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現代の常識学
黒少女と西の王
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森での出来事から2日ほど経っただろうか。
グライベルの王都に着いた私たちはサクラとサロナに情報収集をしてもらっていた。
昼はサクラ、夜はサロナのおかげである程度の情報が手に入った。
私とエリスもいるが、私たちはサクラの腕の装置の中に収納された状態を維持しているため、外には出られない。
大通りから少し離れた路地裏でサロナの報告が行われる。
「必要そうな部分だけ言うと城の警備はかなり厳重だし、罪人は奴隷として扱われ、地下へ幽閉されるらしいぜ。だが、今は王への献上品として帝国の兵士が国中から美しい女を集めているって情報もあるし、俺があいつに近づくにはこれを利用するのが一番手っ取り早いと思うが…どうする?」
「サクラもそれで良いなら、私はこれを利用したいけど…問題はその兵士とのコネだよねぇ…それが無いことには難しいし…」
「どうしたものかなぁ…」
サロナがそう言った瞬間だった。
「そこのお前、名は何と言う?」
兵士っぽい見た目の男がサロナに言う。
「俺はサロナだが…何の用だ?」
「サロナか、女のクセに男みたいな喋り方をしているが体は良いな…これなら王も喜ぶに違いない。」
『うわぁ…この人嫌いですわぁ…女の子に対してこんなキッショイ目を向けないでほしい…くたばれ色ボケサル男!』
私の中でフィナが毒を吐く。
『初対面でフィナがそんなに言うなんて珍しいね。』
『フィナちゃん、ああ言うチンポに支配されたようなサル男はマジで無理なの。ああ言うのに何度行為を迫られたことか…今思い出してもほんとに吐き気がする…』
『あぁ…それは嫌って当然だね。』
『でしょー?あっちからは見えてないとは言っても、あの視線を感じるだけでほんとに寒気がするんだよね。』
フィナとそんなやり取りをしている間にサロナが話をつけたようだった。
(やっぱり、私の感覚がおかしいだけなのかな…でも、ネイアの私への視線と同じだし…うーん…)
そんなことを考えているとサロナは兵士に連れられて王城の待機室まで連れて行かれていたので、エリスが状況説明をする。
「サロナさんはグライベル王への貢ぎ物として潜入することが出来たみたいですね。予定では明日の朝にお披露目となり、グライベル王と謁見になるようです。気に入られることが出来れば、妻として迎えられるようですが、気に入られなければ奴隷として扱われるようになるみたいですね…」
待機室での過ごし方を説明され終わって、やっと1人になったサロナがため息をついて言う。
「マナーとか礼儀作法を学べとか…めんどくせぇ…」
「頑張ってください!なにかあれば、私も力になりますよ!」
エリスが元気よく励ます。
「おう。あんがとよ。俺の方はいい感じにやっとくから、アンタは今のうちに寝ときな。」
「了解です。では、お言葉に甘えてお先に寝させてもらいますね。」
「あいよ。」
エリスはそう言うとお風呂場に向かって体を洗い始める。
フィナが私の中から出てくる。
「フィナちゃんは外の空気を…」
「やめときなさい。貴方が今出たら、目立っちゃうじゃない。」
「え~…ケチィ…と言いたいところだけど、我慢しないとね。こんなクソみたいな国なんか、さっさと潰して帰りたいし…」
フィナはつまらなさそうに言ってサロナの集めた情報が書かれた紙で紙ヒコーキを作って暇そうに飛ばして遊んでいた。
「やけに上手くいき過ぎてる…嫌な予感もするし、念の為にいろいろ準備しとこうかな…」
私は収納魔法に対して封印魔法対策と忘却対策の魔法陣を書き込む。
さらにいつでも出られるように魔法陣を書き換えておく。
周囲の状況を可視化する魔法、探査も併用することで様々な状況変化をいち早く察知出来るようにしておく。
収納の中にいなければ感覚でわかるのだが、今はそういう訳にはいかない状況だ。
「フィナ、そろそろ私の中に戻ってちょうだいな。」
「はいよ。適当な頃に出ればいいかな?」
「それでいいわ。」
「はーい!じゃ、一足先におやすみ~!」
そう言ってフィナは私の中に戻る。
私は魔法陣に強化魔法も追加しておく。
私たちが出た瞬間に発動するように調整することで味方全員の能力を底上げするのが目的だ。
「後は耐性付与と能力強化くらいで良いかな?必要そうなら、その都度かけれるようにしていこう。」
私が魔法陣を追加し終わると同時にエリスがお風呂場から出てくる。
「さっぱりしました~」
エリスは白い猫柄のピンクのパジャマ姿だ。
「その服可愛いね!エリスの可愛らしい雰囲気にピッタリだよ!」
私が褒めるとエリスは恥ずかしそうに顔を赤くしながら言う。
「こ、これはお父様が“エリスはこう言うのが好きと聞いて探したのだ!”なんて言って買ってきたものなんです…」
「そうなんだ!アーミア王は可愛い娘にもっと可愛くなってもらいたいんだね。」
「それならば、もっと大人の女性としての可愛さがほしいですね…これじゃ、子供服ですよ。今年で13歳になるのですから、いつまでも子供っぽい服ではいられませんし…」
エリスは小さくため息をつく。
「なら、これが終わったら、一緒に服を買いに行こうよ!私も自分では服を買ったことはないし、楽しそうでしょ?」
私が笑顔で言うとエリスの目が輝く。
「良いですね!そうと決まれば、私も評判のいいお店を探してみます。あぁ…今から楽しみです!」
そんな話をして、私たちは眠りにつく。
…
深夜の時間に目が覚める。
「…」
アタシはサーチで周囲の確認をする。
「明日はアタシも動かないといけないかしら…」
アタシはポツリと呟く。
「なんだ?寝れねぇのか?」
サーチに気づいたサロナがグライベルの歴史書を読みながら言う。
「いいえ、たまたま起きただけよ。」
アタシはコーヒーを淹れる。
「俺にもくれよ。お前も出せるんだろ?」
サロナが淡々と言う。
「もちろんよ。適当に入れとくわ」
アタシは自分のカップとサロナのカップにコーヒーを入れる。
「ほら、熱いから気をつけなさい」
アタシは画面を切り抜いたかのようにして外が見える場所からサロナの目の前にカップを置く。
「おわっ…外から見ると装置から急に腕が生えてきたように見えるからビックリしたぜ…」
サロナはそんなことを言いながら、コーヒーを飲む。
「美味いな…こいつはお前の趣味か?」
サロナは小さな声で言う。
「そうね…悪くないでしょ?」
「ああ、気に入ったぜ。」
「なら、良かったわ。」
アタシは異空間から古い書物を取り出す。
この書物はシェテラエンデの屋敷にあったもので、アタシの好きな古い物語が書かれた本だ。
この書物に書かれた物語は事実を元にした冒険譚だと言われており、一人の人間が未開の地を巡って、新しい種族を見つけると言う内容だ。
面白いのはその内容であり、その時代には存在しないはずの魔法を使ったり、伝説の種族である妖精が登場したりと当時の剣と拳の世界からするととても不思議な世界観である。
特に妖精に関して書かれた書物は多くはないが、半透明の蝶のような羽がある、不思議な力を扱うなどの共通している点が多くあるのだ。
身長なども具体的に言及されており、見た目は人間と同じような見た目で透き通るような白い肌の手のひらサイズから人間の幼い子供くらいの大きさであるとされていることが多い。
妖精が出る物語は全て架空の物語として扱われていたが、アタシはこの世界のどこかには必ず妖精が存在すると思っている。
根拠は無いに等しいが、ほぼ全ての書物で共通した特徴があり、不思議な力を使うこと等、いろいろあるが一番は幼い子供だった頃に一度だけ、その特徴に近い存在を見たことがあったからだ。
他にも特徴としては似ている種族はたくさん見てきたが、その時に見た存在は別格の存在感だった。
今思えば、他とは違う不思議な力を感じたのもあの存在だけだった。
それ以来、アタシはあの力の存在と並び立てるくらいに強くなりたいと思ったんだっけ…
まあ、いつか大人になった時にアタシ自身の身を守るためでもあったのだけれど、思わぬ方法でとんでもない力を手に入れたのよね…
まるで世界を管理する誰かがアタシに役目を与えたみたいな不思議な感覚…
ずっと物語の中でしか知らなかった少女の記憶とその意志…
「それにしても面白いわね…この二人の関係性、考え方の違い、同じ身体を共有しているところも面白いわ。思えば、アタシも彼女には助けられてばかりよね。」
そんなことをポツリと呟く。
アタシが背負うにはあまりにも大きな存在だと出会った瞬間からわかっていた。
だから、アタシではなく、私に全てを委ねた…
私はひとりであって、ひとりではない…
同じひとりでも1人じゃない、一人の人間なんだ。
そう思っていた…
だから、もう出ることなんて無いと思っていた。
でも、アタシの考えは間違いだったのかもしれない…
今日のこの出来事はきっとアタシにとって、なにか大事なことを教えてくれてるんだと思う。
アタシはそれを知らなければならないのだろう。
…
夜が明け始めた頃にサロナから飲んだ後のカップを受け取る。
「さてと…そろそろ私が起きる頃ね。」
私は「ふわぁ…」と欠伸をして起きる。
「そろそろ夜明けが近いみたいだな…」
サロナはそう言うとサクラと入れ替わる。
サロナの緋色の瞳が綺麗な桜色になる。
髪は緋色のままだったが、サロナの緋色よりは僅かに薄い色になっていた。
だが、その違いは言われないとわからない程度だ。
「本当は凄く怖いけど…頑張らなくちゃ…助けてくれた皆のためにも怖がっていられないから…」
サクラはそう言って胸の前で両手を握る。
「サクラさんは一人じゃないよ。私たちがついてるんだからいつも通りで良いのよ」
「うん…ありがとう」
サクラが小さな声で言うと部屋の扉が開けられる。
「…あら?」
白く長い髪の小さな少女が不思議そうに首を傾げていた。
「姫様ー!」
「ゲッ!グレイナル、もうこんなところまで?!」
兵士の声が聞こえた瞬間に少女が部屋に入ってきて扉を閉める。
「話は後で!匿ってちょうだい!」
ガチャガチャと足音が近づく。
「サクラ、その子をこっちに!」
私が言うとサクラは装置の魔法を使って少女を装置に収納する。
私が収納空間に現れた少女を抱きとめると同時に「バンッ!」と勢いよく部屋の扉が開かれる。
「おい!貴様、今ここに白い髪の子供は来なかったか?」
大柄の兵士が見た目通りの大声で言う。
「な、なにも来てないよ。」
サクラが驚いた表情で言う。
「そうか」
兵士はそう言うと部屋から出て行って、他の場所に行く。
「自分で開けた扉くらい閉めてほしいかな…一応、王様のお嫁さん候補の部屋なんだし…やっつけに行くけど…」
そんなことを呟きながら、サクラは部屋の扉を閉める。
「助かったわ!ありがとう!」
少女がスカートの裾を持ち上げてお辞儀をする。
(確かカーツィとかコーツィって呼ばれる挨拶の作法だっけ?)
