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第六章
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「ソニア、わたしはずっとあなたを実の妹のように思ってきたわ。どんなに意地悪なことをされても我慢してきた。でも、もうやめるわ。あなたをもう妹とは思わない」
アイリーンの言葉に、紅茶を飲んでいたソニアがぴたりと動きを止めた。
「……は?」
可愛らしい顔に似つかないほど低い声だった。
「何を偉そうに言ってらっしゃるの?」
ソニアの眼の淵が怒りで真っ赤に染まる。スッと立ち上がるとソニアはアイリーンの元へ歩み寄った。立ち上がり、ソニアと向かい合う。
背の低いソニアは上目遣いに見上げた。その瞳には怒りが灯っている。
「じゃあ、わたしも言わせてもらうわ。お義姉様、わたしあなたが大っ嫌いだった。今だってその髪を掴んでこの部屋を引きずりまわしてやりたいって思ってる。目も当てられないぐらいにその顔をボロボロにしてやるのもいいわね。わたしね、神様に毎日お願いしているのよ。アイリーンが地獄へ落ちますようにって」
「いくらわたしが嫌いだからって、どうしてそんなにひどいことが言えるの……?」
声が震えた。ソニアには人間の心がないのだろうか。継母は優雅に紅茶を飲みながら二人のやりとりを涼しい顔で眺めている。
「アンタがいると、わたしが霞むのよ。アンタがいなくなってからも、何の役にも立たない使用人たちはいつもアンタの話ばっかりしているわ。この前、仮面舞踏会で会った男達もわたしではなくアンタを見てた。どうして……? わたしは顔に傷もないわ。そこらの令嬢に負けないぐらい華憐で美しいの。なのに、アンタのせいで……。アンタがいたせいで……!」
ギリギリとソニアが歯ぎしりして腕を振り上げた。叩かれるとギュッと目を瞑った瞬間。
「――今すぐその手を下ろせ!」
物々しい叫び声にハッと目を見開く。目の前のソニアが息をのんだ。
扉が開かれた。そこにいたのはエドガーだった。
「ふふっ、やだわぁ。お義姉様のせいで辺境伯様に恥ずかしいところを見られちゃったじゃないの~! 辺境伯様、先程のはちょっとした姉妹喧嘩なので勘違いなさらないでくださいませ」
ソニアは一切動じず、ふわふわと舞う様に椅子に座る。
エドガーはアイリーンの傍に歩み寄り「大丈夫か?」と声を掛けた。
「ええ、大丈夫です」
エドガーはホッとしたような表情を浮かべた後、彼女と共に椅子に座った。
「遅くなって申し訳なかった。色々な準備に時間がかかってしまった」
「いえいえ、問題ありませんわ。それで、慰謝料はおいくらほど頂けますの?」
継母の口元は喜びにほころび、前のめりになって尋ねた。
「ああ、そのことなんだが慰謝料は払う必要はないという判断に至った」
「……はい? なにをおっしゃっているの? 今日はるばるこちらへやってきたのは、あなたが慰謝料を払うというから――」
「ああ、あれは嘘だ。前にも言ったが、盗人に払う金などない」
「なんですって!?」
まるで絶叫するかのように金切り声を上げた継母の隣でソニアは「お母様、なんとかしてちょうだい!」と目を白黒させている。
「よくも堂々と嘘をついたなどと言えましたね!? 恥ずかしくないのですか!?」
「嘘をつくのはあなたたちの方がよっぽど得意だろう? たったひとつ嘘をついだだけで大げさに騒ぎ立てるのはやめろ」
「わたしたちがいつ嘘をついたというのですか!」
継母はあちこちに唾を飛ばして憤怒する。その様子を見たエドガーがふんっと鼻で笑った。
「そんなに怒ったら、血管が切れるぞ。今はまだ、あなたに死なれては困る」
「なんと酷いことをおっしゃるのかしら……! そんな言い方しかできないから冷酷辺境伯と噂されるのね」
