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二日目
巨大迷路
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神社の看板を前に、リュッ君がユウキに言った。
「よし、クーラーボックスと水筒はここに置いていこう。重いからな」
「大丈夫かな…盗まれないかな?」
「まあ、その時はあきらめるしかないな。はやく☆をゲットしてここに来るようにがんばろうや」
リュッ君の言葉に「う、うん…」とうなずきながら、クーラーボックスと水筒を下ろすユウキ。そのまま看板の下に二つ並べて置いた。「軽くなった」と言って腕を振り回したユウキは、リュッ君を担ぎなおし、遊園地に向かって歩いていった。
そんな二人の様子を木の陰からじっと見つめる、大きな二つの光がぱちくりと瞬いた。
「キキッ!」
そのふたつの光はその小さな黒い影の目のように見えた。すっとその目を細めると、ザザっと、木から木へと飛び移って消えていく。
その物音を気にも留めず、ユウキとリュッ君は退園ゲートから園内へと向って行った。回転バーは反対に動かないので、ユウキは脇のブースをよじ登り、そのまま回転バーを乗り越えて園内に入っていった。
もと来た道を戻って、巨大迷路のアトラクションを探すユウキとリュッ君。園内マップを頼りに施設を目指す。
「ここだな」
ユウキとリュッ君がアトラクション・ゲートの前に立ちはだかった。そこは大きな壁に囲まれた施設で、その脇に“巨大迷路”との看板が掲げられていた。目の前には“入り口”と“出口”が並列で並んでおり、その脇にはチケットブースと券売機が並んでいた。ブースのガラスは擦り切れ、曇っていて中が見えない。その上には錆びてかすれた料金表が掲げられていた。
「この中に☆があるの?」
地図を見ながらユウキが不安そうにリュッ君に問いかける。
「多分な…」
ちょっと思案に暮れるリュッ君だったが、ユウキが入り口の扉を開けて中に入っていった。中に入ると、緑の芝生に覆われた壁が立ち塞がっていた。通路の先は曲がりくねった迷路になっているようだ。直線状の迷路コースが基本なのだろうか、当然ながら壁の向こうは何も見えない。しかし、屋根は付いておらず、吹き抜けの天井から空が丸見えになっていた。
「どうしよう…リュッ君。このまま行くの?」
ゆっくり前に進もうとするユウキ。リュッ君は周りを見渡し、迷路の先を横断する橋のようなものに目を止めた。
「ユウキ、ストップだ」
リュッ君に言われて足を止めるユウキ。
「どうしたの?リュッ君」
「あれを見ろ、あそこに、迷路を横断する陸橋みたいなのが見えるだろう?」
「りっきょう?」
「橋みたいなやつだよ」
リュッ君の見ている先を見るユウキが、橋を確認する。
「う、うん」
「あれは、迷路全体を上から見渡せるために作った監視用の場所じゃねえかな。もしそうなら、この迷路がフカンで、その通路が全部見られる」
不思議そうな顔をしてユウキが「フカン?」と聞きなおす。
「上から見下ろせるってことだよ。そのほうが道順がわかるだろう?一度、あの陸橋から迷路の道順を見てみるとしようぜ。迷路から出て、あそこへ行くための道順を探すんだ」
迷路から出た二人は、陸橋へ到る道を探した。
すると、アトラクションのブースの脇に大きな階段が上階につながっていた。階段から上に上がると、二階部分は売店が並んだ広場になっていて、その脇の通路が陸橋に繋がっていた。
陸橋にたどり着いたユウキとリュッ君が、手すりから身を乗り出して下を見下ろす。すると、陸橋の下は、先ほどの巨大迷路が広がっていて、上からエリアを全て見渡すことが出来た。どうやらここは、来園した客が、巨大迷路の全体図を見られるように作られた場所らしい。
