リュッ君と僕と

時波ハルカ

文字の大きさ
64 / 89
四日目

裂け目

しおりを挟む
「うおお!ユウキイ!ちょ!おま!こんなところでなにやってんだ!」

 目の前で呆然と見上げているユウキを見て、思わず声を上げるリュッ君。

 大影猿は、リュッ君を背中に担いだまま、その胸に抱きしめた影猿の頭を撫でて、その顔に何度もキスをした。そんな、大影猿の背中に担がれたリュッ君を見つめるユウキの顔がみるみるくしゃくしゃになっていくと、目に大粒の涙を溜めて、うえええええと、泣き出した。

「リュッ君!リュッ君!ランスロットが死んじゃう!ランスロットが死んじゃうよおお~~~!」

 ワンワン鳴きながら、リュッ君に訴えるユウキ。そんなユウキを見て、オロオロするリュッ君は、わけがわからず聞き返した。

「ランスロット?ランスロットってなんだ?ユウキ?」
「一緒に来たの!ここまで!だけど、黒いランスロットが白いランスロットに噛み付いてえ~~」
「え?なんだ?黒いランスロットってなんだ?何の事言ってるんだ?」
「白いランスロットがやられて死んじゃううう~!」

 ゴガアアアア!

 黒いランスロットが、白いランスロットから離れると、抱き合う大影猿に向かって踊りかかっていった。大影猿はそれを見て取ると、影猿を脇にどかして後方に構え直した。

「うおおわあ」

 襲い掛かった黒いランスロットにつかみかかる大影猿は、そのまま取っ組み合うように側面に回転して地面を転がっていった。しかし、転がりながらも大影猿の足が、黒いランスロットの腹を蹴りあげ、転がる反動を使うかのように上空になげとばす。逆さまに放り投げられた黒いランスロットは、そのまま空中で一回転して、岸壁の出っ張りに滑って着地した。

 グルルルルル…!

 黒いランスロットを放り投げた大影猿も、のそりと立ち上がり、その二つの光の眼で黒いランスロットをにらみつけた。

 キキキッ!

 影猿が甲高く鳴きながら、ひょこひょことユウキの元にやってくる。そして、その脇に隠れながら、大影猿と黒いランスロットが対峙する様子を見つめた。投げ飛ばされた黒いランスロットと対峙している大影猿は、ユウキ達を守るかのように背を向けて立ちはだかった。首をすくめて身構える大影猿の背中は大きく、その広い背中に、肩掛けが伸びきったリュッ君の姿が見えた。

「リュッ君!すごい!」
 驚き目を丸くするユウキが思わず叫ぶ。
「ばかっ!おりゃ!何もしてねえ!わわっ!」

 岩棚から踊りかかってくる黒いランスロットをひらりとかわす大影猿。体をひねって縦横無尽に飛び掛ってくる黒いランスロットと一定の距離を保ちつつ、華麗なステップでその攻撃をいなす様に下がっていく。

「いけー!がんばれリュッ君!」
「ウッキッキー!」

 激しく動く大影猿の背中に振り回されて、目を回すリュッ君。大影猿は、黒いランスロットの跳躍力を、さらに上回るジャンプ力で上手に攻撃をかわすと、背中に飛び乗り、その首に手を回して締め上げた。苦しそうに体をそらせる黒いランスロットは、たまらず前足を上げて、馬がいななくようにその体を立ち上げると、そのまま背中の大影猿を、岩棚の壁面に強く打ち付けた。

「ぐぎゅうう!」

 大影猿の背中で、強烈なプレスを受けるリュッ君が、あまりの重圧に悲鳴をあげる。

 黒いランスロットが、大影猿を、激しく岩棚に打ち付けるも、大影猿の首を締め上げる力は緩まない。黒いランスロットは、さらに激しく、ガンガンと大影猿を壁面に背中から強く打ち付けた。

「ムギュウ!ムギュウ!」

 壁面の岩棚がガラガラと崩れ、瓦礫が落ちていく。

「負けるなーリュッ君!黒いランスロットをやっつけてー!」
「ウキッキー!」

「ぶべらあ!」
 岩棚の瓦礫の間から、岸壁に打ち付けられたリュッ君が顔を出す。

 このままだと、猿の背中に圧迫されてほんとうにおっちんじまう!

