推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね

文字の大きさ
57 / 263

眠り姫1

しおりを挟む

 目を開けたら、至近距離に金茶の目がありました。
 ……はい?

 狼狽えたようにクルス様に離れられましたけど。今、なにされてました?

「……おはようございます」

 現実逃避にもほどがある言葉ですね。あたしも大混乱中でして。

 ええと、唇に残る触感が嘘みたいな現実を伝えています。良く事情も理由もわかりませんが、キスをされたようです。

 ……真っ白になりますね。意識がもう一回寝たいと主張しています。良くわかんなかったからもう一回っ! とどこかで主張している声も聞こえてきます。
 え、もう一回って。

 起き上がってあたりを見回しますがユウリはいないようです。

 見られたらと思えばいない方が良いのですが、なぜでしょう。今、とても危機感を覚えています。
 うっかり解答を間違えると大変なことになりそうな気しかしません。

 膝を抱えてしまったのは防衛本能によるものでしょうか。それとも墓穴?
 隣りに座られると意識しないなんて無理ですよね。意味もなく、手をまじまじと見るとやけに白い気がします。仕事上あった小さな火傷の痕とかも消えています。

「よく眠れた?」

「生まれ変わったみたいな感じですね。傷もなくなって」

「へぇ」

 ……見せた手をそのままするりと撫でられたのですが、ぞわっとします。嫌じゃないんですが、こう、なにか別の意図がありますよね?

 作り替えれば物理的な欲求ってなくなるのでは?
 全く、隠す気ないですよね?

「何を使ったか、わかってる?」

「いいえ。眠る系なのしかわかりません」

 そう、何も理由なくこんなことすることはないと思います。たぶん。

「……眠り姫(ブリス)」

「は?」

「本当に、好きなんだな」

 絶句、です。

 キスされたってそういう、そういうっ!!!

 事実だけ言えば、眠り姫の魔法を自分で自分にかけて、眠ったところを好きな人のキスで起こしてもらったという感じです。

 なんていう自作自演っ!

 なるほど、弟もどきが楽しいとか言い出すわけです。あたしは全然楽しくありませんっ!

 死にたい。

 むしろ精神的には今、死にました。

 しばし、意識が仕事を放棄しました。

「ご、ごめいわくをおかけしました」

 棒読みというよりカタコトな感じでした。
 明日と言わず、今からどんな顔していればいいのかわかりません。……まあ、今までも駄々漏れであったので、今更とも思いますが……。

 そんなことを言い出すあたしを少し不思議そうに眺められた気がします。

「ああ、詳しくしらないのか」

 クルス様に勝手に納得された気がします。
 そして、なにか余裕のようなものを取り戻したようなんですが、なんでしょうね?

「なんですか」

「気が向いたら教えてやるよ」

 頭を軽く撫でられて。

「それにしても、本当に黒いんだな」

 ……しれっと髪をとって口づけるとかなんですか。それは。
 うっかり、黒いって情報をスルーしそうになりましたよ。

 確かに真っ黒で、前よりちょっと伸びてます。染め直ししないと駄目ですかね……。まだらでも良いので自力で何とかしたいと思います。
 クルス様に言えばやってくれそうな気がしますけど、精神の摩耗が激しすぎます。

「同じようで、少し違う」

 そう言って顔をのぞき込んでこないでくださいっ!

「そ、そうですか? ち、ちかいですって」

 拒否というものでもないのですけど、もう、今日は無理ですっ!
 今日だけでなくてももう無理ですっ!

 なんていうか、楽しげと言いますか、慌ててるあたしを見るの楽しんでますよね?
 このまま行くと押し倒されちゃうんですけどっ!

「あーもー、痕跡残ってないっ! むりっ!」

 ばたんと扉が開きました。
 ユウリです。
 思わず扉の方を向いたので、目があったんですが。

「……僕さ、結構真面目に色々見回ってきたけどさ、なんでいちゃついてんのかな?」

 怒られました。理不尽です。
 クルス様は舌打ちしてますし。

 とりあえず、離れて座れと言われ嫌そうにクルス様が離れましたけどね。
 ええと触れないくらいの距離に座ったのが離れたと言えるなら、ですけど。ユウリの白い目があたしには痛かったのですが……。

 理不尽です。

「目覚めて良かったよ。眠り系はやたらと数が多くてどれかわからないって言ってたから」

「ご心配をおかけしました」

 ユウリには真面目な顔で言いましたけど。
 ……もしかして駄目もとでしませんでしたか? クルス様。いや、まさかね。

 クルス様をじっと見るとほんの少し身じろぎして、少し距離が離れました。

 ……あやしい。
 とても、あやしい。

 あたしの行動に不審を感じたのかユウリも怪訝そうな表情になってますね。

「……なんかしたの?」

「解呪しかしてない」

 確かにそうでしょうけど。あたりじゃなければどうする気がだったのでしょうか。
 いえ、眠ってるのですから、なかったことにしたんでしょうけど。

 そう考えればあの狼狽のほどもわかるような気がします。なんというか後ろめたい感じですか。そうですか。

 ぜんっぜん、影響抜けてないじゃないですか……。どうなってるんです……。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

ついてない日に異世界へ

波間柏
恋愛
残業し帰る為にドアを開ければ…。 ここ数日ついてない日を送っていた夏は、これからも厄日が続くのか? それとも…。 心身共に疲れている会社員と俺様な領主の話。

【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...