「ここからなら、迷路の道順が分かるぞ」
「でも☆がないよ?」
“入り口”と“出口”が奥に見えて、手前に来るほど迷路の深部になっている。屋根の無い道筋は、ここから全て見渡せるが、そこには☆が見当たらない。
「だとすると、ここかな?」
と、リュッ君が下を見てつぶやいた。
手前の迷路最深部の真ん中には、六角形の赤い屋根が付いた、ログハウスのような建物が建っていた。迷路の経路がここにつながって、さらにログハウスから出口に向かって道順が伸びている。
ユウキは身を乗り出して、一生懸命道順を憶えようとしている。そんなユウキにリュッ君が「作戦会議だ」とい言ってユウキのほうを向いた。ユウキがリュッ君のほうを向く。
「ユウキ、俺をここにおいて、お前だけで迷路の中に入るんだ」
リュッ君の言葉に驚くユウキ。
「え?なんで、そんなの無理だよ」
「いいから聞け。俺はこの陸橋の上から道順を指示するから、お前はその通り進めば良い。そうすれば、最短であの赤い屋根の家に着くはずだ」
リュッ君の言葉をキョトンとした表情で聞くユウキ。しばらくして、あっと口を開けて気が付いたように声をあげる。
「ああーそうか!アタマ良いねリュッ君」
「まあな、ずっと上からユウキのことを見ているし、お前からも俺のことが見えるはずだ。だから大丈夫だな」
「うん」と、答えるユウキに、ちょっと不安そうな顔は残っているが、素直に返事をくれたことにリュッ君は一旦胸をなでおろした。続けてリュッ君は、「あと、☆を持って行け」と言って、口から、プッと、☆を吐き出した。吐き出された☆は、空中で静止して、ユウキの顔の前でくるくる回った。
「あの家の中はもしかしたら暗いかもしれないからな。明かり代わりだ」
ユウキはくるくる回る☆を掴んでポケットの中に入れた。
「分かった。リュッ君」
さっき来た道を戻って、迷路の入り口に向かうユウキ。
「行って来るね!」
手を振って階段を下りていくその後姿に向ってリュッ君は、「気をつけろよ、ユウキ。俺はここにいるからな」と声を掛けた。
階段を急ぎ走り降りて角を曲がり、巨大迷路の“入り口”の前に立つユウキ。
ごくり、と唾を飲み込んで、ゆっくりその扉を開いていく。開いた扉から顔だけ出して、中の様子を確認するユウキ。すると先ほどの陸橋が目に飛び込んで、その手すりの上に置かれたリュッ君がこちらを見ているのが見えた。
ユウキは、勢い良く扉を開き、通路の中に入って、「おーい!リュッくーん!」とうれしそうに手を振った。その様子を見下ろしているリュッ君が、ユウキに向かって声を張り上げた。
「よーし、行くぞユウキ!そのまま、道なりに進んで、三回は右手に曲がれ」
言われたとおりに進むユウキ。その様子を見るリュッ君から、矢継ぎ早に指示が飛ぶ。
「次は左手に二回、そしたら三股に分かれた道に出るからそこは真ん中に進め。よしそのまま右に二回、あ、すまねえ、ユウキちょっと戻れ、そうそう、少し待ってくれ、えーと、あそこがこう繋がるから…」
最初は自信満々だったリュッ君の声が段々小さくなっていく。なんだか憮然とした顔でリュッ君を見上げるユウキが、「ねえー!大丈夫―?」と不満げに声を掛けた。
「だっ!大丈夫だ!ちょっと待ってろ。えーと…、そのまま右、そして真っ直ぐ。その後左だ」
リュッ君に、右、左といわれるたびに、真剣な面持ちで、お箸とお茶碗を持つ手を上げて左右を確認するユウキ。しかし、左右をユウキが間違えることは今のところ無かった。
「よし、そのまま進んで次に右に曲がれば、目的の赤い屋根の家だ」
