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現代の常識学
【アイエフ03】数多の世界1
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この【アイエフ】"数多の世界"
は本編の中で起こりえた選択肢の1つを題材にしてます。
今回は主人公が「シェテラエンデの生まれ変わりのシェラ」ではなく、大賢者の記憶を持った少女の「アイリス」として生きる選択をした世界をお届けいたします。
それでは、アイリスの物語をお楽しみくださいませ…
「おはよう、シスター・マリア!」
アタシは目の前の修道女に挨拶する。
「はい。おはようございますなのです。アイリス。今日もお元気そうで何よりなのです。」
マリアはニコリと優しく微笑み、返事をする。
「おかげさまで元気にやってるわ。元気だけがアタシの取り柄だもん!」
「それは良かったのです!アイリスはいつも皆のお世話をしてくれますし、私たちも助かっているのです。それに細かいところも気がついてくれるのは私たちにとってもありがたいことなのです。」
「アタシもやりたくてやってるわけだけど、マリアに褒められるのは嬉しいわ♪」
そんな事を言いながら、アタシはいつものようにテキパキと担当の掃除場所を綺麗にしていく。
…ただ一つ、今朝はいつもとは違う事があった。
アタシは自分が「大賢者の生まれ変わり」だと思い出したのだ。
だが、アタシの日々が変わることはない。
いつも通りに生活するだけだと思っていた。
そんな感じでアタシはいつもと変わらず、孤児院の担当場所の掃除をして、畑の手入れをする。
「そうだわ。せっかくなんだし、大賢者様の魔法でも使ってみようかしら…」
アタシは大賢者の記憶から目的の魔法を思い出す。
「水よ、我が声に応えよ…レインシャワー!」
アタシが左手を突き出すとその先から魔法陣が展開され、そこからジョウロの水みたいな弱い水の流れが発生する。
「これが魔法ねぇ…実際に使ってみると便利で面白い力ね。」
アタシはそんなことを言いながら、いろんな魔法を使ってみる。
とは言っても、使ったのは遊びで使える程度の魔法ばかりだ。
小さな光がキラキラ光る魔法「エフェクト」、微量の霧を発生させる魔法「ミスト」みたいな攻撃力もないような魔法ばかりだ。
そんな感じでいつも通りの自由気ままな半日が終わって、お昼ご飯を食べる時だった。
「すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」
銀色の美しい毛並みの狐の獣人の女性が孤児院の扉を開く。
「ご要件はなにかしら?シスターに代わってアタシが聞くわ。」
アタシはたまたまその場に居たという理由で女性の要件を聞くことにした。
「あら、可愛らしいお嬢さんですね。お名前をうかがってもよろしいですか?」
女性は笑顔でアタシに言う。
「アタシはアイリスよ。」
アタシは笑顔で言う。
いつものように要件を聞いてシスターに伝えるだけ、それだけだと思っていたのだ。
だからこそ、女性のその言葉にはとても驚いた。
「アイリス…良い名前ですね。私は貴方を引き取ることにします。」
女性がとても嬉しそうに言う。
「…へ?」
アタシが驚いてポカーンとしているとシスター・マリアが鼻歌を歌ってスキップをしながら…あ、やめちゃった。
すっごい恥ずかしそうな表情してる。
「お客さんが来ていたとは気がつかなくてごめんなさいね。私はこの孤児院のシスターのマリアです。」
マリアが丁寧にお辞儀をして言う。
「ご丁寧にありがとうございます。私は神崎時雨と申します。今日はこの子…アイリスさんを引き取りに来ました。」
時雨はとても優しい笑顔で言う。
「まあ!そうなんですね!アイリスは院の子の中でも人一倍優しくて元気で可愛らしい子なんですよ。書類をご用意いたしますので、あちらの席に座ってお待ちください。せっかくなので、アイリスも時雨様と一緒に居ていいですよ。」
マリアはそう言うと今にも飛び立ちそうなほど軽い足取りで書類を取りに向かう。
「えっ…あの…えぇ…?」
困惑を隠しきれないまま、アタシは時雨の膝の上に座る。
…と言うか、抱き上げられて座らされた。
背中に豊満な圧力を感じるが、気にしないことにしよう。
ほんの少しの間ではあるが、無言で頭を撫でられている時間はまるで永遠のような時間だった。
アタシの内心は気まずいどころではなかった。
「私、ずっと子供がほしかったんです。」
時雨が突然話しだす。
「…」
アタシは黙って時雨の言葉を待つ。
「私には夫がいました。それはそれはとても優しいお方でした…」
時雨は少しだけ寂しそうに言う。
「ですが、終わりと言うものは呆気ないもので、私が子供が産めない体だとわかった途端に彼は消えてしまったのです。数年後、彼を見つけた時にはもう別の女と子供の居る幸せな家庭を築いておりました。最初は恨み悲しみましたが、今はもうどうでもいい過去の話です。」
時雨はそういうととても優しくアタシの身体を抱きしめる。
