元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ

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現代の常識学

少女と紫

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「あのティアラちゃんが取り逃すなんて何があったのかしら…」

私は目の前で暴れている紫の翼を持った小柄な少女を見る。

少女は兵士によって身柄を拘束されそうになっていたが、少女は兵士の四肢を引きちぎり、食いちぎるように兵士の腹を引き裂いて投げては次の兵士にも同じようにしていた。

結界があるため、兵士たちは逃げれず、私も介入出来ない状態だった。

少女の動きを観察していると兵士を全て殺した少女がこちらに気がつく。

「ッ!!」

私はその場から飛び退いた。

同時に結界を破壊しながら、紫色の腕が真下を通り抜ける。

「これは…酸!?」

私は進行上の全てのものを瞬時に溶かすほどの強烈な酸で出来た腕の猛攻から何とか逃げる。

鎧防御コート!」

特殊な防御魔法で自身の身体を覆って酸に耐性をつける。

少女が私の目の前まで歩いてくる。

「お姉ちゃん、バイオレットの攻撃を避けるなんて凄いね。」

バイオレットと名乗った少女は楽しそうに言う。

「あの程度で私を捕まえられると思ったら大間違いよ。」

私は少女を見る。

少女は無表情だが、とても楽しそうだった。

まるで殺しを楽しんでいるかのような雰囲気には異質なものを感じる。

「お姉ちゃん、名前はなんて言うの?」

バイオレットがこてんと首を傾げて言う。

「私はシェラよ。貴方は…バイオレットで良いのかしら?」

「うん。バイオレットで良いよ。シェラお姉ちゃん。」

バイオレットはそう言うと紫の腕を翼に変化させる。

「じゃあ、始めるよ…一瞬で死なないでね。シェラお姉ちゃん。」

バイオレットがそう言った瞬間、私の足元から紫の液体が噴き出す。

「あっぶな…」

間一髪のところで回避はしたが、それでも鎧防御を使っていなければ、即死だったと理解する。

「さすがにこれはシャレにならないわね…」

私は魔力纏いオーラを使用して、身体能力を格段に上昇させる。

「さすがだね!でも、ここからは本気で殺すよ!」

バイオレットはそう言うと天高く飛び上がって、空から無数の紫の酸の球体を発射する。

私は球体を回避しながら魔力を高める。

「あははは!逃げてばっかりじゃつまらないよ!お姉ちゃん!」

バイオレットが大きく口を開けて笑いながら言うと攻撃がさらに激化する。

「心配しなくても…」

私は魔力を解放する。

「今すぐたたき落とすわよ!」

無数の魔法陣がバイオレットの周りに現れる。

「凍てつけ!ブリザドフレア!」

強烈な冷気がバイオレットの紫の翼を氷漬けにして破壊する。

翼を失ったバイオレットは重力に引っ張られて地に落ちる。

「まだよ!ラウンドエッジ!」

私の魔法でバイオレットの心臓目掛けて尖った岩が地面から突き出す。

「効かないわ!」

バイオレットは岩を素手で叩き壊すと再び紫の翼を再生させる。

「今度はバイオレットの番!ポイゾンブレイク!」

バイオレットは素早く翼を腕に変化させて殴りかかる。

「同じ手は二度も食らうものですか!ブリザドフレア!」

私は紫の腕を凍らせて粉々にする。

「知ってるよ。だから、こうするの!」

バイオレットがそう言うと私の周囲に格子状の紫の檻が現れる。

「収縮せよ!ポイゾンプリズン!」

バイオレットの声で紫の檻が収縮を始める。

「沸き立つ者よ…果ての鼓動を感じ、獄に舞いたまえ…」

私は迫り来る檻を魔力の壁で防ぐ。

「無駄だ!潰してやる!」

バイオレットが魔力を注ぐとさらに収縮する力が強まる。

「極の獄に煉獄を…波停はての果てに深淵を…黒き炎よ、今此処に!」

私の魔力の壁が割れる。

「ダークプロミネンス!」

黒い炎が私の周囲に現れ、紫の檻が触れる前に蒸発させる。

濃い酸の霧が発生し、周囲が酸によって溶け始める。

「あははは!バカだねぇ!そんなことをしちゃったら、貴方自身も溶けちゃうじゃない!」

バイオレットが言葉通りにバカにするように笑う。

「さて、それはどうかしら?ウインド!」

シェラは魔法で風を吹かせて、霧をヴィオレの周囲まで広げる。

「バイオレットに毒は効かないわ。とんだお間抜けさんね。」

バイオレットは自身の膝丈の高さに広がる霧を見て言う。

「貴方の方こそ、今この状況が何を意味するのかわかってるのかしら?」

「悪いけど、バイオレットにハッタリは通用しないわよ。」

「ええ、わかってますとも…」

私は霧の中に左手を突っ込む。

「だから、こうするのよ!サンダー!」