リュッ君の言葉どおり、壁を伝って右に曲がると、陸橋の上から確認したあの赤い屋根のログハウスが姿を現した。通路の先には扉が閉まっていて、外からだと中の様子をうかがう事が出来ない。慎重にログハウスに近づくユウキ。その様子をリュッ君は上からじっと見ている。ログハウスの前に来たユウキが、その扉の前に立ったとき、不安そうな面持ちでリュッ君のほうを見上げた。その様子をじっと見ていたリュッ君が声を張り上げる。
「ユウキー!大丈夫だ!俺はちゃんとここにいるからな。☆をポケットから出して、慎重にドアを開けろ」
リュッ君のほうを見つめていたユウキがゆっくりうなずき、ポケットから☆を取り出した。かざした手の上で、青い光を放ちながらくるくる回って浮かび上がる。どういう原理だか、ユウキの手の動きに合わせてくっつくように動くその☆をかざして、ユウキは扉に手を掛け、ゆっくり開いていった。そして、顔だけ中に入れて覗いてみた。
「うわああああああ!」
弾かれたように扉から離れて悲鳴をあげるユウキ。
「どうした?ユウキ」
思わずリュッ君も大声を上げる。尻餅を付いたユウキが泣きそうな顔でリュッ君のほうを見上げた。
「なんかいた~~~…怖いよ~~~…」
「な、なんかってなんだ?ユウキ!」
「わかんない~、入ったら誰かがこっち見てた~~!怖いよ~!」
盛大に泣き出すユウキ。リュッ君も気が動転したようにその様子を見つめている。一体何が?と必死で思案をめぐらせるリュッ君。何かいたなら、早くユウキを逃がさないと、ああーでもどうやって?考えをめぐらせながら、改めてログハウスを見るリュッ君。しまった!何で気が付かなかったのかと嘆きの声をあげた。
なんて俺は馬鹿なんだ。
尻餅を付いて泣いているユウキに慌てて声を掛けるリュッ君。
「ユウキー!ユウキー!大丈夫だ。そこには誰もいない!心配するなー」
リュッ君の呼びかけに、しゃくり上げながら反応するユウキが、リュッ君のほうを見上げる。
「そいつはミラーハウスだ!お前が見たのは鏡に映った自分だ!」
リュッ君の声を聞きながら、「みらーはうす?」とつぶやいて、もう一度ログハウスのほうを見直した。ユウキ。開けっ放しの扉の向こう側に、鏡張りの壁が見て取れる。
「その家の中は、全部、鏡で出来ているんだ。だから、お前が見たのは自分なんだ。中には誰もいない。だから心配するなー」
ゆっくり立ちあがり、扉に近づくユウキ。ユウキの額の上に☆がくるくると回っている。中を覗き込むと、壁のいたるところに張り巡らされた鏡から、同じように覗き込むユウキがこちらを見ていた。何とか息を整え始めるユウキ。その様子を見てリュッ君が、
「ユウキー、落ち着いて、呼吸を整えろ。そいつは何てこと無い鏡張りの家だ。大丈夫、俺はここにいるから、落ち着け、落ち着いて、ゆっくり中に入るんだ」
涙目になりながら、家の中を覗き込むユウキ。そんなユウキを、家の中から同じようにユウキが見ている。鏡、ただの鏡。と自分に言い聞かせるユウキだったが、額の前で浮遊する☆が、ユウキに先行して、まるでログハウスに吸い込まれるように、スーッと進んでいった。
えっ?っと、驚くユウキの目の前で、☆は青い輝きを増しながら、ミラーハウスの中に入っていく。勝手に入っていく☆に驚いて、ユウキも思わず後に続いた。
中は完全鏡張りで、いたるところにユウキが写っている。その光景に、方向感覚を失ってしまい、思わず鏡と通路を間違えてぶつかりそうになってしまうユウキ。慌てて鏡にぶつからないように、ユウキはなるべくまわりを見ないで、前を飛んでいる☆だけを見つめようとしていた。
やがて、その奥からも同じような光が漏れ始め、合わせ鏡に光が反射して、虹のような光が踊り始める。
驚くユウキ。☆に誘われるまま、中を進むと、その先から、もう一つの☆が現れた。その二つは共鳴しあい、ミラーハウスの中でさまざまな光のダンスを踊らせ始めた。
