一途な令嬢は悪役になり王子の幸福を望む

紫月

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セフィルの想い

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アリアは覚えていないかもしれない。
幼い頃、父のミリアリア公爵に連れられて王城に遊びに来た日のことを。
艶やかな銀糸の髪と深海の碧の瞳を持つ、とても印象的な美しい少女だった。
年頃が近いため、一緒に遊んでおいでと庭園に送り出され、2人で散策をしていた。
ちょうど薔薇が見頃を迎えていた庭を案内したのだが、池にかかる橋が老朽化しており、立ち入り禁止になっていたことを忘れていたのだ。
運悪く野生の兎が紛れ込んでおり、橋の上で怪我をして丸まっているのをアリアが見つけてしまった。
「そこで大人しくしてるのよ?
今助けてあげるからね。」
優しい少女だと思った。
使用人に助けに行かせればいいものを、自ら兎を助けようとするのだ。
しかし少しなら大丈夫かもと判断ミスをしたのがいけなかった。
板が腐っていたのか、兎にたどり着く前に床板が抜け、アリアは池の中に落ちてしまったのだ。
何かを考えるより先に身体が動いて、気づけば池の中に飛び込んでいた。
アリアは着ていたドレスが水を吸い、重くなって身動きが取れなくなって溺れかけていた。
いち早く助け出せたので事なきを得たが、その後俺が高熱を出してしまい、寝込む羽目になった。
意識が朦朧とする中、アリアが泣きながら枕元に立っていたと思う。
「セフィル様、ごめんなさい……。」
気にするなと言ってやりたかったが、叶わなかった。
すると口の中にトロリとした液体が入ってきて、むせ返るような果実の味がした。
それが何かを理解する前に、眠りに落ちたのかそこで記憶が途切れた。
あれは一体なんだったのか?
次の日の朝、まるで何事も無かったかのように熱が下がり、寧ろいつもより体調が良く身体が軽くなっていた。

確証はないが、アリアが助けてくれたのではないかと思っている。
それ以来数年間会うことはなかったが、ずっと彼女の事が気になっていた。
彼女と再会したのは、彼女がデビュタントを迎えた一月ほど前の夜会だった。
息を呑むほど美しく成長していた彼女に、一瞬で心を奪われた。
銀と碧はそのままに、色気のある眼差し、透き通るような瑞々しい白い肌、少しぷっくりとした蠱惑的な唇。
会場中の年若い青年貴族達が放っておかないだろう。
アリアはマクシミリア公爵に伴われ挨拶にきたのだが、緊張してしまい上手く話せなかったように思う。
それほどまでに美しいと思った。
その後父上の言われるままに彼女と婚約をしたのだが、彼女は幼少期の出来事を何も覚えていないのか、俺に素っ気ない態度だ。

彼女と婚約した後くらいから、週に一度だけ果実の味がする薬を飲んでいる。
同じ時期からサラ嬢が城に届けてくれている薬なのだと思う。
よく効いているのか心臓も痛むことなく、身体が軽くなっていくのが分かる。

もしかしたらあの夜、アリアはサラ嬢が届けてくれている薬を飲ませてくれたのかもしれない。
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