この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花

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17.伝えたいこと

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 私には自由に魔法を使うことができる場所がない。
 だから、こうしてイズールの屋敷を間借りしている。
 しかし、イズールにも魔法のことは秘密のため、鍵をかけるのだ。

「今日も消えていたらどうしようかと思った」

 イズールが咎めるように言う。

「ごめなさい」

 今日も、というのは先日のことを咎めているのだ。
 瞬間移動で消えてしまった日、イズールの屋敷は一時騒然としたのだという。

「この前は本当に驚いたよ。部屋には鍵がかかっているし、呼んでも返事はしないし。君の騎士に扉を壊してもらったらもぬけの殻」

(それは……。驚くよね)

 一人の子どもが突然消えた。しかも消えたのは王女なのだ。
 私がマナの枯渇で眠っているあいだ、大騒動だっただろう。

「ごめね」

 イズールは小さくため息をつく。

「もっと怒るつもりだったのに、そうやって謝られると怒れないな」

 イズールは困ったように笑った。

「何が起こったかは聞かない。きっと、私には知る権利がないだろうから」
「ん。ひみつ」

 イズールは知らなくていい。
 いつか私の力は公になる日がくるだろう。そうだとしても、私の秘密を知る人が少ない今、イズールが知ることは大きな負担になる。

「いつか教えてくれる?」
「ん。いつか」
「それまで、この前のことは忘れているよ」

 イズールは嬉しそうに笑ったあと、私の頭を撫でた。
 本当にみんな、私の頭を撫でるのが好きだ。
 いつか禿てしまうのではないか。そう心配になるほどだ。

「オーバンさんにも謝ったほうがいいと思う」

 イズールの言葉に私は眉根を寄せる。
 私は護衛騎士──オーバンが苦手だ。人柄とかではなく、常に私を見ているあの視線が苦手なのだ。
 彼の意識のようなものがずっと私に向いている。居心地が悪かった。

「オーバンが嫌い?」
「にがて」
「苦手? 嫌いではないんだ。何で苦手?」
「じーって」
「じー?」

 イズールは首を傾げる。

「どこでも」
「もしかして、ずっと見られているのがいや?」
「ん」
「でも、メイドだってそうだろう?」

 私は頭を横に振る。
 同じとは思えなかったのだ。

「みんな、おはなしする。オーバン、しない」
「そうか。護衛騎士だもんね」

 イズールは納得したように頷いた。
 生まれてから三年間、私はいろんな監視を受けてきた。アランやシェリル、そしてルノー。
 いつも世話をしてくれるメイドたち。
 みんな等しく私のことを見ていたが、彼らは話しかけてくれる。
 しかし、オーバンは一言も発することなくジッと私のことを見ているのだ。それがなんだか不気味でしかたない。

「レティシア姫の気持ちは少しだけわかるよ。私も国ではそうだったから」

 彼は苦笑をもらす。
 第一王子にもなると、ずっと監視されている生活なのだろう。
 しかも、彼は前妻の子。気苦労も多いのは想像にたやすい。

「だったら、もっと話せば、少しは気安くなるかもしれないね」
「むぅ」

 私は顔をしかめた。
 しかし、イズールは頑なだ。

「私も付き合ってあげるから、一緒に謝ろう」

 私は小さくため息をつく。
 こういうときのイズールは頑固だ。なんでも受け入れてくれそうな優しい笑顔を見せながら、私の手を無理やりにでも引いていく。
 だから、私は諦めている。