光に照らされたユウキは、その光景に見とれて立ち尽くすと、しばらくして、その☆の光に誘われるように手を伸ばした。伸ばした指先が☆に触れた瞬間、一瞬大きく光が弾け、二つの光は収束して、ユウキの頭の上でその☆が寄ってきた。
そして、ユウキの頭上で踊っている青い光と対をなすように、くるくる空中で回り始めた。
リュッ君は手すりの上でやきもきしていた。
ミラーハウスに入っていったユウキがまだ出てこない。とはいえまだ5分もたっていないが、はらはらとしたようすで、どうしよう、大丈夫かと、つぶやいている。矢も立てもたまらず、リュッ君は大声で、ミラーハウスに向かってユウキに呼びかけた。
「ユウキー!大丈夫か!大丈夫なら返事しろー!」
誰もいない園内にリュッ君の声が響き渡る。
「ユウキー!おい!ユウキー!たのむから返事してくれー」
何度かの呼びかけの後、ミラーハウスの反対側の扉が、ぎっ、と開いた。
目を見張るリュッ君。
するとそこには二つの☆をもったユウキの姿が現れた。
ユウキは少し放心したように周りを見回し、リュッ君を見つけると、星を二つ掲げて泣き顔のような笑顔を作ってリュッ君のほうを見上げた。
「リュッくーんゲットしたー!☆ゲットしたよー!」
と大きく手を振るユウキ。その手の振りに合わせるように、赤い☆と青い☆がくるくるとユウキの周りを回ってひらひら踊っていた。
その様子を見て、リュッ君も何故か涙目になって鼻を啜った。そして大声でユウキに向かって声を掛けた。
「良くやったーユウキ!さすがだぞーさすがユウキだー!お前偉いぞお!」
リュッ君の大きな涙声が園内に響き渡った。
「よし、後は戻ってくるだけだ!今から指示を出すから、ゆっくり、慎重に戻って来いユウキ!。まずは突き当たりを左だ!」
「よし、クーラーボックスと水筒はここに置いていこう。重いからな」
「大丈夫かな…盗まれないかな?」
「まあ、その時はあきらめるしかないな。はやく☆をゲットしてここに来るようにがんばろうや」
リュッ君の言葉に「う、うん…」とうなずきながら、クーラーボックスと水筒を下ろすユウキ。そのまま看板の下に二つ並べて置いた。「軽くなった」と言って腕を振り回したユウキは、リュッ君を担ぎなおし、遊園地に向かって歩いていった。
そんな二人の様子を木の陰からじっと見つめる、大きな二つの光がぱちくりと瞬いた。
「キキッ!」
そのふたつの光はその小さな黒い影の目のように見えた。すっとその目を細めると、ザザっと、木から木へと飛び移って消えていく。
その物音を気にも留めず、ユウキとリュッ君は退園ゲートから園内へと向って行った。回転バーは反対に動かないので、ユウキは脇のブースをよじ登り、そのまま回転バーを乗り越えて園内に入っていった。
もと来た道を戻って、巨大迷路のアトラクションを探すユウキとリュッ君。園内マップを頼りに施設を目指す。
「ここだな」
ユウキとリュッ君がアトラクション・ゲートの前に立ちはだかった。そこは大きな壁に囲まれた施設で、その脇に“巨大迷路”との看板が掲げられていた。目の前には“入り口”と“出口”が並列で並んでおり、その脇にはチケットブースと券売機が並んでいた。ブースのガラスは擦り切れ、曇っていて中が見えない。その上には錆びてかすれた料金表が掲げられていた。
「この中に☆があるの?」
地図を見ながらユウキが不安そうにリュッ君に問いかける。
「多分な…」
ちょっと思案に暮れるリュッ君だったが、ユウキが入り口の扉を開けて中に入っていった。中に入ると、緑の芝生に覆われた壁が立ち塞がっていた。通路の先は曲がりくねった迷路になっているようだ。直線状の迷路コースが基本なのだろうか、当然ながら壁の向こうは何も見えない。しかし、屋根は付いておらず、吹き抜けの天井から空が丸見えになっていた。