「今は貴方を育てる幸せがある。まだ貴方は私の子になってませんが、私は一目見て貴方となら幸せな家庭を築けると思ったんです。だから、私は絶対に貴方を私の子に迎え入れたいと思っています。本当の家族のように愛情たっぷりで暮らしましょうね。」
時雨の表情を見なくても優しい目で見ているのがわかる。
「アタシは産まれてすぐにこの近くに捨てられていたらしいわ。」
アタシがそう言うと時雨はハッとしたように体を震わせる。
「だから、本当の家族がどうとかはわかんないし、親の愛情ってやつもわからないわ。アタシにとってここ以外のことは知らないことだもの…」
時雨はどこか悲しげな雰囲気を出していた。
「だけど、時雨さんの思いはわかったわ。だから…その…うまく言えないけど…いつか本当の家族みたいになれたら、お母さんって呼んでもいいかしら?」
アタシは時雨の顔を見上げる。
時雨の表情はとても嬉しそうだった。
「はい!いつでもお待ちしてますよ!アイリスが私をお母さんと呼べるように愛を持ってしっかりと絆を深めていきます!」
時雨はとても嬉しそうに言う。
(アタシもいつか親子を理解したいな…そしたら、多分今の時雨さんの気持ちもわかるんだと思うし…)
いや、記憶としては嫌な記憶はある。
だけど、アタシは物心ついた時から、この孤児院で暮らすただの少女のアイリスだ。
彼女の記憶は関係無い。
…まあ、良い記憶でもないからね。
アタシなら、思い出したくない記憶だし…
そんなことを考えているとマリアが戻ってくる。
「あら?もう仲良くなられたんですね!先程よりも少し楽しそうな雰囲気がします。」
マリアは嬉しそうに微笑む。
「あ、こちらは書類ですね。こちらの注意事項をご確認の上、サインをお願いします。」
時雨はマリアから書類を受け取ると真剣な眼差しで書類を読んで自分の名前を書類に書く。
「ありがとうございます。手続き自体はこれで終わりとなります。アイリスもなにかあれば遠慮なく孤児院に手紙を書いてくださいね。」
「そうね。暇な時にでも手紙を送るわ!」
アタシはそう言って時雨の膝の上から降りる。
「アタシの荷物を持ってくるわ。ついでに、他の子にもお別れの挨拶をしてくる。」
アタシはそう言って、自室に戻り、自分の荷物を持って、仲の良かった子供や起きてる子供たちに別れの挨拶を告げる。
そして、アタシはマリアと時雨とともに孤児院の出口まで歩く。
「アイリスちゃん!」
一人の少女が追いかけてくるが、途中で派手に転ぶ。
「アルテア!」
アタシは少女の目の前まで駆け寄る。
「大丈夫だよ…アルは強いから…」
アルテアはそう言ってゆっくりと自分の力で立ち上がる。
とても大丈夫だとは思えないくらい鼻から血を流していたが、アルテアはとても良い笑顔で微笑む。
「鼻血出てるわよ。」
アタシはアルテアの頬を両手で包んで、「簡易治癒魔法」を使う。
魔法とはなんとも便利なものだ。
「アイリスちゃん」
アルテアがなにかに気がついた様子でアタシの顔を見る。
「内緒よ。」
アタシは小さな声でアルテアにいう。
「うん!」
アルテアは嬉しそうに笑って言う。
あとから気がついた時雨とマリアが戻ってくる。
「アルテアさん、大丈夫ですか?!」
マリアがハンカチでアルテアの顔を拭く。
「大丈夫!ちょっと転んじゃっただけだから!」
「気をつけてくださいね。ただでさえ、貴方は転んで鼻血を出す頻度が多いんですから…」
「マリアさんは心配性だなぁ…アルは強いから大丈夫だよ!」
「そういうことを言ってる訳では無いのですが…まあ、大きな怪我は無かったので良いでしょう。」
気を取り直して、門の前まで移動する。
「アイリス、これからは時雨さんに迷惑をかけないように暮らすんですよ。」
マリアが笑顔で言う。
「もちろんよ。シスター・マリアも元気でね!」
アルテアがアタシの手を握る。
「アイリスちゃん、頑張ってね!アルも頑張るから!」
アタシは空いてる手でアルテアの頭を撫でる。
「フフッ…アタシが居ないからって、泣くんじゃないわよ?」
アタシがそう言うとアルテアが手を離して腰に手を当てて頬をふくらませて怒る。
「むー、泣かないもん!」
「フフッ…そうね。アルテアは強いもんね。」
二人とも、アタシの姿が見えなくなるまで手を振っていた。
アタシは時雨の先を歩く。
「さ、行くわよ!早く行かないと日が暮れて大変なことになるわ。」
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。着いてきてくださいな。」
少しだけ、時雨に連れられて歩いていると全身真っ白な毛色のとてもモフモフな龍が空から降りてくる。
パッと見は大きな狐のような姿で翼も無い姿のため、翼で飛んだりは出来ないのだが、魔力の扱いに長けている種族であるため、魔力で浮遊しているようだ。
「これは…狐龍?」
アイリスが首を傾げて言う。
「アイリスは賢いですね。この子は私が契約した狐龍のシラユリです。シラユリ、こちらは今日から私の娘になるアイリスですよ。仲良くしてあげてくださいね。」
時雨がそう言うと「オン!」とシラユリが鳴いて頭を下げる。
「シラユリちゃん、これからよろしくね。」
