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旦那様のはなし②
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王妃の子の振りをして学園に通いだしてすぐに、頭が痛くなるような状況になっていたことを知る。よもや将来の側近候補の有力貴族の子息たちも王妃の子と一緒になって、男爵令嬢に入れ込んでいるとは思わなかった。入れ込んでいる所か、中にはすでに男爵令嬢との愛を貫く為に幼い頃からの婚約者と婚約破棄をしている者もいるという。
それを聞いた時は、いつの間に我が国は一妻多夫制になったのだろうかと一瞬真剣に悩んだものだが、そうではないことを知って別の意味で驚いたものだった。では、五人で男爵令嬢を共有するつもりなのかと考えたが、まだ跡継ぎがいない貴族の子息が誰の子を孕むか解らない一人の女性を共有するのは血筋を重んじる彼らの常識ではあり得ない。とある東の国では、一人の女性を共有することで男同士の結束を深めることもあるらしいが、彼らについてはそういうわけでもなさそうだった。
とはいえ、数代遡れば名門貴族同士の婚姻で、どこかで血は繋がっているだろうし、誰の子でもあっても自分の子として扱うことにしたのかと思いきや、すぐに違うことが解る。
何故なら、それとなく個別に卒業後のことを聞いてみると、皆口を揃えて「男爵令嬢と結婚して、自分の正妻として家に迎え入れます」と答えたからである。もしかして、実は男爵令嬢は五つ子だったとか、実は東の国のニンポウとかいう秘術である『分身の術』の使い手だったりするのかと思ったのだが、勿論そんなわけはなく。
普通に男爵令嬢は一人で、王妃の子を含める五人が各々自分の正妻にするつもりでいただけだった。
どうやって、彼らその望みを実現するつもりなのかは知らない。ただ、彼らの父親の代とは違う結末にはなりそうだった。王妃の場合、女神のように崇拝する彼女を『王妃』にすることで一致団結しており、子世代のようなお互いを牽制し血で血を洗うようなギスギスした雰囲気ではなかった筈で。他人事ながら、どうするつもりなんだと遠い目をしたのは言うまでもない。
儚げで可憐な容姿で王子相手でも天真爛漫で物怖じをしない所が魅力だといわれている男爵令嬢の本命を探ってみても、全員揃っている場所では『アタシはみんなの物よ』と言い、個別に会う時は『実はアナタのことが本命ナンデス』と伝えるあざとさは、田舎に引きこもっていた時に偶に乳兄弟と気晴らしにお忍びで行った近くの村にある酒場の女が思い出された。
恐らく彼女は、天性の『運命の女』なのだろう。権謀術数に明け暮れてる貴族から見れば彼女に何か裏があるように見えるのだろうが、どういうわけか関わり合いになった相手を次々破滅させてしまう女が存在のである。
ああいう女の為に、小さな村の酒場であっても自殺や決闘騒ぎで何人も命を落としたところを目撃した身としては男爵令嬢には身構えずにはいられない。幸運なことに彼女は自分をちやほやしてくれれば誰でも良く、自分に高い物を贈ってくれる人が一番で『将来の王妃』の座への執着もないように見えた。恐らく、卒業しても五人の王族を含む名門貴族の子息からちやほやして貰って一生貢がれる生活を思い描いているのだろう。
だからこそ、王妃の子は『王太子』の肩書きが優位に働かないことに焦って、あんなことをしでかしたに違いない。偶に耳に入る噂によれば、呪いの剣で顔を傷つけただけあって治りが悪いらしい。弟の復帰が長引くのと比例するように、王妃はヒステリックになっていった。
王妃がヒステリックになり始めた頃、ひとつの噂が王宮に流れ始める。
素行の悪い『王太子』を廃嫡して、こんなこともあろうかと密かに王妃が産んだ子を新たな王太子として立てるつもりという噂。男爵令嬢に入れ込む愚かな王太子とは違って、優秀かつ素晴らしい人物だという話に乾いた笑いしか出ない。ただ単に男爵令嬢に入れ込んだ『王太子』が戻ってくるだけだというのに。それに、『王妃の子』と言われるのに『国王夫婦の子』とは言われないことに誰も不自然さを感じていないことも不思議と言えば不思議であった。
その頃から、私の食事にそれとなく毒が入っていたり、量が減らされたり、薄いスープとカビたパンになり、「早く王妃様のお子様がいらっしゃらないか」と聞こえるように嫌みを言われ始める。全てが王妃の思い通りで。死んだ魚のような目をした国王は、力なく彼女の言葉に頷くだけ。
恐らく、卒業パーティーで婚約者を断罪した後に、速やかに私は処分されるのだろう。そして、『顔に傷がある王妃の子』が新しい『王太子』として披露されるに違いない。
不幸中の幸いに、昼食は学園で食べることができたし、嫌々の体で偶に婚約者の屋敷へ足を運べば食事を採ることも可能だった為、餓死するようなことはなかった。それよりも、王宮中の出来事は舞台でも見せられているような気がして堪らなかった。
まるで、市井で未だに上演されている王妃と国王の『真実の愛』の舞台のようで。
自分の生まれとか、現在の状況とか、これからのこととかをさっ引いても、目の前で繰り広げられる出来損ないな喜劇に乾いた笑いしかでない。
