【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花

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「そんなことはないわ。お父様はわたくしのことを思ってくれているもの」
「セリスティーヌは昔から優しい子ね」

 マルセラはセリスティーヌを過大評価する癖がある。
 セリスティーヌはいつだって望みどおりの人生を送っているというのに。

「わたくしのことより、マルセラお姉様のお話が聞きたいわ。今年の成果はいかが?」
「あら? 聞いてくれる? それがね、一昨日の夜会で―─……」

 お喋り好きのマルセラは、それから時間が尽きるまで語った。
 セリスティーヌのお尻が痛くなるまで。
 紅茶でお腹がたぷたぷになるまでである。

 ***

 セリスティーヌは慌てて帰路についた。

(遅くなってしまったわ)

 家族やマルセラから晩餐に招待されたが、断った。
 やはり、食事はアレクトの顔を見てとりたい。彼の顔を見ながらの食事ではないと採れない栄養があるのだ。

(待っていてくれているかしら? でも、無理はしてほしくないわ)

 アレクトがお腹を空かせてセリスティーヌを待っている姿を想像するだけで胸が痛い。
 それならば、一人で食事をとったほうがましだと思えた。
 セリスティーヌは馬車を降りると、人影を見つける。―─アレクトだ。
 屋敷の前で佇んでいた彼は、セリスティーヌを見つけるとゆっくりとセリスティーヌのもとへと歩いてきた。
 セリスティーヌの胸が高鳴る。
 夕日に照らされる彼が、とても素敵だったのだ。まるで一枚の絵画だ。
 なぜ、セリスティーヌには絵の才能がないのだろうか。見たままを描けたら、毎日が幸せだっただろう。

「旦那様、どうなさったのですか?」

 いつもであれば食事をしている時間だ。
 もしくは、仕事中か。
 落ち着いた声でアレクトが言う。

「君を待っていた」
「わたくしを……?」
「今日はご実家で晩餐を?」
「いいえ、辞退してまいりましたの。もともと予定にはございませんでしたし」
「これからは君が好きなようにしたらいい」

 アレクトは優しい。
 おそらくセリスティーヌが実家で食事をとって帰ってきても怒らないだろう。
 しかし、少し寂しくもあるのだ。

(お食事を一緒にとりたいと思っているのはわたくしだけなのかしら?)

 セリスティーヌは眉尻を下げた。

「だが、一人だと味気ないから、君が帰ってきてくれてよかった」

 アレクトの言葉に胸が跳ねる。
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