アタシはそっとシラユリの頭を撫でる。
『お主は博識じゃな。我ら狐龍の雌雄を判別することは並大抵の知識では出来ないことなのだが…』
「そうだね。アタシは見たらわかるけど、普通は見ただけじゃわからないと思うわ。男の子より女の子の方が丸い頭なのよね。」
『うむ。オスはマーキングの為に頭を住家周辺の木に擦る習性があるから頭が少し尖っておるのじゃ。メスはその習性がないから丸い頭と言うわけだな。』
シラユリの様子を見て時雨が驚く。
「まあ!アイリスは天才ですね!私でも気がつくのに何年もかかってようやく見分けがつくようになったのに…これは将来有望ですわ!うふふ…今から楽しみです~」
そんな時雨の様子を見てシラユリが言う。
『主も博識であったが、その娘はそのさらに先を行く才能があるようじゃな。主もうかうかしてられんな。』
「そうですね。いつかは私よりも優れた考古学者になってもらいましょうか…なんてね♪」
そんなことを言って時雨はシラユリの背中に乗る。
考古学者かぁ…アタシも目指してみようかな…
「さ、アイリス、私の手を握ってください」
アタシはそのまま時雨の手を握りって引っ張りあげてもらう。
『ふむ。娘よ、お主は初めて龍に乗ったにしては乗り方が上手じゃ。主が初めて我に乗った時よりも気持ちがいい。』
シラユリが少し嬉しそうに言う。
「アイリスはほんとに凄いですね~!それじゃあ、狐龍の里に案内して、アイリスに合う子を連れてきてもらいましょうか?そうすれば、私たちの妖狐の里でも目立たない姿になれますし」
『うむ。それが良かろうな。里のものも他種族が住むのは嫌がるじゃろうからな…難儀な奴らじゃ。』
シラユリはそう言って頭を上げると魔力を使って空へ浮き上がる。
「妖狐の里って今も排他的な感じなのかしら…」
無意識に言葉が出てきてしまった。
アタシはやってしまったと思った。
妖狐の里のことはほとんど知られていないはずなのだ。
アタシは大賢者の記憶があるからよく知っているだけの存在だ。
しかし、時雨もシラユリもアタシの発言にはあまり大きな反応は無かった。
「そうですね…とても残念なことですが、今でも妖狐の里は妖狐以外が住むことを良しとしていません。今は他種族の冒険者が泊まりに来る程度は許容していますが、住むのは嫌がられますね。」
時雨が悲しそうに言う。
『昔に比べればまだマシじゃが、今でもここまで排他的なのは妖狐の里と人狼の里だけじゃな。人狼の里の場合は人狼以外は食べられるから寄りつく者が少ないと言うのが大きいが…』
シラユリは呆れたように言う。
しばらくして、シラユリが降り立つ。
「着きましたよ。この先に狐龍の里があります。」
時雨がそう言うとシラユリがほんの少しだけ嫌そうな声で言う。
『我はここで待ってるぞ。』
「あら?良いんですか?せっかく、シラユリの母上と会うチャンスですのに…」
『…我はいい。』
シラユリは早くここから離れたいと言うかのようにそっぽを向く。
「あらあら…」
時雨がそんなシラユリを見て笑っていると…
「あ、お姉ちゃんだ!」
一匹の子供の狐龍がシラユリを見て言う。
『厄介なのに見つかった…』
シラユリがとても小さな声で嫌そうに言う。
時雨が狐龍の元へ行って言う。
「こんにちは。妹ちゃん、今日はなにをしてるんですか?」
「わー!時雨お姉さんだ!こんにちわー!私はね、今日はドドングリをたっくさん集めてきたんだ!」
狐龍は嬉しそうに話す。
「そうなんですね。ところで今日は長老様はいますか?」
時雨が聞くと里の方から白く美しい長髪の女性がやってくる。
「懐かしい匂いがしたと思ったら、時雨か。」
女性は平常なフリをしていたが、13本の尻尾が横に大きく揺れていた。
「長老様、こんにちは!」
「うむ。こんにちは。して、この娘は?」
アタシに気がついた狐龍の里の長老が言う。
「この子は私の娘のアイリスです。とは言っても、長老様もご存知のように私は子供を産めませんので、実子では無いのですが…」
時雨がそう言ってアタシを紹介する。
「初めまして。アタシは時雨の娘、アイリスよ。」
軽く頭を下げてお辞儀をして、顔を上げると同時に長老の顔を見る。
「うむ。アイリスと言うのだな。良い目をしておる。私の幼い頃の師匠のような優しくて強い者の目だ。」
長老は全てわかっているかのような表情をしていた。
「長老様はとても聡明な狐龍の王様みたいな人なんですよ。」
「ふん。そんなたいそれたもんじゃないよ。ただ長生きしているだけの老いぼれさ。」
長老はそう言うとアタシの身体をモフモフの尻尾で包み込む。
全身を擽られているような感覚に身体が動きそうになる。
「ほれ。これで妖狐っぽくなっただろう?」
長老が尻尾を離すとアタシの身体に限りなく白に近い銀色の狐の尻尾があった。
より正確には大きな狐耳と背丈の倍近くある大きな狐の尻尾が生えていた。
それに伴ってなのか、アタシの髪色も白に近い銀色に変化していた。
「これは…狐化かしら…?」
アタシが言うと長老が頷く。
「うむ。じゃが、その辺の狐が使うものとは違い、お主の身体の構造をそのまま妖狐のものに変えたのじゃ。お主なら、その原理もわかるだろう?」