そんなことを頭の片隅で考えながら、私は少女に問う。
「それは良いんだけど、まずは名前を聞いても良いかな?」
少女は少し嫌そうな表情をして言う。
「…私はナリューシャよ。」
「ナリューシャさんね。私はシェラだよ。それで、ナリューシャさんはどうして追われていたの?」
私が聞くとナリューシャは考えるような仕草をする。
「嫌なら答えなくても良いよ。何か力になれるかもしれないと思っただけだからね。」
私が優しい声で言うとナリューシャはほんの少しだけ安心したような表情で言う。
「私、逃げてきたの。この間、遠征で南の国に行った時にわかっちゃったの。この国のやり方は間違ってるって…男が言えば、女は従うしかない…王の命令には誰も逆らえない…そんな国にいるのが嫌になったの。」
「そうなのね」
私はナリューシャからは嘘偽りの無い気配を感じていた。
念の為に鑑定をしたが、怪しいと思うところは無かった。
「はぁ…こんな時に白虎の貴婦人がいてくれたら、こんな国なんかすぐ滅ぼしてくれるのに…」
「白虎の貴婦人…?」
私が首を傾げて聞き返すとナリューシャは言う。
「そうよ。なんでも白い稲妻と共に現れたアーミアの大英雄だって言われてる人よ。髪色は貴方と同じ緑色で目の色も貴方と同じような青色の…低めの身長で…」
ナリューシャの言葉が止まる。
そして、ナリューシャが考えるように顎に手を置く。
「もしかして…」
ナリューシャが呟く…
「貴方、お名前はなんと言いましたか?」
ナリューシャが確信を持った視線を向ける。
「私はシェラ・アルフェルンだよ。貴方もお察しの通り、私が白虎の貴婦人ってことになると思う。まあ、そんな異名がつけられてたなんて、今初めて知ったのだけどね。」
私がそう言うとナリューシャは頭を下げて言う。
「それは…!失礼しました。どうか、無知な娘の無礼をお許しくださいませ。」
「えぇ!?そんなことしないでよ!私はまだ未熟な立場なんだから、そんなにかしこまらないで!」
私は両手を前に突き出して首を振る。
「いいえ、貴方ほどの方に敬意をはらうなと言う方がおかしいのです!これだけは絶対に譲ることは出来ません!」
強い意志を持った瞳が私を見つめる。
「うわぁ…思ったより頑固な人だ…」
私は肩を落とす。
「でも、なんでそんなに私に敬意を表したいの?私、特に何かやった記憶はないんだけど…」
私がそう言うとナリューシャは興奮気味に言う。
「ご冗談を。貴方はたった一人でグライベルの野盗を殲滅したのでしょう?直接的ではなくとも、貴方がアーミアで活躍してくださったおかげで父上…グライベル王の注意が貴方に向いて、今までは忙しく遠征の日々だったのが遠征が無くなりましたし、何より兵士の皆さんも疲れと不満が溜まっていましたから…もちろん、弱音を吐けば、その場で殺されてしまうような状況なので誰もそんな素振りは見せられませんでした。グライベル王の注意が貴方に向いてからは王国の守りを固める方向に力を入れるようになったおかげで兵士の皆さんも以前よりかなり余裕が出来たようです。中には王には内緒で貴方に感謝をしている人もいるんですよ。特に四番隊隊長のバレッドさんなんか貴方の活躍を聞いて、救世の光が現れた!と大喜びしてましたし、この国のやり方に不満を持っている人物の一人でもあるので、とても有難い存在なのですよ!」
大興奮で盛り上がっていたナリューシャがハッとした表情をして口を閉じる。
「す、すみません…私一人で盛り上がってしまいました…」
ナリューシャは顔を赤くして言う。
「ナリューシャさんの熱意は伝わったわよ。それに元々私がこの国に来たのもグライベルの王様に物申すためだしね。」
私がそう言うとナリューシャはとても嬉しそうに目を輝かせて言う。
「ありがとうございます!貴方のお力が借りれるなんて、もう百人力ですわ!」
ナリューシャはとても嬉しそうに言う。
「ふわぁ…」
大きな欠伸をしてエリスがベッドから…あ、顔から落ちた。
すっごい痛そうに顔を押さえてる。
「く…う…痛いです…」
涙目のエリスが私を見る。
エリスの顔がみるみるうちに赤くなる。
「お、おはようございます!」
慌てた様子で立ち上がったエリスが背筋を伸ばす。
「おはよう、エリス。」
私がそう言うとナリューシャがエリスの元へ行く。
「はじめまして、アーミアの姫。私はナリューシャ。一応、貴方と同じ姫の立場になります。よろしくお願いします!」
ナリューシャがスカートの裾を持ち上げてお辞儀をしながら言って、右手を出す。
「私はアーミアの第二冠のエリスです。こちらこそよろしくお願いします。ナリューシャさん。」
エリスはどことなく…と言うかハッキリと誰がどう見ても不信感を感じているような表情をする。
「エリス、ナリューシャさんは敵ではないと思って大丈夫よ。私の鑑定結果にも悪いことは無かったから安心していいわ。」
私がそう言うとエリスはほんの少しだけ表情が柔らかくなったような気がした。
「そうですか。」
エリスはそう言うと洗面台の方へと向かう。
「あの…」
ナリューシャがエリスを呼び止めようとする。
エリスは背を向けたまま強い口調で言う。
「誤解のないようにハッキリと言っておきますが、私はグライベルと言う国が大嫌いなんです。グライベルの国民と言うだけで警戒しなければならないと思うほどには嫌いです。グライベルの国民全てが害意があるとは言えないですが、いつ裏切るかわかったものじゃないです。私にとってグライベルはそれほど忌み嫌う存在です。ましてや、その国の王族ともなれば、余計に警戒したくなるのも無理はないでしょう?」
エリスはキッパリとそう言うと顔を洗いに行く。
「そう…ですよね…普通はエリスさんのような反応が正しいです…グライベルはそれほどいろんなところで暴れていたのですから、無理もありません…」
ナリューシャはガックリと肩を落として言う。
「私は信じるよ。ナリューシャさんのこと、放っておけないし。」
「シェラ様…ありがとうございます!私、エリスさんに信頼してもらえるように頑張ります!」
そんなやり取りをしているとサクラが呼ばれる。
サクラは応答して、兵士たちに案内される。
「この先にはグライベル王が居られる。くれぐれも粗相のないようにしたまえ。」
サクラは小さな声で言う。
「行きます。」
サクラが扉を開けるとだだっ広い部屋の奥で巨大な黄金の椅子に座っている筋骨隆々で目が痛くなるような黄金の鎧を着た巨漢が見えた。
サクラは部屋の中ほどまで歩いて、片膝をついて言う。
「この度は私のような一介の小娘をご招待いただき、ありがとうございます。」
巨漢は退屈そうにサクラを見下ろす。
「少しはマシな女を持ってこれたようだな。よい。余に近寄ることを許可する。そこまで寄るが良い。」
巨漢がサクラとの間で自分側の1/4程の場所を指さす。
「失礼します。」
サクラはそう言って王の前まで歩く。
巨漢はじっとりと舐めるようにサクラを見る。
「…」
サクラはじっと王の顔を見ている。
…ように見えて、その上の黄金の王冠を見て、あれはどのくらいの価値があるのだろうなどと考えていた。
「ふむ。」
王が満足そうに頷いのを見たサクラが現実に引き戻される。
「何処を見ても余の妃に相応しい見た目をしておる。7番目の妃として迎えてやろう。」
そう言って王が黄金の玉座から降りてサクラの目の前まで歩く。
その手がサクラに触れる直前だった。
「グライベルの王様はまともに会話をしたこともないような相手を妃に迎えるんですね。勉強になります。」
「何者だ?」
王が振り返った先に居たのは…
「ごきげんよう…私の名はフィスティーナと申しますの。」
気品溢れる純白のドレスに身を包んだシェラがスカートの裾を持ち上げてお辞儀をする。
目の前の王なんかよりもよっぽど貴族らしい気品のある少女は天使のような笑みでニコリと微笑む。
「ほう?フィスティーナとな…お前も良い顔をしておる。それに余に相応しい気品も持っておる。そのうえ、良い体をしておる。良い。貴様も余の妃にしてやろう。」
若干ニヤケ顔になった王がシェラに言う。
「ご冗談を…私と貴方では釣り合いませんわ。」
シェラはニコニコと微笑んで言う。
目が笑ってないように感じたのは気のせいではないのだろうとサクラは感じた。
(あれ?シェラさんって確か…いや、気の所為かな?)
