異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん

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第二十一話

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 待ちに待ったショッピングデートの日。
 フェリックスは、グリュっちに乗ってマコトを迎えにきてくれた。

(白馬に乗った王子様じゃないけれど、グリフォンに乗った王子様だな)

 なんて考えながら、マコトは彼に笑顔を見せた。

「おはようございます、先輩!」
「おう、マコトは朝から可愛いな」
「か、可愛い!?」

 いの一番に彼の口から、誉め言葉が飛び出す。
 いつも通りの格好をしているだけだというのに、何が可愛いというのか。
 冬用コートなど一枚しか持っていないから、見た目は昨日と一切何も変わってないはずだ。

「オレを見た途端、目をキラキラさせて顔全体で『大好き』って伝えてくるんだもん。そりゃ可愛いよ」
「ぼ、僕、そんな顔してました!?」

 慌ててペタペタと自分の顔を触ってみる。
 一体全体どこがそんな表情になっていたのか、さっぱりわからない。

「あははは、ほんとマコトは可愛いな!」

 何をしても可愛いと言われてしまう。
 頭の中をクエスチョンマークだらけにしながら、マコトはグリュっちに乗った。
 彼がその後ろに乗るいつもの姿勢になると、二人は飛び立った。


「ここら辺の店がマコトにはぴったりかな」

 今日の会計は、一切おごってもらわないとあらかじめ言ってあった。
 大量生産大量消費の前の世界と違って、この世界の服は一財産になるくらい高い。
 そんな高いものを奢ってもらうなんて、申し訳なくなってしまう。けれども彼はポンと支払ってしまいそうなので、あらかじめ話し合っておいたのだ。

 彼はマコトの財布の中身に合わせて、中古服店の前に降り立ってくれた。
 この世界では新品の服はすべてオーダーメイドだ。それでは高すぎるし、時間もかかってしまう。

「ありがとうございます!」

 彼に礼を言い、店の中に入った。

 店内には中古服が十字型のハンガーにかけられ、ずらりと並んでいる。
 服が財産になるくらい高いからか、中古服といっても着古した感じはまったくない。
 
「わあ……っ」

 マコトは感嘆の息を零した。

「マコト、まずはコートを見繕おう。その方が手袋と色味を合わせやすい」
「は、はい!」

 彼の提案で、まずはコート探しが始まった。

「マコト、これを着てみてくれないか」
「は、はい!」
「柔らかいブラウンがマコトの雰囲気によく合ってるな。でも……」
「ダボダボです……」
「そうだな、サイズが合ってない。次はこっちはどうだろう」
「サイズぴったりです!」
「でもちょっと寒そうだな」
「そうですね、いまのコートと大差ないですね」
「次はこれだ」
「僕に黒なんて似合いますかね……?」
「うーんこれはこれで可愛らしいけど、やっぱり柔らかい雰囲気も捨てがたい……」

 なんて、二人であれこれ騒いだ末にやっとぴったりのコートを見つけた。
 いまのコートよりもずっと暖かくて、彼曰くマコトの雰囲気にぴったりだという深いブラウンのコートだ。

「次は手袋だな」
「はい!」

 手袋も、コートと同じくらい時間をかけて探した。
 ショッピングにこんなに時間をかけたのは初めてだが、まったく面倒ではなかった。
 むしろあーでもないこーでもないと言い合う時間が楽しかった。

 手袋はコートの色とよく似た革手袋を買うことになった。
 自分の手にぴったりなサイズの手袋が見つかり、マコトはるんるんで代金を支払った。フェリックスがお金を支払いたそうにうずうずとしていたが、目で「めっ」と制しておいた。
 やっぱり、事前に話し合っておかねば奢られていたに違いない。
 彼は貴族でお金があるのかもしれないが、マコトはなるべく彼と対等でいたいのだ。

「まだランチまで時間があるな。マコト、近くの店も見て回るか?」
「はい!」

 コートと手袋を買っても時間に余裕があったので、他の店もひやかすことにした。
 中古衣料品店の隣にあったのは、中古宝飾品店だ。
 宝飾品店の店主は、フェリックスの立派な身なりを見て顔をキリッとさせた。どうやら商品を買ってくれそうだと思っているらしい。
 
「わあ、素敵ですね。でも僕には縁がないなあ」

 なんて、店内に飾られたアクセサリーの数々を見て溜息を吐く。

「縁がない? なんでだ?」
「高いからというのもありますけど、僕にアクセサリーなんて似合いませんし」

 着飾るというのは、女性のすることだと長年思っていた。
 金髪翠眼が美しい彼ならばあるいは宝飾品も似合うかもしれないが、自分には似合わないだろうとマコトは考えている。

「そうかなあ? マコトにだって似合うと思うけれど」

 彼の言葉に、マコトが「そんな」と返そうとしたときだった。

「ええ、お客様にお似合いの装飾品もございますよ!」

 店主が活き活きと声をかけてきた。

「お客様には、こちらのペンダントはいかがでしょう!」

 店主はビロードの上に飾られた宝飾品を持ってきて、マコトたちに見せてくれた。
 それは美しい紋様の刻まれた飾りが提げられたペンダントだった。

「こちらのペンダントは見た目も美しいですが、特別な効用があるのでございます」
「特別な効用?」
「ええ、この飾りを左右に振ると、いま感じている感情を増幅させる働きがあるのでございます」
「感情を増幅させる……?」

 一体それが何に使えるというのか、ときょとんとする。

「例えばこのペンダントを使えば、愛しい気持ちや幸せを感じたときにそれを増幅させることができるのですよ。それだけでなく、お相手様の好きだという気持ちを増やすことも可能ですよ。もっと愛されたいと思ったことはございませんか?」

 ピンときてないことが伝わったのか、説明してくれた。

「いまならなんと、金貨五枚のところをたったの二枚でお譲りしましょう!」
「え、ええと……」

 マコトは困ってしまった。
 金貨二枚なんて大金、とても払えない。

 店主の視線は、完全にフェリックスに向いている。
 彼がマコトのために金を出すかもしれないと思っているのだろう。
 だが今日は何も奢らないでくれと頼んであるのだ。

「オレたちの愛はもう増やしようがないくらい充分強いからいらないよ。それに、ペンダントは……ともかく、いらないから」

 フェリックスがはっきりと断ってくれた。
 もう増やしようがないくらい愛が強いだなんて、断るための文句だとわかってても顔が熱くなってしまう。

「は、はあ……」
「じゃあマコト、もう行こうか」
「は、はい!」

 彼に手を引かれ、店を出た。
 さりげなく手を繋がれて、気恥ずかしさと嬉しさを同時に覚えた。

「ごめんな、マコト。勝手に断っちゃって」
「いえ、困っていたので! 断ってもらえて嬉しかったです。僕、強く言えないのでああいう勧誘はいつまでも続けられちゃうタイプなんです」
「そっか、マコトの役に立てたのならよかった」
「はい、先輩がいてくれてよかったです」

 彼がいてくれれば押し売りも怖くない、と手を握り返した。
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