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そのあとのいくつかのこと。
賽銭、一万のご利益
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あの災厄を滅して約三年。
あれから領地にたどりつき色々ありました。魔導協会支部を作るついでに学校作ったり、孤児院も増設したり、騎士団作ったり。
どこかから孤児院にやってきたということで、あーちゃんも義弟くんもやってきたり。それから、王都に自宅を買ったり。
エリックはあのあとあたしの魔法の使い方を参考に新技術作っちゃうし……。こ、これだからマッドサイエンティストは。もちろん、他言無用とさせていただきました。数人くらいならいいでしょうけど、大勢使うと世界的に歪みが出てしまうそうです。
そういうことをしでかしてしまった結果、エリックは神々にも危険人物としてロックオンされ、異例の魂の補修をされてしまったりもしましたし。代わりに異界の魔法を使う回路は閉鎖されてしまったそうです。なんで、そんなに残念そうなのか……。
とにかく、色々ありました。
そして、おそらく今日のイベントが最大でしょうね。
「ちゃんと準備できてる?」
「へいきへいき」
「本当か?」
「たぶん?」
「多分、って。そういうのって駄目だって言ってるじゃないか」
「あー、うるさいなー。口うるさい弟には困っちゃう」
「……へぇ」
「喧嘩はやめてくださいね」
迂闊に確認したのが間違いだったようです。もはや別人のように育ったあーちゃんは、ちょっと自信過剰の気配があります。そして義弟くんは心配性だけど、素直に心配と言いだすには少しひねくれている。
なんだかんだと一緒にいるので、気が合うのは確かなんですけど。
エリックは呆れたように二人へ視線を送りましたが、何か言うことはありませんでした。放置するようです。まあ、じゃれ合いと言えなくもないですかね。
あたしもぼんやり眺めてみますが……。
あーちゃんは元々同じであったのであたしに似たように育ちました。
義弟くんは顔の良い少年になりました。ええ、贔屓目抜きにしてイケメンにお育ちです。原作越えの良い声の片鱗も見えまして、やばい生き物になりそうです。中身は素直ではないけど、やさしい少年に育っていまして……。いいことなんですが、不安がよぎるんですよね。知らない間にハーレム築いたりしないでしょうか。
……いえ、気にするのはやめましょう。彼らは元の世界に戻るんですから。
今日はあーちゃんと義弟くんを異界に送りに行ってくるのです。なんと、一時帰省です!
送る二人のほかにエリックもいくんですが、もう一人一緒に行くことになっています。
「わくわく。わくわく」
ヒューイさんが来ることになりました。過去の事例をさがしても魔導師の資質を生まれながら持っている子の育て方というのが確証を持てない。ということがわかりまして。ある意味最初から見えていた結論のような気がしますが。
ツイ様などとご相談の結果、元の世界の対処法を医者に学んでいただこうということになりました。
出たとこ勝負になるのはあたしも避けたいので、少し安心です。少しなのは本人がほら、マッドサイエンティストだからっ!
