一途な令嬢は悪役になり王子の幸福を望む

紫月

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すれ違う心

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「妙な噂を聞きましたの、フランツ様。」
俺の最愛の婚約者、シンシアが屋敷に到着するなり訴えかけてきた。
今日は結婚式の段取りを決める為に、我が家に赴いてもらったのだが。
「セフィル殿下がサラ伯爵令嬢に熱を上げていると、もっぱら社交界で噂になってますわ。
ご令嬢方の頂点に立たれてるアリア様は一体何をなさっているのですか?」
寝耳に水だった。
俺はそんな噂聞いたこともなければ、セフィル様にそんな素振りを感じることもなかった。
「馬鹿な、アリアは何も言ってなかったし、結婚に向けての準備も滞りなく進んで……。」
ハッとする。
そういえばこの前、セフィル様はアリアに不満があるとかどうとか言ってなかったか?
アリアがサラ嬢に嫉妬をして、嫌がらせでもしているというのか?
それを見てアリアの不満を感じとった?
いや、アレはそんな性格ではない。
アリアは家族に自分は幸せだと言っていたではないか。
そもそもセフィル様がサラ嬢に熱を上げているという噂はどこから出てきた?
「……フランツ様?」
何か嫌な予感がする。
悪意を持って噂を流したのだとしたら、目的はアリアとセフィル様の婚約破棄か?
サラ嬢とユーリシア伯爵の策略なのか?
何かが噛み合ってない。
「フランツ!一大事だ!!」 
父が血相を変えて屋敷に帰ってきた。
何事だ?
「アリア、アリアはいるか!?」
父の大声に驚いたのか、アリアは慌ててエントランスまで降りてくる。
「どうされたのです?父上。」
父の尋常ではない様子に不安がよぎる。
「落ち着いて聞くんだ。
……セフィル様が毒を盛られた。」



セフィル様の自室は護衛騎士により、厳戒態勢が敷かれていた。
だが王命でマクシミリア公爵家の者はセフィル様の自室に入ることが許可された。
何故なら一刻を争う事態だからだ。
私は躊躇なく手首を切り、セフィル様に直接血を飲ませる。
「……間に合ったようだな。」
「はい、お兄様。」
私はフランツお兄様に付き添われてセフィル様の自室までやってきた。
部屋に入った瞬間から見えたセフィル様の苦悶の表情が、見る見る落ち着きを取り戻してゆく。
よ、良かった……。
父から報せを受けたとき、絶望が胸を締め付けた。
セフィル様が死んでしまうなど、私には耐えられない。
「アリア、一体何が起こっているんだ?」
「わたくしにも分かりません。
暗殺の兆しなどまるで感じませんでしたわ。」
通常は王族付きの侍女が必ず匙などの銀食器を所持しており、王族に食事が提供される前に毒の有無を確認する。
毒が仕込まれていれば銀食器が黒く変色するので一目で発覚するのだ。
セフィル様付きの侍女は一体何をしていたの?
「暗殺未遂のことだけじゃない。
お前は噂を知っているな?」
ギクリとする。
サラ様とセフィル様が恋仲という噂よね?
「何故噂を終息させない?」
「噂は本当だからですわ。」
「なんだと?」
「わたくしの前で、セフィル様は一度も微笑んでくださったことがないのです。
でも、サラ様の前では……。」
悲しい事実だった。
数年ぶりに再開するも、セフィル様の態度はいつもぎこちないものだった。
笑みを向けられたことなど無かった。
だが、サラ様の前では違う。
柔和な優しい微笑みを浮かべるのである。
それを恋と呼ばずに何と呼べばいいのだろうか?
「……俺たちの血は奇跡の血であると同時に呪われているんだぞ?
万病を治す薬にもなる血だが、それと同時に愛する者に愛し返されないと死んでしまう。
分かっているのか?」
そんなこと、百も承知だ。
「お兄様、今まで嘘をついていて申し訳ございません。
ですがいいのです。
私の恋は成就しない。」
セフィル様がサラ様と幸せになるならそれでいい。


このとき2人は気づいていなかった。
セフィルが昏睡から目覚め、2人の会話を聞いていたことに。
セフィルの容体が落ち着いたことに安堵し、2人は部屋を出てゆく。




会話は途中からしか分からなかったが、フランツは奇跡の血であると同時に呪われていると言っていた。
この国には古くから伝わる伝承に奇跡の血の話がある。
奇跡の血を飲めばどんな万病もたちどころに治るという。
話の流れから、奇跡の血をマクシミリア公爵家の者が受け継いでいるということだろう。
俺が病に効くと言われて飲んでいた薬とは、アリアの血だったのだ。
目覚めた後に口の中に残っていた果実の味は、やはり幼少の頃アリアが飲ませてくれたものと同じものだった。
なんてことだ。
アリアは俺のために何回もその身を切り刻んでいたのだ。
俺はこんな献身的な女を他に知らない。
だがこうも言っていた。
愛する者から愛し返されないと死んでしまう、とも。
アリアはアイザックを好いているはずだ。
アリアは俺を生かすために俺の婚約者となり、血を分け与えてくれていたのだろう。
だが俺が婚約者である限り、アリアの恋は成就することはない。
胸が掻き毟られるように痛む。
アリアは俺を生かすために、自分を犠牲にしようとしているのか?
アイザックと結ばれれば生きられる未来があるというのに、それすら諦めてるというのか?
……アリアが俺を嫌いなのはそういうことか。
優しい彼女は俺を見捨てられないだけなのだ。
嫌われて当然だ。
ならば俺は彼女のために婚約破棄をしよう。
俺はアリアを愛しているのだと思う。
だからこそアイザックに嫉妬もした。
ならばせめて生きていてほしい。
俺の恋は成就しないが、彼女が幸せになって生きていてくれたらそれでいい。

痛む胸を押さえ、そう決意するのだった。
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