【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希

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第二章

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「どこかへ紛れてしまったんだろう。悪気なく自分の物だと勘違いしてしまいこんでいる可能性もある」
「エドガー様、それは――」

 違うと言い返そうと口を開く。けれど、エドガーは継母とソニアに気付かれぬように目で合図を送った。

「使用人を呼ぶ前に、まずはあなたたちの宝石箱を確認してきてくれないだろうか」

 継母とソニアはちらりと目配せをする。

「そうしますわ。行くわよ、ソニア」
「ええ、お母様」

 継母はソニアを連れて部屋を出て行く。二人を見送ると、アイリーンは縋るような目でエドガーを見つめた。

「エドガー様、先程のお言葉をすぐに取り消してください」
「どの言葉だ?」

 エドガーは眉間に皺を寄せる。

「ネックレスを見つけた者には、1000万ポルズをお支払いするというお話です」
「……ああ、そちらの話か」

 エドガーはなぜかホッとしたように硬い表情を緩めた。どうやら結婚話と勘違いしていたらしい。

「どうしても見つけたいんだろう?」
「ええ、母の形見のネックレスはわたしにとってとても大切な物です。けれど、1000万ポルズもの大金をわたしの為だけに使ってはなりません。エドガー様の領地で暮らすサンドリッチ領の民の為に使うべきです」

 アイリーンは必死の思いで頼み込んだ。ネックレスは継母かソニアが盗んだ可能性が高い。そうなれば、ネックレスと交換に1000万ポルズもの大金が継母たちの手に渡ってしまう。
 母の形見を取り返すためとはいえ、そんな大金を支払ってもらうわけにはいかない。

「……やはり、あなたを結婚相手に選んでよかった」
「え……?」
「安心してくれ。私に考えがある」

 エドガーが穏やかに微笑んだ瞬間、継母とソニアが慌ただしく部屋の扉を開けた。

「辺境伯様、ありましたわ! ソニアの宝石箱に紛れていました!」

 わざとらしく息を切らした継母がエドガーにネックレスを手渡した。

「アイリーン嬢、母上の形見のネックレスはこれで間違いないか?」
「ええ、間違いありません」

 エドガーからネックレスを受け取ったアイリーンは大切そうに手のひらで包み込み、ギュッと胸に押し当てて目を瞑った。

(よかった……。本当によかった……)

「それで辺境伯様、ネックレスを見つけた者には1000万ポルズをお支払いいただけるというお話でしたよね?」

 継母の目がギラリと光る。エドガーはソファの背もたれに体を預けて胸の前で腕を組んだ。

「ああ、支払おう」
「ありがとうございます!」

 継母とソニアは満面の笑顔を浮かべる。鼻息を荒くする二人は今にも踊り出しそうなほど興奮している。二人の頭の中は1000万ポルズの使い道でいっぱいらしい。

「――と、私が言うとでも思ったか?」
「はい?」
「自分の物ではないネックレスが宝石箱に紛れるはずがないだろう」
「なっ、話が違います! わたくしたちを騙したのですか!?」

目を吊り上げて声を荒げたのはソニアだった。ワナワナと唇を震わせて怒りを露にするソニアをエドガーは余裕の表情で見下ろした。

「馬鹿を言うな。あなたたち二人はアイリーン嬢から取り上げた物をあちこちで売り捌いていただろう? そんな盗人たちに追い銭をするわけがない」
「ぬ、盗人ですって!? いくら辺境伯様とはいえ、こんな侮辱は許されませんわ!」

 継母が憤怒する。血管が切れる直前のように顔は真っ赤だった。

「盗人に盗人と言ってなにが悪い? なんならここへ警護団を呼ぶこともできるぞ。そうなれば、ネックレスを盗んだと疑われることになるだろう。こちらはあなたたちの悪行の秘密を複数握っているし、そちらを公にしてもいいんだ」

 エドガーは頭の回転が速い。継母とソニアは言い返す隙すら与えられず、ただ悔しそうに唇を震わせることしかできなかった。

「今回はこれぐらいにしておいてやろう。だが、もしまたアイリーン嬢を傷付けようとすれば今度こそ絶対に許さない」

 鋭く言うエドガーに継母は負けを認めて、静かに頷いたのだった。
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