「ほう?余の誘いを断る権利があると…?」
巨漢の圧が凄まじいがシェラは気にしてない様子だった。
「私、貴方のように奪う事しか考えてない人は嫌いなんですの。」
シェラは冷たく言い放つとどこからともなく短剣を取り出し左手で構える。
「ならば、力でわからせるまで!」
巨漢が黄金の剣を引き抜く。
さらにその剣は魔力で輝いており、見るだけで目が痛くなる。
(あの短剣は…!)
サクラが柱の影に隠れたのを確認してシェラは呆れた様子で言う。
「なんて穢れた剣なのでしょう。そのようなものでは、黄金の価値も無いに等しいですわね。」
「ふむ。お前にはこの輝きが穢れて見えるのか?なんとも貧相な価値観よのう?この美しさがわからぬとは…」
王は呆れたように嗤う。
「いいえ、穢れてますわよ。だって…」
いつの間にかシェラは王の背後に現れ、首筋にその剣が突き立てられる距離にいた。
「相手の姿も見えないような光ですもの!」
シェラが首筋に剣を振るうが、巨漢の体に見合わない素早い剣で軽々と受け止められてしまう。
「クハハ!余の背後を取った程度でお前の非力さは隠せぬぞ。」
巨漢はそう言って剣を薙ぎ払いシェラを吹き飛ばす。
「あらあら…吹き飛ばされてしまいましたわね。困りましたわ。」
言葉とは裏腹にシェラは全く困ってなさそうな声で言う。
「本気を出すなら、今のうちだぞ?もっとも、そんな猶予を与えるほど、余はお人好しでは無いがな!」
巨漢か勢いよく振り下ろした剣をシェラは軽々と受け流す。
「巫山戯囃縁や凝らさ…星々の煌めきに揺らいで踊りましょう?」
視界が滲むようにシェラの姿がぼやける。
「ほう?小細工だけは出来るようだな。」
巨漢はもう一度剣を振り上げて再度振り下ろす。
シェラに確実に当たったように見えたが、シェラの姿はもうそこにはなかった。
「ふん。他愛も無い。所詮はネズミよのう。」
巨漢の背後に立つシェラが言う。
「うふふ…さすがに二度も同じ手は使えませんわね。」
シェラは楽しそうに笑う。
「余興は済んだか?ならば、叩き落としてやろう!」
ゆっくりと振り返った巨漢の黄金の剣が輝きを強める。
「くらうがよい!ゴールドストレート!」
横薙ぎの一閃がシェラを斬り裂いて、上下がバラバラになったシェラが言う。
「賑やかな宴はまだまだ終わりません…踊れや踊れ、不破風羽り…夜更けも踊りは終わりません…」
巨漢がさらに剣を薙ぎ払って、今度はシェラの首を斬る。
シェラの姿が霧のように消え、巨漢の周囲に4人のシェラが現れる。
「さぁ…欲深き王様…もっともっと踊りましょう?」
4人のシェラが一斉に斬りかかる。
「スピンゴールド!」
巨漢は薙ぎ払いの勢いで自身の周囲に斬撃を発生させ、4人のシェラの体を斬り裂く。
だが、シェラの姿が霧になると同時に別方向から新たにシェラが現れては斬りかかる。
しばらくの間、そんな代わり映えのないことを繰り返して、巨漢も慣れてきた頃だ。
「そこですわ!鎧砕き!」
今まで違う方向からしか現れなかったシェラが同じ場所に現れて巨漢の黄金の鎧を剣先で突く。
また別方向から来るものだと油断していた巨漢はその一撃を防ぐことが出来ずに鎧が粉々に破壊される。
その衝撃でほんの僅かに巨漢がよろめいたがすぐに体勢を立て直し、自身の状況を判断する。
「お前…余の鎧を破壊しよったな…その行い…余の妃で無ければ、万死に値する!」
巨漢から抗えない圧力が放たれる。
「今よ!」
「私はその権能を破壊する!!」
シェラの隣から抗えない圧力と同じ圧力が放たれて、巨漢の圧力を無力化する。
「余の権能が破壊されただと!?」
巨漢がとても驚いた様子で言う。
「当然ですよ。私も権能持ちですので!」
いつの間にかシェラの隣にいた眼鏡をかけたエリスが眼鏡をクイッと動かして言う。
「貴様は…ふん…そういうことか。アーミア風情が舐めた真似をしよって!」
巨漢が理解した様子で言う。
「一応聞きますが、貴方がグライベル王、レグルス・グライベルで間違いありませんね?」
エリスが言う。
「如何にも。余がレグルス・グライベルだ。貴様は確かアーミアの第二冠だったな。」
レグルスが剣を構えて言う。
「その通りです。そして、私は彼女の剣でもあります。」
エリスはそう言うと異空間から光り輝く剣を取り出す。
「シェラさん、指示をください。完璧に遂行しますよ。」
シェラが優しく微笑む。
「頼もしいですわ…エリスさん、私が援護しますので、完膚無きまでに叩き潰してください。」
シェラの魔法でエリスの能力が上がる。
「承知しました!」
エリスが先程とは桁違いな速度でレグルスに接近する。
「その程度で余を倒せると思うてか!」
レグルスが軽々とエリスの剣を受け止める。
「一の太刀で貫けるほど、ヤワじゃないのは想定済みです。」
エリスは素早く剣を引いてレグルスの剣から剣を離し、即座に空いている右側から剣を薙ぎ払う。
「無駄だ!」
レグルスの薙ぎ払いによってエリスが弾き飛ばされる。
「しまった!」
シェラの顔に焦りが見える。
エリスが剣を落としてしまった。
「ふん。大口を叩いたわりに呆気なかったのう?これで終いじゃ!」
「どごぉ!」と凄まじい衝撃がエリスを斬りさ…
「言ったでしょう?」
「ぬぅ?」
レグルスが違和感を感じた瞬間だった。
「一の太刀で貫けるほど、ヤワじゃないのは想定済みですってね!」
エリス…いや、シェラが落としたはずの剣でレグルスの剣を受け止めていた。
「いつの間にっ!」
気がつけばエリスの姿が無かった。
「この状況なら、確実にこれが当たります!ボルトウェイヴ!」
シェラの身体から凄まじい電撃が発せられて、一瞬にしてレグルスの体を動けなくさせる。
「オノレェ!小娘風情がぁぁぁぁぁ!」
凄まじい電撃で身動きが取れないレグルスの背後でエリスが光り輝く剣を振り上げる。
「罪深き者よ。断罪の時だ!ロンゴミニアドォ!」
剣の輝きが強まり、どこからともなく現れたエリスの振り下ろしと同時に光のビームが発射される。
それはとてつもないエネルギーだった。
とてつもない熱量と破壊を纏った光が城壁に穴を開けたのがわかったのは、それが消え去ってからだ。
「うふふ…思ったよりも簡単に終わりましたね?」
シェラがそう言って安心しているとサクラは背後になにかの気配を感じた。
サクラが振り返った瞬間、目の前には小さな魔獣の大きな口が開かれていた。
「ヒッ!」
サクラが驚いて腰を抜かし、そのまま食べられると思った矢先だった。
「ギャグアアアアアアアアス!」
魔獣の口が裂けて、真っ二つになる。
「ふぇ…?」
サクラが驚いて硬直していると先程よりも小柄な男性が現れる。
「奇襲は失敗か…」
男性はそう言うとその姿がわかるところまで出てくる。
「グライベルの王は随分と狡いお方なのですね?」
シェラがそう言うと小柄な男性が言う。
「ふん。俺の存在に気がついてたくせに何を言うか。」
小柄な男性の言葉でシェラが魔法を使ったのだと理解した。
小柄な男性はそのままゆっくりと歩いてサクラの横を通り、エリスとシェラの間を通って、玉座があった場所で立ち止まって振り返る。
「改めて、よくぞここまで来たな。俺が本物の第78代グライベル王…またの名を雷神王レグルス・グライベルだ!」
レグルスが名乗り終え、剣を振るうと同時に「バヂーン!」ととてもでは無いが当たれば無事では済まないことがわかる黒い雷撃がレグルスの背後に落ちる。
そんなレグルスに臆することなくシェラが一歩前に出て言う。
「では、私も改めて名乗らせていただきますわ…」
シェラがそう言ってマントを取るような動きをすると同時にフィナが姿を現す。
「シェラ様が一の眷属!根源の黒のフィナちゃんだワン♡」
猫耳ドラゴンメイドな姿のフィナが指でハートを作って言う。
サクラは何となくわかっていた様子だったが、エリスはとても驚いた表情をしていた。
その様子を見てレグルスが言う。
「ふん。フィナとやら、貴様の主は敵前逃亡するような腰抜けだったようだな。そんなものに使われるとは哀しいのう?」
「あら?アンタにはわからないのかしら?フィナちゃんのご主人様がたった一人でここに侵攻している根源の紫に立ち向かってるのよ。フィナちゃんたちがアンタと気兼ねなく戦えるようにしてんの。まあ、アンタがこの国を守るために加勢に行くなら、止めはしないけどね。」
フィナがそう言うとレグルスはニヤリと笑う。
「知っている。だから、そっちには我が国の最強戦力を向かわせた。ここで俺がお前たちを始末出来るようにな。」
「そう…なら…」
フィナが自身の何倍もの大きさのハンマーを召喚して左手に持つ。
「アンタを軽くぶっ飛ばしてやるわ!」
フィナがそう言って、片手でハンマーを振り払おうとした瞬間だった。
「待つのじゃ!」
寸前のところでフィナのハンマーが止まる。
「アンタは確か…」
真っ黒な羊の角の生えた晴天のような澄んだ青色の長い髪、背が低く、真冬のようなモコモコの白い服を着た女性が現れる。
対照的に女性の肌は褐色であり、大きなナイフのようなものとフォークのようなものを背中に携えていた。
「我が名は饕餮!全てを喰らい糧とする西の神だ!」
饕餮はそう言うとレグルスの方を向く。
「西の王、神である我から汝にありがたいお告げをくれてやろう。汝、繁栄を求むなら、この者たちとともにヴィオレを討て!」
レグルスはニヤリと笑う。
「俺はタダで弱いやつに従うほど甘くはねえぞ。俺になにかメリットがあるんだろうな?」
饕餮は表情を変えることなく言う。
「ほむ?我は既に契約は成しておるぞ。」
「あん?俺はテメェとは契約してねぇぞ。」
