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解剖は拒否します
しおりを挟むちょっと熱っぽい本日68日目。鼻もぐずぐずしております。
部屋に戻ってみれば、リリーさんとカリナさんにベッドが占拠されておりました。広いはずのベッドなんですけどね。
諦めて、毛布片手に寝室のソファに転がっていたのが止めだったのでしょうね。
あれから寝れるわけもなく身悶えていたのも言う必要はないでしょう。
腰のあたりがとてもけしからん感じで……。ぺたんこのお腹が羨ましすぎてぺたぺた触ったことも思い出してしまいました。
うん、けしからん。
今度一緒にお風呂とか。なんて煩悩まみれでは寝れるはずもないですね。
なお、自分の恥ずかしいところは無視です。ああ、なんつーことを言ったり、したのですか……。そこは頭抱えたいです。色々煮詰まるとよろしくありません。今後、気をつけます。
できることならどこかの穴に叫びたい。
うちの旦那様がエロいんですけどーっ! あといじわるですっ!
現在、冷静さを取り戻したくて、応接室のほうに行ってお水を飲んでおります。思い出さないようにしても無理です。眠気もあるんですが、寝るのも無理です。気絶したら寝たことになる?
現在虚ろな目をしているような気がしています。その上、なにか奇声を発しそうな気がしてですね、クッションもお腹に抱いてます。いざと言うときはクッションに押しつけて叫ぶ所存です。
それにしても最後のあれはいけません。
クッションをテーブルにのせて突っ伏します。ええ、もう、あれはダメですって。
なぜに、あの人は、色んなものをすっ飛ばして、愛してるとか言い出すのですか。
それも、自覚ありでもなく言った自分に驚くようなの、やめてください。嘘でもごまかしでもないのわかっちゃうじゃないですか。
思い返せばお互いに狼狽えてましたね……。
せめて、好きとかで耐性つけてからにしてください。
何となくぎこちなく、でも、転移魔法の都合上、ぎゅうと抱きしめられるわけで。最初もこれをされたのだと思い出すと顔から火が出そうな気がしましたよ……。
あーうーと唸っていれば、寝室へと繋がる扉が開く音がしました。
「どうしたの?」
カリナさんに不思議そうに言われました。身支度は調えてありますので、思ったよりあたしが懊悩していたということでしょう。
「なんでもありません……」
着替えたり身支度したりいつもはしているあたしが、なにもせずに椅子に座ってテーブルに突っ伏しているのはもう、不審でしょうけどね。
出来れば冷たいシャワーとか浴びたいです。茹だった頭でなにか考えられるわけないですよ。
冷静さなんてどこにもありません。話せばすぐにボロが出ること請け合いです。
「あれ? 熱ある? 顔赤いけど」
「そうですか? なんかふわふわはします」
熱っぽいのか、色んな事で脳みそが煮えているのかわかりません。ただ、ちょっと発熱前の間接の痛みっぽいものを感じなくもないです。
……いえ、それはちょっと色々が色々したのがダメだった気がしますね。心配されるととてもいたたまれません。でも、白状したくもありません。
「んー。お熱。はーい、ベッドにお帰りください」
カリナさんに額に手をあてられ、軽く療養を言い渡されました。ううっと唸りながらも寝室に戻り寝てみます。ちょっとふらついてはいるんですよね。
