リュッ君と僕と

時波ハルカ

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三日目

管理棟

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 用を足したユウキは、後ろ足できちんとトイレの穴を埋めると、リュッ君をかつぎ、スッキリした顔で駐車場に戻ってきた。

 管理棟の横にある休憩所まで戻ってくると、リュッ君とユウキは、チラリと公衆トイレの様子覗いてみた。なるほど、確かに、これではまともに用を足せそうにない。

 小便器は汚れ放題で、幾つかは取れて転がっている上に、床のタイルは薄汚れ所々割れて割れて剥がれている。排水口付近からは汚水があふれ出し、幾筋もの黒い染みを作って、表面の色を変色させていた。大便器の個室のドアも幾つか壊れて傾いており、茶色く変色した便器は見ているだけで臭ってきそうだ。

「な、こんなところじゃ出来ねえだろ?」
「…う、うん…」

 ユウキは鼻をつまんでトイレから離れると、今度は建物の裏手にまわった。そこには、バリアフリーの坂道と、その先に裏口と思われるドアがあった。ドアの取っ手に手を掛けて開けようとするユウキが、力を入れて踏ん張った。

「ギギギギギ…」

 鍵がかかった鉄扉は、ユウキのチカラではビクともしない。

「これなら、まだ、正面扉のバリケードを突破する方が現実的だな…」
とリュッ君がひとりごちた。取っ手から手を離して肩で息をするユウキが顔を上げると、雨どいが続くその先に室外機を備えたベランダが見える。

「リュッ君、あれ、あそこ」
「ん?」

  ユウキが嬉しそうに指を指した。リュッ君もその先を見て気が付いた。ベランダにある一番端の窓ガラスが少しだけ開いている。

「ユウキ、お前、だんだん悪くなってきたな」

 
  リュッ君を背中に背負い直し、雨どいに手を掛けるユウキ。

「大丈夫か?」
「うん、大丈夫」

  雨どいを握りつつ、バランスを取る。

「ジェットコースターより高くないもんね」

  体重を乗せて足をかけると、雨どいを上の方に登って行った。手を伸ばしベランダに移動すると、ユウキはリュッ君をお腹の方に戻して、ベランダの一番端の窓に近づいて行った。そして、両手を窓の隙間に差し込み、力一杯引っ張った。

 ガタガタッ‼

 窓が建てつけが悪そうに揺れる。長年放置された窓は滑りが悪く固まっていた。それでも、ユウキが力を入れて引っ張ると、ズズッ、と引きずられるように少しづつその隙間が広がっていった。

 体一つ分だけ、窓を開けることに成功したユウキは、まず、リュッ君をその隙間から押し込んで侵入させた。そして、 自分も窓の隙間からその建物の中に身を滑らせて中に入って行った。

 中に入ったその場所は、机が並び、書類だかチラシだかパンフレットだかわからない紙が所狭しと散乱していた。パソコンやモニター、コピー機のような機器がいくつも残されていて、その全てに薄っすらと白いホコリが降り積もっている。曇って汚れたガラスに遮られた部屋の中は、白く舞うホコリと、じめっとした湿気と蒸し暑さが充満していた。

 そんな部屋の様子を見て、ユウキがその身を固くした。

 もしかしたら、遊園地で見た、あの影達がいるかもしれない。

 ユウキの鼓動が速くなっていくのがリュッ君にも伝わってきた。

 リュッ君は、ププッと再びユウキの前に☆を口から吐き出した。ユウキの目の前で赤と青の☆がくるくる回って浮遊する。

「ユウキ、何かこの建物の中にヒントになりそうなものを探すんだ。この建物の中は、誰もいなくなって時間が経っているから、いろいろ危険だ。だから慎重にいこう」

 リュッ君がユウキを元気づけるように話しかけた。

「う、うん!」

 返事をすると、ユウキが目の前に手をかざす。すると二つの☆がスーッと寄ってきて、頭上でくるくる、ヒラヒラと浮かんで明滅し、ユウキの前方を淡い光で照らしてくれた。

 誰も管理しなくなって久しいと思われる管理棟内部は、たまに訪れる第三者によって荒らされているのか、備品や書類が、机の上や床にぶちまけられて散乱し、ホコリを被っていた。壁や天井などは、天井板や壁紙などが剥がれ落ちたり、めくれ上がったりしていて、その奥に張り巡らされている柱や梁、中を通る配線類などがむき出しになっている。天井の蛍光灯の多くは外されたり割られたりで、無残な姿で放置されていた。

 リュッ君は、床に散らばっている書類の類をくまなく見つめていた。外のダムについて書かれているパンフレットでもあれば、ここのダムがどこのダムなのか見当をつけられる。それ以外、なにか、ヒントになりそうなものってなんだ?ダム湖の真ん中の☆を手に入れるのに必要なヒントって…。