レグルスはほんの少しだけ不機嫌そうな表情で言う。
饕餮は小さくため息をついて、静かに話し始める。
「ならば、とある国の昔話をしてやろう。とある国の礎、その全ては我とかの者にある。我は己の腹を満たすために荒れ狂い、全てを喰らう日々を送っておった。そんなある日のことだ。かの者は我が身を顧みず、暴れ狂う我に言ったのだ。国を救ってくれ…とな。我は問うた。汝の願いの代償はなんだ?とな…かの者はこう言った。自分の魂を捧げると…我は悪魔であり神だ。善も悪も生も死も何もかも全て喰らい尽くす暴食の悪魔であり、厄災と邪悪を喰らう食の神だ。人間の魂一つ程度で満たされるような小さき存在ではない。故に我は拒んだ。するとかの者は言った。自分の全てを食わせてやるとな。我は何故そこまでするのかと問うた。かの者は我が国だけが全てだと言った。興味が湧いた。かの者がそれほどまでに思う国の行く末を見てやろうと思った。それが我が初めて食うこと以外に興味を持った物事だった。我はかの者に契約を取り決めることを約束した。ただし、かの者から何も喰わなかった。我を食うこと以外で惹きつけたその熱意に免じたのだ。かの者はそれを知るとこう言った。この先貴方様を進行する者としてグライベルと名乗りますとな。」
饕餮が話し終えるとレグルスは驚いた様子で言う。
「お前がグライベルの建国の神、グライアスだと言うのか?あんなもの所詮は過去の絵空事だと思っていたのだが…」
饕餮は言う。
「汝らが我をどう呼んでいたのかは知らぬ。だが、我がこの国で崇められた存在であることは汝でも理解に至ったであろう?」
レグルスは楽しそうにニヤリと笑う。
「ならば、なおのことタダで言うことを聞く訳にはいかねぇな!神の力とやらを見せてもらおうか!」
レグルスはそう言うと自身の周りに黒い雷を落とす。
「ふむ。頭の悪いやつじゃ…ほれ。そこのちっこいの、我に力を貸すがよい。面倒ごとは手早く終わらせるに限る。」
饕餮はフィナに言う。
「残念だけど、無理ね。」
フィナがそう言うとフィナたちの周囲に無数の黒い獣が現れる。
「仕方ないのう」
饕餮がナイフを構える。
「強食…」
とても低い声で饕餮が言うと一瞬で無数にいた黒い獣が不明な方法で一瞬で全て食べられた。
目の前で起こったことを見て、食べられたと認識したにも関わらずその方法は何もわからなかったのだ。
「何が起こったの!?」
フィナの驚きの声が響く。
「ほう?俺の黒獣召喚をこうもあっさりと無力化するとはな。」
レグルスはそう言うと剣に黒い雷を纏わせる。
「ならば、俺の黒雷剣で焼き殺してくれる!」
レグルスが饕餮に剣を振るうが饕餮は微動だにすることなく言う。
「喰吸」
レグルスの黒い雷が消え、ただの剣が饕餮の身体に触れる。
剣が触れたはずの饕餮の身体には傷一つなく、レグルスも何が起こったのかわからないような表情だった。
「お前、俺の剣に何をした!」
レグルスが怒りを露わにして言う。
「力を喰った。それだけのことよ。」
饕餮はそう言うと右の拳にレグルスの黒い雷を纏わせる。
「なんだと…!」
レグルスは即座に理解した様子で距離を取る。
「雷よ!」
レグルスがそう言って剣を掲げるが、何も起こらなかった。
「やはりか…」
レグルスは確信したような表情になる。
「無駄じゃ。能力破壊と同意の状態じゃからな。もっとも我の場合はその力の源を喰らっておるから、能力破壊とは別物であるがな。」
饕餮はそう言うと口から黒い球を吐き出して手に取る。
同時に饕餮の右手の黒い雷が消える。
「ほれ。これがその力の源じゃ。」
饕餮はそう言うと黒い球に魔力を注ぐ。
その瞬間、凄まじい威力の黒い雷がレグルスに向かって放たれた。
「うおっと!?」
レグルスが咄嗟に剣を投げ捨てて、剣と反対方向に逃げると剣の方に吸い寄せられた雷が剣を跡形もなく消し去っていた。
「嘘だろ…俺の黒雷剣が…」
レグルスは驚いた表情をしていた。
「当然じゃな。機転は利くようじゃが、力無きものに抗う術などない。弱肉強食とはよく言ったものじゃ。」
饕餮は当たり前のことを言うように淡々と告げる。
「我には権能も効かぬ。これが食の神の力じゃ。もちろん、我も万能ではない。我を超える人間もいた。じゃが、汝では我には勝てぬ。例え、我が四肢を封じられ、死ぬ寸前だったとしても…な。それほどまでに汝と我では力の差があるのじゃ。今の一瞬でよく身に染みたじゃろ?」
饕餮がレグルスを見る。
レグルスが膝をつく。
「俺の負けだ。現に権能を使ったが、お前を支配することができなかった。これでは何も出来ない。」
レグルスがそう言うと饕餮は言う。
「わかれば良いのじゃ。」
饕餮はそう言うとレグルスに黒い球を渡す。
レグルスが黒い球を受け取ると同時に黒い球はレグルスの中に溶けるように入って行く。
「能力は与えられたものに触れれば還る。今、我が汝にして見せたようにな。」
サクラの腕の装置から、よろめきながらナリューシャが出てくる。
「おっとっと…初めての感覚で足元がふらふらしますわね…」
「ナリューシャ!いつからそこに居た!」
ナリューシャに気がついたレグルスが怒鳴るように言う。
「お父様…いえ、グライベル王、私はグライベルの名を捨て、この国を出ます!」
ナリューシャは声高らかにそう宣言する。
「はぁ…」
レグルスは呆れた様子でため息をつく。
「ナリューシャ、俺はくだらない冗談が嫌いだ。今回は聞かなかったことにしてやるから、さっさと部屋に戻れ。」
レグルスの冷たい声が響く。
ナリューシャはそんなレグルスに対して強い声で言う。
「私はグライベルの名を捨て、シェラ様の元へ行きます!決して、くだらない冗談などではございません!私は知ってしまったのです。数々の遠征について行くうちに、この国は何かがおかしいと…それは王族ではわからないものでした。なので、私は理解しないといけません。何が間違っていて、何が正しいのか…この国ではわからないことを理解しなければなりません。だから、私はグライベルの姫では無く、ただの少女として世界を知りたい…いいえ、世界を知らなくてはならないと考えたのです!」
ナリューシャの強い視線がレグルスの視線とぶつかる。
少しの沈黙の後、レグルスが言う。
「好きにしろ。ただし、俺の血を継いでる者として、恥となる生き方はするな。」
「もちろんですわ!」
ナリューシャが力強く返事をする。
「饕餮、俺は兵を集める。お前はナリューシャを連れて行け。そいつも俺の血を持つ者だ。必ず役に立つ。」
レグルスが饕餮に言う。
「ほう?面白い。ならば、汝の娘、存分に使わせてもらおうではないか。」
饕餮はそう言うとナリューシャの口に吸い込まれるような感覚でナリューシャの中に入る。
「な、何が起きたのですか!?」
ナリューシャが驚いた様子で言う。
『我は神じゃ。強大な力を持つ代わりにこの国の領域から出ることは出来ぬ存在なのじゃ。故に汝の中に我の社を創り、その中に住むことにした。簡単に言えば、汝の身体を借りて、汝の近くであれば、我もこの国の外に出られるようにしたわけじゃ。少しだけなら我の力を使うことも出来るから、悪いことは無いはずじゃ。』
饕餮がナリューシャの中から頭に直接響くような声で言う。
「そうなんですね!私、頑張ります!饕餮様の力とお父様の力を使いこなしてみせます!」
『ふん。期待しておるぞ。』
饕餮がそう言うと頭の中に感じていた不思議な感覚が無くなる。
「とりあえず、シェラ様の元に行けばいいのよね?」
フィナが言う。
「そうですね。当初の目的とは違いますが、それよりも看過できない問題が発生しましたからね。」
エリスはそう言うと異空間に剣をしまう。
「なら、レグルスとの戦いはお預けか~」
フィナはそう言って魔法陣を描く。
「心配せずとも終わったら殺しに行く。舐めた真似をされたままでは俺の気が収まらねぇからな。」
レグルスがニヤリと笑う。
「あはは!楽しみにしてるよ。西の王様。」
フィナが魔法陣を起動させる。
「フィナさん、サクラさん、ナリューシャさん、行きましょう。」
エリスの号令とともに全員が魔法陣に乗るとそのまま転移される。
魔法陣が消えた部屋でレグルスが言う。
「さてと…そろそろアイツも着いた頃かな?」
レグルスは部屋を出て兵を集める。
「…」
黒いフードの中性的な外見の人型実体が現れる。
「まもなく接触するでしょう…えぇ…わかってます…」
実態はどこかへと連絡をする素振りをして闇に溶けるように消える。
グライベルの王都に着いた私たちはサクラとサロナに情報収集をしてもらっていた。
昼はサクラ、夜はサロナのおかげである程度の情報が手に入った。
私とエリスもいるが、私たちはサクラの腕の装置の中に収納された状態を維持しているため、外には出られない。
大通りから少し離れた路地裏でサロナの報告が行われる。
「必要そうな部分だけ言うと城の警備はかなり厳重だし、罪人は奴隷として扱われ、地下へ幽閉されるらしいぜ。だが、今は王への献上品として帝国の兵士が国中から美しい女を集めているって情報もあるし、俺があいつに近づくにはこれを利用するのが一番手っ取り早いと思うが…どうする?」
「サクラもそれで良いなら、私はこれを利用したいけど…問題はその兵士とのコネだよねぇ…それが無いことには難しいし…」
「どうしたものかなぁ…」
サロナがそう言った瞬間だった。
「そこのお前、名は何と言う?」
兵士っぽい見た目の男がサロナに言う。
「俺はサロナだが…何の用だ?」
「サロナか、女のクセに男みたいな喋り方をしているが体は良いな…これなら王も喜ぶに違いない。」