これは対象に制約をかけて、自在に操る魔法の支配を応用したものだ。
ドミネイトをアタシに使用し、制約をかけてアタシの身体を変化させる。
ただし、通常のドミネイトと違うのは、支配権と対象が同じと言う点だ。
長老の力でアタシがアタシを妖狐になれるように身体の構造を支配したと言うこと。
平たく言えば、本来は人間だったアタシを妖狐にしたってことね。
…いや、よくわかんないわねこれ。
うん。深く考えないことにしよう。
「長老様が手を貸すなんて珍しいですね。特にこの娘は人間ですし…」
時雨が珍しいものを見たと言った表情で言う。
「そうじゃな。今でも師匠以外の人間は嫌いじゃが、この娘は別じゃ。それに恩人の時雨の娘ともあれば、私が手を貸さない理由など無いに等しい。」
長老はどこか嬉しそうに言うとシラユリの妹に言う。
「お主、外の世界に興味があると言っておったよな?」
「うん!元々外の世界には興味があったけど、お姉ちゃんが時雨さんと一緒になってからはもっと外の世界に興味が出てきたんだ!」
妹は嬉しそうな声で応える。
「うむ。アイリスよ。お主に娘を託したいと思う。無論、お主が良ければの話だが…」
「ほんと?!あたしもお姉ちゃんみたいに外に出られるの?!」
「アイリスと契約すれば可能じゃ。」
「アイリスさん!お願いします!あたし…じゃなかった…私を外の世界に連れてってください!」
とても嬉しそうに目を輝かせて妹は言う。
「良いわよ。元々ここにはその為に来たわけだしね。」
アタシが承諾すると妹は大喜びで飛び上がる。
「やったー!ありがとうアイリスさん!」
「ええ、こちらこそよ。」
アタシがそう言うと長老がシラユリに言う。
「シラユリ、お前はこの里の禁忌を犯したから追い出す形で契約させたな。」
『…』
「今回は不問にしてやる。ただし、姉として妹の面倒は見てあげなさい。」
『言われるまでもない。私を姉と呼んでくれる存在を失いたくは無いからな…』
「そうだな。お前が禁忌を犯したのもそれが理由だったな。」
『…』
「シラユリ、もう帰ってくるなよ。」
長老はそう言うと森の奥へと帰っていく。
「アイリス、名付けをしてくれませんか?契約を完了させるには名付けが必要なんです。」
時雨が言うと妹は「ぱあああ!」って聞こえてきそうなほど期待した眼差しを向けてくる。
シラユリとは違って薄緑の毛色をしており、毛の量も少なく、狐龍と言うよりは獣人に近い姿をしていた。
瞳の色はシラユリと同じ薄紫であるが、シラユリよりも光を受けた時の輝きが青いのが特徴だ。
背は低く、まるで人間の子供のようなサイズ感だ。
アタシはこっちの方が抱きしめやすいから好きかな。
もふもふ感で言ったら、シラユリが一番だけど。
あっちは二足歩行のでかいキツネみたいだしね。
…本人に聞かれたら、ちょっと怒られそうだけど。
「アオバ…なんてどうかしら?貴方の綺麗な瞳の青と若葉のような毛色から取ったのだけど…」
「わ~い!素敵な名前をありがとうなの!」
妹改め、アオバが嬉しそうに飛び跳ねる。
「気に入ってくれたなら良かったわ」
「うん!とってもとーっても気に入ったよ!あたし、ご主人様の役に立てるように頑張るね!」
こうしてアタシとアオバの契約が成立したのであった。
『お前、浮遊は使えるのか?』
シラユリは淡々と言う。
「ん~…わかんない!多分出来ると思う!」
そう言ってアオバが力を込めると、アオバの身体が少しだけ浮く。
「わわっ!出来ちゃ…きゃっ!」
気を抜いた瞬間に落ちた。
シラユリは大きなため息をついて言う。
『はぁ…ロクに修行もしておらんかったようだな。怠け癖が酷いのは相変わらずじゃ。』
「ぐぬぬ…事実だから言い返せない…」
悔しそうにアオバが表情を変える。
「安心なさい。これからはアタシがビシバシと鍛えるつもりよ。そうでなければ、アタシの横を歩かせるわけにはいかないわ。」
アタシもシラユリの意見には賛成だった。
自分の身を守る力を少しでもつけさせたいと言う思いがあってなのだ。
「ひえぇ…時雨お姉さん助けてぇ!」
アオバが時雨に泣きつく。
「アオバちゃん、自衛の力は必要なんですよ。アオバちゃんは可愛いから気をつけないといけないことだらけなんです。本当はあまり言いたくはないけど、世の中には悪い人もたくさんいます。自分の身を守るためにもアイリスを守るためにも強くならないといけないのです…」
時雨はどこか悲しそうに言う。
「くぅ…そこまで言われちゃうと嫌ですって言えない…それにご主人様のお役に立つって約束したばっかだし…」
アオバはとても嫌そうにしているが、やる気は出したようだった。
『心配するでない。アイリスは博識な娘じゃ。ワシらのこともよくわかっておるし、妖狐についても知っておる。アイリスの手にかかれば赤子でも10日で歩けるようになるであろうぞ。』
シラユリが楽しげに笑う。
「アンタ、見かけによらず良い性格してるわね…まあ、アタシが持ってる知識をフル活用すれば、10日と言わずに2日で別人のように仕立て上げることも出来ると思うけど…」
「ひえぇ…お手柔らかにお願いしますぅ…」
