推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね

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地下倉庫は秘密の出入口

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「いやぁ、びっくりしましたよ。地下で変な感じがするって問い合わせが多数で。あんな所に扉があったのは知りませんでしたね」

「そ、そうですか」

「謎の虫の発生源もわかって良い事です」

 受付さんはご機嫌というか、無理矢理テンションあげにかかっている気がします。
 そうですよね。魔導協会の地下倉庫と森の家が繋がってたなんて誰も知りませんでした。おそらく、師匠も知らないだろうとゲイルさんも言っていました。
 管理しないといけないものなので、誰も知らず情報も残されていないのはおかしい、と言うことでもあるそうです。

 基本的に転移系というのはあまり発達してこなかったそうです。燃費が悪すぎるのだとか。暇な魔導師か、短期で評価されたいと夢想するような魔導師が研究したりするとか。
 面倒なわりに燃費も悪く地味なので、主に研究する人はいないんだそうですよ。
 魔導具にしても同様で、壮大な無駄としか考えられてないのだそうで。あれだけの魔素を使って移動距離視界の端とか無駄。それくらい歩いて行けとゲイルさんが言うほどなのでよほどでしょうね。

 なお、今、扉無しで移動してきましたからあの家の壁自体になにか呪式が組まれてるのではないかという話です。家自体の謎のわからない呪式ってこれの一部とかなんとかゲイルさんも頭を抱えてます。

 想定を越えておかしな家です。

 で、あたしたちは存在していてはいけないので、倉庫でお茶を出してもらっています。少々かび臭いです。
 木箱や箱、謎の物体など色々おいてあります。

 木箱の上にお茶が用意され、木箱に座るというのは少々シュールな気がしますが。

「支部長に出てきてもらってますので、少々お待ちください。
 おそらくは、国家の防衛の一部としてのモノだと思います。ここにもあるんですよ、王都に繋がるやつが。なぜと思っていましたが、ようやくわかりました」

「だから壊せないのか」

「まあ、それは不幸の産物ですが、だいたいは。王都からだと三日分くらいの距離なので、五階分まるっと使ってぎりぎり発動するとか。
 おかげで不便極まりないです。私はもう少し便利なところに転属したいです」

「それなんですけど、隣りの建物を買収してエレベータつけて、窓越しに移動出来るようにしたらいいんじゃないですか。見栄えも安全もないですけど」

「はっ! 天才かっ!」

 受付さんが、思わずと言った風に立ち上がりました。窓から出入りとか不格好ですし、落下の危機はありますけど、バルコニーっぽいとこも見た感じありましたから、なんとかなるのでは?

「隣は商工ギルドで老朽化がとかなんとか言ってたから金で解決出来るな」

 ゲイルさんも乗り気です。
 なんでしょうね。魔導師の金で殴りに行く感じって。魔動具ってそんなに儲かるんでしょうか?
 じっと見ていれば、恥ずかしそうに受付さんは再び座りました。
 それほど嫌だったんですね。階段登るの。

「まあ、それはともかく、帰りはどうしますか? 町に入った記録がなく、出ていく記録だけつけるわけにもいきませんし」

 向こう側が壁になってしまった扉を見ます。
 予備の魔素を使い切ったようで、繋がらなくなってしまったようなんですよ。回復したら繋がるのではとは言われてますけど。

「記録つけなくても歩いて帰るのは現実的じゃない」

 ……そういえば、行ったところにどこでも転移出来る能力とかありましたね。
 その話をすると色々な話もしなければならなくなり、めんどうそうです。これ以上なんかあるのかよとゲイルさんは確実にイヤな顔しますねっ!

 今でも困ったなぁと言う顔してますからね。エリックにはどこかで話さなきゃいけないのでしょうけど。
 全く、気が進みません。隠して良いなら隠し通したい。

 いや、でも家族のこともあるけど、どうなの? 手紙とかどう言い訳して書いてもらうのでしょうか……?