私の魔法が発動して凄まじい電撃が左手から発せられ、霧を伝って瞬時に広がっていく。

「しまっ…」

バイオレットは逃げようとしたが、間に合うはずもなかった。

「ぐあああああ!!」

電撃が直撃したバイオレットは動くことも許されない状況になっていた。

「人の体ってのはね。電気信号で動いているの。だから、それを邪魔してしまえば、もう貴方に助かる術は無いわ!」

あとはこのまま動けなくなるまで電撃を浴びせ続ければいい。

そう思っていた。

『こんなもの、我には通用せんぞ!』

そんな声が聞こえた瞬間だった。

私は自身の身体が宙に投げ出されたのを理解した。

遅れて凄まじい痛みが腹の底から駆け上がる。

「ガッ!」

受身を取る前に地面に叩きつけられた私は一瞬何が起きたのか理解出来なかった。

だが、目の前の光景を見て、すぐに理解した。

「お前は…根源の紫ヴィオレ!」

紫の髪の紫の瞳の少女の姿、体型はバイオレットと同じく、断崖絶壁の小柄な少女だ。

「ウグッ…」

私はすぐに立ち上がろうとするが、力が入らなかった。

どうやら、先程の一撃で腹に穴が空いたらしい。
完全に隙をつかれた為、咄嗟の魔障壁すら発動出来なかったのだ。

『我のことを知っておるようだな。だが、いくら知略に優れていようとも我に勝つことなど出来んぞ。』

根源の紫がバカにするように言う。

「ぐっ…」

私は失血により、意識が遠のくのを感じる。


これが魔族と契約をした者の恐ろしいところなのだ。
勝利が確定したと思った相手でも不意打ちで吹き飛ばされるようなことはよくある話だった。
もちろん、シェラは何も対策をしてなかったわけではない。
想定はしていたが、それよりも遥かに強い存在がいたのだ。
根源の紫と言う根源の色の中でも上位の破壊力を持つ種族だ。

その力は力の溢れていた時代の古代の国を容易く消せるほどだ。
現在の国なら、軽く9つは領土ごと消えると言えば、その恐ろしさがわかるだろう。
さらには多様な毒や酸も使えるため、並大抵の力では抵抗すら出来ずに瞬時に溶かされるだけだ。
それほどまでに強力な力を持ったものが不意打ちで防御魔法ごと体を貫いたのだ。
だが、隙をつかれたとしても、認識していれば対応も出来た。
しかし、契約した魔族は契約者の中にいる間は如何なる認識魔法も受け付けず、それを察知するのは不可能である。
契約者との戦闘はシェテラエンデの時代ではほとんどなかったのも、シェラが隙をつかれた要因の1つだろう。


(ここまでか…)

そう思って目を閉じようとした瞬間だった。

『情けないわね…』

少女の声が聞こえた気がした。

ティアラでも、フィナでもない…しかし、聞きなれた少女の声だ。

私は顔を上げる。

目の前に私と同じ姿の少女が現れる。

(貴方は…)

『アタシは貴方。貴方はアタシ。』

少女は左の人差し指で自分と私を交互に指さす。

(もう一人の…私?)

『そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。』

少女は淡々と答える。

(…よく分からないわ…)

貧血も相まって、思考能力が低下した私ではもう何もわからなかった。

『無理もないわ。アタシも意味がわからなかったもの…』

(…そう)

私は意識が再び遠のくのを感じる。

(眠いわ…)

私が意識を手放す寸前、少女が言う。

『ここからはアタシがやるわ。貴方はゆっくり眠ってなさい。』

私の視界が真っ暗になり、意識が途切れる。





『ふん。この程度の相手に手こずっているようでは、まだまだだな。』

「でも、こいつ、ちょっと強かったよ。とてもこの辺りにいるような雑魚とは思えない強さだった。」

『確かに四属性の魔法を操るものは聞いたことがないな。二属性程度なら使えるものも多いが、それでも偏りはある。こいつの魔法はどれも同程度の練度だった。見たところ、14にも満たないと考えれば、惜しいことをしたかもしれんな。』

「でも、もう死んじゃった。」

『ふん。我の気まぐれに感謝しろよ?』

「そうだね。ありがとう…ヴィオ。」

バイオレットが背中を向けて西の国に侵攻しようと歩みを進めようとした瞬間だった。

「……よ…」

バイオレットは驚いた様子で振り返る。

「まだよ…まだ戦えるわ…」

アタシは淡々と言い、立ち上がろうとする。

アタシはほんの少しだけ震える声で言って立ち上がる。


草木の様な薄い緑の長い髪で両眼とも青かったのが別人のように変化していた。
その容姿は透き通るような長い銀髪に左眼が赤く、右眼が黄色い、オッドアイの姿だ。
そして、胸部は断崖絶壁であった。

アタシが完全に立ち上がると同時に服の間に溜まっていた血が「バチャリ」と溢れ落ちる。
体の傷は既に治療済みだが、まだ血は補填出来ていないので、知覚強化と身体強化で補っている。


