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第六章
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「もう言い逃れはできないぞ」
エドガーの言葉に継母は頭を抱えた。
「そ、そんな……」
「お、お母様……、なんとかしてよ! ねぇ、ねえってば!」
隣の椅子に座る継母の腕を掴んで揺さぶるソニアの手を、継母は勢いよく振り払った。
「ガタガタうるさい! アンタは黙ってなさい!」
「なっ、そんな言い方をするなんてひどいじゃない……!」
二人はついに仲違いを始める。醜い争いを始めた継母とソニアをアイリーンは冷ややかに見つめた。エドガーはスッと立ち上がり狼狽する二人の前まで歩み寄る。
「私はあなたたちを裁判所に訴える。今後は司法の判決に従ってもらうことになるが、暗い牢獄に閉じ込められるのは確実だ。仮に何十年かして出てきても、犯罪を犯したあなたたちは爵位及び私財を没収され、没落する」
エドガーの言葉でようやく二人はことの重大さに気付いたようだ。継母は慌てて椅子からおりて、エドガーの足元に跪き床に額をくっつけた。それを隣で見ていたソニアも続く。
「辺境伯様、許してください。悪いのは全部お母様なんです。わたしはこんなことしないほうがいいと何度も言ったんです。なので、裁かれるのはお母様だけにしてください!」
「……なっ! ソニア、アンタ裏切るつもりなの……! 違います、辺境伯様! あの男達を探し出してきたのはソニアで――」
「――黙れ」
エドガーの低い声に室内が一瞬でひりつく。全員が息を殺してエドガーを見つめた。
「ドレスやネックレスで着飾って出かけるのも今日で最後だ。牢獄を出た頃には、すべてを失っているだろうな。ああ、それとその若さもだな」
「ひぃ……」
「この者たちを捕らえろ!」
エドガーの無慈悲な言葉に屈強な騎士団の男たちが継母とソニアの腕を両側からがっしりと掴んだ。
アイリーンは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった二人の前まで歩み寄った。父が再婚してから今日までの出来事がまるで走馬灯のように蘇る。
「お願いよ、アイリーン! わたしたちを助けてちょうだい!」
「お義姉様、助けて!!」
必死に命乞いする二人を真っすぐ見つめて、アイリーンは口を開く。
「あなたたちには心から失望しました。最後まで自分のことばかりなのですね。もう二度とお会いすることはないかと思いますが、どうぞお元気で。さようなら」
笑顔で別れを告げる。ようやく重たい荷物を投げ捨てたかのように、アイリーンの胸の中はスッと軽くなった。
最後の砦であったアイリーンにまで見捨てられた二人の顔に、絶望の色が広がる。
「ちがっ、ごめんなさい! お義姉様! 本当にごめんなさい!!」
「アイリーン、今までのこと全部謝るわ! わたしたちが悪かったの。ごめんなさい――」
二人は抵抗虚しくズルズルと引きずられながら部屋を出て行った。ようやく訪れた静けさにアイリーンはほっと胸を撫で下ろす。
「全部終わったな」
先程とは打って変わってエドガーは優しい眼差しを向ける。
「はい。エドガー様にはたくさんのご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
「迷惑ではない。愛する妻の為ならなんだってする」
アイリーンは自らエドガーの身体に腕を回して抱き着いた。暖かな胸に顔を埋めると、気持ちが落ちつく。
「どうした? こうやって甘えてくるのは初めてだな?」
エドガーは幼い子供をあやすように、ポンポンッとアイリーンの背中を優しく叩いた。
「だめですか……?」
「いや、ダメではない。もっとたくさん甘えてくれて構わない。……いや、俺があなたに甘えて欲しいんだ」
アイリーンの耳元で、言い直したエドガーがふっと照れくさそうに笑ったのが分かった。
甘ったるい空気を切り裂くように応接間の扉が開いて「――エドガーさ、ま?」とルシアンの声がした。
「おやおや、お取り込み中でしたか。申し訳ありません」
抱き合っている姿を見られた恥ずかしさでエドガーから急いで体を離そうとしたものの、逃がさないというように強い力で再び体を引き寄せられる。
「後にしてくれ。今は手が離せない」
「ふふっ、そのようですので私は失礼いたします。しばらくここへは誰もこないように伝えておきます」
「ああ、頼んだ」
ルシアンが出て行くと、エドガーはニッと少し意地悪な笑みを浮かべた。
「しばらくこの部屋には誰も来ないらしい。ということは、存分にアイリーンを味わえるということだな」
エドガーはアイリーンの腰をぐっと右手で引き寄せて唇を重ね合わせた。触れるだけのキスからどんどん深くなる。
「んっ、あっ……」
息継ぎの合間に声を漏らすアイリーンをエドガーは「可愛い」と嬉しそうに囁く。
気持ちが通じ合ってからのエドガーは甘すぎるほどにアイリーンを溺愛してくる。冷酷辺境伯だと噂されている人物と同じだとはとても思えない。
けれど、彼のそんな姿を知っているのは自分だけだという優越感が全身に込み上げてくる。
「愛してるよ、アイリーン」
「わたしも愛しています」