 黒いランスロットがさらに暴れると、助走をつけて壁面を駆け上がった。そして、大きく後方にジャンプした。高く舞い上がる黒いランスロットと大影猿とリュッ君。黒いランスロットは体をひねると、背中を地面に向けて、そのまま体重を乗せて落下軌道に入った。

 リュッ君は痛みに耐えながら、口に空気をヒュっと吸い込むと、
「いい加減に…しろ!」
 と大きく怒鳴ってその体をボンッ!と膨らませた。

 大きくエアバックのように膨れ上がったリュッ君に体を沈ませて、ボヨヨン!と上に跳ね上がっていく大影猿と黒いランスロット。リュッ君はその後、肩掛けをパチン!と外して、大影猿から離脱した。

 くるくると回りながら、レールの上にボスンと落ちるリュッ君。

 跳ね飛ばされた大影猿はその衝撃で手が緩んだ。黒いランスロットが大影猿を振り払うと、地面に着地して態勢を立て直して。大影猿に向かって襲い掛かっていく。

 大影猿も体制を整え、黒いランスロットのほうに体を向けた。しかし、黒いランスロットの方が、若干スピードが速かった。体を黒いランスロットに向けようとしたとき、その鋭い牙が大影猿の喉元に向かって飛び掛った。

 思わず手で喉元をかばおうとする大影猿。

 その間に、白い影が割って入った、

 大影猿の喉元に食らい付かんとする黒いランスロットの首筋に、横から白いランスロットが食らい付いた。そしてその首筋に鋭い牙を突き立てたまま、岩棚を転がり、その勢いに乗せて、黒いランスロットを縦抗の下に広がる大きな裂け目に向かって、放り投げた。

 オオオーン

 黒いランスロットが、空中を引っかきながら大きく弧を描いて、縦抗の穴の底に落ちていった。

 白いランスロットは、地面を転がり滑って、岩棚の崖っぷち、ぎりぎりで止まった。

「ランスロットー!」

 その様子を見ていたユウキが叫ぶ。そして、岩棚のヘリぎりぎりで止まったランスロットに向かって走り出した。

 息も絶え絶えになったランスロットは、ぐったりとして横たわっている。その全身には、赤黒い染みが大きく数を増やして、チリチリと体を焦がしているように見えた。

「ランスロット!ランスロット!大丈夫?」

 ユウキは、白いランスロットに駆け寄ると。その顔を持ち上げて見つめた。ランスロットは少し目を開いてユウキのほうを見ると、そのまま目を閉じていった。そしてその全身が白い光の粒子に包まれていくと、チリチリと粒子が拡散してその体がどんどん小さくなった。やがて、ここに入る以前の小さなランスロットに戻っていった。

「ウキッ」
 ユウキの近くで、影猿が二人の様子を見つめている。

 ユウキは、小さなランスロットを抱き上げて、胸に手を当ててみた。その胸が微かに上下せている。でも、どうしていいのか判らない。ユウキは、そんなランスロットの様子に困惑しながら、涙を溜めた目で見つめることしか出来なかった。

「そうか、そうか、あの白い獣がランスロットか…」

 レールの上に放り出されたリュッ君がその様子を見て、独りごちる様に言った。

「でもなんで、ランスロットなんだ?」

 リュッ君は、レールに寝そべりながら、しばらく頭の中で今の状況を考えてみた。

 はて、しかし、ユウキがここにいるってことは、あいつ一人で最後の☆のありかを目指そうとしたってことか?何かのヒントがあって、最後の☆を探し、ここまで来ているとしたら、まだ、このゲームにも目があるってことだ。一度は諦めかけたが、まだ、このデタラメな世界から抜け出せるチャンスがあるかもしれない。

 いや、まあ、何はともあれ、ユウキに状況を聞かんと、わからんが、まあ…

「たいしたもんだ」

 リュッ君は口に出していって、少し笑った。

 さて、どうしようか?ユウキを呼んでみるか?

 とリュッ君が考えた瞬間、縦抗構内に、なにやら騒がしい鳴き声が鳴り響いた。

 その鳴き声は、ギャアギャアと甲高い、無数の鳴き声が重なって響いていた。その鳴き声と重なるように、バタバタと無数の羽音も聞こえてくる。

 その音は、あの縦抗の下、仮面の影と黒いランスロットが落ちていった深い穴の底から響いてきた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

処理中です...