アオバが死にそうな表情で言う。
アタシたちはそんなアオバの様子を笑いながら妖狐の里へと向かうのであった。
は本編の中で起こりえた選択肢の1つを題材にしてます。
今回は主人公が「シェテラエンデの生まれ変わりのシェラ」ではなく、大賢者の記憶を持った少女の「アイリス」として生きる選択をした世界をお届けいたします。
それでは、アイリスの物語をお楽しみくださいませ…
「おはよう、シスター・マリア!」
アタシは目の前の修道女に挨拶する。
「はい。おはようございますなのです。アイリス。今日もお元気そうで何よりなのです。」
マリアはニコリと優しく微笑み、返事をする。
「おかげさまで元気にやってるわ。元気だけがアタシの取り柄だもん!」
「それは良かったのです!アイリスはいつも皆のお世話をしてくれますし、私たちも助かっているのです。それに細かいところも気がついてくれるのは私たちにとってもありがたいことなのです。」
「アタシもやりたくてやってるわけだけど、マリアに褒められるのは嬉しいわ♪」
そんな事を言いながら、アタシはいつものようにテキパキと担当の掃除場所を綺麗にしていく。
…ただ一つ、今朝はいつもとは違う事があった。
アタシは自分が「大賢者の生まれ変わり」だと思い出したのだ。
だが、アタシの日々が変わることはない。
いつも通りに生活するだけだと思っていた。
そんな感じでアタシはいつもと変わらず、孤児院の担当場所の掃除をして、畑の手入れをする。
「そうだわ。せっかくなんだし、大賢者様の魔法でも使ってみようかしら…」
アタシは大賢者の記憶から目的の魔法を思い出す。
「水よ、我が声に応えよ…レインシャワー!」
アタシが左手を突き出すとその先から魔法陣が展開され、そこからジョウロの水みたいな弱い水の流れが発生する。
「これが魔法ねぇ…実際に使ってみると便利で面白い力ね。」
アタシはそんなことを言いながら、いろんな魔法を使ってみる。
とは言っても、使ったのは遊びで使える程度の魔法ばかりだ。
小さな光がキラキラ光る魔法「エフェクト」、微量の霧を発生させる魔法「ミスト」みたいな攻撃力もないような魔法ばかりだ。
そんな感じでいつも通りの自由気ままな半日が終わって、お昼ご飯を食べる時だった。
「すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」
銀色の美しい毛並みの狐の獣人の女性が孤児院の扉を開く。
「ご要件はなにかしら?シスターに代わってアタシが聞くわ。」
アタシはたまたまその場に居たという理由で女性の要件を聞くことにした。
「あら、可愛らしいお嬢さんですね。お名前をうかがってもよろしいですか?」
女性は笑顔でアタシに言う。
「アタシはアイリスよ。」
アタシは笑顔で言う。
いつものように要件を聞いてシスターに伝えるだけ、それだけだと思っていたのだ。
だからこそ、女性のその言葉にはとても驚いた。
「アイリス…良い名前ですね。私は貴方を引き取ることにします。」
女性がとても嬉しそうに言う。
「…へ?」
アタシが驚いてポカーンとしているとシスター・マリアが鼻歌を歌ってスキップをしながら…あ、やめちゃった。
すっごい恥ずかしそうな表情してる。
「お客さんが来ていたとは気がつかなくてごめんなさいね。私はこの孤児院のシスターのマリアです。」
マリアが丁寧にお辞儀をして言う。
「ご丁寧にありがとうございます。私は神崎時雨と申します。今日はこの子…アイリスさんを引き取りに来ました。」
時雨はとても優しい笑顔で言う。
「まあ!そうなんですね!アイリスは院の子の中でも人一倍優しくて元気で可愛らしい子なんですよ。書類をご用意いたしますので、あちらの席に座ってお待ちください。せっかくなので、アイリスも時雨様と一緒に居ていいですよ。」
マリアはそう言うと今にも飛び立ちそうなほど軽い足取りで書類を取りに向かう。
「えっ…あの…えぇ…?」
困惑を隠しきれないまま、アタシは時雨の膝の上に座る。
…と言うか、抱き上げられて座らされた。
背中に豊満な圧力を感じるが、気にしないことにしよう。
ほんの少しの間ではあるが、無言で頭を撫でられている時間はまるで永遠のような時間だった。
アタシの内心は気まずいどころではなかった。
「私、ずっと子供がほしかったんです。」
時雨が突然話しだす。
「…」
アタシは黙って時雨の言葉を待つ。
「私には夫がいました。それはそれはとても優しいお方でした…」
時雨は少しだけ寂しそうに言う。
「ですが、終わりと言うものは呆気ないもので、私が子供が産めない体だとわかった途端に彼は消えてしまったのです。数年後、彼を見つけた時にはもう別の女と子供の居る幸せな家庭を築いておりました。最初は恨み悲しみましたが、今はもうどうでもいい過去の話です。」
時雨はそういうととても優しくアタシの身体を抱きしめる。
「今は貴方を育てる幸せがある。まだ貴方は私の子になってませんが、私は一目見て貴方となら幸せな家庭を築けると思ったんです。だから、私は絶対に貴方を私の子に迎え入れたいと思っています。本当の家族のように愛情たっぷりで暮らしましょうね。」