『体に穴が空いたと言うのにこの短時間でこれだけの回復力とはな…そのうえで四属性の魔法を操るとは、雑種にしてはやるではないか。』

紫はそう言ってアタシを見る。

「この程度…かすり傷よ。」

アタシは魔力で血を無理矢理引き伸ばして、なんとか全身に巡らせる。

「そのわりには死にそうな顔色してるけど…」

バイオレットが呆れた様子で言う。

「本当に死にそうかどうか試す?」

アタシはニヤリと笑う。

「調子に乗らないで!」

バイオレットが右手を振り払うと紫色の鎖がアタシに向かって放たれる。

アタシは異空間から適当な盾を取り出す。

「シールドバッシュ」

魔障壁を纏わせた盾で殴って鎖を弾き飛ばす。
鎖が飛んで行った先では予想通りの光景になっていた。

「あはは!そんなものに頼らないとバイオレットの攻撃も防げないんだね!」

バイオレットは見下したようにバカにする。

「安い挑発ね。道具は使ってこそ道具よ。」

アタシは異空間から魔法弾を放つ銃を取り出す。

『バイオレット、今度こそ確実に殺せ。良いな?』

「わかってる。これ以上、ヴィオの手を煩わせるわけにはいかない!」

バイオレットの魔力が高まり、紫の翼が現れる。

「させない!」

アタシは的確に紫の翼の根元を撃ち抜いて破壊する。

「ならば、これで!」

バイオレットの拳が紫の液体で覆われる。

「…アンタは来ないのかしら?」

アタシは紫色の髪の少女に言う。

『ふん。我が手を出すまでも無い。』

少女は退屈そうに欠伸をして言う。

「そう…その判断、間違ってないといいわね。」

アタシは極力体外に漏れ出る魔力を少なくする。
今のアタシには無駄に出来るものは何一つ無い。
大気中に無限あるような魔力ですら無駄には出来ないのだ。
それほどの致命傷を受けた状態なのは嫌でもわかった。
強がりは言っても現実はそうはいかない。

「死ねぇ!ポイズンクラッシュ!」

凄まじい勢いで紫の拳が迫ってくる。

「グランドシールド!」

アタシは盾スキルで完全に防ぎきる。

「まだまだ!ポイズンブレイク!」

さらに凄まじい威力の拳の殴打が続く。

「おらおら!防御してばっかじゃ、バイオレットを倒せねぇぞ!」

アタシは隙を伺う。

(アイツは実体化している…こいつはアイツの言いなりになっている…試してみるか…)

アタシは横で腕組をして眠そうに欠伸をしている少女を見る。
少女は退屈そうに見ていた。
アタシはバイオレットの目を見てニヤリと笑う。

「…?」

バイオレットが一瞬警戒するような表情をした。
その瞬間、ほんの僅かに隙が生まれた。

因果逆接いんがぎゃくせつ電光弾火でんこうだんか!」

アタシは一瞬の隙をついて銃口を少女に向けて凄まじいスピードの電撃弾を発射する。
物事の因果を逆転させて当たったと言う結果を先に作る因果逆接を使ったため、因果に抗う力が無い限りは絶対に避けることは出来ない。

『ぬう!?』

少女が驚いた表情をする。

「はぁ…はぁ…ヴィオには…手を…出させない…!」

バイオレットが左肩から血を流しながら言う。

『我を庇って片腕を持っていかれたか…』

少女はバイオレットの腕を見て言う。

「この程度…かすり傷にも…ならない!」

そんな強がりを言っても現実は変わらない。

バイオレットの左肩から先は完全に使えなくなっていた。

『バイオレット、己の状況は正しく理解せよ。ここからは我もやる。我に手を出し、我のものに傷をつけた愚か者に罰を与えねばならん!』

少女が魔力を解放し、頭から黒く禍々しいオーラを放つ角を生やし、背中には不吉な予感がする黒い羽の翼が現れる。
アタシは少女が変身し終わるのを待つ。


決して、舐めてかかっていたり、手加減をしているわけではない。
変身中であっても無防備に攻撃を受けるだけのサンドバッグになるようなバカはいない。
故に相手がしっかりと見える状態で戦うのが、今の状況ではベストだと考えての行動だ。
迂闊な行動は死に直結する。

その意味では、相手の変身を待つのも悪手ではあるのだが、今のアタシには視覚的に捉えられる方が良いのだ。
普段の万全な時なら魔力探知で探知しながら、反撃覚悟の突撃も出来たが、今はかすり傷一つが致命傷になり得る状態だ。
冷静に相手を見て攻略しなければならない。


「グオオオオオー!」

龍のものかと錯覚してしまいそうなほどの猛々しい咆哮をあげた少女が紫の尻尾を揺らして言う。

「クハハハ!我にこの姿をとらせたのは貴様で3人目だ。どうだ?我の姿は!美しいだろう?」

不気味なほどに不吉なオーラの中に紫色の煌めく少女がいた。

「わからないわ。アタシ、世界を知らないから…」

アタシは淡々と言う。

少女は静かに目を閉じて言う。

「そうか。わからないか…」

少女は胸から剣を引き抜く動作をして、紫色の剣を取り出すと同時に目を開いて言う。

「ならば、力で教えてやろう!もっともわかった頃には既に死んでおろうがな!」

少女がとてつもない速さでアタシの目の前に現れて剣を振るう。

「効かないわよ」

アタシはそれを軽く盾で受け流す。

「終わってないよ!ポイズンショット!」

バイオレットから紫の球が発射される。

「ハイバレット!」

バイオレットの紫の球を全て撃ち抜く。

「クハハハ!脆い!脆いぞ!雑種!我をもっと楽しませろ!」

少女の尻尾の薙ぎ払いを絡めた怒涛の連撃が嵐のように襲いくる。

そして、その隙を埋めるようにバイオレットの追撃が飛んでくる。

アタシは防戦一方の状況の中で冷静に考える。

(このままではジリ貧にもならない不毛な戦いになるだけ…せめて、もっと血があれば良かったのだけれど…)