継母の渾身の嫌味もエドガーにはきかない。それどころか、継母を煽るようにエドガーは口元に冷笑を浮かべた。
アイリーンの言葉に、紅茶を飲んでいたソニアがぴたりと動きを止めた。
「……は?」
可愛らしい顔に似つかないほど低い声だった。
「何を偉そうに言ってらっしゃるの?」
ソニアの眼の淵が怒りで真っ赤に染まる。スッと立ち上がるとソニアはアイリーンの元へ歩み寄った。立ち上がり、ソニアと向かい合う。
背の低いソニアは上目遣いに見上げた。その瞳には怒りが灯っている。
「じゃあ、わたしも言わせてもらうわ。お義姉様、わたしあなたが大っ嫌いだった。今だってその髪を掴んでこの部屋を引きずりまわしてやりたいって思ってる。目も当てられないぐらいにその顔をボロボロにしてやるのもいいわね。わたしね、神様に毎日お願いしているのよ。アイリーンが地獄へ落ちますようにって」
「いくらわたしが嫌いだからって、どうしてそんなにひどいことが言えるの……?」
声が震えた。ソニアには人間の心がないのだろうか。継母は優雅に紅茶を飲みながら二人のやりとりを涼しい顔で眺めている。
「アンタがいると、わたしが霞むのよ。アンタがいなくなってからも、何の役にも立たない使用人たちはいつもアンタの話ばっかりしているわ。この前、仮面舞踏会で会った男達もわたしではなくアンタを見てた。どうして……? わたしは顔に傷もないわ。そこらの令嬢に負けないぐらい華憐で美しいの。なのに、アンタのせいで……。アンタがいたせいで……!」
ギリギリとソニアが歯ぎしりして腕を振り上げた。叩かれるとギュッと目を瞑った瞬間。
「――今すぐその手を下ろせ!」
物々しい叫び声にハッと目を見開く。目の前のソニアが息をのんだ。
扉が開かれた。そこにいたのはエドガーだった。
「ふふっ、やだわぁ。お義姉様のせいで辺境伯様に恥ずかしいところを見られちゃったじゃないの~! 辺境伯様、先程のはちょっとした姉妹喧嘩なので勘違いなさらないでくださいませ」
ソニアは一切動じず、ふわふわと舞う様に椅子に座る。
エドガーはアイリーンの傍に歩み寄り「大丈夫か?」と声を掛けた。
「ええ、大丈夫です」
エドガーはホッとしたような表情を浮かべた後、彼女と共に椅子に座った。
「遅くなって申し訳なかった。色々な準備に時間がかかってしまった」
「いえいえ、問題ありませんわ。それで、慰謝料はおいくらほど頂けますの?」
継母の口元は喜びにほころび、前のめりになって尋ねた。
「ああ、そのことなんだが慰謝料は払う必要はないという判断に至った」
「……はい? なにをおっしゃっているの? 今日はるばるこちらへやってきたのは、あなたが慰謝料を払うというから――」
「ああ、あれは嘘だ。前にも言ったが、盗人に払う金などない」
「なんですって!?」
まるで絶叫するかのように金切り声を上げた継母の隣でソニアは「お母様、なんとかしてちょうだい!」と目を白黒させている。
「よくも堂々と嘘をついたなどと言えましたね!? 恥ずかしくないのですか!?」
「嘘をつくのはあなたたちの方がよっぽど得意だろう? たったひとつ嘘をついだだけで大げさに騒ぎ立てるのはやめろ」
「わたしたちがいつ嘘をついたというのですか!」
継母はあちこちに唾を飛ばして憤怒する。その様子を見たエドガーがふんっと鼻で笑った。
「そんなに怒ったら、血管が切れるぞ。今はまだ、あなたに死なれては困る」
「なんと酷いことをおっしゃるのかしら……! そんな言い方しかできないから冷酷辺境伯と噂されるのね」
継母の渾身の嫌味もエドガーにはきかない。それどころか、継母を煽るようにエドガーは口元に冷笑を浮かべた。
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