『うわぁ…この人嫌いですわぁ…女の子に対してこんなキッショイ目を向けないでほしい…くたばれ色ボケサル男!』
私の中でフィナが毒を吐く。
『初対面でフィナがそんなに言うなんて珍しいね。』
『フィナちゃん、ああ言うチンポに支配されたようなサル男はマジで無理なの。ああ言うのに何度行為を迫られたことか…今思い出してもほんとに吐き気がする…』
『あぁ…それは嫌って当然だね。』
『でしょー?あっちからは見えてないとは言っても、あの視線を感じるだけでほんとに寒気がするんだよね。』
フィナとそんなやり取りをしている間にサロナが話をつけたようだった。
(やっぱり、私の感覚がおかしいだけなのかな…でも、ネイアの私への視線と同じだし…うーん…)
そんなことを考えているとサロナは兵士に連れられて王城の待機室まで連れて行かれていたので、エリスが状況説明をする。
「サロナさんはグライベル王への貢ぎ物として潜入することが出来たみたいですね。予定では明日の朝にお披露目となり、グライベル王と謁見になるようです。気に入られることが出来れば、妻として迎えられるようですが、気に入られなければ奴隷として扱われるようになるみたいですね…」
待機室での過ごし方を説明され終わって、やっと1人になったサロナがため息をついて言う。
「マナーとか礼儀作法を学べとか…めんどくせぇ…」
「頑張ってください!なにかあれば、私も力になりますよ!」
エリスが元気よく励ます。
「おう。あんがとよ。俺の方はいい感じにやっとくから、アンタは今のうちに寝ときな。」
「了解です。では、お言葉に甘えてお先に寝させてもらいますね。」
「あいよ。」
エリスはそう言うとお風呂場に向かって体を洗い始める。
フィナが私の中から出てくる。
「フィナちゃんは外の空気を…」
「やめときなさい。貴方が今出たら、目立っちゃうじゃない。」
「え~…ケチィ…と言いたいところだけど、我慢しないとね。こんなクソみたいな国なんか、さっさと潰して帰りたいし…」
フィナはつまらなさそうに言ってサロナの集めた情報が書かれた紙で紙ヒコーキを作って暇そうに飛ばして遊んでいた。
「やけに上手くいき過ぎてる…嫌な予感もするし、念の為にいろいろ準備しとこうかな…」
私は収納魔法に対して封印魔法対策と忘却対策の魔法陣を書き込む。
さらにいつでも出られるように魔法陣を書き換えておく。
周囲の状況を可視化する魔法、探査も併用することで様々な状況変化をいち早く察知出来るようにしておく。
収納の中にいなければ感覚でわかるのだが、今はそういう訳にはいかない状況だ。
「フィナ、そろそろ私の中に戻ってちょうだいな。」
「はいよ。適当な頃に出ればいいかな?」
「それでいいわ。」
「はーい!じゃ、一足先におやすみ~!」
そう言ってフィナは私の中に戻る。
私は魔法陣に強化魔法も追加しておく。
私たちが出た瞬間に発動するように調整することで味方全員の能力を底上げするのが目的だ。
「後は耐性付与と能力強化くらいで良いかな?必要そうなら、その都度かけれるようにしていこう。」
私が魔法陣を追加し終わると同時にエリスがお風呂場から出てくる。
「さっぱりしました~」
エリスは白い猫柄のピンクのパジャマ姿だ。
「その服可愛いね!エリスの可愛らしい雰囲気にピッタリだよ!」
私が褒めるとエリスは恥ずかしそうに顔を赤くしながら言う。
「こ、これはお父様が“エリスはこう言うのが好きと聞いて探したのだ!”なんて言って買ってきたものなんです…」
「そうなんだ!アーミア王は可愛い娘にもっと可愛くなってもらいたいんだね。」
「それならば、もっと大人の女性としての可愛さがほしいですね…これじゃ、子供服ですよ。今年で13歳になるのですから、いつまでも子供っぽい服ではいられませんし…」
エリスは小さくため息をつく。
「なら、これが終わったら、一緒に服を買いに行こうよ!私も自分では服を買ったことはないし、楽しそうでしょ?」
私が笑顔で言うとエリスの目が輝く。
「良いですね!そうと決まれば、私も評判のいいお店を探してみます。あぁ…今から楽しみです!」
そんな話をして、私たちは眠りにつく。
…
深夜の時間に目が覚める。
「…」
アタシはサーチで周囲の確認をする。
「明日はアタシも動かないといけないかしら…」
アタシはポツリと呟く。
「なんだ?寝れねぇのか?」
サーチに気づいたサロナがグライベルの歴史書を読みながら言う。
「いいえ、たまたま起きただけよ。」
アタシはコーヒーを淹れる。
「俺にもくれよ。お前も出せるんだろ?」
サロナが淡々と言う。
「もちろんよ。適当に入れとくわ」
アタシは自分のカップとサロナのカップにコーヒーを入れる。
「ほら、熱いから気をつけなさい」
アタシは画面を切り抜いたかのようにして外が見える場所からサロナの目の前にカップを置く。
「おわっ…外から見ると装置から急に腕が生えてきたように見えるからビックリしたぜ…」
サロナはそんなことを言いながら、コーヒーを飲む。
「美味いな…こいつはお前の趣味か?」
サロナは小さな声で言う。
「そうね…悪くないでしょ?」
「ああ、気に入ったぜ。」
「なら、良かったわ。」
アタシは異空間から古い書物を取り出す。
この書物はシェテラエンデの屋敷にあったもので、アタシの好きな古い物語が書かれた本だ。
この書物に書かれた物語は事実を元にした冒険譚だと言われており、一人の人間が未開の地を巡って、新しい種族を見つけると言う内容だ。
面白いのはその内容であり、その時代には存在しないはずの魔法を使ったり、伝説の種族である妖精が登場したりと当時の剣と拳の世界からするととても不思議な世界観である。
特に妖精に関して書かれた書物は多くはないが、半透明の蝶のような羽がある、不思議な力を扱うなどの共通している点が多くあるのだ。
身長なども具体的に言及されており、見た目は人間と同じような見た目で透き通るような白い肌の手のひらサイズから人間の幼い子供くらいの大きさであるとされていることが多い。
妖精が出る物語は全て架空の物語として扱われていたが、アタシはこの世界のどこかには必ず妖精が存在すると思っている。
根拠は無いに等しいが、ほぼ全ての書物で共通した特徴があり、不思議な力を使うこと等、いろいろあるが一番は幼い子供だった頃に一度だけ、その特徴に近い存在を見たことがあったからだ。
他にも特徴としては似ている種族はたくさん見てきたが、その時に見た存在は別格の存在感だった。
今思えば、他とは違う不思議な力を感じたのもあの存在だけだった。
それ以来、アタシはあの力の存在と並び立てるくらいに強くなりたいと思ったんだっけ…
まあ、いつか大人になった時にアタシ自身の身を守るためでもあったのだけれど、思わぬ方法でとんでもない力を手に入れたのよね…
まるで世界を管理する誰かがアタシに役目を与えたみたいな不思議な感覚…
ずっと物語の中でしか知らなかった少女の記憶とその意志…
「それにしても面白いわね…この二人の関係性、考え方の違い、同じ身体を共有しているところも面白いわ。思えば、アタシも彼女には助けられてばかりよね。」
そんなことをポツリと呟く。
アタシが背負うにはあまりにも大きな存在だと出会った瞬間からわかっていた。
だから、アタシではなく、私に全てを委ねた…
私はひとりであって、ひとりではない…
同じひとりでも1人じゃない、一人の人間なんだ。
そう思っていた…
だから、もう出ることなんて無いと思っていた。
でも、アタシの考えは間違いだったのかもしれない…
今日のこの出来事はきっとアタシにとって、なにか大事なことを教えてくれてるんだと思う。
アタシはそれを知らなければならないのだろう。
…
夜が明け始めた頃にサロナから飲んだ後のカップを受け取る。
「さてと…そろそろ私が起きる頃ね。」
私は「ふわぁ…」と欠伸をして起きる。
「そろそろ夜明けが近いみたいだな…」
サロナはそう言うとサクラと入れ替わる。
サロナの緋色の瞳が綺麗な桜色になる。
髪は緋色のままだったが、サロナの緋色よりは僅かに薄い色になっていた。
だが、その違いは言われないとわからない程度だ。
「本当は凄く怖いけど…頑張らなくちゃ…助けてくれた皆のためにも怖がっていられないから…」
サクラはそう言って胸の前で両手を握る。
「サクラさんは一人じゃないよ。私たちがついてるんだからいつも通りで良いのよ」
「うん…ありがとう」
サクラが小さな声で言うと部屋の扉が開けられる。
「…あら?」
白く長い髪の小さな少女が不思議そうに首を傾げていた。
「姫様ー!」
「ゲッ!グレイナル、もうこんなところまで?!」
兵士の声が聞こえた瞬間に少女が部屋に入ってきて扉を閉める。
「話は後で!匿ってちょうだい!」
ガチャガチャと足音が近づく。
「サクラ、その子をこっちに!」
私が言うとサクラは装置の魔法を使って少女を装置に収納する。
私が収納空間に現れた少女を抱きとめると同時に「バンッ!」と勢いよく部屋の扉が開かれる。
「おい!貴様、今ここに白い髪の子供は来なかったか?」
大柄の兵士が見た目通りの大声で言う。
「な、なにも来てないよ。」
サクラが驚いた表情で言う。
「そうか」
兵士はそう言うと部屋から出て行って、他の場所に行く。
「自分で開けた扉くらい閉めてほしいかな…一応、王様のお嫁さん候補の部屋なんだし…やっつけに行くけど…」
そんなことを呟きながら、サクラは部屋の扉を閉める。
「助かったわ!ありがとう!」
少女がスカートの裾を持ち上げてお辞儀をする。
(確かカーツィとかコーツィって呼ばれる挨拶の作法だっけ?)
