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第六章
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「なんとでも好きに言えばいい。ところで、この間わたしの妹をアイリーンが助けたという話をしていたな。その話は一体誰から聞いたんだ」
継母の目の下がピクリと引きつったのをアイリーンは見逃さなかった。けれど、継母は狡猾ですぐに尻尾を見せる人間ではない。
「町の酒場でそんな話を聞いたのです。それがなにか?」
「では、その話をしたという人間を証人としてここへ連れてくることはできるか?」
「酒場での話ですよ? ただ小耳に挟んだだけで、男だったという特徴以外、どこの誰かなんて分かるわけがありませんわ」
「相手と面識がないんだな。だが、普通の人間は酒場にいた見ず知らずの酔っ払いが戯言を言っているとその話を本気にしないだろう。疑り深そうなあなたはなぜかそれをあっけなく信じた。不思議だと思わないか?」
「……なにをおっしゃりたいのですか?」
誘導尋問のような質問に継母は明らかに苛ついていた。エドガーは飄々と続ける。
「では、言い方を変えよう。その酔っ払いが本当にあのときの一部始終を見ていたとしたら、どうして助けられた少女がエマだと分かったんだ?」
「よくおっしゃっていることの意味が理解できませんわ」
「エマは病気がちでずっと家で療養していたんだ。家族以外でエマを知っている人間はほとんどいなかった。それなのに、どうしてその酔っ払いはエマを知っていた?」
「そんなことを聞かれてもわかりませんわ」
「エマを知っている人物がいたとすれば、サンドリッチ辺境伯の娘であるエマだと認識したうえで攫おうとした人間……犯人しかいない」
見透かしたような目でエドガーは継母を見つめた。あまりの気迫に、継母が唇を震わせる。
気丈に振る舞っているもののその動揺は明らかだった。
「だ、だったとしたらなんですの? わたくしはただ、話を聞いただけで……」
「――と言い逃れするだろうと予想はついていた。だから、連れてきてやったぞ」
「連れてきた……? 一体、誰をですか……?」
「あなたが話を聞いたという相手だ」
エドガーは「いいぞ、連れてきてくれ!」と叫んで扉の外にいる相手に合図を送った。応接間の扉が勢いよく開かれる。その先にいたのはお揃いの軍服を身にまとった騎士団の面々だった。
背が高く屈強な男たちは、逃げられぬようにくくり縄に繋がれた男四人を連れてゾロゾロと応接間に入ってきた。その中には右目に傷を負ったディルもいた。ディルはアイリーンと目が合うと、パチっと親し気にウインクをした。ただならぬ事態に、継母とソニアは目を見合わせる。その顔は明らかに強張っていた。
「この男たちに見覚えは?」
「ありませんわ」
「なるほど。ここまで来てもしらを切るのだな?」
「だから、知らないと言っているでしょう!」
継母が叫んだ瞬間、頬に十字傷のある男が継母をギロリと睨み付けた。
「この野郎、裏切りやがって! 約束が違うだろう!」
男が叫んだ瞬間、継母が「黙りなさい!」と息を荒くして叫んだ。
「ふんっ、可哀想な男ね。気が触れているのかしら……。あなたたちとは初対面でしょう?」
「ふざけるな。足が悪くてまともに歩けない辺境伯の隙をついて、その婚約者を傷付けろと指示を出したのはお前だろう!」
アイリーンは驚いて震える唇を手で覆った。
(まさか……そんな指示を出していたって言うの……?)
「……と言っているが?」
エドガーが煽るように聞き返す。
「違います! 辺境伯様ともあろうお方が、こんな男の言うことを鵜呑みにするおつもりですか!?」
「ずいぶんと軽んじられたものだな。わたしがなんの根拠もなくこんなことをすると思っているのか?」
エドガーはやれやれと息を吐く。
継母の目の下がピクリと引きつったのをアイリーンは見逃さなかった。けれど、継母は狡猾ですぐに尻尾を見せる人間ではない。
「町の酒場でそんな話を聞いたのです。それがなにか?」
「では、その話をしたという人間を証人としてここへ連れてくることはできるか?」
「酒場での話ですよ? ただ小耳に挟んだだけで、男だったという特徴以外、どこの誰かなんて分かるわけがありませんわ」
「相手と面識がないんだな。だが、普通の人間は酒場にいた見ず知らずの酔っ払いが戯言を言っているとその話を本気にしないだろう。疑り深そうなあなたはなぜかそれをあっけなく信じた。不思議だと思わないか?」
「……なにをおっしゃりたいのですか?」
誘導尋問のような質問に継母は明らかに苛ついていた。エドガーは飄々と続ける。
「では、言い方を変えよう。その酔っ払いが本当にあのときの一部始終を見ていたとしたら、どうして助けられた少女がエマだと分かったんだ?」
「よくおっしゃっていることの意味が理解できませんわ」
「エマは病気がちでずっと家で療養していたんだ。家族以外でエマを知っている人間はほとんどいなかった。それなのに、どうしてその酔っ払いはエマを知っていた?」
「そんなことを聞かれてもわかりませんわ」
「エマを知っている人物がいたとすれば、サンドリッチ辺境伯の娘であるエマだと認識したうえで攫おうとした人間……犯人しかいない」
見透かしたような目でエドガーは継母を見つめた。あまりの気迫に、継母が唇を震わせる。
気丈に振る舞っているもののその動揺は明らかだった。
「だ、だったとしたらなんですの? わたくしはただ、話を聞いただけで……」
「――と言い逃れするだろうと予想はついていた。だから、連れてきてやったぞ」
「連れてきた……? 一体、誰をですか……?」
「あなたが話を聞いたという相手だ」
エドガーは「いいぞ、連れてきてくれ!」と叫んで扉の外にいる相手に合図を送った。応接間の扉が勢いよく開かれる。その先にいたのはお揃いの軍服を身にまとった騎士団の面々だった。
背が高く屈強な男たちは、逃げられぬようにくくり縄に繋がれた男四人を連れてゾロゾロと応接間に入ってきた。その中には右目に傷を負ったディルもいた。ディルはアイリーンと目が合うと、パチっと親し気にウインクをした。ただならぬ事態に、継母とソニアは目を見合わせる。その顔は明らかに強張っていた。
「この男たちに見覚えは?」
「ありませんわ」
「なるほど。ここまで来てもしらを切るのだな?」
「だから、知らないと言っているでしょう!」
継母が叫んだ瞬間、頬に十字傷のある男が継母をギロリと睨み付けた。
「この野郎、裏切りやがって! 約束が違うだろう!」
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「ふんっ、可哀想な男ね。気が触れているのかしら……。あなたたちとは初対面でしょう?」
「ふざけるな。足が悪くてまともに歩けない辺境伯の隙をついて、その婚約者を傷付けろと指示を出したのはお前だろう!」
アイリーンは驚いて震える唇を手で覆った。
(まさか……そんな指示を出していたって言うの……?)
「……と言っているが?」
エドガーが煽るように聞き返す。
「違います! 辺境伯様ともあろうお方が、こんな男の言うことを鵜呑みにするおつもりですか!?」
「ずいぶんと軽んじられたものだな。わたしがなんの根拠もなくこんなことをすると思っているのか?」
エドガーはやれやれと息を吐く。
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