エドガーの愛を一心に感じながら、アイリーンは幸せを噛みしめたのだった。
エドガーの言葉に継母は頭を抱えた。
「そ、そんな……」
「お、お母様……、なんとかしてよ! ねぇ、ねえってば!」
隣の椅子に座る継母の腕を掴んで揺さぶるソニアの手を、継母は勢いよく振り払った。
「ガタガタうるさい! アンタは黙ってなさい!」
「なっ、そんな言い方をするなんてひどいじゃない……!」
二人はついに仲違いを始める。醜い争いを始めた継母とソニアをアイリーンは冷ややかに見つめた。エドガーはスッと立ち上がり狼狽する二人の前まで歩み寄る。
「私はあなたたちを裁判所に訴える。今後は司法の判決に従ってもらうことになるが、暗い牢獄に閉じ込められるのは確実だ。仮に何十年かして出てきても、犯罪を犯したあなたたちは爵位及び私財を没収され、没落する」
エドガーの言葉でようやく二人はことの重大さに気付いたようだ。継母は慌てて椅子からおりて、エドガーの足元に跪き床に額をくっつけた。それを隣で見ていたソニアも続く。
「辺境伯様、許してください。悪いのは全部お母様なんです。わたしはこんなことしないほうがいいと何度も言ったんです。なので、裁かれるのはお母様だけにしてください!」
「……なっ! ソニア、アンタ裏切るつもりなの……! 違います、辺境伯様! あの男達を探し出してきたのはソニアで――」
「――黙れ」
エドガーの低い声に室内が一瞬でひりつく。全員が息を殺してエドガーを見つめた。
「ドレスやネックレスで着飾って出かけるのも今日で最後だ。牢獄を出た頃には、すべてを失っているだろうな。ああ、それとその若さもだな」
「ひぃ……」
「この者たちを捕らえろ!」
エドガーの無慈悲な言葉に屈強な騎士団の男たちが継母とソニアの腕を両側からがっしりと掴んだ。
アイリーンは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった二人の前まで歩み寄った。父が再婚してから今日までの出来事がまるで走馬灯のように蘇る。
「お願いよ、アイリーン! わたしたちを助けてちょうだい!」
「お義姉様、助けて!!」
必死に命乞いする二人を真っすぐ見つめて、アイリーンは口を開く。
「あなたたちには心から失望しました。最後まで自分のことばかりなのですね。もう二度とお会いすることはないかと思いますが、どうぞお元気で。さようなら」
笑顔で別れを告げる。ようやく重たい荷物を投げ捨てたかのように、アイリーンの胸の中はスッと軽くなった。
最後の砦であったアイリーンにまで見捨てられた二人の顔に、絶望の色が広がる。
「ちがっ、ごめんなさい! お義姉様! 本当にごめんなさい!!」
「アイリーン、今までのこと全部謝るわ! わたしたちが悪かったの。ごめんなさい――」
二人は抵抗虚しくズルズルと引きずられながら部屋を出て行った。ようやく訪れた静けさにアイリーンはほっと胸を撫で下ろす。
「全部終わったな」
先程とは打って変わってエドガーは優しい眼差しを向ける。
「はい。エドガー様にはたくさんのご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
「迷惑ではない。愛する妻の為ならなんだってする」
アイリーンは自らエドガーの身体に腕を回して抱き着いた。暖かな胸に顔を埋めると、気持ちが落ちつく。
「どうした? こうやって甘えてくるのは初めてだな?」
エドガーは幼い子供をあやすように、ポンポンッとアイリーンの背中を優しく叩いた。
「だめですか……?」
「いや、ダメではない。もっとたくさん甘えてくれて構わない。……いや、俺があなたに甘えて欲しいんだ」
アイリーンの耳元で、言い直したエドガーがふっと照れくさそうに笑ったのが分かった。
甘ったるい空気を切り裂くように応接間の扉が開いて「――エドガーさ、ま?」とルシアンの声がした。
「おやおや、お取り込み中でしたか。申し訳ありません」
抱き合っている姿を見られた恥ずかしさでエドガーから急いで体を離そうとしたものの、逃がさないというように強い力で再び体を引き寄せられる。
「後にしてくれ。今は手が離せない」
「ふふっ、そのようですので私は失礼いたします。しばらくここへは誰もこないように伝えておきます」
「ああ、頼んだ」
ルシアンが出て行くと、エドガーはニッと少し意地悪な笑みを浮かべた。
「しばらくこの部屋には誰も来ないらしい。ということは、存分にアイリーンを味わえるということだな」
エドガーはアイリーンの腰をぐっと右手で引き寄せて唇を重ね合わせた。触れるだけのキスからどんどん深くなる。
「んっ、あっ……」
息継ぎの合間に声を漏らすアイリーンをエドガーは「可愛い」と嬉しそうに囁く。
気持ちが通じ合ってからのエドガーは甘すぎるほどにアイリーンを溺愛してくる。冷酷辺境伯だと噂されている人物と同じだとはとても思えない。
けれど、彼のそんな姿を知っているのは自分だけだという優越感が全身に込み上げてくる。
「愛してるよ、アイリーン」
「わたしも愛しています」
エドガーの愛を一心に感じながら、アイリーンは幸せを噛みしめたのだった。
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