そんなことを頭の片隅で考えながら、私は少女に問う。
「それは良いんだけど、まずは名前を聞いても良いかな?」
少女は少し嫌そうな表情をして言う。
「…私はナリューシャよ。」
「ナリューシャさんね。私はシェラだよ。それで、ナリューシャさんはどうして追われていたの?」
私が聞くとナリューシャは考えるような仕草をする。
「嫌なら答えなくても良いよ。何か力になれるかもしれないと思っただけだからね。」
私が優しい声で言うとナリューシャはほんの少しだけ安心したような表情で言う。
「私、逃げてきたの。この間、遠征で南の国に行った時にわかっちゃったの。この国のやり方は間違ってるって…男が言えば、女は従うしかない…王の命令には誰も逆らえない…そんな国にいるのが嫌になったの。」
「そうなのね」
私はナリューシャからは嘘偽りの無い気配を感じていた。
念の為に鑑定をしたが、怪しいと思うところは無かった。
「はぁ…こんな時に白虎の貴婦人がいてくれたら、こんな国なんかすぐ滅ぼしてくれるのに…」
「白虎の貴婦人…?」
私が首を傾げて聞き返すとナリューシャは言う。
「そうよ。なんでも白い稲妻と共に現れたアーミアの大英雄だって言われてる人よ。髪色は貴方と同じ緑色で目の色も貴方と同じような青色の…低めの身長で…」
ナリューシャの言葉が止まる。
そして、ナリューシャが考えるように顎に手を置く。
「もしかして…」
ナリューシャが呟く…
「貴方、お名前はなんと言いましたか?」
ナリューシャが確信を持った視線を向ける。
「私はシェラ・アルフェルンだよ。貴方もお察しの通り、私が白虎の貴婦人ってことになると思う。まあ、そんな異名がつけられてたなんて、今初めて知ったのだけどね。」
私がそう言うとナリューシャは頭を下げて言う。
「それは…!失礼しました。どうか、無知な娘の無礼をお許しくださいませ。」
「えぇ!?そんなことしないでよ!私はまだ未熟な立場なんだから、そんなにかしこまらないで!」
私は両手を前に突き出して首を振る。
「いいえ、貴方ほどの方に敬意をはらうなと言う方がおかしいのです!これだけは絶対に譲ることは出来ません!」
強い意志を持った瞳が私を見つめる。
「うわぁ…思ったより頑固な人だ…」
私は肩を落とす。
「でも、なんでそんなに私に敬意を表したいの?私、特に何かやった記憶はないんだけど…」
私がそう言うとナリューシャは興奮気味に言う。
「ご冗談を。貴方はたった一人でグライベルの野盗を殲滅したのでしょう?直接的ではなくとも、貴方がアーミアで活躍してくださったおかげで父上…グライベル王の注意が貴方に向いて、今までは忙しく遠征の日々だったのが遠征が無くなりましたし、何より兵士の皆さんも疲れと不満が溜まっていましたから…もちろん、弱音を吐けば、その場で殺されてしまうような状況なので誰もそんな素振りは見せられませんでした。グライベル王の注意が貴方に向いてからは王国の守りを固める方向に力を入れるようになったおかげで兵士の皆さんも以前よりかなり余裕が出来たようです。中には王には内緒で貴方に感謝をしている人もいるんですよ。特に四番隊隊長のバレッドさんなんか貴方の活躍を聞いて、救世の光が現れた!と大喜びしてましたし、この国のやり方に不満を持っている人物の一人でもあるので、とても有難い存在なのですよ!」
大興奮で盛り上がっていたナリューシャがハッとした表情をして口を閉じる。
「す、すみません…私一人で盛り上がってしまいました…」
ナリューシャは顔を赤くして言う。
「ナリューシャさんの熱意は伝わったわよ。それに元々私がこの国に来たのもグライベルの王様に物申すためだしね。」
私がそう言うとナリューシャはとても嬉しそうに目を輝かせて言う。
「ありがとうございます!貴方のお力が借りれるなんて、もう百人力ですわ!」
ナリューシャはとても嬉しそうに言う。
「ふわぁ…」
大きな欠伸をしてエリスがベッドから…あ、顔から落ちた。
すっごい痛そうに顔を押さえてる。
「く…う…痛いです…」
涙目のエリスが私を見る。
エリスの顔がみるみるうちに赤くなる。
「お、おはようございます!」
慌てた様子で立ち上がったエリスが背筋を伸ばす。
「おはよう、エリス。」
私がそう言うとナリューシャがエリスの元へ行く。
「はじめまして、アーミアの姫。私はナリューシャ。一応、貴方と同じ姫の立場になります。よろしくお願いします!」
ナリューシャがスカートの裾を持ち上げてお辞儀をしながら言って、右手を出す。
「私はアーミアの第二冠のエリスです。こちらこそよろしくお願いします。ナリューシャさん。」
エリスはどことなく…と言うかハッキリと誰がどう見ても不信感を感じているような表情をする。
「エリス、ナリューシャさんは敵ではないと思って大丈夫よ。私の鑑定結果にも悪いことは無かったから安心していいわ。」
私がそう言うとエリスはほんの少しだけ表情が柔らかくなったような気がした。
「そうですか。」
エリスはそう言うと洗面台の方へと向かう。
「あの…」
ナリューシャがエリスを呼び止めようとする。
エリスは背を向けたまま強い口調で言う。
「誤解のないようにハッキリと言っておきますが、私はグライベルと言う国が大嫌いなんです。グライベルの国民と言うだけで警戒しなければならないと思うほどには嫌いです。グライベルの国民全てが害意があるとは言えないですが、いつ裏切るかわかったものじゃないです。私にとってグライベルはそれほど忌み嫌う存在です。ましてや、その国の王族ともなれば、余計に警戒したくなるのも無理はないでしょう?」
エリスはキッパリとそう言うと顔を洗いに行く。
「そう…ですよね…普通はエリスさんのような反応が正しいです…グライベルはそれほどいろんなところで暴れていたのですから、無理もありません…」
ナリューシャはガックリと肩を落として言う。
「私は信じるよ。ナリューシャさんのこと、放っておけないし。」
「シェラ様…ありがとうございます!私、エリスさんに信頼してもらえるように頑張ります!」
そんなやり取りをしているとサクラが呼ばれる。
サクラは応答して、兵士たちに案内される。
「この先にはグライベル王が居られる。くれぐれも粗相のないようにしたまえ。」
サクラは小さな声で言う。
「行きます。」
サクラが扉を開けるとだだっ広い部屋の奥で巨大な黄金の椅子に座っている筋骨隆々で目が痛くなるような黄金の鎧を着た巨漢が見えた。
サクラは部屋の中ほどまで歩いて、片膝をついて言う。
「この度は私のような一介の小娘をご招待いただき、ありがとうございます。」
巨漢は退屈そうにサクラを見下ろす。
「少しはマシな女を持ってこれたようだな。よい。余に近寄ることを許可する。そこまで寄るが良い。」
巨漢がサクラとの間で自分側の1/4程の場所を指さす。
「失礼します。」
サクラはそう言って王の前まで歩く。
巨漢はじっとりと舐めるようにサクラを見る。
「…」
サクラはじっと王の顔を見ている。
…ように見えて、その上の黄金の王冠を見て、あれはどのくらいの価値があるのだろうなどと考えていた。
「ふむ。」
王が満足そうに頷いのを見たサクラが現実に引き戻される。
「何処を見ても余の妃に相応しい見た目をしておる。7番目の妃として迎えてやろう。」
そう言って王が黄金の玉座から降りてサクラの目の前まで歩く。
その手がサクラに触れる直前だった。
「グライベルの王様はまともに会話をしたこともないような相手を妃に迎えるんですね。勉強になります。」
「何者だ?」
王が振り返った先に居たのは…
「ごきげんよう…私の名はフィスティーナと申しますの。」
気品溢れる純白のドレスに身を包んだシェラがスカートの裾を持ち上げてお辞儀をする。
目の前の王なんかよりもよっぽど貴族らしい気品のある少女は天使のような笑みでニコリと微笑む。
「ほう?フィスティーナとな…お前も良い顔をしておる。それに余に相応しい気品も持っておる。そのうえ、良い体をしておる。良い。貴様も余の妃にしてやろう。」
若干ニヤケ顔になった王がシェラに言う。
「ご冗談を…私と貴方では釣り合いませんわ。」
シェラはニコニコと微笑んで言う。
目が笑ってないように感じたのは気のせいではないのだろうとサクラは感じた。
(あれ?シェラさんって確か…いや、気の所為かな?)