産んですぐに死んだ母と自分自身は今更仕方ないとして、前回唯一自分のことを見てくれた王妃の子の婚約者の少女はこの悪意からどうにかしてあげたいと思う。とは言え、王妃や側近候補の貴族子弟に知られないように動くのは難しく、今以上悪評が広がらないようにするのがせいぜいだった。
そんなある日、状況は一転することが起こったのだった。
それを聞いた時は、いつの間に我が国は一妻多夫制になったのだろうかと一瞬真剣に悩んだものだが、そうではないことを知って別の意味で驚いたものだった。では、五人で男爵令嬢を共有するつもりなのかと考えたが、まだ跡継ぎがいない貴族の子息が誰の子を孕むか解らない一人の女性を共有するのは血筋を重んじる彼らの常識ではあり得ない。とある東の国では、一人の女性を共有することで男同士の結束を深めることもあるらしいが、彼らについてはそういうわけでもなさそうだった。
とはいえ、数代遡れば名門貴族同士の婚姻で、どこかで血は繋がっているだろうし、誰の子でもあっても自分の子として扱うことにしたのかと思いきや、すぐに違うことが解る。
何故なら、それとなく個別に卒業後のことを聞いてみると、皆口を揃えて「男爵令嬢と結婚して、自分の正妻として家に迎え入れます」と答えたからである。もしかして、実は男爵令嬢は五つ子だったとか、実は東の国のニンポウとかいう秘術である『分身の術』の使い手だったりするのかと思ったのだが、勿論そんなわけはなく。
普通に男爵令嬢は一人で、王妃の子を含める五人が各々自分の正妻にするつもりでいただけだった。
どうやって、彼らその望みを実現するつもりなのかは知らない。ただ、彼らの父親の代とは違う結末にはなりそうだった。王妃の場合、女神のように崇拝する彼女を『王妃』にすることで一致団結しており、子世代のようなお互いを牽制し血で血を洗うようなギスギスした雰囲気ではなかった筈で。他人事ながら、どうするつもりなんだと遠い目をしたのは言うまでもない。
儚げで可憐な容姿で王子相手でも天真爛漫で物怖じをしない所が魅力だといわれている男爵令嬢の本命を探ってみても、全員揃っている場所では『アタシはみんなの物よ』と言い、個別に会う時は『実はアナタのことが本命ナンデス』と伝えるあざとさは、田舎に引きこもっていた時に偶に乳兄弟と気晴らしにお忍びで行った近くの村にある酒場の女が思い出された。
恐らく彼女は、天性の『運命の女』なのだろう。権謀術数に明け暮れてる貴族から見れば彼女に何か裏があるように見えるのだろうが、どういうわけか関わり合いになった相手を次々破滅させてしまう女が存在のである。
ああいう女の為に、小さな村の酒場であっても自殺や決闘騒ぎで何人も命を落としたところを目撃した身としては男爵令嬢には身構えずにはいられない。幸運なことに彼女は自分をちやほやしてくれれば誰でも良く、自分に高い物を贈ってくれる人が一番で『将来の王妃』の座への執着もないように見えた。恐らく、卒業しても五人の王族を含む名門貴族の子息からちやほやして貰って一生貢がれる生活を思い描いているのだろう。
だからこそ、王妃の子は『王太子』の肩書きが優位に働かないことに焦って、あんなことをしでかしたに違いない。偶に耳に入る噂によれば、呪いの剣で顔を傷つけただけあって治りが悪いらしい。弟の復帰が長引くのと比例するように、王妃はヒステリックになっていった。
王妃がヒステリックになり始めた頃、ひとつの噂が王宮に流れ始める。
素行の悪い『王太子』を廃嫡して、こんなこともあろうかと密かに王妃が産んだ子を新たな王太子として立てるつもりという噂。男爵令嬢に入れ込む愚かな王太子とは違って、優秀かつ素晴らしい人物だという話に乾いた笑いしか出ない。ただ単に男爵令嬢に入れ込んだ『王太子』が戻ってくるだけだというのに。それに、『王妃の子』と言われるのに『国王夫婦の子』とは言われないことに誰も不自然さを感じていないことも不思議と言えば不思議であった。
その頃から、私の食事にそれとなく毒が入っていたり、量が減らされたり、薄いスープとカビたパンになり、「早く王妃様のお子様がいらっしゃらないか」と聞こえるように嫌みを言われ始める。全てが王妃の思い通りで。死んだ魚のような目をした国王は、力なく彼女の言葉に頷くだけ。
恐らく、卒業パーティーで婚約者を断罪した後に、速やかに私は処分されるのだろう。そして、『顔に傷がある王妃の子』が新しい『王太子』として披露されるに違いない。
不幸中の幸いに、昼食は学園で食べることができたし、嫌々の体で偶に婚約者の屋敷へ足を運べば食事を採ることも可能だった為、餓死するようなことはなかった。それよりも、王宮中の出来事は舞台でも見せられているような気がして堪らなかった。
まるで、市井で未だに上演されている王妃と国王の『真実の愛』の舞台のようで。
自分の生まれとか、現在の状況とか、これからのこととかをさっ引いても、目の前で繰り広げられる出来損ないな喜劇に乾いた笑いしかでない。
産んですぐに死んだ母と自分自身は今更仕方ないとして、前回唯一自分のことを見てくれた王妃の子の婚約者の少女はこの悪意からどうにかしてあげたいと思う。とは言え、王妃や側近候補の貴族子弟に知られないように動くのは難しく、今以上悪評が広がらないようにするのがせいぜいだった。
そんなある日、状況は一転することが起こったのだった。
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