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パレード-1
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フィリアがサドゥーク帝国にやってきてから3か月と少しが過ぎたころの、ある朝。
「フィリア様、フィリア様、いらっしゃいませんか!?」
聞き慣れない女性の声がフィリアをたたき起こす。
ネグリジェ姿のまま寝ぼけ眼をこすりながら応対に出ると見知らぬ女官が立っていた。
「何か御用かしら?」
「本日催されます夏至のパレードについての連絡で参りました。フィリア様も他の側室の方々と一緒にパレードの観覧席に座るように、との皇帝陛下の命です。正午に宮殿の大広間に祭事にふさわしい恰好をして来てください」
「げ、夏至のパレード? 何よそれ、聞いてないわ」
「それはおかしいですね。まあ大丈夫ですよ。フィリア様をはじめとした側室の方々は観覧席で座っているだけでいいのですから。服装だけ皇帝陛下の妃としてふさわしいものを着てきてくださればよいのです」
女官の言葉にフィリアは青ざめた。
「ちょ、ちょっと待って。私、式典用のドレスなんて持っていないわ!」
「ご冗談を! 仮にも一国の王女がそれなりのドレスの1着すら持っていないなんてことは無いでしょうに! この忙しい時に冗談はやめてください。それじゃ、私はちゃんと伝えましたからね!」
女官は踵を返してさっさと行ってしまった。
「そんな・・・」
フィリアは1人茫然とした。
クローゼットの中に入っているのは祖国から持ってきた普段着とでもいうべき質素なドレスが3着だけ。
指輪やティアラといった装飾品にいたっては存在すらしない。
物心ついた時から疎まれていたフィリアの持ち物は一国の王女、そして妃としては余りにも貧相だった。
「私にどうしろというの?」
壁に背を預けてへたり込んだ。
一体どうすればいいの・・・どうしようもないことをどうにかできないかと考えるが何も方法はない。
頼れる人など思い当たらないし、いたとしても式典の場に着ていけるほどに上質で、なおかつフィリアの体格にあったサイズのドレスを都合よく手に入れられるはずもない。
半ば諦めながら、フィリアはどうしたものかと考え続ける。
どれくらい時間が経っただろうか。
「フィリア様、一体どうされたのですか?!」
頭上から声がしてフィリアは我に返った。
膝をついたアベルが心配そうにフィリアの顔を覗き込んでいる。。
「すみません勝手に入ってしまって・・・扉が開いているのを見つけてしまって気になったもので」
ようやくフィリアは扉を閉めるのも忘れて、へたり込んでいたことに気づいた。
窓の外を見れば太陽は高い位置にある。
正午までは、もう1時間前後しかないだろう。
「別に何でもないわ。気にしないで」
「何も無い、というには表情が酷すぎます。フィリア様、何があったのか俺に教えていただけませんか?」
とっさにフィリアは強がったが、アベルは引き下がらない。
その心配そうな口調と真っすぐな視線に打たれて、フィリアはためらいがちに語りだした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・そうなんですか、式典用のドレスをお持ちではないのですか」
「ええ、恥ずかしい話だけどね」
フィリアの話を聞き終わったアベルは少しの間考え込むような仕草をした。
「フィリア様。俺がドレスを用意してきてもいいですか?」
「え? どうして騎士の貴方がドレスなんて・・・」
「えっと・・・説明は後でします。とにかく、ここで少し待っていてください!」
そういうとアベルは小走りで去っていった。
(一体どうするつもりなのかしら?)
常識的に考えて男のアベルが貴婦人用のドレスを短時間で調達できるはずがない、しかし他にできることもないので、半信半疑のままフィリアは部屋の中で待つことにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「フィリア様お待たせしました!」
息を切らしながら再びやってきたアベルは、両手いっぱいにドレスや小物を抱えていた。
「フィリア様がどういうものをお好みになるのか分からなかったので、とにかく全部を持ってきました!」
アベルが床の上に持ってきたものを広げると、フィリアはそれらを手に取って検分していった。
10着ほどもドレスは確かに皇帝の妃が着るにふさわしいと言える逸品ばかり。
しかもサイズはフィリアにぴったりだった。
どこから持ってきたのかしら? とフィリアは疑問に思うが、時間もないので胸の中で保留する。
何着ものドレスからフィリアが選び出したのは最も地味な色合いの濃い緑を基調にダークカラーのアクセントが添えられたドレス。
フィリアとしては単に目立たなさそうなものを選んだだけだった。
しかし標準的な貴婦人が着れば地味になるだけの濃緑のドレスだが、奇しくもフィリアのつややかな黒髪とは絶妙にマッチしていた。
さらにアベルが持ってきた小物の中から派手さはないが、繊細な彫刻が施された銀の装飾品を身にまとえば、深い森の妖精とでも言うべき神秘的な貴婦人の出来上がりだ。
「フィリア様・・・とても似合ってます」
思わず見惚れたアベルの言葉に丁寧に応じる余裕はフィリアには無かった。
「ありがとう、最後に大広間までの案内を頼んでもいいかしら? まだ宮殿には不慣れなの」
