【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花

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 彼女は母方の従姉で帝都から離れた領地に住んでいる。
 社交シーズンになるとこうしてヴァルモント公爵家に泊まりに来るのだ。
「今年こそいい男を捕まえる!」が彼女の口癖だった。何件もの見合いを断り、最高の夫を探しているのだとか。
 彼女の王子様はいまだ現れていない。
 地方に住む彼女と会うのはセリスティーヌの結婚式以来だ。
 セリスティーヌは笑みを深めた。

「毎日とても楽しいわ」
「本当に? セリスティーヌは皇族と結婚するものだと思っていたから、婚約したときも結婚したときもびっくりしたわ。今もびっくりしているくらいよ」
「わたくしには皇族の妃だなんて務まらないわ」
「そんなことないわよ。あなたの美貌なら、ただ隣に立っているだけでじゅうぶんなくらい」

 マルセラはときどき面白いことを言う。
 立っているだけで皇族の妃は務まらない。
 セリスティーヌは末娘。甘やかされて育った自覚がある。だから、妃という責任が伴う役割は荷が重すぎるというものだ。

「みんなが言っているわ。セリスティーヌには伯爵夫人ではもったいないって」
「あら? そんなことないわ」
「それに、あなたの旦那様ってとっても堅物だって聞いたわ。大変ではなくて?」
「とても真面目で優しい方よ」

 セリスティーヌはにこりと笑った。
 セリスティーヌの結婚を心配するのはマルセラだけではない。友人たちや社交界で顔を合わせる人には同じような質問を何十回とされている。
 しかし、セリスティーヌにはわからなかった。夫のアレクトはとても真面目で、とても優しい人だ。
 みんなは堅物と言うけれど、政略結婚であるセリスティーヌにも誠実で浮いた話一つない。
 浮気症の皇子たちに比べたら十分すぎるだろう。

(それに……わたくしの好みど真ん中ですもの)

 セリスティーヌはアレクトのことを思い出し、うっとりと頬を緩めた。
 切れ長の目にはまった神秘的な赤の瞳。黒く艶やかな髪。
 彼の唇が薄いところもセリスティーヌの好みだった。
 長めの前髪のせいで、みんな彼の目鼻立ちが整っていることに気づいていないのだ。
 しかし、それはセリスティーヌのみが知っていればいいと思う。余計なライバルが増えては困る。

(何より、あの柔らかな頬……)

 先日の夜のことを思い出し、セリスティーヌは身もだえた。

「セリスティーヌ、どうしたの? 大丈夫?」

 心配そうにマルセラが顔を覗き込む。

「あら、いやだわ。わたくしったら」

 セリスティーヌは慌てティーカップを口につけた。

「伯父様も伯父様よ。セリスティーヌにはもっと相応しい人がいたと思うの」
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