この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花

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30.ブルーベリーのお礼

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 イズールは相変わらず、部屋で本を読んでいた。

(なんか、本がどんどん増えている気がする)

 私に気づいたイズールは本を閉じて、笑みを浮かべた。

「いらっしゃい」
「ん」

 私は大きなバスケットを持って、イズールの部屋に入った。
 彼の部屋への入室を許されているのは私だけだからだ。
 オーバンは部屋の外でお留守番。
 イズールが慌てて私のもとに駆け寄って、バスケットを持った。

「大きいバスケットだね。ブルーベリー?」
「ん。おいちい」
「もしかして、お裾分けに来てくれたの?」
「ん」
「ありがとう」

 バスケットの中身はだいぶ減っていた。
 イズールの屋敷にくる途中に出会った使用人たちにも一粒ずつ分け与えていたからだ。

「一緒に食べよう」

 イズールは絨毯の上にいくつもクッションを並べると、そこに座った。
 イズールはバスケットを置いて本を持つ。
 これは、「好きに過ごしていいよ」という意味だ。
 私がイズールの屋敷に来るのは、こっそり魔法を使うためだったから。
 私はバスケットを挟んでイズールの隣に座る。

「ほん、いっぱい」

 積み上がる本を眺めた。
 イズールは苦笑を浮かべる。

「たしかに少し増えたかもしれない」

「少し」というには多すぎるような気がするのだが。
 本人には少しに感じるのだろうか。
 部屋はたくさんあるのに、寝室に本を積み上げるのはどうなのだろう。

「レティシア姫のおかげで、今の自分にできることをしようって思えたんだよ。ありがとう」

 突然の感謝の言葉に私は目を丸くした。
 感謝をされるようなことをした覚えはない。

「本で得た知識が役に立つことがあるってわかったから」

 イズールは恥ずかしそうに笑う。

(そうか。ネフェリアの花)

 あの花の効能については、誰も知らなかった。
 聞けば、サシュエント王国のとても古い文献に載っていたのだという。
 イズールはサシュエント王国にいたころか勤勉だったということだ。

「祖国ではね、教師をつけてもらえていなかったんだ」

 イズールは恥ずかしそうに笑うと、頭を掻いた。
 彼の事情については以前、聞いたことがある。
 避難した先で命を狙われるほどだ。教師をつけてもらえないくらいのことでは驚かない。

「イズー、ひとり?」
「ん?」
「せんせ、ほんだけ?」
「うん、そうだね。私の先生は本だけだよ。一応名ばかりの先生はいたけど、彼らが教えてくれたのは、『でしゃばらないこと』だけだったから」

 私はちいさく頷いた。
 でしゃばらないこと。
 生きていく上で大切なことだ。特に弱い地位にいる人間にとっては。
 私にはなんとなくわかる。
 国は違えど、彼の置かれている状況がガルバトール帝国でも普通に起こっていたからだ。
 母親がいない子どもは肩身が狭い。たとえ父親が皇帝や国王だったとしても、だ。
 母親が生きていたとしても、身分が低ければ後ろ盾はゼロに近い。
 その中で、まともな教師をつけてくれる可能性など低いのだ。

「ついた教師は間違った知識を私に教えた。そのせいで、私は何度も恥をかいた」

 あり得なくない話だ。間違った情報を伝えることで、相手の足を引っ張る方法はガルバトール帝国のきょうだち達もやっていた。
 最悪なことにイズールの継母には息子が二人いるという。
 もしも、イズールに多くの知識を与えれば、長男のイズールが有利になる。
 それを継母は許さなかったのだろうことは、私にでも想像できる。

「本なんて読んでも……ってずっと思っていたよ。けど、ネフェリアの花の知識が役に立ったときに気づいたんだ。本で手に入れた知識は私を裏切らないって」

 イズールのうしろに静かなる炎が見えた気がした。
 私はバスケットからブルーベリーを一粒取ると、イズールの口に突っ込む。
 彼は驚きながらも、ブルーベリーを咀嚼した。

「イズー、えらい」
「ありがとう」
「むり、め」
「そうだね。無理はしていないから安心して」
「ん」

 そう言いながらもイズールやルノーは無理をする。

(私が監視しないと……!)