なお、この帰省。魔導協会には内緒なんです。一部の知り合いには帰ってからお伝えするつもりですよ。ゲイルさんなんか絶対、俺も行くとか言いだしそうですから。
「ヒューイさんは半年後に呼ぶことになるんですけど、ほんとに長期滞在大丈夫ですか?」
「平気平気。ものすっごいたのしみ!」
やる気がみなぎってますね。
あたしとエリックは一週間程度の滞在を予定しています。日程は神様間で決められてましてこちらの都合は入れる隙がありません。
「忘れ物はありませんね」
「ないよー」
「子供じゃないんだけど」
「わかってますよ。大人でも忘れ物はします」
「そろそろ時間じゃないか?」
「じゃあ、行きましょ。
あーちゃん」
「うん。帰ろう」
そういうあーちゃんに微妙な表情になってしまいました。
元の世界に帰る。そういう意識はありませんでした。強制的にやってきたようなものなのに、いつの間にかここがあたしのいる場所になっています。
「どうしたの?」
「なんでもありません」
最初で最後の帰省です。感傷めいたものもありますが、それはそれ。
この機会を楽しむつもりです。
二人で声を合わせて、紡ぐのは神の音。
意味も理解してはならないただの音。
体を器として明け渡し、そっと世界に触れる。
空間をめくるように薄く薄く推し広げて。
透けそうなくらいうすい世界の境界をめくれば別の世界が広がっています。
あーちゃんが先にはいっていきます。これで入口は安定するでしょう。
次に義弟君、ヒューイさん。
エリックは少しためらって、あたしに手を差し出しました。その少しひんやりとした手に自分の手を重ねて、二人で世界を渡ります。
たどり着いたのは、最初に一万の賽銭を投げ込んだ神社。
ある意味、初期地点に戻りました。
長かったような短かったような……。
隣にはあの頃、幸せを願った推しがいます。
「どうした?」
「幸せだなぁと思って」
推しを幸せにするつもりが、あたしが幸せになってもよいのでしょうか。
まあ、頑張ったのでいいことにしましょう。
アリカ
異界からやってきた来訪者は後に計量の魔導師と呼ばれることとなる。小さじ一杯の定義を決めた功績により送られた別名である。
当時、正しい計量を求められる職業を別とすれば、小さじ一杯の分量はまちまちであった。そして、それはほかの量も曖昧であるということでもあった。同じ量を測れるモノを量産し、それを徹底させるのは並大抵のことではない。領地からはじまった活動は王国全土を巻き込み十数年の歳月ののち完遂させることとなる。
もっとも本人は、料理の小さじ一杯を普及させるつもりでそれ以外は想定外と語っていたという。なお、大さじもそれに遅れること数年で普及されている。
また、彼女は郷土料理研究家としても著書を多数残しており料理人にとっては魔導師とは別人だと思われていることが多い。
女性初の侯爵として王国の治世に貢献し、後に独立領として認められる。
夫とは死が分かつまで仲良く過ごしていたという。
エリック
名もなき魔導師の一人から来訪者の夫として有名になる。もっとも知る人は知るという程度の知名度はあり、魔導師内でもあいつはあれだからと評されていた。
魔法史の編纂にかかわり、古代の魔法の翻訳を多数手がけることになる。
後に最後の魔法使いと評される。
妻である来訪者の後方支援役と自ら定めていたようで、表舞台で活躍することは極めて少ない。ただ、公ではない記録には少々眉唾のような記述が残されている。
英雄との親交は長く続いていたが、腐れ縁と言い続けていた。
来訪者との間に一男二女をもうけ、おおむね幸せな余生を送った。
あーちゃん(アリア)
異界に帰り、アリカの両親の養子となり12歳からやり直しをする。なお、経歴については神々の手腕により公式文書改ざんをされている。
普通に平和に暮らすつもりが、特性に誘われて人外を呼びよせてしまいその結果、家業を継いでツイ様のもとで修行することになる。
