37 / 77
37.毒蛇。
しおりを挟む
楽しいはずの林間学校が突如として混乱を極める中、福井奏は急いで半身を起こし、自分の上に重なるように倒れている相澤和真の体を抱き寄せた。
「和真!」
和真は苦痛に顔を歪ませながら自分の足元へ視線を向ける。
「ひっ……」
和真の喉の奥から引きつった悲鳴が漏れた。直ぐにその視線の先を追い、奏は目を大きく見開く。ちょうど和真の靴下と裾を捲り上げていた体操服のズボンとの間に茶色の迷彩模様の蛇が巻き付いていた。
さらに、大きな口を開け、噛みついてるのだ。その姿に奏は思わず息を飲む。
「相澤! 福井! そのまま、動くな! そいつは、恐らくマムシだ! じっとしていろ! 今、救急車を呼んでいる!」
突如、担任の下村の大声が辺りに響き渡った。声の方へ顔を向ければ、下村がステンレス製のトングを掴み、恐々近づいてくる。他の生徒や講師達は離れた場所へ逃れ、全員怯えた顔でこちらを見ていた。
再び、目を蛇へ戻す。
(これが、マムシ……⁈ マムシって、確か、毒蛇──)
背に冷たい汗が流れていく。
「うっ……」
呆然となる奏は、近くから聞こえたうめき声にはっと我に返った。自分の胸元にしがみ付いている和真の顔は脂汗が滲み、血の気が無く青白くなってきていた。
(毒が回ってきているのか⁈ もともと和真は体調を崩しているというのに!)
奏は和真の小刻みに震える体を抱きしめ、焦燥感に苛まれる。
(和真は俺を庇って毒蛇に噛まれたんだ。俺が何とかしないと……。でも、毒蛇に噛まれた時って、どうすればいいんだ?)
和真の呼吸は徐々に荒くなってきていた。
「和真! 和真!」
感情を制御出来ず、取り乱しながら和真の名前を何度も叫ぶ。
ふいに奏の視界が陰った。反射的に顔を上げ、瞠目する。いつのまにか、目の前に真っ黒なフルフェイスのヘルメットを被った長身の男が立っていた。その男は唖然と見上げる奏には目もくれず、素早い動きで蛇の頭を鷲掴みにすると、なんの躊躇いもなく、近くにあった鉄の棒で蛇の頭を地面に串刺しにしたのだ。
途端、周りから悲鳴が上がる。
だが、男は周りの騒ぎなど気にするそぶりも見せない。やおら奏達の傍らに膝を付くと、ヘルメットのシールドを無造作に上げた。見覚えのある薄茶色の冷たい目が奏を見据える。
「⁈ お、おまえは……!」
驚くことに、目の前にいるのはこの場にいることがありえない男だった。最近、和真にまとわりついている目障りな一年、三峰汐音だったのだ。奏の声をかき消すように救急車のサイレンの音が近づいて来る。
「その手を離してください」
言葉は丁寧だが、有無を言わせない響きがあった。
「!」
あっと言う間だった。汐音は奏の腕の中からぐったりとした和真の体を奪うように抱き上げた。奏は突然消えた温もりを追うように手を伸ばす。
だが、汐音は容赦なく奏から和真を引き離し、すぐさま背を向け歩き出した。
『待て!』
引き留める言葉が喉の奥から溢れ出しそうになったが、ぐっと押し殺す。伸ばしていた手を強く握り締めると、口惜しさと虚しさを込めてそのまま地面に打ちつけた。
(くそっ……)
噛みしめた唇から血の味が広がる。
その場にいた者全員が固唾をのんで見守る中、汐音は和真を横抱きにして、けたたましいサイレンの音と共に姿を現した救急車の方へと近づいて行く。その背中を奏は何も出来なかった事を悔やみながら無言で見つめ続けていた。
「和真!」
和真は苦痛に顔を歪ませながら自分の足元へ視線を向ける。
「ひっ……」
和真の喉の奥から引きつった悲鳴が漏れた。直ぐにその視線の先を追い、奏は目を大きく見開く。ちょうど和真の靴下と裾を捲り上げていた体操服のズボンとの間に茶色の迷彩模様の蛇が巻き付いていた。
さらに、大きな口を開け、噛みついてるのだ。その姿に奏は思わず息を飲む。
「相澤! 福井! そのまま、動くな! そいつは、恐らくマムシだ! じっとしていろ! 今、救急車を呼んでいる!」
突如、担任の下村の大声が辺りに響き渡った。声の方へ顔を向ければ、下村がステンレス製のトングを掴み、恐々近づいてくる。他の生徒や講師達は離れた場所へ逃れ、全員怯えた顔でこちらを見ていた。
再び、目を蛇へ戻す。
(これが、マムシ……⁈ マムシって、確か、毒蛇──)
背に冷たい汗が流れていく。
「うっ……」
呆然となる奏は、近くから聞こえたうめき声にはっと我に返った。自分の胸元にしがみ付いている和真の顔は脂汗が滲み、血の気が無く青白くなってきていた。
(毒が回ってきているのか⁈ もともと和真は体調を崩しているというのに!)
