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第二章
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仮面舞踏会から一週間が経った。
義妹のソニアはたくさんの男性からの誘いを受けてダンスを踊ったと継母に得意げに話し、どの男性との婚姻が自分たちの利益になるか探っているようだった。
アイリーンとエドガーの話も、ソニアによって継母の耳に入っていた。
どうやら北の辺境伯であるエドガーは社交界にはほとんど顔を出さず、容姿の良い変わり者として有名だったらしい。父を早くに亡くして若くして当主になったというエドガー。家柄の良い令嬢たちとの縁談も断り続け、二十七歳になる現在も恋の噂のひとつもあがらないらしい。
この日の午後、アイリーンは継母とソニアのいる部屋へ出向いた。
「奥様、わたしのネックレスを本当にご存じないのですか?」
父の再婚後、アイリーンは継母に『使用人だってわたしを奥様と呼ぶわ。だから、あなたも奥様と呼びなさい。間違ってもお母様と呼ぶんじゃないわよ!』と命じられた。それからずっと『奥様』と呼んでいる。
二人はのんびりとソファに座り、テーブルの上に貴金属を並べてうっとりとしていた。アイリーンが尋ねるなり、二人は目を見合わせて意地悪な表情を浮かべる。
「何度言えばわかるのかしら。私たちが知っているはずがないでしょう?」
「そうよ。お義姉さまが失くされた物をわたしたちのせいにしないでもらいたいわ」
「本当だわ。こないだは失くし物をするなって偉そうに啖呵を切ったくせに、今度は自分が失くすんだもの」
仮面舞踏会の翌日、チェストに入れておいたネックレスが忽然と消えてしまったのだ。
そのネックレスは母の唯一の形見だった。それ以外の物は、継母とソニアによって奪われて許可もなくどこかの宝石商に売り払われてしまったようだ。
「舞踏会の日以外、わたしは肌身離さずあのネックレスをつけていました。外したのは、あの日だけです。その翌日に無くなるなんておかしいとは思いませんか?」
アイリーンは心の底から悔やんでいた。母の大切なネックレスを舞踏会で落としてしまうことを危惧して、チェストの一番奥にしまっったことを。こんなことになるならば、外さなければよかったと。
「黙りなさい!」
鋭い言葉の後、継母は立ち上がってアイリーンの前まで歩み寄り、腕を振り上げた。パンッという乾いた音が室内に響く。頬にじんわりと痛みを感じ、アイリーンは継母に叩かれたのだと気付いた。
「その言い草はなに? この家に泥棒がいるといいたいのかい?」
「わたしはただ、ネックレスが無くなったという事実を申し上げているだけです」
「だったら、使用人に聞きな!」
「使用人はわたしの持ち物に手を出したりしません」
「しつこい子だね、知らないと言っているだろう! それともなに? わたしかソニアが盗ったと言いたいの? 盗人呼ばわりしてもし違ったらどう責任を取るつもりなの!?」
継母は立ち上がりアイリーンのあごを掴んで、乱暴に指でぐいっと持ち上げた。
「アンタ、北の辺境伯が迎えにきてくれるかもしれないと期待して強気になってるんだろう? 傷モノのアンタなんかを迎えに来てくれるはずがないだろう」
「お母様、そんなことを言ったらお義姉様が可哀想よっ?」
思ってもいないことを言って煽るソニア。
「馬鹿な子にはお仕置きが必要ね」
「そうよ、お母様。お義姉様をきちんとしつけてあげたほうがいいわ」
ソニアがクスクスと嘲笑う。継母が再び腕を振り上げた瞬間、バタバタという大きな足音の後、部屋の扉が勢いよく開かれた。
義妹のソニアはたくさんの男性からの誘いを受けてダンスを踊ったと継母に得意げに話し、どの男性との婚姻が自分たちの利益になるか探っているようだった。
アイリーンとエドガーの話も、ソニアによって継母の耳に入っていた。
どうやら北の辺境伯であるエドガーは社交界にはほとんど顔を出さず、容姿の良い変わり者として有名だったらしい。父を早くに亡くして若くして当主になったというエドガー。家柄の良い令嬢たちとの縁談も断り続け、二十七歳になる現在も恋の噂のひとつもあがらないらしい。
この日の午後、アイリーンは継母とソニアのいる部屋へ出向いた。
「奥様、わたしのネックレスを本当にご存じないのですか?」
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二人はのんびりとソファに座り、テーブルの上に貴金属を並べてうっとりとしていた。アイリーンが尋ねるなり、二人は目を見合わせて意地悪な表情を浮かべる。
「何度言えばわかるのかしら。私たちが知っているはずがないでしょう?」
「そうよ。お義姉さまが失くされた物をわたしたちのせいにしないでもらいたいわ」
「本当だわ。こないだは失くし物をするなって偉そうに啖呵を切ったくせに、今度は自分が失くすんだもの」
仮面舞踏会の翌日、チェストに入れておいたネックレスが忽然と消えてしまったのだ。
そのネックレスは母の唯一の形見だった。それ以外の物は、継母とソニアによって奪われて許可もなくどこかの宝石商に売り払われてしまったようだ。
「舞踏会の日以外、わたしは肌身離さずあのネックレスをつけていました。外したのは、あの日だけです。その翌日に無くなるなんておかしいとは思いませんか?」
アイリーンは心の底から悔やんでいた。母の大切なネックレスを舞踏会で落としてしまうことを危惧して、チェストの一番奥にしまっったことを。こんなことになるならば、外さなければよかったと。
「黙りなさい!」
鋭い言葉の後、継母は立ち上がってアイリーンの前まで歩み寄り、腕を振り上げた。パンッという乾いた音が室内に響く。頬にじんわりと痛みを感じ、アイリーンは継母に叩かれたのだと気付いた。
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「わたしはただ、ネックレスが無くなったという事実を申し上げているだけです」
「だったら、使用人に聞きな!」
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