時雨の表情を見なくても優しい目で見ているのがわかる。
「アタシは産まれてすぐにこの近くに捨てられていたらしいわ。」
アタシがそう言うと時雨はハッとしたように体を震わせる。
「だから、本当の家族がどうとかはわかんないし、親の愛情ってやつもわからないわ。アタシにとってここ以外のことは知らないことだもの…」
時雨はどこか悲しげな雰囲気を出していた。
「だけど、時雨さんの思いはわかったわ。だから…その…うまく言えないけど…いつか本当の家族みたいになれたら、お母さんって呼んでもいいかしら?」
アタシは時雨の顔を見上げる。
時雨の表情はとても嬉しそうだった。
「はい!いつでもお待ちしてますよ!アイリスが私をお母さんと呼べるように愛を持ってしっかりと絆を深めていきます!」
時雨はとても嬉しそうに言う。
(アタシもいつか親子を理解したいな…そしたら、多分今の時雨さんの気持ちもわかるんだと思うし…)
いや、記憶としては嫌な記憶はある。
だけど、アタシは物心ついた時から、この孤児院で暮らすただの少女のアイリスだ。
彼女の記憶は関係無い。
…まあ、良い記憶でもないからね。
アタシなら、思い出したくない記憶だし…
そんなことを考えているとマリアが戻ってくる。
「あら?もう仲良くなられたんですね!先程よりも少し楽しそうな雰囲気がします。」
マリアは嬉しそうに微笑む。
「あ、こちらは書類ですね。こちらの注意事項をご確認の上、サインをお願いします。」
時雨はマリアから書類を受け取ると真剣な眼差しで書類を読んで自分の名前を書類に書く。
「ありがとうございます。手続き自体はこれで終わりとなります。アイリスもなにかあれば遠慮なく孤児院に手紙を書いてくださいね。」
「そうね。暇な時にでも手紙を送るわ!」
アタシはそう言って時雨の膝の上から降りる。
「アタシの荷物を持ってくるわ。ついでに、他の子にもお別れの挨拶をしてくる。」
アタシはそう言って、自室に戻り、自分の荷物を持って、仲の良かった子供や起きてる子供たちに別れの挨拶を告げる。
そして、アタシはマリアと時雨とともに孤児院の出口まで歩く。
「アイリスちゃん!」
一人の少女が追いかけてくるが、途中で派手に転ぶ。
「アルテア!」
アタシは少女の目の前まで駆け寄る。
「大丈夫だよ…アルは強いから…」
アルテアはそう言ってゆっくりと自分の力で立ち上がる。
とても大丈夫だとは思えないくらい鼻から血を流していたが、アルテアはとても良い笑顔で微笑む。
「鼻血出てるわよ。」
アタシはアルテアの頬を両手で包んで、「簡易治癒魔法」を使う。
魔法とはなんとも便利なものだ。
「アイリスちゃん」
アルテアがなにかに気がついた様子でアタシの顔を見る。
「内緒よ。」
アタシは小さな声でアルテアにいう。
「うん!」
アルテアは嬉しそうに笑って言う。
あとから気がついた時雨とマリアが戻ってくる。
「アルテアさん、大丈夫ですか?!」
マリアがハンカチでアルテアの顔を拭く。
「大丈夫!ちょっと転んじゃっただけだから!」
「気をつけてくださいね。ただでさえ、貴方は転んで鼻血を出す頻度が多いんですから…」
「マリアさんは心配性だなぁ…アルは強いから大丈夫だよ!」
「そういうことを言ってる訳では無いのですが…まあ、大きな怪我は無かったので良いでしょう。」
気を取り直して、門の前まで移動する。
「アイリス、これからは時雨さんに迷惑をかけないように暮らすんですよ。」
マリアが笑顔で言う。
「もちろんよ。シスター・マリアも元気でね!」
アルテアがアタシの手を握る。
「アイリスちゃん、頑張ってね!アルも頑張るから!」
アタシは空いてる手でアルテアの頭を撫でる。
「フフッ…アタシが居ないからって、泣くんじゃないわよ?」
アタシがそう言うとアルテアが手を離して腰に手を当てて頬をふくらませて怒る。
「むー、泣かないもん!」
「フフッ…そうね。アルテアは強いもんね。」
二人とも、アタシの姿が見えなくなるまで手を振っていた。
アタシは時雨の先を歩く。
「さ、行くわよ!早く行かないと日が暮れて大変なことになるわ。」
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。着いてきてくださいな。」
少しだけ、時雨に連れられて歩いていると全身真っ白な毛色のとてもモフモフな龍が空から降りてくる。
パッと見は大きな狐のような姿で翼も無い姿のため、翼で飛んだりは出来ないのだが、魔力の扱いに長けている種族であるため、魔力で浮遊しているようだ。
「これは…狐龍?」
アイリスが首を傾げて言う。
「アイリスは賢いですね。この子は私が契約した狐龍のシラユリです。シラユリ、こちらは今日から私の娘になるアイリスですよ。仲良くしてあげてくださいね。」
時雨がそう言うと「オン!」とシラユリが鳴いて頭を下げる。
「シラユリちゃん、これからよろしくね。」
アタシはそっとシラユリの頭を撫でる。
『お主は博識じゃな。我ら狐龍の雌雄を判別することは並大抵の知識では出来ないことなのだが…』
「そうだね。アタシは見たらわかるけど、普通は見ただけじゃわからないと思うわ。男の子より女の子の方が丸い頭なのよね。」