「ほう?余の誘いを断る権利があると…?」
巨漢の圧が凄まじいがシェラは気にしてない様子だった。
「私、貴方のように奪う事しか考えてない人は嫌いなんですの。」
シェラは冷たく言い放つとどこからともなく短剣を取り出し左手で構える。
「ならば、力でわからせるまで!」
巨漢が黄金の剣を引き抜く。
さらにその剣は魔力で輝いており、見るだけで目が痛くなる。
(あの短剣は…!)
サクラが柱の影に隠れたのを確認してシェラは呆れた様子で言う。
「なんて穢れた剣なのでしょう。そのようなものでは、黄金の価値も無いに等しいですわね。」
「ふむ。お前にはこの輝きが穢れて見えるのか?なんとも貧相な価値観よのう?この美しさがわからぬとは…」
王は呆れたように嗤う。
「いいえ、穢れてますわよ。だって…」
いつの間にかシェラは王の背後に現れ、首筋にその剣が突き立てられる距離にいた。
「相手の姿も見えないような光ですもの!」
シェラが首筋に剣を振るうが、巨漢の体に見合わない素早い剣で軽々と受け止められてしまう。
「クハハ!余の背後を取った程度でお前の非力さは隠せぬぞ。」
巨漢はそう言って剣を薙ぎ払いシェラを吹き飛ばす。
「あらあら…吹き飛ばされてしまいましたわね。困りましたわ。」
言葉とは裏腹にシェラは全く困ってなさそうな声で言う。
「本気を出すなら、今のうちだぞ?もっとも、そんな猶予を与えるほど、余はお人好しでは無いがな!」
巨漢か勢いよく振り下ろした剣をシェラは軽々と受け流す。
「巫山戯囃縁や凝らさ…星々の煌めきに揺らいで踊りましょう?」
視界が滲むようにシェラの姿がぼやける。
「ほう?小細工だけは出来るようだな。」
巨漢はもう一度剣を振り上げて再度振り下ろす。
シェラに確実に当たったように見えたが、シェラの姿はもうそこにはなかった。
「ふん。他愛も無い。所詮はネズミよのう。」
巨漢の背後に立つシェラが言う。
「うふふ…さすがに二度も同じ手は使えませんわね。」
シェラは楽しそうに笑う。
「余興は済んだか?ならば、叩き落としてやろう!」
ゆっくりと振り返った巨漢の黄金の剣が輝きを強める。
「くらうがよい!ゴールドストレート!」
横薙ぎの一閃がシェラを斬り裂いて、上下がバラバラになったシェラが言う。
「賑やかな宴はまだまだ終わりません…踊れや踊れ、不破風羽り…夜更けも踊りは終わりません…」
巨漢がさらに剣を薙ぎ払って、今度はシェラの首を斬る。
シェラの姿が霧のように消え、巨漢の周囲に4人のシェラが現れる。
「さぁ…欲深き王様…もっともっと踊りましょう?」
4人のシェラが一斉に斬りかかる。
「スピンゴールド!」
巨漢は薙ぎ払いの勢いで自身の周囲に斬撃を発生させ、4人のシェラの体を斬り裂く。
だが、シェラの姿が霧になると同時に別方向から新たにシェラが現れては斬りかかる。
しばらくの間、そんな代わり映えのないことを繰り返して、巨漢も慣れてきた頃だ。
「そこですわ!鎧砕き!」
今まで違う方向からしか現れなかったシェラが同じ場所に現れて巨漢の黄金の鎧を剣先で突く。
また別方向から来るものだと油断していた巨漢はその一撃を防ぐことが出来ずに鎧が粉々に破壊される。
その衝撃でほんの僅かに巨漢がよろめいたがすぐに体勢を立て直し、自身の状況を判断する。
「お前…余の鎧を破壊しよったな…その行い…余の妃で無ければ、万死に値する!」
巨漢から抗えない圧力が放たれる。
「今よ!」
「私はその権能を破壊する!!」
シェラの隣から抗えない圧力と同じ圧力が放たれて、巨漢の圧力を無力化する。
「余の権能が破壊されただと!?」
巨漢がとても驚いた様子で言う。
「当然ですよ。私も権能持ちですので!」
いつの間にかシェラの隣にいた眼鏡をかけたエリスが眼鏡をクイッと動かして言う。
「貴様は…ふん…そういうことか。アーミア風情が舐めた真似をしよって!」
巨漢が理解した様子で言う。
「一応聞きますが、貴方がグライベル王、レグルス・グライベルで間違いありませんね?」
エリスが言う。
「如何にも。余がレグルス・グライベルだ。貴様は確かアーミアの第二冠だったな。」
レグルスが剣を構えて言う。
「その通りです。そして、私は彼女の剣でもあります。」
エリスはそう言うと異空間から光り輝く剣を取り出す。
「シェラさん、指示をください。完璧に遂行しますよ。」
シェラが優しく微笑む。
「頼もしいですわ…エリスさん、私が援護しますので、完膚無きまでに叩き潰してください。」
シェラの魔法でエリスの能力が上がる。
「承知しました!」
エリスが先程とは桁違いな速度でレグルスに接近する。
「その程度で余を倒せると思うてか!」
レグルスが軽々とエリスの剣を受け止める。
「一の太刀で貫けるほど、ヤワじゃないのは想定済みです。」
エリスは素早く剣を引いてレグルスの剣から剣を離し、即座に空いている右側から剣を薙ぎ払う。
「無駄だ!」
レグルスの薙ぎ払いによってエリスが弾き飛ばされる。
「しまった!」
シェラの顔に焦りが見える。
エリスが剣を落としてしまった。
「ふん。大口を叩いたわりに呆気なかったのう?これで終いじゃ!」
「どごぉ!」と凄まじい衝撃がエリスを斬りさ…
「言ったでしょう?」
「ぬぅ?」
レグルスが違和感を感じた瞬間だった。
「一の太刀で貫けるほど、ヤワじゃないのは想定済みですってね!」
エリス…いや、シェラが落としたはずの剣でレグルスの剣を受け止めていた。
「いつの間にっ!」
気がつけばエリスの姿が無かった。
「この状況なら、確実にこれが当たります!ボルトウェイヴ!」
シェラの身体から凄まじい電撃が発せられて、一瞬にしてレグルスの体を動けなくさせる。
「オノレェ!小娘風情がぁぁぁぁぁ!」
凄まじい電撃で身動きが取れないレグルスの背後でエリスが光り輝く剣を振り上げる。
「罪深き者よ。断罪の時だ!ロンゴミニアドォ!」
剣の輝きが強まり、どこからともなく現れたエリスの振り下ろしと同時に光のビームが発射される。
それはとてつもないエネルギーだった。
とてつもない熱量と破壊を纏った光が城壁に穴を開けたのがわかったのは、それが消え去ってからだ。
「うふふ…思ったよりも簡単に終わりましたね?」
シェラがそう言って安心しているとサクラは背後になにかの気配を感じた。
サクラが振り返った瞬間、目の前には小さな魔獣の大きな口が開かれていた。
「ヒッ!」
サクラが驚いて腰を抜かし、そのまま食べられると思った矢先だった。
「ギャグアアアアアアアアス!」
魔獣の口が裂けて、真っ二つになる。
「ふぇ…?」
サクラが驚いて硬直していると先程よりも小柄な男性が現れる。
「奇襲は失敗か…」
男性はそう言うとその姿がわかるところまで出てくる。
「グライベルの王は随分と狡いお方なのですね?」
シェラがそう言うと小柄な男性が言う。
「ふん。俺の存在に気がついてたくせに何を言うか。」
小柄な男性の言葉でシェラが魔法を使ったのだと理解した。
小柄な男性はそのままゆっくりと歩いてサクラの横を通り、エリスとシェラの間を通って、玉座があった場所で立ち止まって振り返る。
「改めて、よくぞここまで来たな。俺が本物の第78代グライベル王…またの名を雷神王レグルス・グライベルだ!」
レグルスが名乗り終え、剣を振るうと同時に「バヂーン!」ととてもでは無いが当たれば無事では済まないことがわかる黒い雷撃がレグルスの背後に落ちる。
そんなレグルスに臆することなくシェラが一歩前に出て言う。
「では、私も改めて名乗らせていただきますわ…」
シェラがそう言ってマントを取るような動きをすると同時にフィナが姿を現す。
「シェラ様が一の眷属!根源の黒のフィナちゃんだワン♡」
猫耳ドラゴンメイドな姿のフィナが指でハートを作って言う。
サクラは何となくわかっていた様子だったが、エリスはとても驚いた表情をしていた。
その様子を見てレグルスが言う。
「ふん。フィナとやら、貴様の主は敵前逃亡するような腰抜けだったようだな。そんなものに使われるとは哀しいのう?」
「あら?アンタにはわからないのかしら?フィナちゃんのご主人様がたった一人でここに侵攻している根源の紫に立ち向かってるのよ。フィナちゃんたちがアンタと気兼ねなく戦えるようにしてんの。まあ、アンタがこの国を守るために加勢に行くなら、止めはしないけどね。」
フィナがそう言うとレグルスはニヤリと笑う。
「知っている。だから、そっちには我が国の最強戦力を向かわせた。ここで俺がお前たちを始末出来るようにな。」
「そう…なら…」
フィナが自身の何倍もの大きさのハンマーを召喚して左手に持つ。
「アンタを軽くぶっ飛ばしてやるわ!」
フィナがそう言って、片手でハンマーを振り払おうとした瞬間だった。
「待つのじゃ!」
寸前のところでフィナのハンマーが止まる。
「アンタは確か…」
真っ黒な羊の角の生えた晴天のような澄んだ青色の長い髪、背が低く、真冬のようなモコモコの白い服を着た女性が現れる。
対照的に女性の肌は褐色であり、大きなナイフのようなものとフォークのようなものを背中に携えていた。