奏は和真の小刻みに震える体を抱きしめ、焦燥感に苛まれる。
(和真は俺を庇って毒蛇に噛まれたんだ。俺が何とかしないと……。でも、毒蛇に噛まれた時って、どうすればいいんだ?)
和真の呼吸は徐々に荒くなってきていた。
「和真! 和真!」
感情を制御出来ず、取り乱しながら和真の名前を何度も叫ぶ。
ふいに奏の視界が陰った。反射的に顔を上げ、瞠目する。いつのまにか、目の前に真っ黒なフルフェイスのヘルメットを被った長身の男が立っていた。その男は唖然と見上げる奏には目もくれず、素早い動きで蛇の頭を鷲掴みにすると、なんの躊躇いもなく、近くにあった鉄の棒で蛇の頭を地面に串刺しにしたのだ。
途端、周りから悲鳴が上がる。
だが、男は周りの騒ぎなど気にするそぶりも見せない。やおら奏達の傍らに膝を付くと、ヘルメットのシールドを無造作に上げた。見覚えのある薄茶色の冷たい目が奏を見据える。
「⁈ お、おまえは……!」
驚くことに、目の前にいるのはこの場にいることがありえない男だった。最近、和真にまとわりついている目障りな一年、三峰汐音だったのだ。奏の声をかき消すように救急車のサイレンの音が近づいて来る。
「その手を離してください」
言葉は丁寧だが、有無を言わせない響きがあった。
「!」
あっと言う間だった。汐音は奏の腕の中からぐったりとした和真の体を奪うように抱き上げた。奏は突然消えた温もりを追うように手を伸ばす。
だが、汐音は容赦なく奏から和真を引き離し、すぐさま背を向け歩き出した。
『待て!』
引き留める言葉が喉の奥から溢れ出しそうになったが、ぐっと押し殺す。伸ばしていた手を強く握り締めると、口惜しさと虚しさを込めてそのまま地面に打ちつけた。
(くそっ……)
噛みしめた唇から血の味が広がる。
その場にいた者全員が固唾をのんで見守る中、汐音は和真を横抱きにして、けたたましいサイレンの音と共に姿を現した救急車の方へと近づいて行く。その背中を奏は何も出来なかった事を悔やみながら無言で見つめ続けていた。
10
あなたにおすすめの小説
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!?
「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??
ワケありくんの愛され転生
鬼塚ベジータ
BL
彼は”勇敢な魂"として、彼が望むままに男同士の恋愛が当たり前の世界に転生させてもらえることになった。しかし彼が宿った体は、婚活をバリバリにしていた平凡なベータの伯爵家の次男。さらにお見合いの直前に転生してしまい、やけに顔のいい執事に連れられて3人の男(イケメン)と顔合わせをさせられた。見合いは辞退してイケメン同士の恋愛を拝もうと思っていたのだが、なぜかそれが上手くいかず……。
アルファ4人とオメガ1人に愛される、かなり変わった世界から来た彼のお話。
※オメガバース設定です。
うまく笑えない君へと捧ぐ
西友
BL
本編+おまけ話、完結です。
ありがとうございました!
中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。
一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。
──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。
もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。
ノエルの結婚
仁茂田もに
BL
オメガのノエルは顔も知らないアルファと結婚することになった。
お相手のヴィンセントは旦那さまの部下で、階級は中尉。東方司令部に勤めているらしい。
生まれ育った帝都を離れ、ノエルはヴィンセントとふたり東部の街で新婚生活を送ることになる。
無表情だが穏やかで優しい帝国軍人(アルファ)×明るいがトラウマ持ちのオメガ
過去につらい経験をしたオメガのノエルが、ヴィンセントと結婚して幸せになる話です。
J.GARDEN58にて本編+書き下ろしで頒布する予定です。
詳しくは後日、活動報告またはXにてご告知します。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる