【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希

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第二章

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翌日、カーテンの隙間から差し込む眩しい光で目を覚ましたアイリーンは、一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。目に映るすべての調度品や家具は真新しく、枕も寝具もふわふわに柔らかくて良い匂いがした。
 こんなにもすっきりと気持ち良い目覚めはずいぶん久しぶりだった。
昨晩と同じようにエドガーと向かい合って共に朝食を食べる。エドガーは朝早くから騎士団の稽古へ出かけて行った。それを見送ったアイリーンはポツリと「見たいわ……」と何気なく漏らした。

「では、見に行きましょう!」

 侍女のシーナの目がきらりと輝く。

「でも、突然行ってお邪魔にならないかしら」
「そんなことはありません。エドガー様もアイリーン様がいらしたら、喜ばれると思いますよ」

 シーナの強い後押しもあり、アイリーンは支度を済ませて騎士団の見学へ出かける。その荷物にはスケッチブックと鉛筆をこっそり忍ばせた。
 外は風もなく、真っ青な空が広がっていた。稽古場のすぐそばには堅牢そうな石造りの寄宿舎があった。宿舎の傍の井戸では女性たちが水を汲んだり野菜を洗ったりしている。そのそばでは小さな子供たちが楽し気な声を上げて駆け回っていた。

「ここは騎士団員の住居ではないの?」

 アイリーンの想像では、寄宿舎には騎士団員しか住めず、家族持ちは単身赴任を余儀なくされている認識だった。

「この寄宿舎では騎士団員の家族も同居しています。エドガー様が領主になられてから手狭で老朽化していた寄宿舎を建て直し、家族で暮らせるように取り計らってくださったのです」
「そうだったのね。誠実なエドガー様らしいわ」

 二人が奥まで歩いていくと、開けた広場に出た。楕円形で周りを高い塀で囲われていた。階段を上がり、見晴らしのいい観客席へ進む。整列している騎士団の姿を見たのは生まれて初めてだった。どうやら今日は乗馬ではなく、剣稽古のようだ。

「騎士団長のエドガー様がいます!」

 シーナが指をさした方向へ目を向ける。その先には、大勢の騎士団員の前に立つ軍服姿のエドガーがいた。
 濃紺の軍服を身にまとったエドガーの姿から目が離せない。一緒にいるときとはまた少しだけ雰囲気が違う。男らしいエドガーの姿にアイリーンはそれだけで胸を高鳴らせる。

「エドガー様は怪我を負われた後、一度は騎士団長の座を退いたのです。ですが、騎士団員たちのたっての希望で再び騎士団長となられたのです」
「団員たちに信頼されているのね」

 アイリーンは自身が褒められているかのように誇らしい気持ちになった。エドガーはアイリーンがいることも知らず、剣の素振りを始めた。

「百十五、六、七、八!」

 団員たちの声が飛び、剣が重たく空を切り裂く。少し距離がある場所でもその気迫が伝わってきた。顔をしかめて苦しそうにする団員が多い中、エドガーは淡々とした表情で剣を振るい続ける。低く良く通る団員たちの声がぴったりと揃っている。あまりの迫力にアイリーンは瞬きもせずに食い入るように見つめた。

(なんてかっこいいの……!)

 素振りが終わると実戦を交えた接近戦での戦闘訓練が行われた。
模造した木製の剣を持ち、エドガーは屈強な団員と向き合う。その表情は鬼気迫るものがあった。それもそのはず。エドガーは実戦を経験し、数々の修羅場を潜り抜けてきたのだ。
アイリーンは思わずごくりとつばを飲み込んだ。合図と同時にエドガーは鋭く剣を振るった。その動きは素早く、相手は防御のかいもむなしく胸元を抉られた。
 一瞬の出来事に、見ていた団員たちから歓声が上がった。やられた団員は悔しそうに額に手を当てて天を仰ぐ。もう一度と勝負を挑んでも、エドガーに刃先すらも当てられないまま、返り討ちにあった。
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