「夜までに帰れなそうなら、どこかの部屋に泊まってもらうしかないですね」

「それまで倉庫ってことですか?」

「そうですね。申しわけないですけど居てください。
 残念ながら私もお仕事がありまして、ここにずっと居るわけにもいきません」

「俺は一回、家に戻っていい?」

「目立つ」

「は? 俺、目立つような感じじゃないと思うけど?」

「あんまり来ないですよね? 外ではしょっちゅう会いますけど」

「そうだったな……」

 微妙な沈黙を埋めるようにしみじみとお茶を飲みながら、受付さんの今日のおやつをもらいました。
 あごの力が鍛えられそうな硬いクッキーでした。

 そこからなぜか受付さんの愚痴の話を聞かされることに。ゲイルさんがまたかと言いたげな態度なので、いつものことらしいですね。
 でも、おやつ分くらいは大人しく拝聴しましたよ。

 内容を集約するとこうです。

「ここ最近、俺、すごいんじゃね? と思う魔導師が増えてきまして、叩くの大変ですよね」

 ……穏便とか遠いですよね。なぜか、体育会系のノリなんでしょう。頭脳労働者なのでは? 真面目に研究とかしているのではないのでしょうか……。
 というかどこの厨二病患者でしょうか。あたしも気をつけましょう。先ほどやらかしたあとですが。
 姉ちゃんは、ぶち切れると大変とか言われるのは心外ですが、少々身に染みました。でも、あいつらは根絶すべきです。

 ゲイルさん曰く、昔からじじいが言う、今時の若い奴らは、というのと一緒だそうですけど。
 私、じじいじゃありません、そんな話を始めたらじじいだ、おまえも同い年だろ、と言い合ってますが。気心しれた友人感があります。

 その話で図らずもゲイルさんと受付さんと教会のエイラさんが同年代で、知人であると知りました。
 ええと、ゲイルさんがダントツで老け顔ですね……。
 まあ、あたしは、薄い毛とかその手の話題は黙秘をします。期間限定とは言え、師匠の心証を損ねたくはありません。

 不毛ですね。
 毛の話だけに。

 ……。

「なにか別の話題はないんですか」

 さすがに飽きてきて催促してみます。会話が無限ループですよ。
 白い目で見ていたらはっと気がついたようですよ。二人とも気まずそうにしているところを見れば忘れられたようです。よく、酔っぱらいが似たような会話してましたね。
 やだぁ、素敵ですよぉ、なんてお茶を濁した記憶が蘇ります。そこからつきあわないとか言われるのを断るまでがお仕事です。
 彼氏、あるいは好きな人がいるのでと断ってましたが、なぜだか店長が得意げだったなと今頃気がつきました。

 おまえじゃない。
 思わず、渋い顔をしてしまいますね。

「あ、ああ。そういや、変な気配とか言ってたな」

「一瞬ですが、鳥肌が立つような感じでしたね。人によってはきらめきのようななにかを感じたとか、笑う声が聞こえたとか、甘い匂いがしたとか」

「ほぉ」

 ゲイルさんがばっちりあたしを見てました。やらかしましたね。
 受付さんの不審なものをみるような目線が痛いです。

「私は聞きませんよ。面倒はお断りです」

「俺も嫌だから黙秘する」

「……じゃ、そういうことで」

 隠蔽することにしました。いいのかなぁ。まあ、教会との折衝というのはリリーさんかステラ師匠に丸投げされる予定なのでいいと言うことにしましょう。
 そんな話をしているうちに扉を叩く音が聞こえました。

「入るぞ」

 タイニー氏が入ってきました。
 壁に扉の枠だけが残っているのを見てぎょっとしています。そうですよね。変なオブジェみたいでちょっと変です。

「再起動にはどのくらいかかるんだ?」

「さあ?」

 誰にもわかりません。
 微妙な沈黙ですね。

「では、私はこれで」

 その隙に逃げようとした受付さんは無言で連れ戻されてました。タイニー氏の目が全く笑ってなくて恐いんですけど。
 一応、どうしてここにいるかゲイルさんが説明しました。食料庫探検のはずが、なぜかこうなった、以外に言いようがありません。
 タイニー氏は頭が痛いと言いたげな表情ですね。

