リュッ君と僕と

時波ハルカ

文字の大きさ
34 / 89
三日目

ゲート操作室

しおりを挟む
 廊下を抜けたリュッ君とユウキの前に、蛍光灯に浮かび上がる鉄扉が現れた。

「頑丈そうな扉だねえ」とユウキが思わずつぶやいた。「うん、そうだな」と、リュッ君がユウキの言葉に相槌を打つと、目の前の扉に備え付けられたプレートに、『利水用バルブ 放流ゲート操作室』という文字を見つけた。

「ふむん、どうやら一つ目の部屋はここみたいだ」
「ここで、水を流すことが出来るの?」
とユウキが聞くと、
「さあなあ、とりあえず入って確かめるしかないかな。ユウキ。鍵を出して開けてみてみよう」
と言って、口をかぱっと開けると、ユウキに向かって鍵束を差し出した。ユウキはそれを受け取ると、鍵を手に持って扉に近付いていった。

 鍵束の中から、鍵を一つ一つ差し込んでいく。数本刺した後、そのひとつが鍵穴にぴったりかちりと収まると、扉の鍵を開くことが出来た。

 鍵束をリュッ君に渡して、扉の取っ手を両手で掴む。
「ねえ、リュッ君…」
「なんだ?ユウキ」
「扉の向こうに、あのノッポの影がいると思う」

 ユウキに聞かれて「うーん」と首をかしげて、少し間をおくと「この流れだといるだろうなあ」と答えた。

「うぅ~…、やっぱり、怖いよお…」
と言って、ユウキは両手で取っ手を握ったまま固まってしまった。

「次も、意外と気さくに挨拶してくれるかもしれねえぞ」

 リュッ君が、少しおかしそうに言ってくる。ユウキの脳裏に、先ほど「ホッホウ」と、帽子の鍔をあげるように挨拶をしてきたノッポの影の姿が浮かぶ。困ったような顔をして、「ううーん…」と唸るユウキの反応を背に、リュッ君が話を続ける。

「発電所の時と同じパターンかな…?ここで働いていた思い出の影が、中でゲートの操作手順を、繰り返し行っていると思うんだがなあ。それをユウキ、お前が真似して手伝ってやれば、ダムの水を抜くことが出来るかもしれない」

 その言葉を受けても、困ったような顔をして、「うぅーん」と唸るユウキ。そんなユウキの言葉を尻目に「まあ、あのノッポの影達も、今は協力してくれているみたいだし、乗っかっていくしかねえだろ。さあ、とりあえず入っちまおうぜ」と続けた。相変わらず唸っているユウキだったが観念したかのように「分かった…」と口を尖らせてつぶやくと、ゆっくりと手前に扉を引いていった。

 ユウキ達の体半分くらいの隙間が空くと、一旦手を止めた。その後、肩に浮いている赤い☆を手にとって、開いた扉の隙間から中を覗いて見る。
 
 コンクリートの壁で塞がれた空間に、何処からともなくゴオオオオ…と圧力をかけるように反響音が静かに響いていく。

 ユウキ達が隙間からそっと中を覗く。扉の向こうには、ありがたいことに室内灯が点いていた。中は上下に吹き抜けて、さらに開けた空間が続き、その奥には壁際に下に続く階段が伸びている。

「リュッ君…あのノッポの影、いる?」
「うーん今のところ見あたらねえな、扉の脇にもいねえみたいだし」

 中の様子を見回した後、ユウキは、体を滑り込ませて入っていった。扉の向こうに続く通路を進み、突き当りの階段に差し掛かる。階段の上は高いコンクリートの天井があるだけで、がらんとした空間が広がっている。ユウキは欄干の手すりから身を乗り出して下を覗き込んだ。

「あ!」

 ユウキとリュッ君が見ている先、階段を下りたフロアーにのろのろと動くあのノッポの影がいた。ノッポの影は、ユウキ達がいるフロアーから続く階段の降りた先に立って、その体をいつものようにゆらゆらと揺らしていた。

「いたなあ…やっぱり普通にいたなあ…。ありゃ、お前が降りてくるのを待っているなあ…ユウキ」
「ええええ~…」

 リュッ君に言われたユウキが困った表情を浮かべ、下をこそっと覗き込む。すると、階段の上を見上げるようにして立っていたノッポの影と目が合うような形なってしまった。ぎょっとするユウキに、ノッポの影は手を上げて、
「ホッホウ!」
と、また帽子の鍔を上げるように、軽やかに泣き声を上げた。それを見て、ややあきれた顔をしてリュッ君が「ほんとに気さくに挨拶してくれるんだな」とひとりごちた。

「さて、向こうも手伝ってくれると言ってくれているんだ。さっさと行って、ダム湖の水を抜いてこよう」
「ほんとに手伝ってくれるって言ってるの?」
「うむ、そう言ってるさ」
と言ってリュッ君は、フロアーの下のほうを覗き込みながら言った。
「あそこ以外にも、何体かいるな。みんな、多分ここで働いていた思い出たちだ。きっと、ダムの水を放流したくて、ここに留まっているんだろう…。だから、ユウキ、お前が手伝ってやるんだ」

 再び階段の下を覗き込むユウキ。ゆらゆらと揺れているノッポの影が「ホッホウ」と鳴いた。

 ユウキが階段を下っていく。脇を見ると吹き抜けの大きな空洞のような部屋の真ん中に四角い構造物が鎮座しており、その真ん中を突き刺すような巨大な*シリンダーがそびえ立っていた。

「リュッ君。あれ!」
「ああ、そうだな、ノッポの影が働いているな」

 構造物の周りには、何本ものバルブやパイプが入り組んで配置されている。その合間を縫って、影達が、まるで何かを点検するかのように見回っていた。階段の先には、先ほどユウキとリュッ君達に軽やかに挨拶をしたノッポの影が待っていた。再び、「ほっほう」と迎えるかのように声を上げると、くるりときびすを返して、まるでユウキ達を先導するかのように、ゆらゆらと前を歩き始めた。

「付いて来いってよ」

 リュッ君がユウキに言った。ユウキが、前を歩くノッポの影の後ろを付いて行く。

「ねえ、リュッ君」
「なんだ?ユウキ?」
「リュッ君は、あのの歩の影の言っていることが分かるの?」

リュッ君はしばし考えるようなそぶりをして、
「はっきりとは分からないんだが…。なんとなくは言っていることは分かるなあ」

 何でだかは、分からんがな…
 
 前を歩くノッポの影は、屋内の真ん中に備え付けられた巨大なシリンダーに向って歩いていく。すると、シリンダーの脇のフロアーから、その他のノッポの影達が顔を出して、次々に声を掛けてきた。

「ホッホウ」
「ホッホウ」
「ホッホウ」
「オホッホウ」

 次々に顔を出しては、頭のヘルメットのヘリのようなシルエットを掴んで一礼をする。

「オホッホホウ」

 彼らの挨拶(?)に対して、ユウキの前を歩いているノッポの影が、慇懃に返礼らしきものを返していく。

「どうやら、こいつは、ここの作業員の中でも偉いやつみたいだな」
「え?そうなの?」
「うむ、なんとなくわかるんだ」

 これは分かりやすいけどな…

 リュッ君は頭の中で一人ごちながら、近付いてくる巨大なシリンダー錠の構造物を見上げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

処理中です...