アリカの兄弟とは概ね良好な仲ではあるが、アリアとしては思うところがあるらしい。
目下の悩みはアリカを手に入れ損ねたものたちが、第二のアリカ的存在として狙ってくること。
ディラン
異界に移住することになり、ツイ様の養子になる。え? 戸籍どうするの? と周囲の驚愕をよそに公的文書を捏造してきた。なお、住まいはアリカの実家。
長く、神と同居していた魂はその性質を移しており、破壊に特化した魔法と親和性が高い。
懐かない猫だなとツイ様に評されるほど、他人に対して警戒心が高い。
アリアと同じ12歳からはじめ、同じ中学に通っている。その傍らアリアの家業を手伝う。目を離したら知らないやつに持っていかれるのではないかという危機感からだとはアリアも気がついていない。
目下の悩みは色々わかっているようで鈍いアリアをどう口説くかということ。
あれから領地にたどりつき色々ありました。魔導協会支部を作るついでに学校作ったり、孤児院も増設したり、騎士団作ったり。
どこかから孤児院にやってきたということで、あーちゃんも義弟くんもやってきたり。それから、王都に自宅を買ったり。
エリックはあのあとあたしの魔法の使い方を参考に新技術作っちゃうし……。こ、これだからマッドサイエンティストは。もちろん、他言無用とさせていただきました。数人くらいならいいでしょうけど、大勢使うと世界的に歪みが出てしまうそうです。
そういうことをしでかしてしまった結果、エリックは神々にも危険人物としてロックオンされ、異例の魂の補修をされてしまったりもしましたし。代わりに異界の魔法を使う回路は閉鎖されてしまったそうです。なんで、そんなに残念そうなのか……。
とにかく、色々ありました。
そして、おそらく今日のイベントが最大でしょうね。
「ちゃんと準備できてる?」
「へいきへいき」
「本当か?」
「たぶん?」
「多分、って。そういうのって駄目だって言ってるじゃないか」
「あー、うるさいなー。口うるさい弟には困っちゃう」
「……へぇ」
「喧嘩はやめてくださいね」
迂闊に確認したのが間違いだったようです。もはや別人のように育ったあーちゃんは、ちょっと自信過剰の気配があります。そして義弟くんは心配性だけど、素直に心配と言いだすには少しひねくれている。
なんだかんだと一緒にいるので、気が合うのは確かなんですけど。
エリックは呆れたように二人へ視線を送りましたが、何か言うことはありませんでした。放置するようです。まあ、じゃれ合いと言えなくもないですかね。
あたしもぼんやり眺めてみますが……。
あーちゃんは元々同じであったのであたしに似たように育ちました。
義弟くんは顔の良い少年になりました。ええ、贔屓目抜きにしてイケメンにお育ちです。原作越えの良い声の片鱗も見えまして、やばい生き物になりそうです。中身は素直ではないけど、やさしい少年に育っていまして……。いいことなんですが、不安がよぎるんですよね。知らない間にハーレム築いたりしないでしょうか。
……いえ、気にするのはやめましょう。彼らは元の世界に戻るんですから。
今日はあーちゃんと義弟くんを異界に送りに行ってくるのです。なんと、一時帰省です!
送る二人のほかにエリックもいくんですが、もう一人一緒に行くことになっています。
「わくわく。わくわく」
ヒューイさんが来ることになりました。過去の事例をさがしても魔導師の資質を生まれながら持っている子の育て方というのが確証を持てない。ということがわかりまして。ある意味最初から見えていた結論のような気がしますが。
ツイ様などとご相談の結果、元の世界の対処法を医者に学んでいただこうということになりました。
出たとこ勝負になるのはあたしも避けたいので、少し安心です。少しなのは本人がほら、マッドサイエンティストだからっ!