そうだ。アタシは今、死にかけの体を無理やりに動かしながら戦っているのだ。

(いくら血を引き伸ばしているとは言え、これ以上の出血は出来ない以上、無理も出来ない。幸い、敵の強さはアタシが対応出来る範囲内だけど…)

いつまでも傷一つつかないアタシに苛立ってきたのか、少女がさらに魔力を高める。

「いい加減死ねぇ!ヴィオレ・ブースト!バーストスラッシュ!」

少女の攻撃がさらに重く、早くなる。

「バイオレットももっとやる!ポイズンアロー!」

バイオレットの攻撃もさらに激化する。

(まだ対応出来る範囲だけど、この状況ではまともに逃げることすら出来ない…一瞬でも反応が遅れれば死は免れないわね。)

アタシはなんとか盾と銃をフル活用して攻撃を凌いでいるが、一人で相手をするには状況が最悪すぎた。

「クッ…」

僅かに反応が遅れたが紙一重でバイオレットの魔球を避ける。

「クハハハ!どうした?守ってばかりじゃ、我は倒せぬぞ?」

少女が露骨に挑発する。

「アハハハハ!ヴィオに喧嘩を売った罰だよ!もっともっと激しく殺すよ!」

バイオレットの攻撃が激化する。

(このままだと、終わりも近いわね…せめて、血を回復出来る時間があれば、出力に余裕も持てるのだけど…)

足りない血を魔力で補っている以上、一度に使える魔力にも限界がある。

欠損を一瞬で回復させるほどの魔力を使い、さらには血を魔力で補うと言う荒業までやってれば消費も激しい。
幸い魔力の保有量…MPと言ったらわかりやすいだろうか?
このMPに関しては何も問題は無いが、この死ぬ寸前の体では大きな魔力を使用することは出来ない。
もしこれ以上魔力消費を増やせば、魔力負荷に耐えきれなくなって体が弾け飛ぶだろう。

普段なら平気な消費でも今の状況では死に直結する。

そのため、攻撃魔法も使用出来ない状態なのだ。
魔力消費だけを見れば、防御魔法の方が消費は激しいのだが、これは無くせば死んでしまうのは明白であるため外せない消費だ。
また血を無理矢理引き伸ばしているのもとてつもない消費でかなりの負荷がかかっているが、これもなければ即死なので外せない消費だ。

逆に身体強化魔法と銃による魔弾発射は消費も少ないため、この状況下でも同時使用が可能なのだ。

「しまった!」

アタシが一瞬反応が遅れた隙をつかれて、体勢が崩されてしまった。

攻撃自体は防げているが、無理な体勢になっているため、突破されるのも時間の問題だった。

そして、ついに反応しきれなかった少女の剣がアタシの目の前まで迫る。

もうダメだと思って目を閉じた。

しかし、いつまでたっても痛みは来ず、周囲もやけに静かになっていた。

恐る恐る目を開けるとアタシの目の前には一人の青年が立っていた。

青年はキラキラと輝く鎧を着ていた。

青年は陽の光を受けて輝く長い銀髪を揺らして言う。

「間に合ったみたいで良かったよ。アーミアの大英雄さん。」

青年はニコリと微笑むと赤く輝く瞳でアタシの顔を見る。

「ありがとう。助かったわ。」

アタシがお礼を言うと青年は嬉しそうに微笑んで言う。

「あはは!女の子を護るのは騎士の勤めだからね!」

少女の頬には切り傷があり血が流れていた。

「おのれ…雑種風情が!この我に傷をつけるなど言語道断!その罪、死を持ってしても償いきれぬぞ!」

少女が激昂し、魔力で毒の剣を生成する。

「ヴィオに傷をつけたな!殺してやる!」

バイオレットが紫の6本の腕を出現させる。

「僕が時間を稼ぐ。君はその間に回復をするんだ。」

青年はそう言うと赤色の液体の入った瓶を投げ渡す。

「この借りはいつか返すわ…」

アタシはその赤色の液体を飲み干す。

「さて、初めから全力で行くよ!フォトンレイ!」

青年の持っている白い剣が掲げられると同時に輝く。

同時に凄まじいまでの光のビームが少女とバイオレットに向けて放たれる。

「この程度で我を止められると思うな!ヴィオレスクラッチ!」

少女の剣撃がビームを弾き飛ばし、青年に向かう。

「吹き飛べ!ポイズンストーム!」

バイオレットの紫の腕が伸びて青年に襲いかかる。

「無駄だよ!フォトンパージ!」

青年が剣を振り払うと凄まじい光が紫の腕を全て破壊する。

(今なら…)