「んで、森の家と繋がっていたと。そんな報告聞いた事がないな。正常ならどこかで、伝わるはずなんだが」

「おそらく、師匠も知りませんね。ボケて耄碌はしてないはずですし」

「わからんぞ。王家のみ伝わってるのを知ってたかもしれない。食えない婆さんだからな」

 ……外見と中身にギャップがあるのはわかりますけどね。あまり知っている人ではないので、そうなのかなぁとぼんやり聞いているだけです。
 なにせ本編でもいるということしか知りませんでした。

「あの家ってなにかあるんですか?」

「ん? ああ、眠り姫って知ってるか?」

「え? し、知ってますよ……」

「あれの魔導師が、いや、あの頃は魔法使いか、が住んでた家。防衛をになう代わりに、そこを動くことはなかったな。それで、その子孫がリリー」

 ……わぉ。確かに実話とか言ってましたけど。事件の舞台でしたか。
 それなら眠り姫の舞台はこの町でしょうか?

「実際の事件が起こったのはもっと遠くの町だ。避暑地っていうのかな。たまたま、仲が悪い家同士が、同じ場所に同じ時期、避暑に訪れ、子供たちが恋に落ちたとかそんな感じだった、はずだよな?」

「……あ、そうそう」

 ゲイルさんがものすごく生返事でした。やましいことがあります、という感じがしたのはきっと気のせいではありません。
 なにか別な事情とかありそうですね。配偶者の実家の話ですから、特別なことを知ってたりする可能性はあります。

 ……それにしても因縁ありますね。

 タイニー氏は動揺しているあたしたちを不審そうに見ていましたけどね。受付さんは露骨になにしてんの、と言いたげな視線を送ってきてます。
 い、いや、その場所で眠り姫の事件が。

 でも、説明はしたくありません。

「ま、あそこは防御は完璧すぎるから王族だのが逃げ込むにはちょうど良いだろう」

「……あ、うん。その話は」

「ん? あー。
 ところで、マナーだのの講習してもいいって領主様の方から言ってきているが、どうする?」

「え、是非お願いします」

 露骨に話題を逸らされましたね。追及は、ゲイルさんにしておきましょう。
 だいたい、あの家、おかしいんですよ。

 なにかを逃がさないように、つくったみたいにホラーなおうちなんです。
 足音を潜めようとすると逆に音が鳴ったり、窓も開けられないようになっていたり。普通はキッチンにありそうな勝手口がなかったり。

 ……そうとわかると住んでいるの嫌になってくるので見ない振りしてましたけど。引きこもりは良いですが、監禁はちょっと……。
 エリックには、今のところその気はないようですけどね。あたしも今のところは、する気はないんですが、いつか、やらかすのではないかとちょっと心配です。
 死ぬよりは良いよねっ! とか、煮詰まったあげく言い出しそうで……。死亡フラグそろそろ折れませんかね?

 とりあえず、領主様のほうと打ち合わせして、結果が出たら連絡をいただけるような形になりました。
 そのあたりで、扉が復活したのですけどね。

 ……残念なことに、移動出来たのはひとり分でした。あたしが先にいって、振り返れば、壁でした。

 え? は?

 このちょっと妙な家であたし一人ですか? ずっと地下にいたのでよくわかりませんが、そろそろ暗くなってきますよね。

 最悪、一晩、一人という現実に呆然としました。

 すぐに回復とかしてくれないでしょうかという祈りも虚しく、夕食を食べても、夜遅くなっても戻る気配がありません。
 おそらく、明日のどこかで帰ってくるんでしょうね……。

「む、むりっ」

 少々の安らぎを求めて、某所に潜り込んだのは、ちょっと秘密にしたいです。ちょっと安心しましたけど、やっぱり怖かったです。
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