「我が名は饕餮!全てを喰らい糧とする西の神だ!」
饕餮はそう言うとレグルスの方を向く。
「西の王、神である我から汝にありがたいお告げをくれてやろう。汝、繁栄を求むなら、この者たちとともにヴィオレを討て!」
レグルスはニヤリと笑う。
「俺はタダで弱いやつに従うほど甘くはねえぞ。俺になにかメリットがあるんだろうな?」
饕餮は表情を変えることなく言う。
「ほむ?我は既に契約は成しておるぞ。」
「あん?俺はテメェとは契約してねぇぞ。」
レグルスはほんの少しだけ不機嫌そうな表情で言う。
饕餮は小さくため息をついて、静かに話し始める。
「ならば、とある国の昔話をしてやろう。とある国の礎、その全ては我とかの者にある。我は己の腹を満たすために荒れ狂い、全てを喰らう日々を送っておった。そんなある日のことだ。かの者は我が身を顧みず、暴れ狂う我に言ったのだ。国を救ってくれ…とな。我は問うた。汝の願いの代償はなんだ?とな…かの者はこう言った。自分の魂を捧げると…我は悪魔であり神だ。善も悪も生も死も何もかも全て喰らい尽くす暴食の悪魔であり、厄災と邪悪を喰らう食の神だ。人間の魂一つ程度で満たされるような小さき存在ではない。故に我は拒んだ。するとかの者は言った。自分の全てを食わせてやるとな。我は何故そこまでするのかと問うた。かの者は我が国だけが全てだと言った。興味が湧いた。かの者がそれほどまでに思う国の行く末を見てやろうと思った。それが我が初めて食うこと以外に興味を持った物事だった。我はかの者に契約を取り決めることを約束した。ただし、かの者から何も喰わなかった。我を食うこと以外で惹きつけたその熱意に免じたのだ。かの者はそれを知るとこう言った。この先貴方様を進行する者としてグライベルと名乗りますとな。」
饕餮が話し終えるとレグルスは驚いた様子で言う。
「お前がグライベルの建国の神、グライアスだと言うのか?あんなもの所詮は過去の絵空事だと思っていたのだが…」
饕餮は言う。
「汝らが我をどう呼んでいたのかは知らぬ。だが、我がこの国で崇められた存在であることは汝でも理解に至ったであろう?」
レグルスは楽しそうにニヤリと笑う。
「ならば、なおのことタダで言うことを聞く訳にはいかねぇな!神の力とやらを見せてもらおうか!」
レグルスはそう言うと自身の周りに黒い雷を落とす。
「ふむ。頭の悪いやつじゃ…ほれ。そこのちっこいの、我に力を貸すがよい。面倒ごとは手早く終わらせるに限る。」
饕餮はフィナに言う。
「残念だけど、無理ね。」
フィナがそう言うとフィナたちの周囲に無数の黒い獣が現れる。
「仕方ないのう」
饕餮がナイフを構える。
「強食…」
とても低い声で饕餮が言うと一瞬で無数にいた黒い獣が不明な方法で一瞬で全て食べられた。
目の前で起こったことを見て、食べられたと認識したにも関わらずその方法は何もわからなかったのだ。
「何が起こったの!?」
フィナの驚きの声が響く。
「ほう?俺の黒獣召喚をこうもあっさりと無力化するとはな。」
レグルスはそう言うと剣に黒い雷を纏わせる。
「ならば、俺の黒雷剣で焼き殺してくれる!」
レグルスが饕餮に剣を振るうが饕餮は微動だにすることなく言う。
「喰吸」
レグルスの黒い雷が消え、ただの剣が饕餮の身体に触れる。
剣が触れたはずの饕餮の身体には傷一つなく、レグルスも何が起こったのかわからないような表情だった。
「お前、俺の剣に何をした!」
レグルスが怒りを露わにして言う。
「力を喰った。それだけのことよ。」
饕餮はそう言うと右の拳にレグルスの黒い雷を纏わせる。
「なんだと…!」
レグルスは即座に理解した様子で距離を取る。
「雷よ!」
レグルスがそう言って剣を掲げるが、何も起こらなかった。
「やはりか…」
レグルスは確信したような表情になる。
「無駄じゃ。能力破壊と同意の状態じゃからな。もっとも我の場合はその力の源を喰らっておるから、能力破壊とは別物であるがな。」
饕餮はそう言うと口から黒い球を吐き出して手に取る。
同時に饕餮の右手の黒い雷が消える。
「ほれ。これがその力の源じゃ。」
饕餮はそう言うと黒い球に魔力を注ぐ。
その瞬間、凄まじい威力の黒い雷がレグルスに向かって放たれた。
「うおっと!?」
レグルスが咄嗟に剣を投げ捨てて、剣と反対方向に逃げると剣の方に吸い寄せられた雷が剣を跡形もなく消し去っていた。
「嘘だろ…俺の黒雷剣が…」
レグルスは驚いた表情をしていた。
「当然じゃな。機転は利くようじゃが、力無きものに抗う術などない。弱肉強食とはよく言ったものじゃ。」
饕餮は当たり前のことを言うように淡々と告げる。
「我には権能も効かぬ。これが食の神の力じゃ。もちろん、我も万能ではない。我を超える人間もいた。じゃが、汝では我には勝てぬ。例え、我が四肢を封じられ、死ぬ寸前だったとしても…な。それほどまでに汝と我では力の差があるのじゃ。今の一瞬でよく身に染みたじゃろ?」
饕餮がレグルスを見る。
レグルスが膝をつく。
「俺の負けだ。現に権能を使ったが、お前を支配することができなかった。これでは何も出来ない。」
レグルスがそう言うと饕餮は言う。
「わかれば良いのじゃ。」
饕餮はそう言うとレグルスに黒い球を渡す。
レグルスが黒い球を受け取ると同時に黒い球はレグルスの中に溶けるように入って行く。
「能力は与えられたものに触れれば還る。今、我が汝にして見せたようにな。」
サクラの腕の装置から、よろめきながらナリューシャが出てくる。
「おっとっと…初めての感覚で足元がふらふらしますわね…」
「ナリューシャ!いつからそこに居た!」
ナリューシャに気がついたレグルスが怒鳴るように言う。
「お父様…いえ、グライベル王、私はグライベルの名を捨て、この国を出ます!」
ナリューシャは声高らかにそう宣言する。
「はぁ…」
レグルスは呆れた様子でため息をつく。
「ナリューシャ、俺はくだらない冗談が嫌いだ。今回は聞かなかったことにしてやるから、さっさと部屋に戻れ。」
レグルスの冷たい声が響く。
ナリューシャはそんなレグルスに対して強い声で言う。
「私はグライベルの名を捨て、シェラ様の元へ行きます!決して、くだらない冗談などではございません!私は知ってしまったのです。数々の遠征について行くうちに、この国は何かがおかしいと…それは王族ではわからないものでした。なので、私は理解しないといけません。何が間違っていて、何が正しいのか…この国ではわからないことを理解しなければなりません。だから、私はグライベルの姫では無く、ただの少女として世界を知りたい…いいえ、世界を知らなくてはならないと考えたのです!」
ナリューシャの強い視線がレグルスの視線とぶつかる。
少しの沈黙の後、レグルスが言う。
「好きにしろ。ただし、俺の血を継いでる者として、恥となる生き方はするな。」
「もちろんですわ!」
ナリューシャが力強く返事をする。
「饕餮、俺は兵を集める。お前はナリューシャを連れて行け。そいつも俺の血を持つ者だ。必ず役に立つ。」
レグルスが饕餮に言う。
「ほう?面白い。ならば、汝の娘、存分に使わせてもらおうではないか。」
饕餮はそう言うとナリューシャの口に吸い込まれるような感覚でナリューシャの中に入る。
「な、何が起きたのですか!?」
ナリューシャが驚いた様子で言う。
『我は神じゃ。強大な力を持つ代わりにこの国の領域から出ることは出来ぬ存在なのじゃ。故に汝の中に我の社を創り、その中に住むことにした。簡単に言えば、汝の身体を借りて、汝の近くであれば、我もこの国の外に出られるようにしたわけじゃ。少しだけなら我の力を使うことも出来るから、悪いことは無いはずじゃ。』
饕餮がナリューシャの中から頭に直接響くような声で言う。
「そうなんですね!私、頑張ります!饕餮様の力とお父様の力を使いこなしてみせます!」
『ふん。期待しておるぞ。』
饕餮がそう言うと頭の中に感じていた不思議な感覚が無くなる。
「とりあえず、シェラ様の元に行けばいいのよね?」
フィナが言う。
「そうですね。当初の目的とは違いますが、それよりも看過できない問題が発生しましたからね。」
エリスはそう言うと異空間に剣をしまう。
「なら、レグルスとの戦いはお預けか~」
フィナはそう言って魔法陣を描く。
「心配せずとも終わったら殺しに行く。舐めた真似をされたままでは俺の気が収まらねぇからな。」
レグルスがニヤリと笑う。
「あはは!楽しみにしてるよ。西の王様。」
フィナが魔法陣を起動させる。
「フィナさん、サクラさん、ナリューシャさん、行きましょう。」
エリスの号令とともに全員が魔法陣に乗るとそのまま転移される。
魔法陣が消えた部屋でレグルスが言う。
「さてと…そろそろアイツも着いた頃かな?」
レグルスは部屋を出て兵を集める。
「…」
黒いフードの中性的な外見の人型実体が現れる。
「まもなく接触するでしょう…えぇ…わかってます…」
実態はどこかへと連絡をする素振りをして闇に溶けるように消える。
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