1 / 1
ほんとうのごめんなさい
しおりを挟む
ある日、突然、わがまま皇女が大人しくなった。
いや、なにもかも忘れてしまったらしい。
誰であるかもわからず、怯えて部屋からでないらしい。
城をその噂が駆け巡る。あり得ないと皆が思ったそれが、本当だと知るには時間がかからなかった。
皇女はどこかの魔女のように、気に入らないものは、城門の外に捨ててしまいなさいと叫ぶことがあった。人以下としか思っていない使用人は叫びもせず、いなくなりなさいと告げれば良いほうだ。ある日突然、何もかもわからぬままに城の外に放り出された。
何一つ持つことさら許されずに。
その暴虐を誰も見ないふりをした。皇帝夫妻にとっては待望の女の子。何もかも許していいと通達するほどに愛されていた。
手に入らぬものはないと言うほどに、溺愛された皇女は、一つ手に入らないものがあった。
想い人の心だ。
表面上の優しさを愛情だと勘違いすることができず、皇女は苛立っていた。彼に近づくものはすべて排除し、常にそばに置きたがった。
これには皇帝も少々手を焼いていたが、婚約を申し付けたこととで落ち着いたように見えた。
せっかく婚約を済ませ、婚姻までの日取りを決めたというのに、彼女はすべて忘れてしまった。
皇女である、ということすらも。
婚約を解消したいと皇女が申し出た。
わがままで縛り付けて申し訳なかったという謝罪とともに。そして、今までの態度を反省し、詫びたいという。
急におとなになったような娘に皇帝は戸惑ったが、それを認めた。
婚約者になったところで、その男は皇女を好きになっているようには思えなかったからだ。それに記憶がなければ、執着もなくなったのだろうと皆が思った。
皇女は皆に謝罪をし、壊したものがあれば同じものを、怪我をしたものには見舞いを贈った。与えられた不名誉を回復させるために、皇女はそのものたちをそばに置いた。
そして、一番近しい場所においたのは、彼女が最後に閉じ込めてしまった侍女だった。
閉じ込めたのは気に入らなかったことがあったから。
それだけが皇女に告げられた。侍女も大事なものを壊してしまいましたと下を向いて話、それはお互いに悪かったのねと皇女は笑った。
もう、大丈夫。怒ったりしないわと優しく寛大に許した。
侍女は笑顔を向けた。
だが、それを感謝はしなかった。それも皇女は許した。なにを壊したのかは知らないが、それでも数日閉じ込めるのはひどいことだ。
そんな暴力許されない。
でも、ちゃんと謝ったのだし、そのうちに許してくれるだろう。
悪いことをしたら、ごめんなさい、すればいいというものだ。皇女という立場でも、ちゃんとわかっている。皇女は他のものにもきちんと謝罪をし、許しを得た。
そして、最後にもう一度、元婚約者に詫びた。婚約を解消してもなお、そばにいたからだ。
いままで済まなかったと。これであなたは自由で好きな相手を選ぶと良いと。
皇女は父である皇帝に、国にとって都合の良い相手を探してもらうよう打診していた。いままで自由にしていたのだから、国の役に立つべきだと。
皇帝はその話は保留した。皇女はこの国で一人しかいない皇女だ。外へ出すにしても時期と相手を選ぶ事が必要だ。そう言って納得させた。
その頃には、皇女は政治にもちょっとよろしいかしらと話をすることも増えていた。自分で事業を起こし、珍しいものを見つけてくることもあった。
ある日、庭を散歩していた彼女は庭の片隅に見たことのない花が咲いている事に気がついた。
綺麗ねと手折って、ふと思いつき侍女の髪にさした。泣き出しそうな顔の侍女に皇女は慌てる。しかし、すぐに皇女様にそのようなことをしてもらって感極まってしまってと涙をこぼした。
それからほどなく、自らが取り立てていた者たちが減っていることに皇女は気がついた。その者たちを誰かが追い出したのかと確認しても、自ら去ったという話しか出てこなかった。
侍女もお優しい王女様のそばではなく、自らで立ちたくなったのでしょうと微笑むだけだった。
侍女もそうなのだろうかと問う皇女に侍女は微笑んだまま、そんなことはありませんと否定した。
それにほっとした。
彼女には何もかも話せるほどに心を許していた。
侍女も皇女を慕っていた、はずだった。
