76 / 76
最終章
6
しおりを挟む
翌朝、ふと目を覚ますとそこにはエドガーの姿があった。
「おはよう、アイリーン」
「お、おはようございます」
エドガーの表情はすっきりとしていて、アイリーンが起きるずいぶん前から起きていたことが伺える。
「体は大丈夫か?」
「……はい。少しだけ下半身が重たい気がしますが、大丈夫です」
「そうか。今日はゆっくり過ごそう」
エドガーは言って優しくアイリーンの身体を抱き寄せた。エドガーからふわりと香る石鹸のような甘い匂いに昨日の熱が蘇ってくる。隅々まで体を暴かれてはしたない声を上げて……。
アイリーンは恥ずかしさのあまりギュッと目を瞑る。
エドガーはそっとアイリーンの髪を撫でつけながら、「幸せだ」と呟いた。
「わたしもです。エドガー様と結婚して妻になれて本当に幸せです。ただ……」
けれど、アイリーンはまだ重要な務めを果たしていない。エドガーの後継者である跡継ぎを産まねばならないのだ。
「ただ、どうした?」
エドガーは何事かとアイリーンの体から腕を離して顔を覗き込む。アイリーンはやわらかく微笑んだ。
(きっとエドガー様は義務のように子供をつくって産ませることを望まないはずだわ)
「エドガー様との子供が産まれたら、もっと幸せかもしれないですね」
アイリーンは単純にエドガーとの子供を望んだ。父と母になり、一緒に子供を育てていきたい。家族が増えれば、きっともっと幸せだ。
「俺とアイリーンの子供? そうだな、俺も欲しい」
エドガーの顔がぱっと明るくなる。
「男児でも女児でもどちらでもいいが、不愛想な俺には似て欲しくない。アイリーンに似れば、きっと可愛いだろう」
「わたしは、エドガー様に似て欲しいですよ。芯が通っていて一途で心優しくて、強くてカッコいいわたしにとって最高の旦那様ですから」
「そ、そんなことはない」
アイリーンの言葉にエドガーは照れくさそうな表情を浮かべた。結婚してもなお、褒められることには不慣れなようだ。
「だが、子供が産まれてもこの足では走って追いかけることができないかもしれないな……」
エドガーの顔に一瞬陰が差したのに気付いて、アイリーンはにっこりと笑った。
「それなら問題ありません。わたし、走るのは得意な方ですので」
「そうか、頼もしいな」
「わたしとエドガー様はもう夫婦です。これから先もずっと、共に支え合って生きていきましょう」
「ああ、そうだな」
エドガーは再びアイリーンの体を長い腕で抱き寄せた。
「今だってこんなに幸せなのに、子供ができたら俺はどうなってしまうんだろう。果たしてこれ以上の幸せに耐えられるんだろうか……?」
「わたしも同じ気持ちです。今もこんなに幸せなんですから」
「いや、まだ足りない。この先、もっと幸せにするから覚悟してくれ」
エドガーの腕に力がこもった。
「愛してる、アイリーン」
おでこにチュッと甘い口づけが落ちてくる。
アイリーンは愛するエドガーの温かな腕の中で、これ以上ないほどの幸せと喜びを噛みしめたのだった。
【END】
「おはよう、アイリーン」
「お、おはようございます」
エドガーの表情はすっきりとしていて、アイリーンが起きるずいぶん前から起きていたことが伺える。
「体は大丈夫か?」
「……はい。少しだけ下半身が重たい気がしますが、大丈夫です」
「そうか。今日はゆっくり過ごそう」
エドガーは言って優しくアイリーンの身体を抱き寄せた。エドガーからふわりと香る石鹸のような甘い匂いに昨日の熱が蘇ってくる。隅々まで体を暴かれてはしたない声を上げて……。
アイリーンは恥ずかしさのあまりギュッと目を瞑る。
エドガーはそっとアイリーンの髪を撫でつけながら、「幸せだ」と呟いた。
「わたしもです。エドガー様と結婚して妻になれて本当に幸せです。ただ……」
けれど、アイリーンはまだ重要な務めを果たしていない。エドガーの後継者である跡継ぎを産まねばならないのだ。
「ただ、どうした?」
エドガーは何事かとアイリーンの体から腕を離して顔を覗き込む。アイリーンはやわらかく微笑んだ。
(きっとエドガー様は義務のように子供をつくって産ませることを望まないはずだわ)
「エドガー様との子供が産まれたら、もっと幸せかもしれないですね」
アイリーンは単純にエドガーとの子供を望んだ。父と母になり、一緒に子供を育てていきたい。家族が増えれば、きっともっと幸せだ。
「俺とアイリーンの子供? そうだな、俺も欲しい」
エドガーの顔がぱっと明るくなる。
「男児でも女児でもどちらでもいいが、不愛想な俺には似て欲しくない。アイリーンに似れば、きっと可愛いだろう」
「わたしは、エドガー様に似て欲しいですよ。芯が通っていて一途で心優しくて、強くてカッコいいわたしにとって最高の旦那様ですから」
「そ、そんなことはない」
アイリーンの言葉にエドガーは照れくさそうな表情を浮かべた。結婚してもなお、褒められることには不慣れなようだ。
「だが、子供が産まれてもこの足では走って追いかけることができないかもしれないな……」
エドガーの顔に一瞬陰が差したのに気付いて、アイリーンはにっこりと笑った。
「それなら問題ありません。わたし、走るのは得意な方ですので」
「そうか、頼もしいな」
「わたしとエドガー様はもう夫婦です。これから先もずっと、共に支え合って生きていきましょう」
「ああ、そうだな」
エドガーは再びアイリーンの体を長い腕で抱き寄せた。
「今だってこんなに幸せなのに、子供ができたら俺はどうなってしまうんだろう。果たしてこれ以上の幸せに耐えられるんだろうか……?」
「わたしも同じ気持ちです。今もこんなに幸せなんですから」
「いや、まだ足りない。この先、もっと幸せにするから覚悟してくれ」
エドガーの腕に力がこもった。
「愛してる、アイリーン」
おでこにチュッと甘い口づけが落ちてくる。
アイリーンは愛するエドガーの温かな腕の中で、これ以上ないほどの幸せと喜びを噛みしめたのだった。
【END】
1,270
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(17件)
あなたにおすすめの小説
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがどういうことですか?
石河 翠
恋愛
美形家族の中で唯一、地味顔で存在感のないアイリーン。婚約者を探そうとしても、失敗ばかり。お見合いをしたところで、しょせん相手の狙いはイケメンで有名な兄弟を紹介してもらうことだと思い知った彼女は、結婚を諦め薬師として生きることを決める。
働き始めた彼女は、職場の同僚からアプローチを受けていた。イケメンのお世辞を本気にしてはいけないと思いつつ、彼に惹かれていく。しかし彼がとある貴族令嬢に想いを寄せ、あまつさえ求婚していたことを知り……。
初恋から逃げ出そうとする自信のないヒロインと、大好きな彼女の側にいるためなら王子の地位など喜んで捨ててしまう一途なヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵はあっきコタロウさまに描いていただきました。
【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…
まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。
お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。
なぜって?
お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。
どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。
でも…。
☆★
全16話です。
書き終わっておりますので、随時更新していきます。
読んで下さると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
完結おめでとうございます。
楽しく読めました。
ではでは
次の作品で
オゼット👍🥰
アイリーンいい友達持ちましたのね!
【認証不要です】
6章4話
サンドイッチ領になってます。