推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね

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国内は少々不穏な気配

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某防衛拠点付近にて

「師匠。横暴。なぜ、私がずっとお供。半月以上とかおかしいと思う」

「おやおや、手近にいる弟子はフラウだけだからしかたないだろう? 老体を一人で旅に出させるのかい?」

「ん? 老体? どこどこ? 元気な爆走老人がっ! いたっ!」

「なんだい。相変わらず、師匠に対する礼儀がなってない子だね。ゲイルのところの新入りの方がよほどちゃんとしていたよ。同じくらいとはとても思えないね」

「リリー姉さんのところに誰か来た? 今度、見に行く」

「やめときな。恐ろしく相性が悪い気がしている。……というか修羅場……」

「んー? 師匠、なんか言った?」

「いーや。なんでもないよ。さぁて、今回はこれで帰ろうかね

「どこに戻る? 旅に出るの? それはちょっと。王都に用事ある」

「……王都だよ。リリー一人では荷が重いだろうからね。そっち方面は、魔導協会は全く役立たずだし、教会は抜け駆けしたいとか考え出しているからね。やれやれだ」

「あ、噂の来訪者? 師匠は会った?」

「なかなかに面白いお嬢さんだったよ。フラウは、ただの男に大切にするとか言われたらどう思うんだい?」

「え? 身の程知らず?」

「そういうところだよ。少しは広く色々見てみな」

「いや、だから、ユウリはもういい。しばらく会ってないけど、ディレイは元気かな」

「……まあ、元気そうではあったね。フラウもいい年なんだから兄弟子離れをしたらどうだい?」

「うん。だから、お嫁さんにしてもらう」

「……さて、他の場所も回っていこうかね」

「え? ええっ!? 王都行くって言ってた。え、師匠本気!?」



王都一日前の某町にて

「……お祖母さまが予定を超越して帰ってこないんだけど」

「お祖母さまだからな。あと数日は誤差だろう」

「無理、むりよーっ! あんな化けだぬきとやり合えないって。兄様助けて」

「いや、父上が、な。キリルの嫁とかどうだと孫バカを発揮してその、すまん」

「うちの息子に勝手に嫁を見つけないでって言うか、バカなの。バカなのよね?」

「それ直接言うなよ。大荒れして配下が困る」

「ううっ。母様、早く帰ってきて」

「そっちも問題ある王太子を国外遠征させたから、そう簡単には帰ってこない。王弟殿下も付き添ってるから胃が痛いだろう」

「ああ、もうっ! リナは?」

「そっちは王城の調整に呼ばれてそれどころじゃないな。俺も抜けるの苦労した。ヴィーも一緒だ。伯母様も付き添っているから滅多なことは起きないと信じたい」

「うわーっ! 手一杯すぎるわよ。なんなの、何でみんなそんなに欲しいの?」

「そりゃあな、今この世界で一人だけの妙齢の女性の来訪者だ。その上、魔導師の資質を持つとなればな、その血で魔導師を多く産ませたがるというのもわかる。
 嫌な顔するなよ。魔導師相手に言うことではないが、その力が魅力的にも見える。
 それ以外でも、手元に置けばどうあっても発言力が増すと思ってるんだろう」

「地雷、っていうのよね。踏んじゃいけないところを全力で踏んでいきそうで嫌だわ。
 彼女は、自分へのことはたいてい我慢しようという気はあるみたい。でもね、大事な者に危害が加えられたら、きっと容赦はしないわよ」

「リリーみたいに?」

「私程度で済めばいいわね。時々とても狂的なのよね……。人のコト言えないけど。なにかあって国を出る程度で済めば穏便に済んだと言っていいと思うわ」

「我が妹もその範囲にはいっているのかい?」

「どうかしら。少なくとも報復くらいしますよね、と言い出しそうなくらいには魔導師的」

「……変につつかない方がいいと思うのだが。見た目が優しげな娘というのも良くない。見た目で侮るとどうなるかリリーで実証されたと思うんだが。あれも20年近く前か。さすがに忘れる」

「十八年前」

「で、以降、王弟殿下が未婚な件は女性恐怖症になったとしか思えないが……」

「知りません。陛下が子だくさんなので問題ないでしょう? そのうちの王子を送り込んできそうなのが嫌だけど」

「仕方ないな。未だ、国内は安定していない。民衆にウケの良い美談をつくってまとめてしまいたいというところもある。
 本当は英雄殿にと思っているくらいだぞ」

「それは無理とゲイルは言っていたわね。私も話を聞いた感じだとお互い対象外ね。
 そこはすすめない方が良いと思う」

「魔導協会としてはどうなんだ?」

「それきくの? 魔導協会としては配偶者は魔導師を選び、庇護下におくことを目標としています。なんにせよ危険よ。生まれた時から資質を持っているのがわかっていて、それがどう暴発するかもわからないんだから」

