた。二人きりの部屋でも子どものようなキスで満足する茅野。こいつの瞳からそれ以上の望みを読み取れたことは一度もない。
こんなことをすれば拒否されると予想して、やった。そして結果はあまりにも想像通り。
笑いがこみ上げてきた。それでいて心の中は冷えてきて、痛かった。
「冗談だよ」
「じょう……はぁ?」
「悪かったな。忘れろ。今日は帰る」
立ち上がった俺は鞄に教科書を詰め始めた。茅野は、おい、と声を出す。
「朝賀っ! 待てよ。ごめん、蹴って。俺、びっくりして」
「謝るなよ。全部俺が悪いんだから」
「いや、俺、頑張るから。そういう事、全然詳しくなくて」
「黙れ」
頼むから、頑張るとか言うな。
俺の気持ちも知らずに、茅野が真摯に努力を重ねる姿を、俺は見るのが辛かった。お前の頑張りを見るたびに、俺の中には言葉にできない何かが積み重なり、それは消えることもなく俺を苛んだ。
お前の努力は俺を惨めにさせる。
頑張ると言われる度に、お前のことなんて好きじゃないと言われているような気がした。お前は何も分かっていない。友人から恋人になる上で、一番大事なものをお前は持っていない。それを置き去りにして、恋人の真似事をしたところで、何にもならない。
俺が欲しいのは、はりぼてで作られた「良い恋人」なんかじゃない。
お前は俺の恋人であるために努力が必要なのかもしれない。でも俺は違う。俺は努力なんか必要ない。
お前が好きだから。
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