「どうしよう…リュッ君。このまま行くの?」
ゆっくり前に進もうとするユウキ。リュッ君は周りを見渡し、迷路の先を横断する橋のようなものに目を止めた。
「ユウキ、ストップだ」
リュッ君に言われて足を止めるユウキ。
「どうしたの?リュッ君」
「あれを見ろ、あそこに、迷路を横断する陸橋みたいなのが見えるだろう?」
「りっきょう?」
「橋みたいなやつだよ」
リュッ君の見ている先を見るユウキが、橋を確認する。
「う、うん」
「あれは、迷路全体を上から見渡せるために作った監視用の場所じゃねえかな。もしそうなら、この迷路がフカンで、その通路が全部見られる」
不思議そうな顔をしてユウキが「フカン?」と聞きなおす。
「上から見下ろせるってことだよ。そのほうが道順がわかるだろう?一度、あの陸橋から迷路の道順を見てみるとしようぜ。迷路から出て、あそこへ行くための道順を探すんだ」
迷路から出た二人は、陸橋へ到る道を探した。
すると、アトラクションのブースの脇に大きな階段が上階につながっていた。階段から上に上がると、二階部分は売店が並んだ広場になっていて、その脇の通路が陸橋に繋がっていた。
陸橋にたどり着いたユウキとリュッ君が、手すりから身を乗り出して下を見下ろす。すると、陸橋の下は、先ほどの巨大迷路が広がっていて、上からエリアを全て見渡すことが出来た。どうやらここは、来園した客が、巨大迷路の全体図を見られるように作られた場所らしい。
「ここからなら、迷路の道順が分かるぞ」
「でも☆がないよ?」
“入り口”と“出口”が奥に見えて、手前に来るほど迷路の深部になっている。屋根の無い道筋は、ここから全て見渡せるが、そこには☆が見当たらない。
「だとすると、ここかな?」
と、リュッ君が下を見てつぶやいた。
手前の迷路最深部の真ん中には、六角形の赤い屋根が付いた、ログハウスのような建物が建っていた。迷路の経路がここにつながって、さらにログハウスから出口に向かって道順が伸びている。
ユウキは身を乗り出して、一生懸命道順を憶えようとしている。そんなユウキにリュッ君が「作戦会議だ」とい言ってユウキのほうを向いた。ユウキがリュッ君のほうを向く。
「ユウキ、俺をここにおいて、お前だけで迷路の中に入るんだ」
リュッ君の言葉に驚くユウキ。
「え?なんで、そんなの無理だよ」
「いいから聞け。俺はこの陸橋の上から道順を指示するから、お前はその通り進めば良い。そうすれば、最短であの赤い屋根の家に着くはずだ」
リュッ君の言葉をキョトンとした表情で聞くユウキ。しばらくして、あっと口を開けて気が付いたように声をあげる。
「ああーそうか!アタマ良いねリュッ君」
「まあな、ずっと上からユウキのことを見ているし、お前からも俺のことが見えるはずだ。だから大丈夫だな」
「うん」と、答えるユウキに、ちょっと不安そうな顔は残っているが、素直に返事をくれたことにリュッ君は一旦胸をなでおろした。続けてリュッ君は、「あと、☆を持って行け」と言って、口から、プッと、☆を吐き出した。吐き出された☆は、空中で静止して、ユウキの顔の前でくるくる回った。
「あの家の中はもしかしたら暗いかもしれないからな。明かり代わりだ」
ユウキはくるくる回る☆を掴んでポケットの中に入れた。
「分かった。リュッ君」
さっき来た道を戻って、迷路の入り口に向かうユウキ。
「行って来るね!」
手を振って階段を下りていくその後姿に向ってリュッ君は、「気をつけろよ、ユウキ。俺はここにいるからな」と声を掛けた。
階段を急ぎ走り降りて角を曲がり、巨大迷路の“入り口”の前に立つユウキ。