『うむ。オスはマーキングの為に頭を住家周辺の木に擦る習性があるから頭が少し尖っておるのじゃ。メスはその習性がないから丸い頭と言うわけだな。』
シラユリの様子を見て時雨が驚く。
「まあ!アイリスは天才ですね!私でも気がつくのに何年もかかってようやく見分けがつくようになったのに…これは将来有望ですわ!うふふ…今から楽しみです~」
そんな時雨の様子を見てシラユリが言う。
『主も博識であったが、その娘はそのさらに先を行く才能があるようじゃな。主もうかうかしてられんな。』
「そうですね。いつかは私よりも優れた考古学者になってもらいましょうか…なんてね♪」
そんなことを言って時雨はシラユリの背中に乗る。
考古学者かぁ…アタシも目指してみようかな…
「さ、アイリス、私の手を握ってください」
アタシはそのまま時雨の手を握りって引っ張りあげてもらう。
『ふむ。娘よ、お主は初めて龍に乗ったにしては乗り方が上手じゃ。主が初めて我に乗った時よりも気持ちがいい。』
シラユリが少し嬉しそうに言う。
「アイリスはほんとに凄いですね~!それじゃあ、狐龍の里に案内して、アイリスに合う子を連れてきてもらいましょうか?そうすれば、私たちの妖狐の里でも目立たない姿になれますし」
『うむ。それが良かろうな。里のものも他種族が住むのは嫌がるじゃろうからな…難儀な奴らじゃ。』
シラユリはそう言って頭を上げると魔力を使って空へ浮き上がる。
「妖狐の里って今も排他的な感じなのかしら…」
無意識に言葉が出てきてしまった。
アタシはやってしまったと思った。
妖狐の里のことはほとんど知られていないはずなのだ。
アタシは大賢者の記憶があるからよく知っているだけの存在だ。
しかし、時雨もシラユリもアタシの発言にはあまり大きな反応は無かった。
「そうですね…とても残念なことですが、今でも妖狐の里は妖狐以外が住むことを良しとしていません。今は他種族の冒険者が泊まりに来る程度は許容していますが、住むのは嫌がられますね。」
時雨が悲しそうに言う。
『昔に比べればまだマシじゃが、今でもここまで排他的なのは妖狐の里と人狼の里だけじゃな。人狼の里の場合は人狼以外は食べられるから寄りつく者が少ないと言うのが大きいが…』
シラユリは呆れたように言う。
しばらくして、シラユリが降り立つ。
「着きましたよ。この先に狐龍の里があります。」
時雨がそう言うとシラユリがほんの少しだけ嫌そうな声で言う。
『我はここで待ってるぞ。』
「あら?良いんですか?せっかく、シラユリの母上と会うチャンスですのに…」
『…我はいい。』
シラユリは早くここから離れたいと言うかのようにそっぽを向く。
「あらあら…」
時雨がそんなシラユリを見て笑っていると…
「あ、お姉ちゃんだ!」
一匹の子供の狐龍がシラユリを見て言う。
『厄介なのに見つかった…』
シラユリがとても小さな声で嫌そうに言う。
時雨が狐龍の元へ行って言う。
「こんにちは。妹ちゃん、今日はなにをしてるんですか?」
「わー!時雨お姉さんだ!こんにちわー!私はね、今日はドドングリをたっくさん集めてきたんだ!」
狐龍は嬉しそうに話す。
「そうなんですね。ところで今日は長老様はいますか?」
時雨が聞くと里の方から白く美しい長髪の女性がやってくる。
「懐かしい匂いがしたと思ったら、時雨か。」
女性は平常なフリをしていたが、13本の尻尾が横に大きく揺れていた。
「長老様、こんにちは!」
「うむ。こんにちは。して、この娘は?」
アタシに気がついた狐龍の里の長老が言う。
「この子は私の娘のアイリスです。とは言っても、長老様もご存知のように私は子供を産めませんので、実子では無いのですが…」
時雨がそう言ってアタシを紹介する。
「初めまして。アタシは時雨の娘、アイリスよ。」
軽く頭を下げてお辞儀をして、顔を上げると同時に長老の顔を見る。
「うむ。アイリスと言うのだな。良い目をしておる。私の幼い頃の師匠のような優しくて強い者の目だ。」
長老は全てわかっているかのような表情をしていた。
「長老様はとても聡明な狐龍の王様みたいな人なんですよ。」
「ふん。そんなたいそれたもんじゃないよ。ただ長生きしているだけの老いぼれさ。」
長老はそう言うとアタシの身体をモフモフの尻尾で包み込む。
全身を擽られているような感覚に身体が動きそうになる。
「ほれ。これで妖狐っぽくなっただろう?」
長老が尻尾を離すとアタシの身体に限りなく白に近い銀色の狐の尻尾があった。
より正確には大きな狐耳と背丈の倍近くある大きな狐の尻尾が生えていた。
それに伴ってなのか、アタシの髪色も白に近い銀色に変化していた。
「これは…狐化かしら…?」
アタシが言うと長老が頷く。
「うむ。じゃが、その辺の狐が使うものとは違い、お主の身体の構造をそのまま妖狐のものに変えたのじゃ。お主なら、その原理もわかるだろう?」
これは対象に制約をかけて、自在に操る魔法の支配を応用したものだ。
ドミネイトをアタシに使用し、制約をかけてアタシの身体を変化させる。
ただし、通常のドミネイトと違うのは、支配権と対象が同じと言う点だ。
