リュッ君と僕と

時波ハルカ

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三日目

ダム

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 ゆるい登りの山道をユウキとリュッ君が登っていく。

 昨日の歩いた道よりは、まわりに生えている木々の間隔も広く、少しひらけた印象を受けた。しばらくすると、やや切り立った斜面にさしかかった。木々の隙間から大きく落ち窪んだ低地が見え隠れしている。地面の隆起が激しい道のりを進むにつれ、ここは山間の高い場所なんだな、とユウキとリュッ君は感じた。

 山の稜線から覗いていた太陽もすっかり登りきり、日の光と樹木の影とを交互に照らし出す。

 しばらく道なりに歩くと、ユウキとリュッ君は、山の斜面のヘリにひょっこりその姿を現した。二人の目の前に、大きく沈んだ窪地が広がっている。そして、その窪地の奥に、何かを塞き止めるかのような巨大なコンクリートの塊が、斜面と斜面の合間に立ち塞がっているのが見えた。山林の斜面を垂直に分断している巨大な灰色の壁面、そのはるか下方には、コンクリートの建造物に続くように河川が蛇行して、山のふもとのはるか先まで伸びているのが見えた。

 ユウキは、想像以上に巨大なその建造物を前に、しばらく立ち尽くして見つめていた。

「すごい、おっきいい」
「ああ、思った以上にでけえなあ、あれは…」
「あの大きい壁の向こうに☆があるのかな?」
「地図のとおりならな。とりあえず、先を急ぐか。ユウキ!」
「うん!」

 元気に返事をしたユウキは、急な山道を目の前にある大きなダムに向って足を速めた。

 急な斜面をダムまで到達できそうな道のりを探しながら、獣道を登って行くユウキ。しばらくすると、コンクリートで舗装された広場のような場所に出てくることが出来た。

 低い壁面を越えて広場に降り立つと、目の前にそそり立つダムの垂直面が現れた。その向こう側に向かって、広場を急ぎ横断していくユウキ。道すがらのコンクリートは、ダムの天辺にある通路に繋がって延びている。ユウキとリュッ君は、広場を通り過ぎ、ダムの天辺の通路にたどり着くと向こう側にある手すりから身を乗り出してダム湖のほうを見た。

 そこには、広く、とうとうと水をたたえた巨大な湖が広がっていた。長く、湖を横断しているこのダムに塞き止められ、大量の水が山あいの窪地を全て埋め尽くしている。上空から照らしつける陽光を全て受け止めた湖の表面は、キラキラと眩しく光を跳ね返していた。そして、取り囲んだ木々の緑が、陽光瞬く湖の周りに続いていた。

 その光景を、二人はしばらく声もなく見つめた。

 ダム湖の水は流れを止めて、しん…と静まり返り、水面に幾重もの波紋のような小さなさざなみを立てている。

「すごいおおきい湖だ。綺麗だね!リュッ君!」
ユウキがうれしそうにダム湖を見つめて言った。リュッ君も「そうだなあ…」と答えた。

 しばらくの間、その湖の様子を眺めていた二人は、あらためて落書き地図を手に取って位置を確かめた。黄色の☆は、ダム湖の真ん中に描かれている。

「リュッ君…☆、ないねえ」
「うーん…」
「この☆って、やっぱり、あの湖の中ってことかな…」
「そうだな…、この地図の場所の通りだと、そういうことになるな…」

 二人は再び押し黙って、目の前に広がる湖に目を向けた。陽光をきらきらと乱反射させる水面を見つめるリュッ君。ふと、その時、遊園地のミラーハウスで、☆アイテムがお互いに呼応しあうようにきらきらとその光を強めていたことを思い出した。

 リュッ君は空を見上げると、プッ!プッ!と☆を2個空中に吐き出した。

  飛び出した赤と青の☆が空中で静止して、ユウキのほうに戻ってきたかと思うと、くるくると回転して、それぞれ赤い光と青い光を明滅させた。

 しばらくその様子を見ていると、ダム湖のさざなみの反射に混じって、なにやら弱く明滅する光が水中から見え隠れし始めた。陽光の光に溶け込むような黄色い光が、波間の向こうに揺らいでいる。

「あそこだな!こりゃ困ったぞ…」
「ねえ、リュッ君、あれってもしかして…」
「そうだな、ユウキの言ったとおりだ」

  リュッ君がダム湖の真ん中をにらみつけて、忌々しそうにつぶやいた。

「黄色の☆は、ダム湖の底に沈んでやがる」

  明滅する☆の光は、周りの岸のどこからも、ゆうに100m以上は離れたところで瞬いている。またその光がどのくらいの深さからこちらに呼びかけているのか、見当もつかない。

「ユウキ…お前、泳ぎは得意か?」

 ユウキがすごい勢いで首をぶんぶん横に振る。そりゃそうだ。ユウキどころか、大人でも、あんなところに素もぐりで、目的のぶつを捕りに行くのは不可能だろう。途方にくれるユウキが、「どうしよう…」とつぶやいた。

 その言葉を聞きながら、リュッ君はダム湖の周辺を見回していた。ボートがいくつか沿岸部分に係留されているが、まさかそんなものをユウキが操作できるとは思えない。

 それよりも、こんな巨大な施設が管理もされず、放置されているなどということは実際にありえるのだろうか?と、リュッ君の頭には違う疑問が浮かんできた。

 ユウキと一緒に降りてきた広場の方向には、多少開けた空間があるが、完全に山林に阻まれて、道路的には行き止まりになっている。その反対側、ダムの天辺に位置する、この通路を越えた反対側にもコンクリートの舗装地は続いていて、その先はどうやら、駐車場らしきスペースになっているようだ。そして、その脇には、ダムの管理施設らしき建物が建っている。

「ユウキ」

 リュッ君が、ダム湖の光を見つめるユウキに声をかけた。ユウキがリュッ君の声に反応してそちらを向く。

「あそこ、あの広場の向かいに建物が見えるだろう?」と、リュッ君がユウキの視線をうながした。

 ユウキが見ると、ダムの天辺の通路の先、広場を超えたところに鉄筋の3階建てのビルがぽつんと立っていた。

「あそこに行って、このダムのことを調べてみよう。もしかしたら、そこから助けを呼べるかもしれない」
「う、うん」

 ユウキはリュッ君の言ったことにうなずいて、ダムの天辺の通路を建物のほうに向って走って行った。

 ダムの天蓋の通路を急ぐ二人の元に、鉄筋で立てられたビルが近付いてくる。そして、その外観を見るにつけ、二人が淡く抱いた期待が失望に変わっていくのが感じられた。

 近付くにつれはっきり見えてくるその建物の外観は、明らかに人の管理していない、打ち捨てられた廃墟のそれであった。


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