ごくり、と唾を飲み込んで、ゆっくりその扉を開いていく。開いた扉から顔だけ出して、中の様子を確認するユウキ。すると先ほどの陸橋が目に飛び込んで、その手すりの上に置かれたリュッ君がこちらを見ているのが見えた。
ユウキは、勢い良く扉を開き、通路の中に入って、「おーい!リュッくーん!」とうれしそうに手を振った。その様子を見下ろしているリュッ君が、ユウキに向かって声を張り上げた。
「よーし、行くぞユウキ!そのまま、道なりに進んで、三回は右手に曲がれ」
言われたとおりに進むユウキ。その様子を見るリュッ君から、矢継ぎ早に指示が飛ぶ。
「次は左手に二回、そしたら三股に分かれた道に出るからそこは真ん中に進め。よしそのまま右に二回、あ、すまねえ、ユウキちょっと戻れ、そうそう、少し待ってくれ、えーと、あそこがこう繋がるから…」
最初は自信満々だったリュッ君の声が段々小さくなっていく。なんだか憮然とした顔でリュッ君を見上げるユウキが、「ねえー!大丈夫―?」と不満げに声を掛けた。
「だっ!大丈夫だ!ちょっと待ってろ。えーと…、そのまま右、そして真っ直ぐ。その後左だ」
リュッ君に、右、左といわれるたびに、真剣な面持ちで、お箸とお茶碗を持つ手を上げて左右を確認するユウキ。しかし、左右をユウキが間違えることは今のところ無かった。
「よし、そのまま進んで次に右に曲がれば、目的の赤い屋根の家だ」
リュッ君の言葉どおり、壁を伝って右に曲がると、陸橋の上から確認したあの赤い屋根のログハウスが姿を現した。通路の先には扉が閉まっていて、外からだと中の様子をうかがう事が出来ない。慎重にログハウスに近づくユウキ。その様子をリュッ君は上からじっと見ている。ログハウスの前に来たユウキが、その扉の前に立ったとき、不安そうな面持ちでリュッ君のほうを見上げた。その様子をじっと見ていたリュッ君が声を張り上げる。
「ユウキー!大丈夫だ!俺はちゃんとここにいるからな。☆をポケットから出して、慎重にドアを開けろ」
リュッ君のほうを見つめていたユウキがゆっくりうなずき、ポケットから☆を取り出した。かざした手の上で、青い光を放ちながらくるくる回って浮かび上がる。どういう原理だか、ユウキの手の動きに合わせてくっつくように動くその☆をかざして、ユウキは扉に手を掛け、ゆっくり開いていった。そして、顔だけ中に入れて覗いてみた。
「うわああああああ!」
弾かれたように扉から離れて悲鳴をあげるユウキ。
「どうした?ユウキ」
思わずリュッ君も大声を上げる。尻餅を付いたユウキが泣きそうな顔でリュッ君のほうを見上げた。
「なんかいた~~~…怖いよ~~~…」
「な、なんかってなんだ?ユウキ!」
「わかんない~、入ったら誰かがこっち見てた~~!怖いよ~!」
盛大に泣き出すユウキ。リュッ君も気が動転したようにその様子を見つめている。一体何が?と必死で思案をめぐらせるリュッ君。何かいたなら、早くユウキを逃がさないと、ああーでもどうやって?考えをめぐらせながら、改めてログハウスを見るリュッ君。しまった!何で気が付かなかったのかと嘆きの声をあげた。
なんて俺は馬鹿なんだ。
尻餅を付いて泣いているユウキに慌てて声を掛けるリュッ君。
「ユウキー!ユウキー!大丈夫だ。そこには誰もいない!心配するなー」
リュッ君の呼びかけに、しゃくり上げながら反応するユウキが、リュッ君のほうを見上げる。
「そいつはミラーハウスだ!お前が見たのは鏡に映った自分だ!」
リュッ君の声を聞きながら、「みらーはうす?」とつぶやいて、もう一度ログハウスのほうを見直した。ユウキ。開けっ放しの扉の向こう側に、鏡張りの壁が見て取れる。
「その家の中は、全部、鏡で出来ているんだ。だから、お前が見たのは自分なんだ。中には誰もいない。だから心配するなー」