彼女は、皇女の毒殺を企てたと投獄されてしまった。
何かの間違いだと皆が止めるのを聞かず牢獄に赴いた。間違いでなければ、誰かが彼女を脅していてと。しかし、それも違った。
慕われていた、なんて嘘だった。
許すわけない、と嘲笑する侍女は皇女の知っている侍女ではなかった。
いつか、庭を散歩した日に手折った花は、薬になると侍女は言っていた。毒薬にもなるけれど、心臓の弱い子には効いたのです。誰かを思い出すようにそういっていたのだ。
彼女の弟は、病気だった。生きるためには、薬が必要でその薬の原料は庭の花。許可を得て手にしていてものを皇女は咎め、二度と採取させたないようにした。それだけでなく、侍女を部屋に閉じ込めて。
そして、全部忘れてしまった。
忘れてしまって、許してと言って、勝手に許された気でそばに置いた。
そして、あろうことかその花を彼女に差し出した。
もう、遅いのに。
ごめんなさいと告げる皇女にもう遅いし、いらないと彼女は言う。そして、毒を呷った。
その毒は、皇女のそばの誰かが用意したという。
その日から、皇女は誰も信用しなくなった。侍女がそういうことを言える立場になかった。それを今頃理解した。そんな知識私にはなかったものと言い訳したところで、意味もない。
今までした謝罪さえも茶番だった。
相手にもう一度、苦痛を与えただけの加害者である。
一度ならず、二度も。
それを誰も指摘しなかった。
誰も、皇女のやりようを咎めず、優しいと褒めた。それがとても恐ろしかった。優しく微笑んだ誰も彼もが本当のことを言わない。
皇帝に愛される皇女だから、それに気にいられることしか言わない。
愚かだと言われることもない。ああ、確かに最後の務めとして侍女はちゃんとしていった。
皇女は部屋を出て、何事もなかったように笑った。
優しい皇女様は、ずっとずっと優しい皇女様になった。
そして、ある日、毒をあおった。
「本当のごめんなさいを言いに行くの」
そう告げて。
いや、なにもかも忘れてしまったらしい。
誰であるかもわからず、怯えて部屋からでないらしい。
城をその噂が駆け巡る。あり得ないと皆が思ったそれが、本当だと知るには時間がかからなかった。
皇女はどこかの魔女のように、気に入らないものは、城門の外に捨ててしまいなさいと叫ぶことがあった。人以下としか思っていない使用人は叫びもせず、いなくなりなさいと告げれば良いほうだ。ある日突然、何もかもわからぬままに城の外に放り出された。
何一つ持つことさら許されずに。
その暴虐を誰も見ないふりをした。皇帝夫妻にとっては待望の女の子。何もかも許していいと通達するほどに愛されていた。
手に入らぬものはないと言うほどに、溺愛された皇女は、一つ手に入らないものがあった。
想い人の心だ。
表面上の優しさを愛情だと勘違いすることができず、皇女は苛立っていた。彼に近づくものはすべて排除し、常にそばに置きたがった。
これには皇帝も少々手を焼いていたが、婚約を申し付けたこととで落ち着いたように見えた。
せっかく婚約を済ませ、婚姻までの日取りを決めたというのに、彼女はすべて忘れてしまった。
皇女である、ということすらも。
婚約を解消したいと皇女が申し出た。
わがままで縛り付けて申し訳なかったという謝罪とともに。そして、今までの態度を反省し、詫びたいという。
急におとなになったような娘に皇帝は戸惑ったが、それを認めた。
婚約者になったところで、その男は皇女を好きになっているようには思えなかったからだ。それに記憶がなければ、執着もなくなったのだろうと皆が思った。
皇女は皆に謝罪をし、壊したものがあれば同じものを、怪我をしたものには見舞いを贈った。与えられた不名誉を回復させるために、皇女はそのものたちをそばに置いた。
そして、一番近しい場所においたのは、彼女が最後に閉じ込めてしまった侍女だった。
閉じ込めたのは気に入らなかったことがあったから。
それだけが皇女に告げられた。侍女も大事なものを壊してしまいましたと下を向いて話、それはお互いに悪かったのねと皇女は笑った。
もう、大丈夫。怒ったりしないわと優しく寛大に許した。
侍女は笑顔を向けた。