 見渡す限りの紙の山は、文字や計算書が書かれた書類ばかりで、ユウキはもちろん、リュッ君にもそれが何を意味する書類なのか分からない。それ以外のものは、カレンダーやチラシなど、あまり役に立ちそうなものは見当たらなかった。

 ユウキは、机に置いてある固定電話のホコリを払って受話器を上げてみた。当然、受話器からは何も聞こえてこなかったし、本体のプッシュホンを押しても何も反応はなかった。仕方がないので、ユウキは、めぼしそうな棚を開いたり、引き出しを開けたりしながら、何かを探そうとしていた。

「リュッ君、どういうものを探せば良いのかな?」
「うーん、ここが何処なのか、場所に関するものとか…。サバイバルに必要そうなアイテムでもあるとめっけものなんだがな」

 リュッ君がキョロキョロしていると、目の前に広がる事務室の奥にも部屋があった。どうも応接室のようだ。その脇の方に廊下が続き、他の階に続く階段が続いているようだ。リュッ君が何か思いついたかのようにハッと顔を上げて「ユウキ」と声を掛けた。

「どうしたの?リュッ君?」
「ひとところだけ探しても仕方がない、とりあえず、廊下に出てこの建物のフロアー案内図をさがそう」

 ユウキが廊下の方を向く。廊下はこの部屋よりも薄暗く見える。

「ええ~…あんまり行きたくないな…」
「まあ、その気持ちは分かるがな…、どうせ出る時は、あの1Fの裏口からになるんだろうから、逃走経路だけでも確保しておこうな」

 事務室からそーっと顔を出して廊下の様子を伺うユウキ。廊下は静まりかって、階段の先には光がほとんど届いていないので、その先がよく見えない。

「よし、ユウキ、言った通りやってみろ」
「うん」

 返事をすると、ユウキはおもむろに廊下に飛び出して振りかぶり、手に握っている☆を一つ、廊下の先に投げてみた。

 廊下の壁を照らしながらまっすぐ飛んでいく☆は、ある一定の距離まで行った後、徐々にスピードを落として止まり、孤を描いてユウキの元に戻って来た。

 ブーメランのように戻って来た☆をユウキがキャッチする。

「よし、何もいない。大丈夫そうだな」

 リュッ君の言葉に頷いて、ユウキは廊下の奥に続く階段に向って歩いて行った。

「まずは一階へ行って、ドアが開くかどうかを確認しよう。その後、正面玄関へ行って館内マップを確認して、なにか目ぼしいものがありそうなところのアテを付けるんだ」 

 階段までたどり着いたユウキは、先程と同じ様に、階段の手すりから身を乗り出して、その隙間の上と下に☆を放り投げた。そして安全の確認をした後、階段の手すりを掴んだ。ヌルッとした感触に思わず「うわッ!」と声をあげる。見ると、手の平が大量のホコリで汚れて白くなっていた。両手を叩いてホコリを払うユウキ。

「俺のほうもたのむ」

 見るとリュッ君の顔にもホコリの筋が幾重にもついている。ユウキはリュッ君の顔を叩きながら階段を慎重に下りていった。

 一階に下りると、まず裏手にある鉄扉の方に向かった。外からではビクともしなかった扉だったが、中からは、内鍵が普通に掛けられているだけだったので、鍵をひねると難なく開くことができた。扉を大きく開け放ち、外の光を浴びるユウキとリュッ君。穏やかに流れる風と夏の日差しを受けて、ホッとした表情を浮かべた二人は、管理棟の中で吸い込んだホコリっぽいの空気を入れ替えるかのように、そろって大きく深呼吸をした。

「一応、扉は開けたままにしておこう」

 リュっ君が提案してきたので、鉄扉を全開にした。体を包む外気を惜しむ様に再び深呼吸をすると、振り返って建物の中に入って行った。

 ユウキとリュッ君は、次に正面玄関に向かった。正面玄関までの通路は裏扉から真っ直ぐ行ったその先だった。全面ガラス張りの扉の向こうに、先ほどは外から見ていたバリケートの壁と、その隙間から差し込む光がみえている。扉から向かい側の壁を見ると、
「あった。これだね」
ゆうきが指をさすその先に、館内マップが描かれたボードが壁に埋め込まれていた。

 しかし、その上にも、ホコリと汚れが乗っており、肝心の文字がかき消されていたり、落書きによって上塗りされていたりしていた。館内マップを見上げながら、さて、何処から手を付けるか…と思案をするリュッ君。その時ユウキが何かに気が付いてリュッ君に声をかけた。

「リュッ君、リュッ君、あれなんだろう?」

 声に気付いて、ユウキの指差す方向を見るリュッ君。そこにはキャスター付きのワゴンが置かれていた。その表面にも白いホコリはうっすらと降り積もっている。

 そして、ほこりにまみれたワゴンの中には、青いカードがポツンと一枚だけ置かれていた。カードが置かれているワゴンの上には張り紙が貼られており、こう書かれていた。

「ダムカード配布致します。お一人様、一枚まで」

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