アタシは魔力を練る。

そして、火と土の魔力を使って練り上げた魔力と一緒に回復魔法の魔法陣に注ぐ。

「血の乾きを癒せ!ブラッドヒール!」

回復魔法で血を増やす。

必要最低限だが、十分な血液は確保出来た。

アタシは血を引き伸ばすのに使っていた莫大な魔力を全て盾に込める。

「行くよ!シールドオブバースト!」

アタシが全ての力を込めて盾を突き出すと凄まじい光が解き放たれる。
同時に盾がエネルギーに耐えきれずに崩壊する。

「僕も手を貸すよ!アロンダイト!」

いつの間にか隣に居た青年が振るった剣から青い光が放たれる。

「しまっ…」

「トゴオ!」と凄まじい爆音が発生すると同時に光の柱が立ち上る。

凄まじい砂煙のせいでバイオレットたちがどうなったのかは確認出来てない。

「いやぁ…これだけやれば、さすがに跡形も…」

青年が言葉を止める。

「…」

バイオレットは生きていた。

「…さない…」

バイオレットが漆黒の翼を展開する。

「絶対に許さない!ヴィオの仇!とッテやルぅ!ガアアアアアアアアアアア!」

バイオレットを中心に黒い魔力が天を貫く。

「まずいことになったわね…」

アタシはあの状態を知っている。

あれは魔力暴走…別名、マテリアルパニックとも呼ばれる最悪の状態だ。
魔力増幅量的にも凄まじい増幅量であり、この規模のものを放置すれば、凶悪な魔人になることもあるし、最悪の場合は国が8つは軽く消し飛ぶくらいの大爆発を起こすこともある。
もしも、そんな大爆発が起きてしまったりでもすれば、今のこの世界では人の住める土地はほとんど消滅すると言っても過言ではない。
そのうえ、魔人になってしまったとしても討伐不可能の規格外の化け物になるだろうと予想がつく。
そうなるとアタシでは到底太刀打ち出来ず、大賢者様が戦ってギリギリ倒せるくらいのものになるはずだ。

アタシの様子を見て青年が言う。

「猶予はどれくらい?」

「6分…いや、この規模だともっても7分が限界かも。」

「なるほどね…」

青年が真剣な顔で言う。

「コロス!コロスコロスゥ!ゼンブ!ゼンブ!コロスゥ!」

バイオレットの魔力が急激に高まり、重圧が発生する。

「僕の名前はガゼル!ガゼル・ヴォーメットだ!」

青年は突然自己紹介をする。

「今することじゃないでしょ…」

アタシが呆れるも青年は真面目な表情をしていた。
その表情を見て、儀式のようなものをしようとしてるのを理解する。

「アタシは…」

アタシは手を突き出してガゼルが聞き逃さないように大きな声で言う。

「アタシはアイリス!!」

その瞬間、ガゼルの体が光り輝く。

「アイリス!僕がやつを攻略する!君は僕の援護をしてくれ!」

アタシはガゼルの前に出る。

「アタシはアンタの配下じゃないわ。」

アタシは銃を異空間に放り投げて、大きな盾と一本の短い槍を取り出す。

「アタシは戦士よ!アタシに合わせなさい!」

アタシの取り出した槍が輝く。

「その槍は…!わかった。僕も遅れないように戦うよ!」

アタシの槍は先端が光の螺旋を描いたような形をしている。


この槍は泉の妖精が3000年の年月をかけて星を織り込んで創ったとされる星槍せいそうカラドボルグだ。
星の名を冠しているとおりにまるで流星を切り抜いたかのような形をしている不思議な槍だ。
柄は短く、途中で途切れており、穂先が光で構成された、一見するととても槍とは思えないような形状だが、実際はとてつもない破壊力を持っている。

どれほどかと言われると古代の城でさえも軽々と貫くほどの威力だ。
古代の城は現代の武具では傷一つすらつけられないほどの硬さだと言えば、どれほど強力なものかわかるだろう。
さらにはその穂先は無限に伸び、無限の間合いを持つ槍でもある。

ちなみにエクスカリバーやガラティーンと言った数多くの神器の元になったとも言われている。
神器とは神や星が創った特別な武具のことだ。

そして、盾は一見するとただの鉄の盾だが、ガイパーベルトと呼ばれる星の外殻を織り込んだとされる最強の盾だ。
その防御力は古代の城の比にならないほどであり、古代の龍のブレスを800年受け続けても傷一つつかず、熱を帯びることもなかったと言われている。
古代の龍のブレスは今の世界だとありとあらゆるものが一瞬で蒸発するくらいの威力だと言われれば、とてつもないものであることがわかるだろう。