だが、それを感謝はしなかった。それも皇女は許した。なにを壊したのかは知らないが、それでも数日閉じ込めるのはひどいことだ。
そんな暴力許されない。
でも、ちゃんと謝ったのだし、そのうちに許してくれるだろう。
悪いことをしたら、ごめんなさい、すればいいというものだ。皇女という立場でも、ちゃんとわかっている。皇女は他のものにもきちんと謝罪をし、許しを得た。
そして、最後にもう一度、元婚約者に詫びた。婚約を解消してもなお、そばにいたからだ。
いままで済まなかったと。これであなたは自由で好きな相手を選ぶと良いと。
皇女は父である皇帝に、国にとって都合の良い相手を探してもらうよう打診していた。いままで自由にしていたのだから、国の役に立つべきだと。
皇帝はその話は保留した。皇女はこの国で一人しかいない皇女だ。外へ出すにしても時期と相手を選ぶ事が必要だ。そう言って納得させた。
その頃には、皇女は政治にもちょっとよろしいかしらと話をすることも増えていた。自分で事業を起こし、珍しいものを見つけてくることもあった。
ある日、庭を散歩していた彼女は庭の片隅に見たことのない花が咲いている事に気がついた。
綺麗ねと手折って、ふと思いつき侍女の髪にさした。泣き出しそうな顔の侍女に皇女は慌てる。しかし、すぐに皇女様にそのようなことをしてもらって感極まってしまってと涙をこぼした。
それからほどなく、自らが取り立てていた者たちが減っていることに皇女は気がついた。その者たちを誰かが追い出したのかと確認しても、自ら去ったという話しか出てこなかった。
侍女もお優しい王女様のそばではなく、自らで立ちたくなったのでしょうと微笑むだけだった。
侍女もそうなのだろうかと問う皇女に侍女は微笑んだまま、そんなことはありませんと否定した。
それにほっとした。
彼女には何もかも話せるほどに心を許していた。
侍女も皇女を慕っていた、はずだった。
彼女は、皇女の毒殺を企てたと投獄されてしまった。
何かの間違いだと皆が止めるのを聞かず牢獄に赴いた。間違いでなければ、誰かが彼女を脅していてと。しかし、それも違った。
慕われていた、なんて嘘だった。
許すわけない、と嘲笑する侍女は皇女の知っている侍女ではなかった。
いつか、庭を散歩した日に手折った花は、薬になると侍女は言っていた。毒薬にもなるけれど、心臓の弱い子には効いたのです。誰かを思い出すようにそういっていたのだ。
彼女の弟は、病気だった。生きるためには、薬が必要でその薬の原料は庭の花。許可を得て手にしていてものを皇女は咎め、二度と採取させたないようにした。それだけでなく、侍女を部屋に閉じ込めて。
そして、全部忘れてしまった。
忘れてしまって、許してと言って、勝手に許された気でそばに置いた。
そして、あろうことかその花を彼女に差し出した。
もう、遅いのに。
ごめんなさいと告げる皇女にもう遅いし、いらないと彼女は言う。そして、毒を呷った。
その毒は、皇女のそばの誰かが用意したという。
その日から、皇女は誰も信用しなくなった。侍女がそういうことを言える立場になかった。それを今頃理解した。そんな知識私にはなかったものと言い訳したところで、意味もない。
今までした謝罪さえも茶番だった。
相手にもう一度、苦痛を与えただけの加害者である。
一度ならず、二度も。
それを誰も指摘しなかった。
誰も、皇女のやりようを咎めず、優しいと褒めた。それがとても恐ろしかった。優しく微笑んだ誰も彼もが本当のことを言わない。
皇帝に愛される皇女だから、それに気にいられることしか言わない。
愚かだと言われることもない。ああ、確かに最後の務めとして侍女はちゃんとしていった。
皇女は部屋を出て、何事もなかったように笑った。
優しい皇女様は、ずっとずっと優しい皇女様になった。
そして、ある日、毒をあおった。
「本当のごめんなさいを言いに行くの」
そう告げて。
78
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
わがまま姫も
そう育てた周囲の虐待の産物
と言うお話ですね
本作品、今更謝罪など…の姫様側ですよね
姫様の兄や親視点、
侍女の家族視点、
宰相とか少し離れた
客観的な第三者視点とかも見てみたいです。