「確かに、普通の家では処理しきれんだろうな」

「いざって時は、縁を切ってくださいね。兄様」

「あのな」

「大変申し訳ないのですけど、私はクルス一門の魔導師なの。そこは曲げられないわ。例え、王家に言われても」

「陛下はわかっていると思うが、他がどうだろうな。なんにせよ、御しにくい娘なのはわかった」

「個人的には良い子だと思うけど、国としては厄介だと思うわ。そっとしておくのが一番利益があがるはずよ。だって、ゲイルなんて早速異世界知識活用して道具作ったりしてるんだから」

「は?」

「試作品持ってきているからあとで渡すけど、屋敷の外に流出させないでね。危なくはないけど、一気に人気になりそう」

「なにを作ったんだ?」

「簡単皮むき器。一定の太さに素材を切れる道具。それから、焦げ付かないフライパン」

「……なぜだろう。嫌な予感がした。わかった。徹底する」

「よろしく。フェザーじゃ大流行らしいわよ」

「手遅れっていわないか。ゲイルのヤツも」

「あれで常識人気取ってるんだからおかしいわよね」

「……じゃないとリリーとやってけないだろうな」

「兄様?」

「なんでもない」



王都にて

「くしゅん」

「なんだ、風邪か? 移すなよ」

「気をつける」

「……なんか、毒気抜けた? ちょっと前までツンツンしてたのが嘘みたいだ」

「別に。それで、魔動車はどうだ?」

「ちょっとエンジンに問題がある。加速しすぎだな。あの眼鏡のにーちゃんにこらっと叱っておいてくれ。まあ、耐久力テストだと思えばいいが、通常であの運用されると壊れる」

「そうか。確かにあの速度は、な」

「げんなりするほどか。俺は乗るのやめよう。あと、次の速度測定のときは呼ぶか。皆怖がってやらないんだよな」

「そうするといい。楽しそうだった」

「……そういえば、フラウちゃんには会ったか?」

「いなかった。師匠が連れて行ったとか聞いたな。どうも拠点の主に会いに行ったようだ」

「ああ、うちの師匠もなんか言ってた。綻びが出来つつあるとか。
 それだとおまえが拠点にいないの、まずくないか?」

「ゲイルが今、代理でいる。それでも遅くとも一月くらいで戻る」

「ほんと、すぐ帰ると思った。英雄殿のお守りとかしないだろうなぁと」

「お守りというような年でもないだろ」

「なんか、ふわふわしたところあるからな。苦言を言うヤツはいるだろ。俺は絶対ごめんだが」

「俺も好んでいるわけではない」

「そーゆー、見捨てられないトコ見透かされてあてにされてるから、気をつけろよ。
 にしても、前から気になってたんだが」

「なんだ」

「指輪。それ、教会で買ったのか? というかいつの間に婚約者作った」

「最近。教会で買ったが、それがなにか」

「余裕の解答……。じゃあ、式もすんのか?」

「式?」

「知らないであの値段だしたのかよ。マジか。挙式っていうの? それなりの儀式とかして、教会内での会食費込みだよ。俺、調べたらから知ってる。で、最近振られた」

「……知らない。というか、いつも振られている話しか、聞かないが恋人は実在したのか」

「ぐっ、おまえに言われたくはない。色々清算したのか?」

「そもそも、清算するほどの付き合いはない。だいたい、思ってたのと違うとか言われて振られる側だ」

「……あー。おまえ、仕事中とそれ以外、かなり違うからな。熱中するとすぐほったらかすし。それでもいいって彼女なわけ?」

「あまり、甘えてもこない」

「なんか、逆に甘やかされてんじゃねぇの? ダメなとこもいいとか言い出さないと無理だぞ」

「知るか。じゃあ、フィラセントには伝えておく」

「おう。それから、フラウちゃん戻ってきたら教えてくれよ。今度、飲みに行く約束してそれっきりだ」

「忘れてるんじゃないか? まあ、伝えておく。一応な、あれでも妹みたいなものだからひどいことしたら」

「しない。というより実力的に物理的に撃退されるの俺の方」

「少しは、鍛えたらどうだ?」

「自衛を強化するクルス一門がおかしいんだっての」

「そうか?」

「魔銃使いで独り立ち出来そうなおまえが一番おかしいからな?」
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