アタシは槍に魔力を込める。

「穿て!カラドボルグ!」

アタシが突き出すと同時に光のビームがバイオレットに放たれる。

「ウガア!ウルティメットポイズン!」

特大の酸のブレスがビームを飲み込む。

「七つの星の光を束ねしものよ…我が剣に宿り来たりて、我が敵を討砕け!アロンダイト・スターゲイザー!」

凄まじい光の束がバイオレットの酸のブレスを破壊する。

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスゥ!」

バイオレットの体から闇の魔力が放たれて光の束をかき消しながら、全てを破壊しようと広がる。

「古より来たれ!ロスト・キャッスル!」

古代の城壁と同等の力を呼び出す盾スキルの最上級スキルで全ての闇の魔力を受け止めて無力化する。

「カラドボルグとアロンダイトの力を持ってしても貫けないか…」

ガゼルが淡々と言う。

「あら?騎士様は随分と諦めが早いのね?」

アタシはニヤリと笑う。

「アハハ!諦めたわけないじゃん?」

ガゼルは剣を地面に突き立てて言う。

「アイリス!僕の最高威力を出すには君の力が不可欠だ。3分、時間をもらえるかい?」

「1分で完成させなさい!それ以上は待てないわ!」

「わかった。騎士の誇りにかけて…全身全霊をここに注ぎ込む!」

ガゼルが魔力を溜める。

「サセルカアアアアアア!」

バイオレットが黒い翼を羽ばたかせて飛び上がると同時に無数の闇の魔弾を凄まじい速度で放ってくる。

「この程度でアタシを突破出来ると思わないでちょうだい!」

アタシは引き続きロスト・キャッスルで全て無力化する。

「コワス!コワス!コワスゥ!」

さらに攻撃が激化し、一撃一撃が重くなる。

「ガゼル!アタシの魔力を分けるわ!やってしまいなさい!」

アタシの莫大な魔力一部を分け与える。

「この魔力は…!これだけあれば、十分過ぎるくらいの力が出せそうだよ!」

ガゼルのアロンダイトが輝く。

凄まじい光がアロンダイトを包み込む。

ガゼルはゆっくりとアロンダイトを引き抜いて狙いを定めるように空中のバイオレットにアロンダイトの剣先を向ける。

「全身全霊を込めて解き放つ!」

ガゼルがゆっくりと剣先を下に下ろす。

「ウガア!」

止めようとしてか、闇による攻撃が激化するがアタシのロスト・キャッスルの突破は出来ない。

「アロンダイト・メテオストーム!」

ガゼルがアロンダイトを振り上げると同時に先程とは比べ物にならない質量の光がバイオレットに向けて放たれる。

「コロスコロスコロスウ!」

バイオレットの闇の波動が光を打ち消そうとするが、それを破壊して光が突き進む。

「バカナ…バイオレットガ…ヴィオノチカラヲモッタバイオレットガアアアアアアアア!」

今度こそバイオレットは光に飲まれたように見えた。

「はぁ…はぁ…」

ガゼルが肩で息をする。

「これで終わってくれると助かるのだけど…」

アタシは光の中から落ちる影を見る。

影は地面に叩きつけられる寸前で受身をとって着地する。

「グッ…」

バランスを崩して倒れたバイオレットがボロボロの体で立ち上がろうとして膝を着く。

アタシは異空間にカラドボルグをしまって、ゆっくりとバイオレットに歩み寄る。

「待て!そいつは…」

アタシは振り返ってガゼルの顔を見る。

「大丈夫…」

アタシの勘が大丈夫だと告げていた。

アタシは再びバイオレットに向き合ってゆっくりと歩いて行き、目の前で立ち止まる。

「くぅ…」

バイオレットは覚悟を決めた様子で目をギュッと閉じる。

「らしくないわね。」

アタシはバイオレットの頭を撫でる。

「えっ…」

バイオレットが呆気にとられたような顔をする。

アタシは屈んでバイオレットの目線に合わせる。

「何を…しているの?」

バイオレットは意味がわからないと言いたげにアタシを見る。

「見てわからない?アンタの目線に合わせただけよ。」

「いや、そうじゃなくて…」

困惑するバイオレットの頭を撫でて言う。

「昔、本で見たのよ。人を落ち着かせるには目を合わせるのが一番だってね。」

アタシを後ろから襲いかかる影が現れる。

ガゼルがとっさに動こうとする。

「大丈夫…」

アタシが静かに言うと影は止まった。

「…ッ!」

バイオレットは泣きそうな表情でその影を見ていた。

「チッ…」

少女が舌打ちをして手に持っていた短剣を下ろす。

「ヴィオ!」

バイオレットが嬉しそうな声を出す。

「この我が雑種風情に情を持つとはな…」

アタシは立ち上がって少女を見る。

「アンタにも心はある…それだけ…たった…それだけのことよ…」

アタシは少女の目を見て言う。

「ふん。生意気な…だが、今の我は気分が良い。特別に許してやろう。」

少女はそう言うとバイオレットの元へ歩る。

「小娘、いつまで座っている。さっさと立て。」

「うん!」

バイオレットはとても嬉しそうに立ち上がる。

「アイリス、君は…」

ガゼルが駆け寄って来て言う。

「ガゼル、アンタには借りを返す意味も込めて教えてあげる。」

アタシがガゼルに真実を言おうとした瞬間だった。

「ゴーストスクラッチ!」

何かがアタシに斬りかかってきた。

「…ッ!」

アタシがとっさに防御すると見覚えのある少女が言う。

「フィナちゃんの一撃を防ぐなんてやるわね!」