ゆっくり立ちあがり、扉に近づくユウキ。ユウキの額の上に☆がくるくると回っている。中を覗き込むと、壁のいたるところに張り巡らされた鏡から、同じように覗き込むユウキがこちらを見ていた。何とか息を整え始めるユウキ。その様子を見てリュッ君が、
「ユウキー、落ち着いて、呼吸を整えろ。そいつは何てこと無い鏡張りの家だ。大丈夫、俺はここにいるから、落ち着け、落ち着いて、ゆっくり中に入るんだ」
涙目になりながら、家の中を覗き込むユウキ。そんなユウキを、家の中から同じようにユウキが見ている。鏡、ただの鏡。と自分に言い聞かせるユウキだったが、額の前で浮遊する☆が、ユウキに先行して、まるでログハウスに吸い込まれるように、スーッと進んでいった。
えっ?っと、驚くユウキの目の前で、☆は青い輝きを増しながら、ミラーハウスの中に入っていく。勝手に入っていく☆に驚いて、ユウキも思わず後に続いた。
中は完全鏡張りで、いたるところにユウキが写っている。その光景に、方向感覚を失ってしまい、思わず鏡と通路を間違えてぶつかりそうになってしまうユウキ。慌てて鏡にぶつからないように、ユウキはなるべくまわりを見ないで、前を飛んでいる☆だけを見つめようとしていた。
やがて、その奥からも同じような光が漏れ始め、合わせ鏡に光が反射して、虹のような光が踊り始める。
驚くユウキ。☆に誘われるまま、中を進むと、その先から、もう一つの☆が現れた。その二つは共鳴しあい、ミラーハウスの中でさまざまな光のダンスを踊らせ始めた。
光に照らされたユウキは、その光景に見とれて立ち尽くすと、しばらくして、その☆の光に誘われるように手を伸ばした。伸ばした指先が☆に触れた瞬間、一瞬大きく光が弾け、二つの光は収束して、ユウキの頭の上でその☆が寄ってきた。
そして、ユウキの頭上で踊っている青い光と対をなすように、くるくる空中で回り始めた。
リュッ君は手すりの上でやきもきしていた。
ミラーハウスに入っていったユウキがまだ出てこない。とはいえまだ5分もたっていないが、はらはらとしたようすで、どうしよう、大丈夫かと、つぶやいている。矢も立てもたまらず、リュッ君は大声で、ミラーハウスに向かってユウキに呼びかけた。
「ユウキー!大丈夫か!大丈夫なら返事しろー!」
誰もいない園内にリュッ君の声が響き渡る。
「ユウキー!おい!ユウキー!たのむから返事してくれー」
何度かの呼びかけの後、ミラーハウスの反対側の扉が、ぎっ、と開いた。
目を見張るリュッ君。
するとそこには二つの☆をもったユウキの姿が現れた。
ユウキは少し放心したように周りを見回し、リュッ君を見つけると、星を二つ掲げて泣き顔のような笑顔を作ってリュッ君のほうを見上げた。
「リュッくーんゲットしたー!☆ゲットしたよー!」
と大きく手を振るユウキ。その手の振りに合わせるように、赤い☆と青い☆がくるくるとユウキの周りを回ってひらひら踊っていた。
その様子を見て、リュッ君も何故か涙目になって鼻を啜った。そして大声でユウキに向かって声を掛けた。
「良くやったーユウキ!さすがだぞーさすがユウキだー!お前偉いぞお!」
リュッ君の大きな涙声が園内に響き渡った。
「よし、後は戻ってくるだけだ!今から指示を出すから、ゆっくり、慎重に戻って来いユウキ!。まずは突き当たりを左だ!」
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*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
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