【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希

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第四章

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「なんだと? どういう意味だ」

男達はピタリと足を止めて、互いに目配せして明らかに動揺した様子を見せた。
エドガーに言われた通り早く逃げなければいけないと分かっているに、足がうまく動かない。
男達を見つめたまま、アイリーンはじりじりと後ずさる。

「アイリーン、早く逃げるんだ!」

 エドガーが大声で叫んだ。瞬間、男達の視線がアイリーンの向けられた。
 男と目が合った。男はなぜかアイリーンの姿を見て、目を見開いた。

「お前……あの時の……」

 男が油断している隙に、エドガーは何のためらいもなく男に剣を振り下ろした。

「ぐっ……!」

左肩から胸まで切り裂かれた男が苦悶の表情を浮かべて地面に膝を付く。その瞬間、顔を覆っていた布がはらりと足元に落ちて顔があらわになった。
 男の頬にある十字傷に見覚えがあった。

「いやっ……」

頭が真っ白になり、心臓がばくばくと脈打った。五年前の出来事がフラッシュバックして、体中にじっとりと汗が滲む。目の前にいる男に見覚えがある。それは五年前、アイリーンの顔をナイフで傷付けたあの男に間違いなかった。

「てめぇ、よくも!」

エドガーはナイフを振りかざして襲いかかってくる仲間の二人を、どちらも一撃で仕留めた。剣の扱いで右に出る者はいないとは聞いていたけれど、息を吐く間もなくあっという間に暴漢たちを返り討ちにしてしまった。

(なんて強いのかしら……)

怪我を負い完全に戦意を失った男たちは尻尾を巻いて逃げていく。
致命傷にはならずとも、相当な痛手を負ったようだ。エドガーの足元には、男達の血痕があちこちに飛び散っていた。

「エドガー様、お怪我は――」

 エドガーの元へ駆けだした瞬間、「アイリーン、後ろだ!」とエドガーが叫んだ。
 腕がじんわりと熱くなったと同時に、エドガーがアイリーンへ腕を伸ばしてその体を守るように左腕で強く抱き留めた。その拍子にエドガーの手に握られていた剣が離れた。地面に長剣が音を立てて転がった。
男が刀を振り上げる。太陽の光を浴びて短刀がギラリと妖しく光った。はっと目を見開いたとき、短刀はエドガーの腕を激しく抉った。

「へへっ、油断したな?」

 暴漢は三人ではなく、四人だったのだ。

「残念だったなぁ。アンタ、足が悪いんだろう? ひとりでよく頑張ったが、さすがにもうおしまいだ。そんな体で女のことを守りながら丸腰で戦うなんて不可能だろう。さっさと女をこちらへ差し出せ」

 男の蛮刀から滴る鮮血。男はにやにやと笑いながらアイリーンににじり寄る。

「――黙れ。お前たちのように野蛮な人間には絶対に屈しない!」

 その声には、今まで聞いたことがないほどの迫力があった。
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