正体はフィナだった。

「君はどこから…」

ガゼルが戸惑っているとフィナが言う。

「フィナちゃんが来たからにはもう大丈夫よ!シェラ様がいないことにはちょっと不安があるけど、フィナちゃんは強いからね!」

後から見覚えのある3人と1人の少女がくる。

「ノワール、アンタ、どういうつもり?」

アタシが言うとフィナは驚いた表情をしていた。

「なんで、フィナちゃんが根源の黒ノワールって知ってるの?!」

「なんでって…アタシ、アンタのご主人様よ。」

「「「え?!」」」

3人が驚いて目を見開く。

その3人にはガゼルもいた。

「いやいや、フィナちゃんのご主人様はシェラ様だけだよ!?貴方みたいな人は知らないよ!おっぱいも小さいし!」

フィナは全力で否定する。

「はぁ…」

アタシはシェラのした契約にため息が出る。

「オッフェンレーグング」

アタシが淡々と言うとフィナは目を丸くしていた。

「その言葉は…」


オッフェンレーグングは異世界で契約開示を意味する言葉らしい。
こちらでも魔族との契約における契約開示の魔法として扱われる言語になる。
今回は違うが、主な使われ方としては契約違反や契約更新時に確認のために使われる。


「理解したかしら?」

アタシが問うとフィナが片膝を着いて、頭を下げる。

「たった今、理解しました。アナタは紛れもなく、フィナちゃんのご主人様です。」

フィナの様子に2人が驚く。

「エリス、貴方にも今のアタシがどうなっているのか、聞いてもらうわ…」

アタシがエリスに言うとエリスは冷静な声で静かに言う。

「いえ、私は大丈夫です。」

「あぁ…そう言えば、アンタには便利な能力があったわね。」

「はい。ですが、驚きましたよ。貴方が…いいえ、さんがシェラさんと同一人物だって気がつかなかったですもん。厳密に言えば、完全な同一人物では無いようですが…」

ガゼルを含めた3人が驚いた表情をする。

「つまり、彼女はシェラ様であって、シェラ様ではないってことでしょうか?」

そう言うのはナリューシャだ。

出会った時とは違い、王族らしい堂々とした立ち振る舞いだ。

「そうね…今のアタシはシェラ・アルフェルンではないけど、同一の存在ではあるわ。アタシも詳しくはわかってないんだけど、本来アタシが座るにシェラがいる感じじゃないかしら?今まではシェラに任せていたけど、今は彼女が眠っているからね。この体も腹に穴が空いて死にかけたし、当分起きないんじゃないかしら?」

アタシがそう言うとエリスが言う。

「だから、服のお腹だけ血だらけで破れていたんですね。」

「そうね。ま、無理もない話だわ。彼女の時代にはほとんど居なかった魔族の契約者との戦闘だったもの。不意打ちで死にかけても不思議じゃないわ。」


シェテラエンデの時代では魔族との関係性も薄い時代で憑依を使いこなしている魔族と契約者はほとんど居なかったのだ。
なので、大半の魔族は常に外に出ている状態であり、契約者もそれが当たり前だと思っていた時代だった。
とは言っても、魔族を恐れる人の方が多い時代なので、魔族と契約をするなんて言う酔狂な人物もすくなかったのだが…

シェテラエンデの死後にネイアと当時はまだアレイアと名乗っていたシャタルアが魔族との契約のやり方や契約の取り決めを周知していったことにより、ある程度は普及していったのだが、誰もがそれを知るのはアイリスたちの時代になってからだ。


「じゃあ、フィナちゃんが気がつかなかったのは…」

「そうね。アンタはの繋がりなのよ。これ以上はアンタの契約に関わるから言えないけど、アンタが気がつかなかったのは名で契約してることとにアタシが座っていることが原因よ。だから、アタシとフィナには契約は無いわ。ただし、アタシはシェラでもあるから立場は変わらないわね。」

アタシは淡々と説明する。

「シェラ様、ただいま戻りました。」

ティアラがそう言ってアタシの目の前に現れる。

「今のアタシはシェラではないわよ?」

「存じております。ですが、私にとって貴方と言う存在はシェラ様です。例え魂が違えど、それは変わりません。私は貴方と言う存在全てをシェラ様として認識しております。普段のなんでもありの大賢者シェラ様も今こうしてお話している貴方も同じシェラ様です。」

ティアラは真っ直ぐにアタシを見る。

「ふふっ…魂を見る貴方にとってはに誰が座っていても同じなのね。」

「その通りです。貴方が普段は座らないにいても私には関係ありませんよ。」

ティアラがそう言うとティアラの記憶が頭に流れてくる。

「…受け取ったわ。根源を3人も倒すなんてやるじゃない。」

その言葉に4人が驚いたのは言うまでもなかった。

「えっ…根源の白ブラン、アンタ、そんなに強かったの!?」

フィナは驚きすぎてティアラをブランと呼ぶ始末だ。

「いえ、たまたま噛み合いが良かっただけです。それにシェラ様のお力も借りてますし、私一人の力では無いですよ。」

ティアラはそう言って謙遜するが、噛み合いが良かったでは説明がつかないほどのことをしているのだ。


本来なら序列の一番低いブランが序列一位のノワール以外に勝てるはずが無いのだ。
ブランとノワールは相性が悪いため、このような不思議な力関係になっているが、本来はブランは一番弱いとされる根源なのだ。
それほどまでに力の差があるのが常識だったし、当たり前だったのだが…