なお、この帰省。魔導協会には内緒なんです。一部の知り合いには帰ってからお伝えするつもりですよ。ゲイルさんなんか絶対、俺も行くとか言いだしそうですから。
「ヒューイさんは半年後に呼ぶことになるんですけど、ほんとに長期滞在大丈夫ですか?」
「平気平気。ものすっごいたのしみ!」
やる気がみなぎってますね。
あたしとエリックは一週間程度の滞在を予定しています。日程は神様間で決められてましてこちらの都合は入れる隙がありません。
「忘れ物はありませんね」
「ないよー」
「子供じゃないんだけど」
「わかってますよ。大人でも忘れ物はします」
「そろそろ時間じゃないか?」
「じゃあ、行きましょ。
あーちゃん」
「うん。帰ろう」
そういうあーちゃんに微妙な表情になってしまいました。
元の世界に帰る。そういう意識はありませんでした。強制的にやってきたようなものなのに、いつの間にかここがあたしのいる場所になっています。
「どうしたの?」
「なんでもありません」
最初で最後の帰省です。感傷めいたものもありますが、それはそれ。
この機会を楽しむつもりです。
二人で声を合わせて、紡ぐのは神の音。
意味も理解してはならないただの音。
体を器として明け渡し、そっと世界に触れる。
空間をめくるように薄く薄く推し広げて。
透けそうなくらいうすい世界の境界をめくれば別の世界が広がっています。
あーちゃんが先にはいっていきます。これで入口は安定するでしょう。
次に義弟君、ヒューイさん。
エリックは少しためらって、あたしに手を差し出しました。その少しひんやりとした手に自分の手を重ねて、二人で世界を渡ります。
たどり着いたのは、最初に一万の賽銭を投げ込んだ神社。
ある意味、初期地点に戻りました。
長かったような短かったような……。
隣にはあの頃、幸せを願った推しがいます。
「どうした?」
「幸せだなぁと思って」
推しを幸せにするつもりが、あたしが幸せになってもよいのでしょうか。
まあ、頑張ったのでいいことにしましょう。
アリカ
異界からやってきた来訪者は後に計量の魔導師と呼ばれることとなる。小さじ一杯の定義を決めた功績により送られた別名である。
当時、正しい計量を求められる職業を別とすれば、小さじ一杯の分量はまちまちであった。そして、それはほかの量も曖昧であるということでもあった。同じ量を測れるモノを量産し、それを徹底させるのは並大抵のことではない。領地からはじまった活動は王国全土を巻き込み十数年の歳月ののち完遂させることとなる。
もっとも本人は、料理の小さじ一杯を普及させるつもりでそれ以外は想定外と語っていたという。なお、大さじもそれに遅れること数年で普及されている。
また、彼女は郷土料理研究家としても著書を多数残しており料理人にとっては魔導師とは別人だと思われていることが多い。
女性初の侯爵として王国の治世に貢献し、後に独立領として認められる。
夫とは死が分かつまで仲良く過ごしていたという。
エリック
名もなき魔導師の一人から来訪者の夫として有名になる。もっとも知る人は知るという程度の知名度はあり、魔導師内でもあいつはあれだからと評されていた。
魔法史の編纂にかかわり、古代の魔法の翻訳を多数手がけることになる。
後に最後の魔法使いと評される。
妻である来訪者の後方支援役と自ら定めていたようで、表舞台で活躍することは極めて少ない。ただ、公ではない記録には少々眉唾のような記述が残されている。
英雄との親交は長く続いていたが、腐れ縁と言い続けていた。
来訪者との間に一男二女をもうけ、おおむね幸せな余生を送った。
あーちゃん(アリア)
異界に帰り、アリカの両親の養子となり12歳からやり直しをする。なお、経歴については神々の手腕により公式文書改ざんをされている。
普通に平和に暮らすつもりが、特性に誘われて人外を呼びよせてしまいその結果、家業を継いでツイ様のもとで修行することになる。
アリカの兄弟とは概ね良好な仲ではあるが、アリアとしては思うところがあるらしい。
目下の悩みはアリカを手に入れ損ねたものたちが、第二のアリカ的存在として狙ってくること。
ディラン
異界に移住することになり、ツイ様の養子になる。え? 戸籍どうするの? と周囲の驚愕をよそに公的文書を捏造してきた。なお、住まいはアリカの実家。
長く、神と同居していた魂はその性質を移しており、破壊に特化した魔法と親和性が高い。
懐かない猫だなとツイ様に評されるほど、他人に対して警戒心が高い。
アリアと同じ12歳からはじめ、同じ中学に通っている。その傍らアリアの家業を手伝う。目を離したら知らないやつに持っていかれるのではないかという危機感からだとはアリアも気がついていない。
目下の悩みは色々わかっているようで鈍いアリアをどう口説くかということ。
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