眉間に皺を寄せているリリーさんの隣に転がりました。うぐぐとうなされているようなので眉間の皺を伸ばしてみました。ちょっと楽しい。
……やっぱり、熱でおかしいのでしょうか。
熱のある日はやっぱり、変なのです。誰にも会わないでいたい。
目を閉じれば睡魔がやってきます。やっぱり、徹夜に近いのはしんどいですね……。
再び、目が覚めた時には額に冷たい布がありました。
「あれ?」
「起きた? カリナが言うには、日頃の疲れじゃないかって。念のため、医者を呼んでいるけど国付きじゃなくて、女医を呼んでるから時間かかってるみたい。そこまで気にするって本末転倒じゃない?」
リリーさんがすぐに気がついたようで、状況を説明してくれます。
身を起こそうとしてくらりとしました。
「カリナは教会に行っているわ。数日は療養する必要があるからって日程調整してくるって。まあ、場合によりそのまま偉い人連れて帰ってくるかもしれないけど。よく効くまずいお薬がくるわね」
「そうですか。ご迷惑を」
「そういうのが、良くないのよね。ちょっと甘え過ぎたわ。大丈夫そうに見えたから。
ディレイが、言ってたことってこういうことなのよね」
「はい?」
リリーさんは少し困ったようにしていますね。あたしの額から布をとって近くの容器に入れてあった水に浸しているみたいです。
もう一度、冷たい布が額に戻ってきました。気持ち良いと思うのでやっぱり熱はありそうです。
「本当に迷惑をかけているのは私たちの方。自分たちの都合で動かしているもの。
だから、嫌ならそういっていいの。疲れたならそう言って」
「いえ、その、ほんと、大丈夫だったんですよ?」
リリーさんに疑わしげに見られました。……まあ、多少の疲労はあるとおもうんですけど。少々の不眠とかありましたけど。
言うなれば、恋煩い的ななんかです。
「その。会えないのが寂しくて、つい隙間なく色々やってまして」
「……そっちなの。一回呼び戻せば良かったかしら……」
リリーさんが額を押さえてます。なにかとても恥ずかしいです。みんなの期待に応えようとかじゃないんですよ。結果的にそう見えるかも知れませんけど。
今なら思い出しちゃうから色々詰め込んで無理したなぁと振り返れば思えます。ええ、隙間があるのが嫌だった気がします。
ゲイルさんの呆れたような顔を憶えてますとも。ほどほどにしとけよという忠告はあまり役に立ちませんでした。リリーさんに会えなくて寂しくないですか、なんて絡んでみましたが、ねぇよ、とつれない返事でした。素直じゃないのか、本気でそうなのかは全くわかりません。
「だからといって、出入りは管理されてるし、見張りはずっといるから会わせるわけにもいかないのよね。療養数日とか宣言したから余計、出て行けないし。見舞いは断るからいいとして」
「庭の方は?」
「昼間は無理ね。夜は明かりもないと歩けないから、遠くから見張っているだけみたい。よく考えなくてもそこから侵入とか可能よね? うっかりしてたわ。全部、撃退すればいいじゃないかしら」
どうしてでしょう? 撃退がとても危険に聞こえました。相手の生命の危機を感じます。社会的抹殺程度の方が抑止力に繋がる気がしますけどね。
それから昨夜のってもしや目撃されてるのでは? そうだったらもっと大騒ぎになりそうな気がしますから、今のところない、と思いたいんですが。
「ま、なんとか考えてみるわ。今日はゆっくり休んで」
そういってリリーさんは部屋を出て行きました。
……しかしまぁ、これって軟禁って言いませんか?