ティアラは違った。
根源の白でありながら、序列の高い相手を3人同時に相手して勝っているのだ。
運が良かったにしてもやりすぎなほどの戦果であり、それほどティアラが強いと言うことの証明でもある。


もちろん、そのことはノワールであるフィナが一番わかっていることだった。

「ご主人様も大概だけど、アンタもバカにならないわね…」

フィナが遠くを見るように言う。

「じゃ、あとはアイツをぶん殴れば良いわね?」

アタシがそう言うとガゼルが事情を察した様子で肩をすくめる。

「あー…一応、僕の立場的には止めるべきなんだけど…」

ガゼルは首を振る。

「他の子はともかく、一緒に戦ったアイリスさんと戦わないといけないのはやだなぁ…」

「アタシは構わないわ。いつまでも甘えたことは言ってられないだろうし…」

アタシは知っている。


グライベルとアーミアが戦争をしてしまった未来を…
それを阻止したいと考える二人の私がいることも…
そのためにはグライベル王を倒さないといけないことも…
もしこのまま戦争になっても戦況は拮抗し、人が無駄に死んでしまうだけになることも知っている。
未来視で見える未来は全て可能性に過ぎなくても、アタシはその全てを知っていなくてはならないから…

アタシはアイリスであり、大賢者シェテラエンデでもあるのだから…


「ところで1つよろしいでしょうか?」

ティアラが確信したような様子で言う。

「言わなくてもアンタの言いたいことくらいわかるわよ。アタシとのことでしょ?」

アタシがそう言うとティアラはほんの少しだけ驚いたように目を見開く。

「結論から言うと、アタシは本来、の性格なの。でも、あの子が席に長く座りすぎたせいで、精神がに引っ張られつつある。逆にアタシは席から離れているから、本来の性格に近づきつつあるわね。別に不便なところは無いのだけれど、あの子の場合は別で記憶もだいぶ変化しちゃってるから、元に戻してあげないとあの子があの子じゃ無くなってしまうわ。」

アタシは淡々と告げる。

「じゃあ、フィナちゃんたち…シェラ様が起きれないようにしないとダメなのかなぁ…」

フィナが悲しそうに言う。

「必要は無いわ。ティアラ、アンタならわかるわよね?」

アタシが言うとティアラは一瞬とても驚いた表情をして言う。

のおかげでしょうか…」

「ま、そういうことね。」

アタシはティアラにだけ聞こえるように魔力を使う。

『アステレガーイシャ・ズィームネイ・ズヴズドゥィ!』

「御意…」

【契約が施行されました。】

その瞬間、アタシの意識が揺らぐような感覚がした。

「どうやら、ここまでみたいね…」

アタシは意識が消える。

いや、正しくは席から無理矢理引きずり降ろされた。



『やれやれ…大人しくしていれば良いものを…』

アタシはそいつを睨む。

『お前が何を企んでるのか…アタシにはわかるのよ…』

アタシが睨んだ先にいるのは仮面をつけた胸の大きなメイド服の少女だ。

『ふん。わかったところでどうする?魂だけの貴様では我に適うはずもなかろう?』

『舐められたものね。アタシがそんなこともわからないとでも?』

『チッ…小賢しい娘だ。貴様など、この場で消し去ってやる!』

アタシの目の前に一人の白い髪の少女が現れる。

『チッ…魔族風情が…まあ良い。お前には生きててもらわねばならぬ。ったく、シェテラエンデのやつ…こんなゲテモノと契約など余計なことをしよって…虫唾が走る!』

そいつはそういいながらも闇に解けるように消える。



シェラの体が倒れる寸前にティアラが抱きとめる。

「ティアラ!」

ティナが駆け寄る。

「ティナ、シェラ様と馬車に戻っててください。」

ティアラはそう言ってシェラの体をティナに託す。

「アンタ…」

察した様子でティナが言う。

ティアラの姿が一瞬だけ左眼が赤く、右眼が黄色いオッドアイに見えたのは気のせいでは無いのだろうとティナは思考する。

「ごめんね…」

ティアラはそう言うと背景に解けるように消える。

何が起きたのかエリスとティナ以外はわかってないようだった。

エリスはため息をついて言う。

「カリヤさんになんて報告すれば良いのやら…」

「そこはフィナちゃんがなんとかするよ。学園長様ともお話しないとだし。」

「それなら、私からは何も言わないことにしますね。」

エリスたちはグライベルの王城までガゼルと共にむかい、シェラが目覚めるまで客間を借りることになった。
レグルスはシェラの様子を見て、「お前が居なければ話にならん」と言って快く客間を貸していた。
兵士の中からは敵であるはずの一行に客間を貸すなと反発するものも居たが、それらは全てレグルスによって黙らされることになるのであった。

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