「……ん」

 イズールは私の手を引くと、屋敷を出た。
 屋敷の外ではオーバンとメイドたちが待機している。
 私とイズールを見て頭を下げた。

「オーバン、レティシア姫が君に伝えたいことがあるんだって」
「なんでございましょうか?」

 私はオーバンを見上げた。山のように大きい。
 アランよりをゆうに超える大きさだ。

「オーバン、ごめなさい」

 私が意を決して言うと、オーバンは目を瞬かせた。

「なんの話でしょうか?」
「ほら、先日のレティシア姫が消えたときのこと」
「ああ……。あの時の」

 イズールが簡単に説明をすると、イズールは納得顔で頷く。
 オーバンは地に膝をついて私に目線を合わせた。

「もし、どこかへ行くときは、どうか自分に声をかけてください」
「ん」
「殿下を守るのが自分の役目です」

 私は小さく頷く。
 瞬間移動してしまったとは言えない。
 おそらくみんなは、私がこっそり抜け出したと思っているのだろう。

「あと、レティシア姫はオーバンにずっと見られているのが、苦手らしいよ」
「そうでしたか。自分は図体が大きい上、顔も厳ついため、よく怖いと言われます」

 オーバンがわかりやすく肩を落とす。
 私は慌てた。

「ちあう! こわ、ない」

 怖いわけではない。四六時中ただただ見られていることが苦痛というだけなのだ。
 オーバンはきょとんとした様子で私を見た。
 悪い人ではないことがわかる。
 職務をまっとうしているのだろう。狼の一件以来、家族は過保護になった。
 兄のルノーの元にも一人、新しい護衛騎士がついたくらいだ。

(なんて言ったらいいんだろう?)

 ただ静かに立たれているのはやはりいやだ。

(えっと、えっと……)

 私はオーバンの顔を見上げる。
 不安そうな顔だ。大きな犬のようだと思った。尻尾があったら垂れているに違いない。
 だから、私は思わず言ってしまったのだ。

「いっしょ、ちゅみき、する?」
「え……?」

 オーバンが何度も目を瞬かせる。
 隣に立っていたイズールがプッと吹き出した。

「いいね。オーバン、一緒に積み木したら?」
「で、ですが……。仕事ですので」
「オーバンの仕事はレティシア姫の護衛だろ? 積み木を一緒にしたほうが近くにいられるわけだし、いいんじゃない?」
「は、はあ……」

 オーバンは気の抜けた返事をする。
 私は恥ずかしくて、俯いた。
 積み木くらいしか思いつかなかったのだ。
 ただ見られるのは苦痛だ。
 だったら、仲よくなるために何かできたらいいと思ったのだが、積み木くらいしかなかった。あとはお絵かきくらいだろうか。
 なにせ三歳。できることは限られている。

「殿下、自分が積み木をご一緒してもよろしいでしょうか?」

 オーバンは真剣な顔で言った。
 覚悟を決めた、そんな顔だ。ただの積み木なのだが。

「ん」

 私は大きく頷く。

「いいな。私も今度混ぜてくれる?」
「イズー、ちゅみき?」
「うん。だめ?」
「いい」

 イズールは八歳とは思えないほど落ち着いている。
 だから、積み木をしそうにもないのだが、オーバンを苦手だと言った私を気遣ってくれているのだろうか。
 イズールは私の頭を撫でる。そして、嬉しそうに笑う。

「よかった」

 次の日、私たちは三人で積み木をした。
 今までに積み上げた以上の出来に思わず感動してしまったほどだ。
 私の背よりも大きくなった積み木を何度も見上げた。
 そして、オーバンに抱き上げられながら最後の一個を乗せた瞬間、すべて崩れ落ちてしまった。

(まあまあ有意義な一日だった)

 積み木であんなに盛り上がる日がくるとは思わなかったのだ。
 ずっと、体力をつけるために遊んでいた。物を運び積み上げる。この動作の繰り返しで少しでも体力がつければいいと。
 だから、積み木を積み木として遊んでいる感覚ではなかった。
 私は一日を反芻しながら、ベッドの中で丸くなる。

(少しだけ、楽しかった……かも)

 前世の私はいつも食べる物を探してばかりだった。こんなに上等な玩具を与えられたことはない。
 後宮内はみんな敵だ。母は泣いているか、私を殴るかだった。私を産んだことで母の人生は変わってしまったから。
 こんな風に遊んでもらった記憶はない。
 今、前世の母がどうしているかはわからない。
 ただ、ミレーユを産んでいないといいなと思った。

(私も今のほうが幸せだから、あなたも幸せになって)

 私を産まないことで、彼女の人生はましになっただろうか。
 そうであればいいと思いながら、私は瞼を落とした。

 **

 あたたかな太陽の光で目が覚める。
 しかし、私の顔に影が覆った。

「おはよう、レティ」

 いつもの声じゃない。私はゆっくり瞼を上げた。──ルノーだ。

「おにーたま」
「うん。朝だよ。起きられる?」
「ん」

 身体が痛い。
 昨日、積み木で真剣に遊んだせいで全身が筋肉痛だ。

「おにーたま、へん」

 私はルノーを見上げて言った。
 様子がおかしい。いつも朝に起こしにくるのはシェリルだった。それなのに、今日はルノーだ。
 しかも、どこかそわそわしている。

「それはね……」

 ルノーが満面の笑みを見せた。
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