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最終話
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「ふう」
品評会を終えて一昼夜、私は清涼を求めて屋敷の庭に立っていた。。
体は未だに火照っているようだった。
インドア派の私がはるばる多くの人が集まるイベントに出席し、レベッカ・シエンタにはちょっとした啖呵を放ってのけたのだ。
私の性格からすれば信じられない話だ。
月に照らされた庭に植えた花からの香りと夜風とが私の中で燻る熱を冷ましていく。
「ここにいたのかい? エミリー」
「アレン様・・・どうされたんですか?」
背後からの声に振りむくと微笑みを浮かべたアレン様が立っていた。
「君にお礼を言いたくてね。昨日は、いやこれまでありがとう。君がいなかったら品評会でMVPになることはできなかったはずだ」
「そんな・・・私がしたことなんて・・・」
「いや、本当だよ。君のおかげで忘れていたものを取り戻せた気がするよ・・・ルークから僕が商売を始めた理由は聞いたんだっけ?」
「ええ、お母上から受け継ぐはずだった財産を取り戻すためと聞きました」
「その通り。この屋敷も元は母が所有していた建物のひとつでね。買い戻したときに中にあるものは一通り見てまわったんだけど母の備忘録が残されていたのはなぜか見落としていた」
そう言うとアレン様はどこか遠いところを見るような目になった。
「皮肉な話さ。失ったものを取り戻すために我武者羅に邁進してきたけど、そのせいで大事なものを失っていたんだと思う。だからあの備忘録の存在を見落としてしまったんだろう」
「大事なもの、ですか?」
「ああ、だけど気づいて取り戻すことができた。エミリーのおかげだ」
正直なところアレン様が何を失っていて、何を取り戻すことができたのか私にはボンヤリとしかわからない。
ただアレン様が心から満足していて、それに私が貢献できていたということが分かれば十分だ。
「・・・それで、ここからが本題なんだけど」
「はい何でしょう?」
不意にアレン様が真面目な顔になった。
「一応、書類上では成立してるわけだけどさ・・・ほら、僕たちの初対面ってあんまり良いものじゃなかっただろう? だから改めて言わせてほしいんだ・・・」
「えっと・・・」
珍しくアレン様の口調の歯切れが悪い。
だから私がアレン様の言いたいことを理解できたのは、アレン様が懐から取り出した小箱を差し出してきたときだった。
「一緒に過ごしたのは短い間だったけど僕は君に魅せられた。エミリー・ヴェルファイア嬢、契約でも取引でもない、純粋な夫婦として僕とともに人生を添い遂げてくれないか?」
「私で、よろしいのですか?」
「ああ、君しか考えられない・・・どうか受け取ってくれるかい?」
震える手で小箱を受け取る。
開くと繊細なカッティングが施されたルビーが輝く指輪が現れた。
「不束者ですが・・・末永くよろしくお願いします」
嬉しすぎて、ぎこちない声と言葉しか出なかった。
「こちらこそ、よろしく」
アレン様も少しギクシャクしている。
「それで、改めてエミリーのご両親にも挨拶に行きたいんだけど大丈夫かな?」
「でしたら保養地にいる妹にも会っていただけませんか? 以前に届いた手紙で病気の治療ができるようになったことについてアレン様に会ってお礼が言いたいって書いてあったんです」
「もちろんだよエミリー、それじゃあ日程は・・・」
私とアレン様はこれから先のことを話し続けた。
とても幸福で眠気を感じることもなく、アレン様との会話は夜中まで途切れることはなかった。
月も星もなんだか普段よりも輝いて見えて、まるで私たちの未来を祝ってくれているようだった。
<完>
品評会を終えて一昼夜、私は清涼を求めて屋敷の庭に立っていた。。
体は未だに火照っているようだった。
インドア派の私がはるばる多くの人が集まるイベントに出席し、レベッカ・シエンタにはちょっとした啖呵を放ってのけたのだ。
私の性格からすれば信じられない話だ。
月に照らされた庭に植えた花からの香りと夜風とが私の中で燻る熱を冷ましていく。
「ここにいたのかい? エミリー」
「アレン様・・・どうされたんですか?」
背後からの声に振りむくと微笑みを浮かべたアレン様が立っていた。
「君にお礼を言いたくてね。昨日は、いやこれまでありがとう。君がいなかったら品評会でMVPになることはできなかったはずだ」
「そんな・・・私がしたことなんて・・・」
「いや、本当だよ。君のおかげで忘れていたものを取り戻せた気がするよ・・・ルークから僕が商売を始めた理由は聞いたんだっけ?」
「ええ、お母上から受け継ぐはずだった財産を取り戻すためと聞きました」
「その通り。この屋敷も元は母が所有していた建物のひとつでね。買い戻したときに中にあるものは一通り見てまわったんだけど母の備忘録が残されていたのはなぜか見落としていた」
そう言うとアレン様はどこか遠いところを見るような目になった。
「皮肉な話さ。失ったものを取り戻すために我武者羅に邁進してきたけど、そのせいで大事なものを失っていたんだと思う。だからあの備忘録の存在を見落としてしまったんだろう」
「大事なもの、ですか?」
「ああ、だけど気づいて取り戻すことができた。エミリーのおかげだ」
正直なところアレン様が何を失っていて、何を取り戻すことができたのか私にはボンヤリとしかわからない。
ただアレン様が心から満足していて、それに私が貢献できていたということが分かれば十分だ。
「・・・それで、ここからが本題なんだけど」
「はい何でしょう?」
不意にアレン様が真面目な顔になった。
「一応、書類上では成立してるわけだけどさ・・・ほら、僕たちの初対面ってあんまり良いものじゃなかっただろう? だから改めて言わせてほしいんだ・・・」
「えっと・・・」
珍しくアレン様の口調の歯切れが悪い。
だから私がアレン様の言いたいことを理解できたのは、アレン様が懐から取り出した小箱を差し出してきたときだった。
「一緒に過ごしたのは短い間だったけど僕は君に魅せられた。エミリー・ヴェルファイア嬢、契約でも取引でもない、純粋な夫婦として僕とともに人生を添い遂げてくれないか?」
「私で、よろしいのですか?」
「ああ、君しか考えられない・・・どうか受け取ってくれるかい?」
震える手で小箱を受け取る。
開くと繊細なカッティングが施されたルビーが輝く指輪が現れた。
「不束者ですが・・・末永くよろしくお願いします」
嬉しすぎて、ぎこちない声と言葉しか出なかった。
「こちらこそ、よろしく」
アレン様も少しギクシャクしている。
「それで、改めてエミリーのご両親にも挨拶に行きたいんだけど大丈夫かな?」
「でしたら保養地にいる妹にも会っていただけませんか? 以前に届いた手紙で病気の治療ができるようになったことについてアレン様に会ってお礼が言いたいって書いてあったんです」
「もちろんだよエミリー、それじゃあ日程は・・・」
私とアレン様はこれから先のことを話し続けた。
とても幸福で眠気を感じることもなく、アレン様との会話は夜中まで途切れることはなかった。
月も星もなんだか普段よりも輝いて見えて、まるで私たちの未来を祝ってくれているようだった。
<完>
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この先どうなっていくのか楽しみにしています。
感想ありがとうございます。
改めて読み返してみると、たしかにアレンの行動理由の解説が足りていなかったですね。
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