長老の力でアタシがアタシを妖狐になれるように身体の構造を支配したと言うこと。
平たく言えば、本来は人間だったアタシを妖狐にしたってことね。
…いや、よくわかんないわねこれ。
うん。深く考えないことにしよう。
「長老様が手を貸すなんて珍しいですね。特にこの娘は人間ですし…」
時雨が珍しいものを見たと言った表情で言う。
「そうじゃな。今でも師匠以外の人間は嫌いじゃが、この娘は別じゃ。それに恩人の時雨の娘ともあれば、私が手を貸さない理由など無いに等しい。」
長老はどこか嬉しそうに言うとシラユリの妹に言う。
「お主、外の世界に興味があると言っておったよな?」
「うん!元々外の世界には興味があったけど、お姉ちゃんが時雨さんと一緒になってからはもっと外の世界に興味が出てきたんだ!」
妹は嬉しそうな声で応える。
「うむ。アイリスよ。お主に娘を託したいと思う。無論、お主が良ければの話だが…」
「ほんと?!あたしもお姉ちゃんみたいに外に出られるの?!」
「アイリスと契約すれば可能じゃ。」
「アイリスさん!お願いします!あたし…じゃなかった…私を外の世界に連れてってください!」
とても嬉しそうに目を輝かせて妹は言う。
「良いわよ。元々ここにはその為に来たわけだしね。」
アタシが承諾すると妹は大喜びで飛び上がる。
「やったー!ありがとうアイリスさん!」
「ええ、こちらこそよ。」
アタシがそう言うと長老がシラユリに言う。
「シラユリ、お前はこの里の禁忌を犯したから追い出す形で契約させたな。」
『…』
「今回は不問にしてやる。ただし、姉として妹の面倒は見てあげなさい。」
『言われるまでもない。私を姉と呼んでくれる存在を失いたくは無いからな…』
「そうだな。お前が禁忌を犯したのもそれが理由だったな。」
『…』
「シラユリ、もう帰ってくるなよ。」
長老はそう言うと森の奥へと帰っていく。
「アイリス、名付けをしてくれませんか?契約を完了させるには名付けが必要なんです。」
時雨が言うと妹は「ぱあああ!」って聞こえてきそうなほど期待した眼差しを向けてくる。
シラユリとは違って薄緑の毛色をしており、毛の量も少なく、狐龍と言うよりは獣人に近い姿をしていた。
瞳の色はシラユリと同じ薄紫であるが、シラユリよりも光を受けた時の輝きが青いのが特徴だ。
背は低く、まるで人間の子供のようなサイズ感だ。
アタシはこっちの方が抱きしめやすいから好きかな。
もふもふ感で言ったら、シラユリが一番だけど。
あっちは二足歩行のでかいキツネみたいだしね。
…本人に聞かれたら、ちょっと怒られそうだけど。
「アオバ…なんてどうかしら?貴方の綺麗な瞳の青と若葉のような毛色から取ったのだけど…」
「わ~い!素敵な名前をありがとうなの!」
妹改め、アオバが嬉しそうに飛び跳ねる。
「気に入ってくれたなら良かったわ」
「うん!とってもとーっても気に入ったよ!あたし、ご主人様の役に立てるように頑張るね!」
こうしてアタシとアオバの契約が成立したのであった。
『お前、浮遊は使えるのか?』
シラユリは淡々と言う。
「ん~…わかんない!多分出来ると思う!」
そう言ってアオバが力を込めると、アオバの身体が少しだけ浮く。
「わわっ!出来ちゃ…きゃっ!」
気を抜いた瞬間に落ちた。
シラユリは大きなため息をついて言う。
『はぁ…ロクに修行もしておらんかったようだな。怠け癖が酷いのは相変わらずじゃ。』
「ぐぬぬ…事実だから言い返せない…」
悔しそうにアオバが表情を変える。
「安心なさい。これからはアタシがビシバシと鍛えるつもりよ。そうでなければ、アタシの横を歩かせるわけにはいかないわ。」
アタシもシラユリの意見には賛成だった。
自分の身を守る力を少しでもつけさせたいと言う思いがあってなのだ。
「ひえぇ…時雨お姉さん助けてぇ!」
アオバが時雨に泣きつく。
「アオバちゃん、自衛の力は必要なんですよ。アオバちゃんは可愛いから気をつけないといけないことだらけなんです。本当はあまり言いたくはないけど、世の中には悪い人もたくさんいます。自分の身を守るためにもアイリスを守るためにも強くならないといけないのです…」
時雨はどこか悲しそうに言う。
「くぅ…そこまで言われちゃうと嫌ですって言えない…それにご主人様のお役に立つって約束したばっかだし…」
アオバはとても嫌そうにしているが、やる気は出したようだった。
『心配するでない。アイリスは博識な娘じゃ。ワシらのこともよくわかっておるし、妖狐についても知っておる。アイリスの手にかかれば赤子でも10日で歩けるようになるであろうぞ。』
シラユリが楽しげに笑う。
「アンタ、見かけによらず良い性格してるわね…まあ、アタシが持ってる知識をフル活用すれば、10日と言わずに2日で別人のように仕立て上げることも出来ると思うけど…」
「ひえぇ…お手柔らかにお願いしますぅ…」
アオバが死にそうな表情で言う。
アタシたちはそんなアオバの様子を笑いながら妖狐の里へと向かうのであった。
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