「もちろんですフィリア様! 参りましょう」
アベルに先導され、フィリアは大広間へと急いだ。
「フィリア様、フィリア様、いらっしゃいませんか!?」
聞き慣れない女性の声がフィリアをたたき起こす。
ネグリジェ姿のまま寝ぼけ眼をこすりながら応対に出ると見知らぬ女官が立っていた。
「何か御用かしら?」
「本日催されます夏至のパレードについての連絡で参りました。フィリア様も他の側室の方々と一緒にパレードの観覧席に座るように、との皇帝陛下の命です。正午に宮殿の大広間に祭事にふさわしい恰好をして来てください」
「げ、夏至のパレード? 何よそれ、聞いてないわ」
「それはおかしいですね。まあ大丈夫ですよ。フィリア様をはじめとした側室の方々は観覧席で座っているだけでいいのですから。服装だけ皇帝陛下の妃としてふさわしいものを着てきてくださればよいのです」
女官の言葉にフィリアは青ざめた。
「ちょ、ちょっと待って。私、式典用のドレスなんて持っていないわ!」
「ご冗談を! 仮にも一国の王女がそれなりのドレスの1着すら持っていないなんてことは無いでしょうに! この忙しい時に冗談はやめてください。それじゃ、私はちゃんと伝えましたからね!」
女官は踵を返してさっさと行ってしまった。
「そんな・・・」
フィリアは1人茫然とした。
クローゼットの中に入っているのは祖国から持ってきた普段着とでもいうべき質素なドレスが3着だけ。
指輪やティアラといった装飾品にいたっては存在すらしない。
物心ついた時から疎まれていたフィリアの持ち物は一国の王女、そして妃としては余りにも貧相だった。
「私にどうしろというの?」
壁に背を預けてへたり込んだ。
一体どうすればいいの・・・どうしようもないことをどうにかできないかと考えるが何も方法はない。
頼れる人など思い当たらないし、いたとしても式典の場に着ていけるほどに上質で、なおかつフィリアの体格にあったサイズのドレスを都合よく手に入れられるはずもない。
半ば諦めながら、フィリアはどうしたものかと考え続ける。
どれくらい時間が経っただろうか。
「フィリア様、一体どうされたのですか?!」
頭上から声がしてフィリアは我に返った。
膝をついたアベルが心配そうにフィリアの顔を覗き込んでいる。。
「すみません勝手に入ってしまって・・・扉が開いているのを見つけてしまって気になったもので」
ようやくフィリアは扉を閉めるのも忘れて、へたり込んでいたことに気づいた。
窓の外を見れば太陽は高い位置にある。
正午までは、もう1時間前後しかないだろう。
「別に何でもないわ。気にしないで」
「何も無い、というには表情が酷すぎます。フィリア様、何があったのか俺に教えていただけませんか?」
とっさにフィリアは強がったが、アベルは引き下がらない。
その心配そうな口調と真っすぐな視線に打たれて、フィリアはためらいがちに語りだした。
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「・・・そうなんですか、式典用のドレスをお持ちではないのですか」
「ええ、恥ずかしい話だけどね」
フィリアの話を聞き終わったアベルは少しの間考え込むような仕草をした。
「フィリア様。俺がドレスを用意してきてもいいですか?」
「え? どうして騎士の貴方がドレスなんて・・・」
「えっと・・・説明は後でします。とにかく、ここで少し待っていてください!」
そういうとアベルは小走りで去っていった。
(一体どうするつもりなのかしら?)
常識的に考えて男のアベルが貴婦人用のドレスを短時間で調達できるはずがない、しかし他にできることもないので、半信半疑のままフィリアは部屋の中で待つことにした。
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「フィリア様お待たせしました!」
息を切らしながら再びやってきたアベルは、両手いっぱいにドレスや小物を抱えていた。
「フィリア様がどういうものをお好みになるのか分からなかったので、とにかく全部を持ってきました!」
アベルが床の上に持ってきたものを広げると、フィリアはそれらを手に取って検分していった。
10着ほどもドレスは確かに皇帝の妃が着るにふさわしいと言える逸品ばかり。
しかもサイズはフィリアにぴったりだった。
どこから持ってきたのかしら? とフィリアは疑問に思うが、時間もないので胸の中で保留する。
何着ものドレスからフィリアが選び出したのは最も地味な色合いの濃い緑を基調にダークカラーのアクセントが添えられたドレス。
フィリアとしては単に目立たなさそうなものを選んだだけだった。
しかし標準的な貴婦人が着れば地味になるだけの濃緑のドレスだが、奇しくもフィリアのつややかな黒髪とは絶妙にマッチしていた。
さらにアベルが持ってきた小物の中から派手さはないが、繊細な彫刻が施された銀の装飾品を身にまとえば、深い森の妖精とでも言うべき神秘的な貴婦人の出来上がりだ。
「フィリア様・・・とても似合ってます」
思わず見惚れたアベルの言葉に丁寧に応じる余裕はフィリアには無かった。
「ありがとう、最後に大広間までの案内を頼んでもいいかしら? まだ宮殿には不慣れなの」
「もちろんですフィリア様! 参りましょう」
アベルに先導され、フィリアは大広間へと急いだ。
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