騎士団の繕い係

あかね

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IF 針子の令嬢、モテ期がくる

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「よろしければ、今度、お茶でも」

 という誘いを受けるのは、数えるのも飽きた。
 愛想笑いで、時間があったらと答えるのもいつものことだ。
 ところで、あなた、誰とは返してはいけない。貴族のどこかの坊ちゃんだ。俺のこと知らないとか全く考えてない。まあ、夜会とか出ていれば知っていたりするのかもしれないけど残念ながら、私は夜会にでない派だ。
 それにしたって名乗れとは思うけど。
 城に働きに出たの間違いだったかなぁ。相手が去った後でため息をつく。

 私は、城の針子である。修行と現金獲得のために出された。身分は隠して、という目論見だったが、あっさりと私の身の上を上司が話してしまったのだ。
 私は、針子ではあるが、建国より存在する男爵家の出身だ。歴史書に名前を残すが、その後もぱっとしないままに細く長く残っている。
 そして、その血も初代より絶えずして続いている生粋の王国貴族でもある。今でも続く英雄の末裔、というやつである。
 こういう状況の家はほかに2家しかない。そのどちらも城伯、侯爵とおいそれ手を出せない。
 私は、男爵家だし、とお手軽に誘われ、お手軽に嫁取りされそうになっている。本来なら父を通してのお付き合いになるところをいるならいいじゃないと言わんばかりに。
 頭が痛い、処の話ではない。

 私は未婚主義ではないが、結婚する気がなかった。針子の仕事と貴族の奥方の仕事は両立は難しいだろう。実際、母は社交もあまりしないし、夜会の出席も最低限で領地と家業の両立がやっとである。これに家の采配、社交などが加わったらもう無理だ。おそらく、針子の仕事を捨てることになる。
 そういうことをしたくないなら、独身でいるしかない。
 恋人くらいはいてもいいかも、と思うが、貴族の令嬢、お気軽に恋人作れない。本当にめんどくさいなぁというところだ。

 そんな私に求婚があっても困るだけである。相手も自分が上と思っているから自信ありげだし。
 実際、普通ならよい縁談相手もいる。一度だけというから、外出につき合ったが同僚に羨ましいという視線を向けられて大変困った。幸い、二度目がなかったのでその時だけで済んだが。

「今日ももてるわね」

 一緒に居たのに空気扱いされていた同僚がそういう。私に誘いをかけてくる人、こういうところあるから好きじゃないんだよね……。
 貴族以外、下に見てる感じがありありというか。

「いらないっていうのは贅沢なのはわかるけど、しんどい」

「まあ、お仕事命のクレアには邪魔でしょうね。だからって、邪魔って断るのも難しいし」

 わかってくれる同室の子がいてくれて本当に助かる。お前の話は分かんねーよという顔をしないでフリルトークに付き合ってくれる優しい人でもある。同じくらいの熱量で、絹のリボンについて語ってくれるのでお相子のような気がした。
 今度、共同開発しようね! と約束している。

「どうせなら、布問屋の実家ないの? 糸とかでもいいよ、あとは流通関係。
 海の向こうと交易もしたい」

「そういうとこは家業が忙しいから後継者が一時でも城に勤めないみたいなのよねぇ」

「わかる」

 うちは兄二人ともほとんど勤めてない。二番目の兄は騎士団勤務だったが、それもあまり長くなかったし、後継者でもなかった。

「あ、でも、三男以降でいいならいそうなとこあったわ」

「どこ?」

「騎士団か、近衛兵団」

「……うーん、兄との付き合いありそうな騎士団に殴り込み……、いやいや、結婚しないし」

「ほんとうに、鬱陶しいってのなら、偽装婚約者も悪くないと思うわよ。
 最近怖い感じするし」

 彼女が言うのもわかる。
 曖昧に時間があったらと言っていて、ほかの男性と出かけたことを知った人が詰めてきたから。いや、そもそも、君誰よ、というところをなんとかしてくれたまえよ。
 まあ、女子の情報網でどこの誰かはわかったのだけど。怖かったので、上司と実家に知らせておいた。その後、兄が知り合いに確認するという手紙がすぐに返ってきた。それから単独行動禁止など、長い注意文が……。
 兄よ、私は、小さい女の子ではないのだよと思いながら、まじめに読んでおいた。うん、少しも躊躇せずに殴り返して逃げるよ。指ぬきの攻撃力は高い。

「既成事実作られたらおしまいのご令嬢様、気をつけなさいよ」

「へい」

 といった翌日に、物陰に連れ込まれることも、窮地をたすけてもらうことも想定していなかったのである。
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