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酔狂
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僕らが出会って一週間が経過していた。
朝日はソファーで寝ていた。
そんなにソファーがいいのかね?
まあ、僕と同じベッドで一緒に寝るのも嫌だろうし。
咳はまだ治らない。
あの医者、きちんと診察したのかな。やぶだよ。絶対やぶだ。
明日、大学病院に行って聴診器とって来よう。
夜中、朝日の咳で目が覚めた。
気になってリビングに行く。
「大丈夫?」
明かりをつけると、毛布をかぶった朝日が「うん」とくぐもった声で答えた。
温かいほうじ茶でも飲めば、喉のいがらっぽいのも和らぐかな。
「お茶でも飲む?」
頭をそっと撫でた。
ぐすっと涙をこらえる音が聞こえた。
「泣いてるの?」
「泣いてない」
涙声じゃないか。
ただの風邪じゃなくて、敗血症とか重症化しているのかもと激しく心配になった。
「病院に行こう」
「風邪がつらいんじゃなくて。これから僕どうなっちゃうんだろうって考えたら悲しくなってきて」
なんだ、それでか。
「涙が止まらなくなって。変だな。こんなこと今までなかったのに」
この子のメンタル大丈夫だろうか。虐待を受けていたら、いつかひずみでダメージがくる。
子供の場合は急激に悪化することがある。
男の子の場合は外に向かっていくことが多い。犯罪、非行や家庭内暴力。
女の子の場合は厄介だ。リストカット、摂食障害、性非行など自分を傷つける行為に走る。
***
ほうじ茶なんて、中学生には年寄臭いかもと思い直して、ココアを作って持っていく。
朝日はソファーに座ると、ココアをすする。
「おいしい」
うんうん。やっぱり甘くてほっとする飲み物がいいよね。
まだ軽く咳をするので、背中をさすってあげた。
「栄は、やさしいね。こんなに優しくしてくれる人って東京にはあまりいなかったよ」
「そうなんだ」
「なんで僕のことひきとってくれたの?」
自分でも分からなかった。たぶんただの思い付きで気まぐれってやつだ。
「伊達や酔狂で」
見栄っ張りや物好きでと言う意味だ。こんな古風な言い回しは中学生は知らないか。
「僕にあまり触らないほうがいいよ。風邪うつるかも知れないし」
「もう、人にはうつらないと思うよ。雨に濡れて冷えたから体調崩したんだね」
またぐすっと泣きそうな声になる朝日。
「僕、汚いから触らないほうがいいよ」
「汚いって? 別にそう思わないけど」
「クラスのやつらに汚いって言われた。しかたないよね。ベランダで寝てたし、親にも嫌われていたし」
「ベランダで?」
「冬なんて、すっごく寒いの。ホームレス中学生や」
朝日は無理に笑って言ってるけど、どこか声が変。
そんなの全然面白くないよ。
ベランダで凍えている中学生を想像して、胸が痛んだ。
「悲しくなるから、もう、言わないで」
朝日の肩を抱いた。
またぼろぼろ泣き出す朝日。
「京都いたときは普通の生活だった。じいちゃんとばあちゃんと普通の一軒家に住んで、友達もいっぱいいて。東京ではよそ者扱い。なにも悪いことしてないのに、なんで? 京都に帰りたい。もう嫌だ。東京には住みたくない」
「もう大丈夫だから。ここにいればいいよ。春休みになったら、京都に遊びに行こうよ」
頭を撫でる。
やわらかい髪、こどもっぽい匂いがふっとした。
少し安心したのか、泣き止んでうとうとし始めている。
かわいいな。
朝日はソファーで寝ていた。
そんなにソファーがいいのかね?
まあ、僕と同じベッドで一緒に寝るのも嫌だろうし。
咳はまだ治らない。
あの医者、きちんと診察したのかな。やぶだよ。絶対やぶだ。
明日、大学病院に行って聴診器とって来よう。
夜中、朝日の咳で目が覚めた。
気になってリビングに行く。
「大丈夫?」
明かりをつけると、毛布をかぶった朝日が「うん」とくぐもった声で答えた。
温かいほうじ茶でも飲めば、喉のいがらっぽいのも和らぐかな。
「お茶でも飲む?」
頭をそっと撫でた。
ぐすっと涙をこらえる音が聞こえた。
「泣いてるの?」
「泣いてない」
涙声じゃないか。
ただの風邪じゃなくて、敗血症とか重症化しているのかもと激しく心配になった。
「病院に行こう」
「風邪がつらいんじゃなくて。これから僕どうなっちゃうんだろうって考えたら悲しくなってきて」
なんだ、それでか。
「涙が止まらなくなって。変だな。こんなこと今までなかったのに」
この子のメンタル大丈夫だろうか。虐待を受けていたら、いつかひずみでダメージがくる。
子供の場合は急激に悪化することがある。
男の子の場合は外に向かっていくことが多い。犯罪、非行や家庭内暴力。
女の子の場合は厄介だ。リストカット、摂食障害、性非行など自分を傷つける行為に走る。
***
ほうじ茶なんて、中学生には年寄臭いかもと思い直して、ココアを作って持っていく。
朝日はソファーに座ると、ココアをすする。
「おいしい」
うんうん。やっぱり甘くてほっとする飲み物がいいよね。
まだ軽く咳をするので、背中をさすってあげた。
「栄は、やさしいね。こんなに優しくしてくれる人って東京にはあまりいなかったよ」
「そうなんだ」
「なんで僕のことひきとってくれたの?」
自分でも分からなかった。たぶんただの思い付きで気まぐれってやつだ。
「伊達や酔狂で」
見栄っ張りや物好きでと言う意味だ。こんな古風な言い回しは中学生は知らないか。
「僕にあまり触らないほうがいいよ。風邪うつるかも知れないし」
「もう、人にはうつらないと思うよ。雨に濡れて冷えたから体調崩したんだね」
またぐすっと泣きそうな声になる朝日。
「僕、汚いから触らないほうがいいよ」
「汚いって? 別にそう思わないけど」
「クラスのやつらに汚いって言われた。しかたないよね。ベランダで寝てたし、親にも嫌われていたし」
「ベランダで?」
「冬なんて、すっごく寒いの。ホームレス中学生や」
朝日は無理に笑って言ってるけど、どこか声が変。
そんなの全然面白くないよ。
ベランダで凍えている中学生を想像して、胸が痛んだ。
「悲しくなるから、もう、言わないで」
朝日の肩を抱いた。
またぼろぼろ泣き出す朝日。
「京都いたときは普通の生活だった。じいちゃんとばあちゃんと普通の一軒家に住んで、友達もいっぱいいて。東京ではよそ者扱い。なにも悪いことしてないのに、なんで? 京都に帰りたい。もう嫌だ。東京には住みたくない」
「もう大丈夫だから。ここにいればいいよ。春休みになったら、京都に遊びに行こうよ」
頭を撫でる。
やわらかい髪、こどもっぽい匂いがふっとした。
少し安心したのか、泣き止んでうとうとし始めている。
かわいいな。
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