リュッ君と僕と

時波ハルカ

文字の大きさ
66 / 89
四日目

スカフォード

しおりを挟む
 エレベーターのフロアーが、坑道の地下深くへ降りていく。

 へたり込んだユウキが、荒く息をあげて涙を拭い、歯を食いしばって鼻をすすった。リュッ君はそんなユウキの様子を背中で受け止め、黙って小さなため息を付いた。

 まだ別れてから一日もたっていないのに、随分経ったような気分になる。なかなかユウキに掛ける言葉が見つからない。口をへの字にして、困ったような表情を浮かべるリュッ君。お腹の中のランスロットはじっとして丸まっているようで、今のところ、胃がもたれることもない。ランスロットの呼吸が、リュ君のお腹に、微かに伝わってきていた。

「…なんだか、ずいぶん小さくなったんだな?この犬ころ…、えーと…、ランスロットだっけ?」

 ユウキがリュッ君の言葉にうなずく。
「なんでランスロットなんだ?」
「…わかんないけど、気に入ったから…」
「?ユウキがか?」
「ランスロットが…」

 エレベーターのウインチの回転する音が響いていく。

 なんだか良く判らんな?と疑問に思うも、リュッ君は、とりあえず、さっきの話の続きをしなければと思い直した。まずは、“しれいしょ”と、最後の緑の☆のありかを詳しく聞かないと訳が判らない。このエレベーターの降りる先に☆があれば良いが…。

「ユウキ。さっき言っていた“さいごのしれいしょ”は持っているのか?」

 ユウキはポケットをまさぐると、その中から、最後のしれいしょを取り出して、リュッ君の前に広げた。

 なるほど、確かに最後の☆をゲットしろと、いろいろやることがごちゃごちゃと書いてある。
「…で、今は、④のエレベーターにのってさらにちかにもぐれ!なわけか…んで…」

 ⑤ちかのどうくつのさきにいる、りゅうのくちにあるみどりの☆をげっとしろ!

 口に出してリュッ君が読んでみる。
「りゅうのくち…。こりゃまたえらいことが書いてあるな」
「りゅう…って、ドラゴンのこと?」
「そうそう、そうだなドラゴンだ。ううむ…」

 リュッ君が難しい表情を浮かべて、頭の中で思案する。お腹のランスロットにしても、あの大影猿にしても、ダムで遭遇した蜘蛛影にしても、あんなわけのわからないものがいるくらいだから、ドラゴンみたいなのがいてもおかしかないよな…。しかし…。

「ほんとにそんなのが☆を守っていたら…」

 リュッ君は、大きなトカゲのようなドラゴンが緑の☆を守っているのを想像して、そりゃダメだ、奪えっこねえよ…と、困ったような表情を浮かべた。いや、まてよ、昔話とかにあるように、寝ているときにこっそり奪うとか…そういうことか?アイテムに酒とか、眠らせるようなものなんか出てねえぞ…、と、声に出さず考えた。

「ねえ、リュッ君…」
「どうした?ユウキ?」
「ランスロット…大丈夫なの?」

 心配そうな顔をしたユウキが、リュッ君のお腹の辺りをさすった。ランスロットが収まっているあたりが、ぽこっと、下側に膨らんで収縮を繰り返している。

「うん、今のところ落ち着いているようだ…。息もしているしな。ユウキは、このランスロットと一緒にここまで来たのか?」
「うん!乗せて走ってくれた。あと、仮面の影と黒いランスロットからも守ってくれた」

 先ほど、黒い獣と大影猿の戦いに割って入った様子だと、相当激しく戦ってたのかな?確かに、こいつは傷だらけの様子だ。

「怪我…治るかなあ…」
「そうだなあ、今のところ安静にして、俺のお腹に納まってもらうしかねえな」

 なにせ、得体の知れない生き物だから、なんか勝手に回復してくれるかも知れねえし…、とは声に出さず、そう考える自分も、得体の知れないリュックサックだったことに気が付いて、憮然とした表情になった。そんなリュッ君のお腹をさすりながら、
「治るといいねえ…」
 とユウキが呟いた。
「…そうだな…」
 リュッ君も静かに答えると、エレベーターの速度が徐々に緩み、最下層のボタンが点滅すると、フロアーがゆっくり止まっていった。

 ガシャアアアン。

 両開きにケージが開くと、そこは円筒形の巨大な人口の穴がさらに奥深くまで繋がっていた。らせん状に続く穴は深く、ここからだと光が届かず、その先は暗い闇に覆われている。あたりにはライトが灯されていたが、ライトの光が当たるところ以外は影が落ちて、全体にその坑内は非常に暗かった。

 上を見ると、天井は見当たらず、高く長く縦坑が続いていた。階段が続くその先は暗く影に落ちていたが、微かな光が輝いていた。どうやらこの遥か穴の上は外に通じているらしい。

 ユウキの頭に浮いている☆の光がひときわ明るく周りを照らす。周りを見回すと、下層に続く階段が見えた。そちらを見ると、青い光がぼんやり明滅する。

「青だよ。リュッ君」
「本当に信号代わりなんだな、それは…」
 とあきれたように言い、改めて、くだり階段が続く先を見ると、下から巻き上がる風がひんやり緩やかに流れて、二人の体を包んでいった。

「さらにちかにもぐれ…、か…」

 ゴオオン!ゴオン!ゴン!
 縦抗エレベーターの上から、大きな音が響いた。

 突然の音に慌てふためくユウキ。
「な!なに?」

 リュッ君も口を真一文字に結び、分厚い鉄板が何層にも張り巡らされた天井を見つめる。
「さっきのやつかな…、あんまりうかうかしてられなそうだな…、行こう!ユウキ!最後の☆ゲットするぞ」
とユウキに向かって言った。

「うん!」
と、返事をすると、ユウキはその先に見えている螺旋の階段を下りていった。鉄製の巨大な階段であるそれは、表面は地下水で濡れて湿っていはいたが、全体にしっかりしたつくりで、握った手すりは少しの揺れも起こさなかった。

 手すりを握ったユウキが足場に体重をかける。何度か踏みしめて安全を確認すると、ユウキはそのまま階段を伝って、暗い穴の下に足早に下りていった。




 ゴオオン!

 ゴオオン!


 低く堅い何かがぶつかり響く音と共に、縦抗のケージがひん曲がって折れていく。

 ギャアギャアと羽ばたくこうもりの影が、群れを成して塊を造り、その塊がケージにぶつかって、轟音を立てていた。その塊は、次第に大きな獣の形に変化して、あの黒いランスロットの姿が現れた。

 バタバタと周りを激しく舞うこうもりの影をまとい、ケージを押し曲げていく黒いランスロット。そして、とうとうケージが外れてぶらりと垂れ下がると、先ほどユウキ達が降りていったエレベーターのシャフトが丸見えになった。のそりと縦抗のふちにまで近付くと、その下を見下ろし、グルルルル…とのどを鳴らした。

 黒いランスロットの背中に、蝙蝠の影が集まると、それらが渦を巻いて、次は人の形となっていった。

 その体は小さく、右手には長い槍を持ち、顔には長面の仮面を被っていた。仮面には、小さな角と、四つの金色に光る眼が爛々と輝いていた。

 チリチリとうごめく黒い粒子を全身に漂わせたその仮面の影は、黒いランスロットにまたがって、縦抗のエレベーターシャフトの下を見下ろすと。手に持った槍をエレベーターシャフトの下方に突き出してこう言った。

「イコウ…ランスロット…」

 黒いランスロットが、その声に応えるように上体を前に持ち上げる。そして、仮面の影を背中に乗せたまま、エレベーターシャフトを下に降りていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...