 世話の焼ける兄たちだと思う。
 私は大きなため息をついた。
 イズールはブルーベリーを一つ取って口に入れる。

「大きな籠に入っているけど、このブルーベリーを配っていたの?」
「ん。みんな。おにーたま、くれた」
「これはルノーからだったんだ。なら、お礼をしないと」

(本当だ。これはお兄様のものだ)

 私はルノーからもらったブルーベリーを配り歩いた。みんなからもらった「ありがとう」の言葉は本来、彼がもらうべき言葉だったのだ。
 私が横取りしてしまったのではないか。

「大丈夫? 顔が青いよ」
「おにーたま、ごめなさいする」

 ルノーが得るはずの功績を自分のものにしてしまったのだから、謝罪だけでは済まされないのではないか。
 他者の功を奪うという卑怯なことをした妹を、ルノーは許してくれるだろうか。

「謝る? なんで?」

 イズールは不思議そうに首を傾げた。

「おにーたまの」
「ルノーから貰ったブルーべりーを勝手に配ったから?」
「ん」
「その程度でルノーは怒らないよ」

 イズールはカラカラと笑った。

「なら、ルノーに何かお礼をするのはどう?」
「おれー?」
「そう。ブルーベリーのお礼」

(お礼って言っても何をあげれば……)

 私がルノーにあげられる物は少ない。
 まだ三歳の私が所有している物が少ないからだ。

(魔法で何かするのがいいのかも)

 魔法を使えば、ルノーが満足するものを与えることができるだろう。

「魔法で何かしようって思ってる?」

 イズールの言葉に私は目を丸くした。

(心が読めるの!?)

「なんとなくだよ。最近、レティシア姫の表情が柔らかくなったから」

 イズールは私の頬を指先で突いた。
 私は慌てて両頬を押える。
 そんなにわかりやすい表情をしていただろうか。
 彼は目を細めて笑う。

「いいことだよ」

 ルノーは私の頭を撫でた。
 何が「いいこと」なのかわからない。アランほど考えていることが読み取れないのも問題だけれど、考えていることが手に取るようにわかるのも問題だと思う。

(気をつけないと)

 私は小さな手で両頬を何度も揉んだ。

「魔法はね、身体に負担がかかるんだって。だから、使ったらルノーは悲しむと思う」
「まほ、め?」
「先生と一緒がいいよ」

(ちょっとくらい大丈夫だけど)

 私は普通の三歳ではないから。
 けれど、周りからすれば私はただの三歳児。だから、素直に頷いておくのが一番なのだろう。
 私は頷いて見せた。
 イズールは満足そうに笑う。

「おれー、ない」

 私は肩を落とす。
 魔法を封じられては、お礼をするすべがない。
 少し考えてみたけれど、私が自由に差し出せる物なのないに等しかった。
 私が手にしている物は、すべて誰かから与えられたものだ。
 次にもらったお菓子をルノーに譲ることは簡単だ。けれど、同じ物を本人も簡単に手に入れることができる。

「『ありがとう』って言うだけでいいと思うけど……」
「め」
「それじゃあダメなんだね。うーん……」

 イズールは腕を組んで唸り声を上げた。
 私のことなのに一緒に考えてくれるらしい。こういうことは得意ではないので、とてもありがたい。
 私も彼の真似をして腕を組み、眉根を寄せる。二人の唸り声が重なり合った。
 すると、イズールが突然「そうだ!」と大きな声を上げる。

「いいこと思いついた」

 イズールは満面の笑みを浮かべて机から紙とペンを取り出した。

 **

 ルノーは目を潤ませ、手元を見つめている。
 今にも涙がこぼれそうだった。
 彼の手元には一枚の紙――いや、手紙だ。
 一時間かけてがんばって書いた、私からの手紙である。
 小さな手は思った以上に不器用で文字を書くのが難しかった。

「こんなに嬉しいプレゼント、初めてだよ」

 ルノーの声は震えている。
 ただの手紙だというのに、ここまで喜んでもらえるとは思っていなかった。
 イズールに提案されたときは、「そんなものを渡しても意味なんてない」と思っていたのだが、彼に謝らなくてはならいようだ。
 他にいい案が思いつかなくて従ったのだが、こんなに喜ばれるとは。
 ルノーはいろいろな方向から手紙を眺めては感嘆の声を上げた。

 **

 翌日、私は窮地に立たされている。
 ここは王宮の練習場らしい。ふだんは騎士たちが練習に使っているのだという。
 背の高い塀にぐるりと囲まれた場所だ。屋根はなく、青空が広がっている。
 そんな場所で紫の魔法使い――トリスティンが眉根を寄せ、私を睨みつけた。

「ひどいではありませんか……!」

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