お医者さんがやってきたのは昼近くになってのことでした。ちなみにお昼は、小さいオードブルいっぱい、みたいなものでした。どれか食べてもらえればよいといっぱい作りましたって雰囲気がします。
暇だったので、気に入ったものと好み、苦手なものを書いたメモを挟んでおきました。せっかくならおいしいもの食べたいです。
……まあ、これは現実逃避に近いなにかです。
「やあやあ、風邪をひいた子はここかい?」
さて女医さんです。この世界初遭遇のお医者さんです。
……また、個性が強そうな人が来ましたよ。小柄でもぼんきゅぼんの白衣のお姉様、年齢不詳です。眼鏡装備なのでなにか強そうです。
合法ロリと脳内で過ぎっていきました。疲れてますね……。たぶん。
「ヒューイ。変な事言い出さないでよ?」
隣でリリーさんが頭痛いと言いたげに額に手をあててます。お知り合いらしいですよ。王都の女医っていうとあれしかいない気がするのよねぇとぼやいてましたから。
「安心したまえ。死んだら解剖していい? いい?」
……安心のマッドサイエンティストです。どきどきしたような熱っぽい視線を送られての発言です。
「普通に埋葬してください」
「大丈夫、大丈夫。縫合には自信がある。服めくらなきゃばれない」
ダメだ。この人。おいしゃさーん、この人、病院連れてってくださいってこの人がお医者さん……。
微妙に熱が上がってきて変な事考え出してますよ。
良くない兆候です。余計な事を言い出します。
「ダメです」
「返事は死ぬまでの間によろしく」
聞く気ねぇ。
はいかイエス以外お断り。
気力と体力根こそぎ奪われそうなので、その件は総スルーすることを決めました。診察するということで、リリーさんが部屋を追い出されました。同席するとか言ってましたけど、速やかに強引に寝室の外へと放り出されました。
すごいですよ。
「あれとは同期なんだよ。腐れ縁、かなかな。
さて、脱いで」
なかなかにインパクトのある発言ですね。リリーさんおいくつなんでしょう? その質問をしたら最後のような気もするのでしませんけど。
恥ずかしがっても仕方ないのでさくっと脱ぎます。下着姿でベッドに転がりました。
「……胸元に痕がある。気をつけた方がいい」
少し困ったようにヒューイさんに言われました。……い、いつの間にっ! 服の下に隠れてしまいそうな位置でした。油断と隙だらけだから仕方ないのでしょうか。
はいぃと消え入りそうな声で返事するのが、精一杯でした。もう、あちこち赤いでしょうね。熱じゃない熱さを感じます。恥ずかしい。
「触るし、少し中が変な感じがするだろうけど大人しくしているように」
ヒューイさんはそれは大人の対応でスルーしてくれました……。
そのまま、触られました。体の内側を触られるような謎の感触がくすぐったいような気がしたのが不思議です。
「健康、なんだけど変だ」
「どこが、ですか?」
「ああ、服を着てもいい。
来訪者には魔素を溜める器官がないと聞いていたけど、ある。
魔素の循環はちゃんとしているし、回路も最近魔導師になったとは思えないほどしっかりしている。
やっぱり、解剖」
「しません。風邪かなにかですか?」
着替えながら聞きます。多少のくしゃみ、鼻水の症状はあります。
ヒューイさんはちょっと首をかしげています。
「どちらかと言えば、過労。有り余る魔素で誤魔化して動かしているような感じがする。しばらく、なにもせずに療養したほうがいい」
「ここで療養できますかね?」
「わからん。薬は出しておくが、栄養剤のようなものだから気休めだな。
他に質問は?」
「ええと」
女性のそれもお医者さんに聞いといた方が良い知識というのはあります。女性の体に関する色々について同様であるかとかそれ以外のことも確認しておきます。ヒューイさんはちょっと面食らったような表情でしたけど。さすがにリリーさんにもカリナさんにも生々しくて聞けません……。
思ったより色々現代的で良かったです……。それから、こっちに来てから全く音沙汰無しの月のものは、そのうち来ると予測されました。不調らしい不調はないのは確かのようです。体がこっちになれてないせいではないかと。
もし、数ヶ月後も同様なら調査するけどという話に落ち着きました。調査にはちゃんとした設備の場所で、準備が必要らしいですね。
最後に痩せたいと言えば、じっくりと観察されたあとに、運動したらと気のない返事をされました……。画期的な痩せる薬は存在しないようです。
「定期的に観察したいから、指定の医者になりたいな、な」
……観察言いましたよ。
断る理由もないので、受けましたけど。解剖はお断りと一応言いましたけど、聞いてくれますかね?
死んだあとのことはわかりませんから。遺書とか用意してみれば良いのかと真剣に考えました。
用が済んだとばかりにヒューイさんはさくっと帰っていきましたが、うなじにも痕があると忠告されました……。
ああ、噛まれましたね。痕跡がっつり残してなにしてんでしょう……。
しばらく、髪は下ろしたままでいるしかなさそうです。
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