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フィスカルボの諍乱
矛盾の人 1
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ステファン・ラーゲルフェルトは、グラディスとの連絡役とオットソンの監視のためフィスカルボに滞在する、ベアトリスの腹心の一人だった。
ラーゲルフェルトは一見すると極めて平和的で、物腰に重みのない男だが、強めのウェーブがかかったブラウンヘアーと眠たげな瞼の奥に、恐ろしく鋭い知性の棘を隠し持っていた。歳も若く――とはいえベアトリスよりは上であろうが――表面的には威厳や迫力といった言葉とは無縁である。その実像を知る者は少ないが、ベアトリスを含め、知った者のうちでその落差に驚愕しなかった者は存在しない。
三年前までノルドグレーン法務省の官吏だったこの男は、正当な告訴状の不当な不受理や公文書の書き換えを一切認めず、さらには賄賂による買収にも応じなかったため、大半の有力者たちから煙たがられていた、まず能吏と言ってよい人物だった。
しかしそれだけであれば、はじめは上司から遠回しに釘をさされ、なおも“業務改善”が見られなければ、いつの間にか閑職に回され活躍の場を奪われる――というのが、清廉な官吏のお決まりの経歴となる。しかしラーゲルフェルトの行いはありふれた清吏とは一線を画したもので、その点がベアトリスの目に止まったのだ。
あるとき、農民の労働に関する法令および国民の奴隷的拘束の禁止に関する公国憲章に反した疑いのあるバリエンホルムなる権門家に対し、ラーゲルフェルトは被害者の一人を原告として、極めて少額の裁判を起訴させた。賠償額の少なさを侮って出廷しなかったバリエンホルムには、反論の意思なしとして賠償命令が下された。ラーゲルフェルトはその判決を承け――当時ほぼ死文化していた――判例公開を定めた法令に則り、裁判の結果を首都ベステルオースじゅうに公布した。そうして非情な所領運営が衆人の知るところとなったバリエンホルムは、農民の待遇を改善するほかなかったという。
当然ながらそうした活躍は権力者たちをいっそう嫌悪させ、ラーゲルフェルトが退官した、させられたという報せだけが、後日ベアトリスのもとに届けられた。
官職を追われて下野していたラーゲルフェルトと、ベアトリスは意外な場所で出会うことになる。グラディスにあるローセンダール家の本宅で、そのときベアトリスは、ラーゲルフェルト本人を招いたつもりはなかった。
二年半ほど前、ジュニエスの戦いにおける勝利から一年が過ぎた頃である。当時のグラディス・ローセンダール家は、みずから開拓した都市ランバンデットの運営をようやく軌道に乗せ、威勢は比類ないものとなっていた。一方でベアトリス本人はと言うと、権力闘争などとは別種の、漠然とした不安に囚われはじめていた。
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